39 旅3
†ジン†
ソテイラの足跡はまっすぐに続く。
やがて別の通りに出た。
ごつい車がいくつも散らばっていた。
大半が壊され、道路脇に山積みになっていた。
眼鏡の硝子に、通りの名前や向いた方向に何があるかが表示される。
通りの左が王宮で右側がセントラル・スクウェアだった。
ソテイラの足跡は左に続いている。
しばらく歩くと、眼鏡の表示が変わった。
王宮の説明を聞きたいですか、と翻訳機から声がする。
「……王宮? ここが?」
巨大な城壁があった。
ただ、七割以上が崩されており、壁として残っている部分の方が少ない。
破壊された壁の隙間から覗くと、砂に埋れた瓦礫が見えた。
低い位置からではわからないが、その先に建物がある雰囲気はない。
何もなかった。
だが、眼鏡は瓦礫の山を指して王宮と言い張る。
何があったかは想像する余地もなかった。
この国は一体、何なのだろう。
王宮は壊され、人間は一人もいない。
ロボットだけが徘徊している。
何をどうしたら、国がこんな風になるのか。
そんなものは決まっていた。
滅ぼされたのだ。
人間の国だと聞いていた。
しかし、それは過去の話だ。
ここはすでに国ではない。
あるのは砂だらけの廃墟と何もわかっていないロボットだけだ。
空飛ぶ虫が再び頭上にやってくる。
「こちらはミンダナ軍広報部です。敵勢力が本土へ上陸した可能性があります。国民は不要不急な外出を控え、自宅にて待機してください」
風が吹くたびに砂が舞う。
そうして、少しずつ砂が王宮だったものを埋めていく。
中を調べよう。
なにか見つかるかもしれない。
そう思い、壁に手をかけた。
頭上から声をかけられた。
「個人認証スキャン失敗。このIDは登録されていません」
「うぉおおお!?」
崩れた壁から巨大な目玉が覗いていた。
目玉は胴体につながっており、胴体は蟷螂のような姿をしていた。
六本の足で壊れた壁から這い出してきて、ジンをじっと見つめてくる。
「こちらはミンダナ王宮でございます。現在、一般の方の立ち入りは禁止されております。高等市民証明書を提示するか、遺伝子スキャンによる王族認証が可能です」
凶悪な外見とは裏腹に言葉遣いは丁寧だ。
だが、言っている意味はよくわからない。
適当に返事をすると、何が起こるかわからない。
まずはソテイラを探そう。
ジンは逃げるように王宮をあとにした。
足跡は王宮からほど離れた場所で広場に入った。
入り口の看板には、王立公園(広域避難場所)と書かれている。
公園には水があった。
地下から供給される水が川を作り、そのためか周辺には草木があった。
足跡は洞窟のような場所へ向かった。
それは広場の隅で口を開けて待っていた。
入り口から階段があり、地下へ続く。
階段の左右には点々と明かりがついており、右側が坂になっていた。
足跡は階段を降りている。
ジンは迷いなく、そのあとを追った。