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28 経典1


    †ネリエ†


 経典の序文はこうだった。


『封印を破った者へ。

 解呪の使い手であるならば今すぐに書を閉じ、元のように封印すべし。

 真紅ノ盃(ターサ)を持った子孫であるならば、書を読み、我が願いを叶えよ。


 子孫たちよ。

 お前は何代先の子だろうか。

 想像もできぬ先の時代だろうか。


 そうであることを踏まえ、事のあらましを知るす。

 生い立ちから語らねばならぬ不便を許せ。


 我が名はマナロ・ワーラ・アングハリ。

 生まれはバサガーサ。

 ゴルデ王の第三子なり』


    †


 頁をめくる。


    †マナロ†


 バサガーサ王国はルーベ大陸東海岸に面する国家で、首都カピトンは内陸山間部にあった。

 そこは古来より龍人の住む地だった。


 当時、世界の中心は三つの大陸にあった。


 ルーベ大陸。

 三大陸の北東に位置し、八つの獣人国家からなる。

 南から温かな海流が流れ込むため海産物が豊富だった。


 イロ大陸。

 三大陸の北西。

 耳長族や炭鉱族が住まう。

 他大陸とは交流を持たず、独自の文化を持っていた。

 龍人も先祖はイロ大陸が出自と言われる。


 ラーノ大陸。

 三大陸の南。

 温暖な気候であり、作物が多く取れた。

 七つの大国に支配され、獣人と蟲が住んでいた。


 ルーベ大陸とラーノ大陸はいずれも獣人国家であり、海路を通じ、交易があった。

 イロ大陸は異なる種族が住まうため、国交は生まれなかった。

 バサガーサ王国はルーベ大陸の東端であるため、海路を通じて他国と積極的に交流していた。


 同時にバサガーサは戦争を得意とする国でもあった。

 (マナロ)が生まれる千年前、ルーベ大陸には今より多くの国があった。

 獣人が種族ごとに国を持ち、同じ種族でも複数の国があった。

 それを武力で従え、併呑したのが、バサガーサだ。


 龍人は獣人に比べ力が強く皮膚も硬い。

 飛ぶ者も入れば、火を吐く者もいる。

 また、一般的に長寿だった。

 バサガーサは次々と国を飲み込み多種族国家へと成長した。


 俺の父、ゴルデ七世も戦役で名を馳せた。

 夢は初代から変わらずルーベ大陸の統一。

 そのために、父は王子にも期待していた。


 俺には二人の兄がいた。

 いずれも戦争を好み、手柄を立てることに必死だった。


 長兄が南国の砦を落とせば、次男が北国から資源を簒奪する。

 二人とも国王の覚えを良くするために努力していた。

 戦果の大きい者が次期国王となるためだ。

 他方、その後継争いに、俺の名はなかった。


 俺は元来、争いを好まなかった。

 国王も俺には期待をかけず、二人の兄も跡継ぎ争いを諦めた俺に優しくしてくれた。

 俺としても戦場に送られるより、放置される方がありがたかった。


 毎日、詩歌を読み、季節を愛でる生活を送った。

 それが当時のマナロという男だった。


 転機が訪れたのは、三十になった頃だったか。

 あるとき、父に呼び出され、留学生の面倒を見るように命じられたのだ。


「留学生とは珍しいですね」


 俺が素直に感想を述べると、父も肯いていた。

 バサガーサは戦争国家であり、学術に力を入れていない。

 何を学びに誰が来るのか。

 純粋に興味があった。


 間もなく留学生を乗せた船が港に到着した。

 盛大な式典が開かれ、来航を多くの国民が見守っていた。

 他国からの賓客などバサガーサでは滅多になく、港は祭りのような雰囲気だった。


 そんな熱狂の中を一人の少年が堂々と歩いてきた。

 留学生の代表としてマナロの前に立ち、朗々とした挨拶を述べる。


「はじめまして。僕はテダ。ミンダナ王国の第三王子です。どうぞよろしく」


 やって来たのは人間の少年だった。

 それが俺と初代人間王との出会いだった。


    †


 当初、俺のテダに対する印象は次のようなものだった。


 まず、テダは小さい。

 頭は俺の肩にも届かず、体格も龍人の女より貧相だった。


 外見は龍人や獣人の女に似ており、男でも毛並みや鱗といったものがない。

 人間は男女で外見の差が小さいため、俺は初見でテダが男だとわからなかった。


 髪は漆黒で肌は砂のように白い。

 俺は人間という種族を間近で見たことがなかったため、テダが標準的な人間かはわからない。

 しかし、それでも美しい部類には入るだろうと感じた。


「この国では我々人間をもてなしてくれるのですね……。本当にありがたいことです」


 最初、テダは憂いのある表情を見せていた。

 歓待を受けることに後ろめたさを感じているようでもあった。


 当時、三大陸での人間の地位は低かった。

 ラーノ大陸では奴隷として扱われるほどだった。

 他方、ルーベ大陸では人間の留学生が存在する程度には地位が認められていた。


 人間に科学があるためだ。

 科学は万能の力だ。

 あらゆる願いを叶えるとまで言われ、特に軍事面では大いなる力を発揮した。


 バサガーサのような戦争国家からすると、科学は是が非でも手に入れたいものだった。

 人間に取り入るのは自然な流れだ。


 当時、人間が主権を持つ国家は三大陸の外にあった。

 科学があるのも、テダの生まれもその国だ。

 留学の話は人間側からもたらされた。


 彼らにもバサガーサ王国と付き合う利があったのだ。

 理由は政治情勢に起因するが、ここでは割愛する。


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