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10 お茶会3


    †マーカ†


 お茶会当日。

 マーカとメリリを乗せた馬車は皇城の隅にある離宮で止まった。

 先に馬車を降りるのはマーカ。

 いつも以上に気合の入った赤い着物だ。


 彼女を出迎えるのは主催者であるネリエ第二皇女。

 薄紫の着物は二昔前の流行で、今風ではない。

 けれど、彼女自身が美しいため、かなり様になっていた。


「ようこそおいでくださいました。マーカ様、メリリ様。本日は、天候にも恵まれ、」

「ふぅん、殺風景なところね」


 マーカは感想を述べる。

 庭に何も植わっていない。

 冬でも花が欲しいところだ。

 周囲の森も鬱蒼としているし、印象が暗い。


「離宮ですので。そのうち手を入れるつもりです」

「当然ですわ。このままでよしとする皇族などあってたまりますか」

「……えぇ、そう思います。どうぞこちらへ」


 ネリエはなぜか苦笑していた。

 どんな不備があったかは知らないが、マーカにとってはどうでもいいことだ。

 案内され、中へ入る。


「こちらが茶室でございます」


 通されたのは広くも狭くもない部屋だ。

 茶室と言われても、窓の外に風靡な庭があるでもなく、囲炉裏もない。

 部屋の中央にちゃぶ台があり、座布団があり、かろうじて床の間に花瓶が置いてある。


「こちらと言われても、湯を沸かす設備もなくどうやってお茶を淹れるんですの?」

「執事が別室で淹れてまいります。ご心配にはおよびません」


 お茶会は主催者が自前で茶を点てるのが作法だ。

 でなければ、お茶会とは呼ばない。

 しかし、長らく呼ばれていなかったマーカは、こういう方式もあるのかと思うことにする。


「ちなみに、わたくしお茶はテアしかいただきませんの。大丈夫かしら?」

「もちろん、最高級茶葉(ダオ・ツァ)は取り揃えております」

「ならいいのですけれど」


 部屋はイマイチ、参加者も自分たちだけ。

 茶の品質は及第点。

 皇女のお茶会にしては品がなく、規模も小さい。


 気になるのは茶菓子だ。

 つまらぬものが出てきたら、指導しなければならない。

 このとき、マーカはどうやって文句をつけるかを考え始めていた……。


「ねぇ、この部屋暑くない? あたしぃ、汗かいたかも」


 メリリが裾で顔を仰ぎ始める。

 額には汗が浮かんでいた。


「言われてみればそうですわね。火も焚いていないのに」

「これは空調が効いているためですよ」

「空調……?」


「えぇ、私の持つ呪具(スンパ)の一種です。夏は涼しく、冬は温かく。部屋の温度を自在に変えられるのです」

「それは便利なものがあったものね。ソテイラ様からいただいたのかしら?」

「いいえ、これは私が製造いたしました」

「皇女が……、製造……?」


 マーカは頭を捻る。

 聞き間違いだろうか……。


「もしお二人がお望みなのであれば、空調をお作りすることも可能ですので、遠慮なく言ってくださいね」

「え、えぇ……、考えておきます」


 まるでお菓子を作るかのような言い方で皇女は言う。

 空調とはそんなに手軽に作れるのだろうか……。


「お茶をお持ちいたしました。お嬢様方」


 そのとき、執事がお茶を持ってやって来た。

 マナロの元側近。

 虎の天上人だ。

 身だしなみは……、こちらも及第点といったところか。

 肝心のお茶はと言うと、……なんとガラスの器にお茶と氷が入っていた。


「氷? 冬なのに氷を浮かべたお茶を飲めと?」

「えぇ、だって、この部屋は暑いでしょう?」


 だからと言って冬に氷など……。

 マーカは渋るが、メリリは早速、手を付けていた。


「メリリ、冷たいものが欲しいところだったの~。おいし~」


 その反応があまりに美味しそうだったので、マーカもお茶に手を伸ばす。


「確かに美味しいですわね……。けれど、たまたま部屋が暑かったからではありませんの?」

「わざわざ暑くしているんですよ。冬なのに夏のような気分を味わえるのは、楽しいでしょう?」

「よい趣味とは言えませんわね」


 しかし、お茶は美味しい。

 宣言通り最高級茶葉(ダオ・ツァ)を手配したようだ。

 ……これも及第点を与えてやってもいいだろう。


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