12 出会い1
†ジン†
帝都滞在五日目。
祭りまで一ヶ月だが、すでにやることがない。
ヒヌカがエリカのところに行ってしまったので、カルと二人だ。
「とりあえず、外に出よっか?」
「そうだな」
朝から表をうろつく。
領主の屋敷が大通り沿いにあるため、まずはその辺りを見る。
大通りは幅三十トルメはある巨大な通りだ。
昨日まではただ大きな通りだったが、今日は通りの両脇に飾りがあった。
背の高い竹が通りの両脇に固定されている。
おそらく、祭りで使う飾りなのだろう。
竹を運ぶ人間をあちこちで見た。
他にも衣類を運ぶ人間、木材を運ぶ人間。
とにかく人間がたくさんいる。
天上人と人間の生活圏がかぶっているのは、他の街ではなかなかない。
人間外の方にも足を伸ばす。
表通りとは打って変わって、小汚い建物が並ぶ。
建物も大抵が平屋で二階建ては稀だ。
「普通の町だね」
「……そうだな」
時間を潰すにしても、娯楽がない。
当然ではある。
人間向けの娯楽と言えば、女郎宿だけだ。
何をするか悩んでいると、大荷物を抱えた集団がやって来た。
女ばかり四人組。
全員が白い布を山程抱えている。
あれでは前も見えないのではないか。
そう思って見ていると、……恐ろしいことに気づいた。
「はぁああ!?」
そのうち一人が、スグリだった。
黒い髪、おかっぱ。
背格好も同じ。
横顔しか見ていないが、生意気な顔つきも似ている。
あり得ない。
スグリは死んだ。
だったら、今見た女の子は。
あのスグリは……。
「ジン、どこに行くの!?」
体が勝手に動いた。
女四人組を追いかける。
彼女たちは表通りの方へ歩いていた。
すぐに動かなかったことが悔やまれる。
大通りの人通りは多くどこへ行ったかがわからない。
「くそっ……! どこに行ったんだ!?」
周囲を見回す。
適当な方向へ走る。
焦りばかりが募る。
……もう見つからないか、と諦めかけたとき、怒鳴り声が聞こえた。
「どこを見て歩いている!? 人間のくせに道も譲らんとは!」
「申し訳ございません……。荷物が重く、避けられなかったのです」
「だったら、置けばいいだろうが!」
天上人が人間相手に怒鳴っていた。
怒鳴られているのは先ほどの四人組だ。
荷物のせいで天上人にぶつかったらしい。
状況は悪いが、発見できてよかった。
「謝ってるんだから、それくらいで許してやれ」
「なんだ、お前は」
仲裁に入る。
天上人が振り向き、
「貴様、人間ではないか! 人間が天上人に口を挟むな!」
「じゃあ、俺の主人がいる裏に行こう」
「望むところだ。処刑を勧めてやる!」
「あの、助けていただきありがとうございます」
天上人は裏路地に呼び出して絞めた。
気絶させたのでしばらくは起きないだろう。
四人組のところへ戻ると、お礼を言われた。
全員若い女性だ。
そのうち一人は特に若く、
「……スグリ、じゃないな」
確かに似ていた。
だが、正面から見ると顔が違う。
なぜ見間違えたのだろう。
雰囲気というか立ち振る舞いが似ているのかもしれない。
「スグリ? スグリって誰? 私はミトっていうの」
話してみると声も違う。
ハキハキ話す点はスグリと似ているが。
「俺はジンだ。こっちがカルで、」
「ジンっていうのね! ねぇ、ジンが私をさらってくれる人なの?」
「……はい?」
「私、今の生活に飽き飽きしているの。いつかきっと私のところに、素敵な人が来て、私をさらいだしてくれるのよ! そうして二人でどこか遠いところで暮らすの! それがジンなんじゃないかって、思ったの!」
ミトは目を輝かせて言う。
全然話が見えてこない。
さらう? 遠いところで暮らす?
なんで?
「あー、えっとね、ミト。ジンは結婚してるんだよ?」
事情を察したらしいカルが説明する。
結婚が重要な要素だったらしい。
ミトは顔を曇らせて、
「なぁんだ、素敵な人だと思ったら、もう相手がいたのね。あーあー、私にもジンみたいなカッコいい人が現れないかなぁ」
「よくわかんないけど、そのうち来るんじゃないか?」
「もぅ、無責任なことを言わないで! あなたにはカルっていう素敵なお嫁さんがいるかもしれないけれど、私にはまだ出会いもないんだからね!」
「あ、あのね、ミト。ジンが結婚してるとは言ったけれど、相手は僕じゃなくて、」
「そうだ、ジン! あなたたちのこと、お婆さんに紹介してもいい!? 夫婦なんて滅多にいないから、きっと喜ぶわ!」
「はぁ?」
話が飛ぶ。
お婆さんに紹介?
夫婦?
ついていけない。
「だからね、ミト。僕たちは夫婦じゃなくて、」
「ジン、こっちよ! ほら早く!」
すでにミトは走り始めていた。
持っていた荷物は地面に置き去りだ。
「おい、ミト、荷物は!?」
「ジンが持ってよ―!」
「な、なんてワガママな奴だ……!」
「だから、僕とジンは違うんだよ……!?」
最初から最後まで無茶苦茶だ。
あんな奴は見たことがない。
「……ごめんなさいね、満足すれば解放してくれると思いますから。付き合ってやってくれませんか?」
三人の女性に改まってお願いされた。
聞けば、ミトはいつもあの調子らしい。
謝礼も払うから、と言われたら断りづらい。
謝礼はどちらでもいいが、放っておくのもかわいそうだった。
スグリに見間違えた縁もある。
時間もあるし、付き合ってやることにした。