表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/199

15 攻めの一手2

    †ネリエ†


 翌日。

 メリリに小さな天上人を紹介された。


 そいつは全身が桃色だった。

 桃色の着物に同色の髪飾り。

 かなり攻めた衣装だが、髪も桃色なので調和が取れている。

 背はネリエよりも小さく、年齢は同程度。


「こんにちは~」


 柔らかな声で挨拶をしてくる。

 ネリエは彼女を知っていた。


 クネホ・パウマンヒン。

 兎の天上人。

 そして、十二天将の一角だった。


 彼女はネリエの参集に応じたものの、すぐに退場してしまった。

 決して味方ではないが、メリリとは懇意にしているらしい。

 クネホはネリエを見上げてくる。

 顔は愛らしいが……、目つきは鋭い。


「お久しぶりです、クネホ様……」

「ご無沙汰ね、皇族様? あなたが美しくなりたい野兎ちゃん?」


 野兎ちゃん…………?

 なんのことだ……。

 隠語? 隠語か?


 メリリに助けを求める。

 合わせろ、と視線で返事をされた。


「えぇ、まぁ……。そうですね。美しくなりたいです」

「ほら、私って美の求道者じゃない?」


 何を言っているのか、わからない……。


「…………そ、そうですね。クネホ様は美の求道者ですよね」

「でしょう! だから、私は誰よりも美しいの。けど、それに甘えない。常に美しさを研究しているの!」

「へー、偉いですねー」

「……偉いから、どう思うの?」


 ここで間が空いた。

 試練の間だ。

 クネホは何かを訴えている。


「……つまり、美しさの秘訣を求めるのなら、対価が必要ということでしょうか?」

「そういうことよ! あなたも私に与えるべきじゃないかしら」


 やっと話が見えてきた。

 クネホは衣装を仕立てる見返りが欲しいと言っているのだ。

 しかし、ネリエには先立つものがない。


 自動小銃(マシンガン)

 思いつくものはこれしかなかった。

 渡すか?

 自動小銃(マシンガン)

 大切な自動小銃(マシンガン)


「でも、曖昧な言い方だと何を求められているかわからないものね。具体的に聞いてあげる」

「そ、それは、助かります……! 何をお望みですか?」

「あなたの使っている化粧品を教えなさい」

「化粧品……?」


 難しい要求だ……。

 なにせ、ネリエは……。


「申し訳ございません。そのようなものは使ったことがなくて……」

「え????」

「興味がありませんので」

「え…………。じゃ、じゃあ、何も使わないでそのお肌なの……?」

「大したことではありま、」


「大したことだから驚いてんだろうが! おめぇ、なんだ? 自分の方がカワイイって暗に自慢してんのか? 化粧品使ってなくてもこんなお肌ですってか? そういうのが一番腹が立つんじゃ、ざっけんならこらー!!」

「…………」

「――――はっ、あらやだ、記憶が飛んでいたわ。私、何か変なこと言った?」


 クネホは笑う。

 ネリエは鉄の意志で言葉を飲み込み、


「…………いえ、クネホ様は何も」

「でしょう? でもね、あなたが嫌な気持ちになってるとしたらね、嘘をついたからだと思うの。女は何かしら、……ほら、美の秘訣を持っているはずなの。教えないのは、……まずいよね?」


 クネホが迫ってくる。

 再度メリリに助けを求める。


 ――――なんかぁ、適当に言っとけばぁ?


 そう言っている気がした。

 なんと無責任な……。

 だが、この場をしのげればいいのだ。


「実は、秘密にしていたことがあります。しかし、クネホ様になら、教えてもよいかと……」

「それは何!? 今すぐ吐きなさい!」

「私、毎日、顔に泥を塗っているのです。これが保湿効果があり……」

「泥……!! 泥を顔に塗ればよいのね!! 泥ぉおぉぉお……!」


 クネホは突然庭に向かって走り出した。

 そして、顔から地面に飛び込んだ……!


「泥ぉおぉおぉお! お、お、おぉ、……これで私は美しく……!」


 クネホは一瞬で泥だらけになった。

 やばい。

 この人はやばい……!

 人格に必要なものをどこかに落としてきた口だ。

 とにかく、止めないと……!


「く、クネホ様……! もう一つ、とっておきがあるんですが! そっちの方が、更に効果があって、もうすごいことになるんですが!」

「それは何!? 教えなさい!」


 泥まみれの顔が睨んでくる。

 ……怖すぎだった。


「実は真紅ノ盃(ターサ)で清めた聖水で顔を洗っているのです……。これがよく効くと評判で……」

「そ、それは、確かに効果がありそう!! けど、私には盃がない!! あなたが持っているのね……!」


 視線に殺意が宿る。

 ネリエは自身の死を幻視した。


「み、水を定期的にお分けすることは可能ですが……!」

「よこしなさい! 今すぐに!」

「は、はいっ」


 ティグレに速やかに手配させ、水を渡す。

 まさか本物の盃を使うわけにもいかず、本当はただの水だ。

 しかし、クネホはよだれを垂らしながら、


「こ、これで美しくなれる。美、……美ぃ~~~~~~~~~~! もうこの水は誰にも渡さないから!」


 水瓶を抱きかかえてうずくまる。

 その姿を見て、十二天将とわかるものが何人いるか……。


「あ、あの、これで服飾職人をご紹介いただけるのでしょうか?」

「いいわよ、女の秘密をいただいたんだもの。楽しみにしてなさい、ふふふ」


 クネホは気味の悪い笑みを浮かべた。

 最後の最後まで怖かった。



 後日、クネホの斡旋で服飾職人がやって来た。

 いくつか作品例を持ってきてもらい、一つずつ吟味する。


 クネホは人格こそ壊れているが、美への拘りは本物だった。

 彼女の紹介する服飾職人は腕がよかった。


「どれもすごいですね」


 ネリエは布を手に取り、感想を述べた。

 刺繍の凝り具合が病的だ。

 見えないところまで細やかな針仕事がある。

 気に入ったものがあると、商人が由来を説明してくれた。


「こちらは雉の天上人の作例でして、鳥らしく空を想起させる模様となっております……」

「ふぅん……。雉ね。鳥なのに、こんな細かい刺繍できるの?」


 雉の手は翼と一体化している。

 細かい仕事には何かと邪魔なはずだ。

 手先が器用という印象もない印象もない。


「もちろん、雉でございますよ?」


 商人は少し目をそらす。

 怪しい……。


「本当に? 実は人間に作らせているとか――――」

「めめめめ滅相もございません……! 皇族の受注をにににに人間の下請けに出すなど……」


 下請けとは一言も言っていないのだが……。

 気を取り直す。

 商人をいじめるのが目的ではないし、ネリエとしては服の質が重要なのであって、誰が作ったかは関係ない。


 様々な吟味をして、衣装の方向性を決めた。

 納品は早ければ早いほどよい。

 前金はクネホが出してくれた。

 聖水のお礼らしい。

 ちょっと心苦しい。


「それにしてもぉ、そんな衣装を、何に使うのぉ?」

「それは出来上がってからのお楽しみです」


    †


 衣装作りは着々と進み、七日ほどでネリエの下に届いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ