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44 すり合わせ

今回も長いです

2019/08/19 誤字修正


    †ジン†


 五日前。

 ジンはミンダナに閉じ込められていた。

 海岸へ向かったが、船は壊されていた。


 自分で船を作るか、泳ぐか。

 二択かと思われたとき、例のロボットと再会した。


「僕は何でもお手伝いするロボット、タスケルくんです」


 街の案内を聞いても仕方ない。

 無視しようと思うが、ふと気づいて、


「お前、大陸から出る方法を知らないか?」

「海外へ行かれるのですね。港か空港に行かれてはいかがでしょうか?」

「それ以外だと?」

「王族の方であれば専用機があります。一般の方は利用できませんよ?」


 王族専用機。

 ソテイラは船と飛行機を壊したと言っていたが、専用機は見逃したかもしれない。

 王宮へ向かい、瓦礫の山へ潜入した。


 警備ロボットの目を盗み探索。

 ついに地下施設を発見した。

 住居を兼ねるらしく、町中にあったものと造りが似ていた。

 ただし、どれもこれも華美な装飾付きだ。


 一方、破壊のあとも凄まじく、多くの設備が炎で焼かれ、生き物の気配はまるでなかった。


 それでもロボットは生きていた。

 ジンの来訪を喜んでくれた。

 彼らは王族の帰還を待ち望んでいたのだという。


 大陸の外へ出る方法がないかを聞くと、ソレを紹介してくれた。


 格納庫に赤い機体が鎮座していた。

 まるで作りたてのような輝きを放っていた。


「第一王子専用機体、超重量殲滅兵装パグ・ワ・サーク。ミンダナ最後の兵器であり、希望です」


 整備ロボットは自慢げに語る。

 パグ・ワ・サークの特徴は重力制御だ。

 これにより自重を気にする必要がなくなったため、攻撃と防御に特化した機体となっている。

 また、航行時間も優秀であり、海も越えられる。

 折りたたみ構造を駆使した両腕は百トルメまで伸長し遠方の敵を穿つ。

 移動手段にしては物騒だ。

 が、他にないので、それを借りることにした。


 王族専用機ではあったが、王族の子孫であるジンは遺伝子認証で操縦の許可が得られた。


 ロボットに乗り、バサ皇国へ飛んだ。

 途中でエリカの居場所を聞いて、皇城へ向かった。

 ソテイラの話をするならエリカしかいないと思ったからだ。


「ということで、俺はここに来たんだ」

「ごめん、もう一度、説明してもらえる?」


 ジンは事情を説明した。

 一度で理解できなかったのか、エリカは額に手を当てていた。


「だから、ソテイラはアンドロイドで、人間国のために戦争をしていて、終わってるのに気づいてないんだよ。人間国はもうマナロが滅ぼしたのに」

「…………いや、全然わからないわ」


「あの……、そちらの方はどなたでして?」


 部屋の隅にいた女の子が言った。

 二人ともエリカと同じ龍の天上人だ。


「彼はいぜんにも話した人間王ですよ」

「……人間王、あなたがそうなんですの?」

「あぁ。俺はジンだ。お前は?」

「なっ! 人間がわたくしの名を問うなんて……」


 名前を聞いたら絶句された。

 人間に慣れていないようだ。


「マーカ、メリリ。彼は私の友人です。お二人にも慣れていただきたいと思います」


 エリカが言うと、二人は嫌そうな顔をしながらも肯いた。

 距離はあるが、目線の高さは同じだ。

 人間がー、穢れがー、と叫ばないだけ他の奴らより百倍まともだ。


「……よ、よろしくお願いいたしますですわ」

「お願いしますなの」

「これはご丁寧にどうも」


 頭を下げられたので下げ返す。


「挨拶が通じるんですのね……。思ったよりまともな人間のようですわね」

「そっちこそ。うるさくしないんだな」

「なっ! ……なんと無礼な」

「マーカ姉さま、ここは我慢だと思うの。これは試練なの」

「そ、そうですわね……」


 二人は深呼吸を始めた。

 変な奴らだ。



 挨拶が済んだところで話を戻す。

 念の為、順を追って振り返る。


 最初はソテイラに呼び出されたところから。

 いきなりスグリを殺したのは自分だと明かされた。

 理由を知りたければついて来い。

 それがソテイラの言い分だった。


 カルや領主は反対したが、ジンは誘いに乗ることにした。

 船に乗り、旅に出た。


 到着したのはミンダナ。

 人間の国だった。


 ミンダナには不思議な建物が多かった。

 ロボットが歩いていた。

 人間はおらず、滅ぼされたあとだった。


 博物館で兵器の展示を見た。

 天上人を見た。

 そして、ソテイラを見た。


 ソテイラの正体は人間が作ったアンドロイドだ。

 アンドロイドは、天上人や人間にそっくりなロボットのことを指す。


 随分と高度な技術だが、ミンダナにはそれを可能とする文明があったのだ。


 ソテイラの指名は天上人を倒すこと。

 彼は今でも人間国と天上人が戦争中だと思っているのだ。


 だから、ソテイラは策を練っていた。

 悪しき精霊(サイタン・マサマ)を復活させバサ皇国を滅ぼそうというのだ……。


 まとめると以上だ。

 うまく説明できたかはわからない。

 自分でも理解できていない部分は多かった。


「無茶苦茶な話ね……」


 エリカは頭を抱えた。

 自分でもそう思う。

 あり得ないことばかり続いた。


「けど、いろいろと説明がつくこともあるわね……。呪具(スンパ)の出どころはミンダナだったのね」

「そ、そうか……! アレがそうだったのか……!」


 今まで呪具(スンパ)はソテイラが生み出す道具とされていた。

 しかし、ミンダナに残された科学技術と考える方が筋が通る。

 ソテイラは定期的にミンダナを訪れ、容易に作れそうなものを探したに違いない。


「マナロの日誌もそうよ。この間、見つけたんだけど…………」


 エリカは日誌について話してくれた。

 日誌には歴史が書かれるそうだ。


 マナロが人間と友達だったとか、頼まれてミンダナを滅ぼしたとか。

 信じられない話ばかりだった。


 だが、ミンダナの地下施設は炎で攻撃されていた。

 日誌の記述と一致する。


「他にも符合する点が多いし、あんたの話は事実のようね。同時にマナロの日誌も」

「これが夢じゃないのかよ……。恐ろしいな」


 今でも夢だったのでは? と思うのだ。

 ロボットも、博物館も、ソテイラの話も。


「気持ちはわからなくもないけどね。あたしもお父様……、マナロが人間と親友だったなんて、信じられなかったわ」


 エリカは父親をあえて呼び捨てで言い直す。

 仲の良い親子ではなかったのだろう。

 皇族の家庭環境など知る由しもないが、いずれにしてもエリカが意外と言うのだから、マナロは人間嫌いで通っていたのだろう。

 もちろん、理由があってのことだ。

 王族テダに人間を滅ぼせと頼まれ、マナロはミンダナを攻めたのだ。


 テダ。

 科学と勉強が好きで、責任感が強く、ひ弱な王子。

 そんな奴がご先祖とは不思議な気分だ。


 こいつが余計なことを言わなければ、人間国は滅びなかった。

 ……そう思うと人間の裏切り者でもある。

 何を思って、テダは滅ぼせなどと言ったのか。


「責任感が強いから、とマナロは書いていたわ。悪しき精霊(サイタン・マサマ)の悲劇は人間と科学が引き起こした……。だから、その責任を人間という種全体で取ったのよ」

「…………関係ない奴も巻き込むのかよ?」

「テダは人間という種に強い誇りを持っていたそうよ。人間という種は賢く、好奇心旺盛だと。そのあり方が悲劇の要因と考えたんでしょうね」


 人間種の特性は科学から切り離せなかった。

 研究分野を制限しても、違法な分野に手を出す者が後を絶たない。

 悲劇を繰り返さないようにするには、科学そのものを人間から取り上げる必要があった。


「テダは人間種と他の種族を同等に考え、安全のために人間を滅ぼす道を選んだ」

「王様ってのは守るのが仕事じゃないのかよ」

「彼の考えは違うわ。王とは人間種を代表する者と捉えていたの。他種族への責任を取るという決断も、王ならば許されるわけ」

「……なんだそりゃ」


 正直、よくわからなかった。

 テダの哲学とでも言うのか。

 それが見えてこなかった。

 いや、見えてはいる。

 見えるが、なんのためにそんな哲学を大切にしているのかがわからない。


 王とは民を先導する者。

 王のあり方を好きに決めろと言われたとき、ジンはそう決めた。

 民をよりよい場所へ連れていくのが使命なのだ。

 全員を道連れにして死ぬ王などあってはならない。


 あるいはご先祖の時代は考え方が違ったのか。

 今となってはわからない。

 仮に会えたとしても、わかりあえないだろう。


「それより、ミンダナの博物館にもっと古い歴史はなかった? 人間が生まれた頃の話とか……」


 エリカは言いづらそうに聞いてきた。


「生まれた頃の歴史? そんなのはなかったぞ。逆はあったけどな……」

「逆……?」


 言ってから、しまったと思う。

 博物館に展示されていた天上人の先祖。

 あれはエリカに教えないつもりだったのだ。

 言っても嫌な気分になるだけだし、……教える利がないのだ。


「ちょっと、逆って何よ? 変なところで話を止めないでくれる?」

「そ、それはだな……」


 睨まれる。

 許してくれそうにもない。


「いや、実は博物館で見たんだ」


 間を空けてから言った。


「人間が天上人を作ったんだ」


 その展示では遺伝子の話をしていた。

 遺伝子が何なのかはわからないが、魂みたいなものだとジンは思う。

 しかし、それは魂と違って、混ぜることができるのだ。


 科学は蜥蜴と人間を合体させたと言っていた。

 展示されていたのは蜥蜴の天上人だった。

 他にもいろいろな天上人がいた。

 犬、虎、猿……。

 彼らは皆、裸で、檻に入れられていた。

 首輪をつけられていた。


 白衣を着た人間が天上人に話しかけ、数字の札を渡したり、受け取ったりしていた。

 彼らは奴隷ですらなかった。

 実験のために飼われる動物以外の何物でもない。


「…………それ、何の話?」


 案の定、エリカは怖い顔をしていた。

 言わない方がよかった。

 後悔するが遅い。


「嘘じゃないからな? 本当にそういう展示があったんだよ」

「そうじゃない。そうじゃなくて、……あんたが何の話をしてるのか、わからない」

「……わからないって、何が…………?」

「遺伝子操作技術によって、人間と動物をかけ合わせた生命を作り出すことに成功した。……それが事実だとしたら…………」

「事実だとしたらなんなんだ?」


 問い直すと、エリカは沈黙を挟んだ。


「……あたしにも何が起こっているかはわからない。その前提で話を聞いて」

「お、おぅ……」

「まず、あたしはマナロの日誌に事実が書いてあると思った」

「そうだろうな」


 実際、ジンが見たものと日誌の記述は一致する。

 事実が書かれているはずだ。


「そして、その中にはこんな記述があった」


 今より四千年ほど前。

 ラーノ大陸の魔術師たちが精霊の力を借りて新たなる命を生み出した、と。

 生み出されたのは、すべての獣人の特徴を併せ持つ、故に何の特徴もない種だった。

 人々はそれに人間と名付けた。


「…………おいおいおい、待てよ。何の話だ、それ」


 人間が天上人に作られた?

 霊術で?


 それはおかしい。

 だって、ジンが見た展示では――――。


 ……そうか。

 だから、エリカもわからないと言っていたのか。


「……天上人を作ったのは人間。でも、人間を作ったのは天上人……。なんだそれ、…………結局、どっちが先なんだ?」

「どちらが先でも矛盾が起こるわ。……ありうるとしたら時間の存在しない世界の話。これは答えの存在しない問題よ」


 答えがない……。

 ……いや、だったら、今目の前にいる奴はなんだ?

 エリカはどこから来た?

 自分は? ……人間はいつからここにいる?


「現実的な点で言えば、どちらかが嘘をついているってところね」

「……嘘? 何のために?」

「…………作られた側からすれば面白くない話だからじゃない? 歴史を改ざんしようとした。……マナロは一度、やっているわけだしね」


 マナロ戦記のことだ。

 バサ皇国の建国史として採用し、それ以前の歴史を抹消した。

 マナロには前歴がある。


「でも、日誌の中で改ざんを試みる理由が見えないわね……」


 エリカは考え込んでしまう。

 ジンも自分なりに整理してみる。

 まず、ジンが見た展示。


 獣人種の生成に成功。

 そんな宣伝をしていた。

 当時、生み出されたのは蜥蜴の天上人だった。

 あれは見ようによっては、龍にも見えた。

 龍は幻の生き物とされる存在だ。

 少なくともバサ皇国にはいない。


 しかし、世界には大陸が複数あるのだ。

 龍がいたとしても不思議はない。

 それと人間を組み合わせ、龍の天上人が生まれた。

 ないとは言えない。

 あるいは人間が科学で龍を作った可能性もある。

 人間と蜥蜴を合体させられるのだ。

 新しい命を作ることもできたかもしれない。


 逆にエリカの話は簡単だ。

 魔術師が精霊の力で人間を生み出した。

 精霊だから命を作り出せる。


 否定の難しい理屈だ。

 精霊の力など誰にもわからない。


 マナロの考察は、もう一歩踏み込んでいた。

 人間を作った獣人は、ピサヤ大陸の開拓に人間を使った。

 その人間が科学技術を生み出し、ミンダナを建国した。

 マナロの日誌に記された歴史と矛盾しない。


 ただ、気になる点がある。

 獣人と人間は頭脳に大した差がない。

 たとえば、エリカは獣人だが、ジンの百倍は頭がいい。


 この理屈で言うと、人間だけが科学技術を手にして、獣人は手にしなかった理由が不明だ。

 マナロの考察によると、人間の歴史は四千年くらいしかない。

 対して獣人は倍以上だ。


 それだけの時間があり、獣人はなぜ科学を得られなかったのか。

 人間だけがなぜ科学に至ったのか。

 人間がずば抜けて賢いのならわかるが、……そうでない以上疑問が残る。


「今の時点で結論を出すのは不可能ね」


 エリカはきっぱりと言った。


「諦めるのか?」

「そうよ。なぜ矛盾したのか、どこに正解があるのか……。興味はあるけど、今は問題じゃないわ。喫緊の課題があるもの」


 そう言われてジンも思い出す。

 悪しき精霊(サイタン・マサマ)だ。


 ソテイラは言っていた。

 召喚し、バサ皇国を滅ぼすのだ、と。


 ジンがバサを出て二十五日くらい経っている。

 その間、ソテイラの本体はバサに残っていた。

 召喚の準備には十分な時間かもしれない。

 むしろ邪魔をさせないためにミンダナへ連れて行った可能性もある。


 ……急がないと手遅れになるかもしれない。


「どうするんだ?」

「情報収集からよ。ソテイラの動向を調べるわ」


 情報収集。

 やや悠長な気もするが、エリカの作戦で失敗したことはない。

 ジンは肯いて、


「俺は何をすればいい?」

「上流天上人相手にあんたができることは限られるわ。ひとまず、忍びを集めておきなさい」

「わかった」

「それと、さっさとあれをどこかにやりなさい」


 エリカはロボットを指さした。

 見ると、庭の周りが騒がしくなっていた。

 さすがに皇城に直接乗り込むのはやりすぎだったかもしれない。

 人が集まっているようだった。


 ……どこに置こうか。

 場所も考えないといけない。


「こっちもなるべく早くわ。あんたも戦う準備だけはしておいて」

「任せとけ」


 方策が煮詰まったところでジンは離宮をあとにする。

 次は下町へ行って、人間たちに話す。

 残された時間はわからない。

 できるだけ急ごうと思う。


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