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8 お茶会1


    †ネリエ†


 皇城での生活も一月が経った。

 この頃になると、ネリエをお茶会に誘う手紙が何通も届いていた。


 いずれも中立派と呼ばれる層であり、帝都へ戻ってきた皇族ネリエの派閥に興味がある風だった。

 仲間を作る絶好の機会だ。

 ……と思うだろう。


 だが、これは罠だ。

 のこのこと出向くと、そこにはドラコーン派の連中もいて、散々にいじめられるという寸法だ。


 ネリエの情報は帝政内で筒抜けとなっている。

 皇位を狙っているのも周知の事実で、ドラコーンも手を売っているはずだ。

 お茶会の誘いはその一環。

 でなければ、こんな都合のよい話があるわけがない。


「けど、いつまでもボーッとしてるわけにもいかないんじゃないすか?」

「もちろん。こちらから打って出る方法を考えてるところよ」

「……物騒なのはやめて欲しいんすけどね」

「するわけないでしょ? 正攻法でいくわ」


 戦いの舞台はお茶会。

 そこは女の社交場だ。


 帝都では男女の役割がはっきりしている。

 実務は男で女は政治だ。


 女はお茶会は派閥を広げ、勢力を拡大する役目を追う。

 そして、妻の派閥によって、夫の立ち位置が決まるのだ。

 実力がある男でも妻が派閥作りに失敗すれば出世できない。


 つまり、実権を握りたくば、まずは女社会で幅を利かせる必要があるのだ。

 これは男ではどうにもならない。

 女だからできる方法だ。


「はぁ……。で、具体的に何を?」

「お茶会を開くわ」


 最初は数が必要になる。

 中流で構わないので中立派を仲間にし、存在感を出していく。

 上流を取り込むのは、そのあとだ。


「取り込むねぇ……、そもそもネリエ派って存在するんすか?」

「……母の実家が味方になってくれているはずよ」

「連絡がないのに?」

「そ、そのうちあるでしょう」


 実家から連絡がないのは不穏だ。

 しかし、情報がない今、むやみに動くのは下策だ。

 手紙を送っても利用される恐れがある。


「金なし、コネなし、未来なし。それで参加してくれる人がいるんすか?」

「参加できる利を用意するわ」

「どうやって?」

「あたしには提供できる価値が二つある」


 一つは権威。

 始皇帝マナロの実子という事実は、何にも増して重い。

 何らかの商売や仕事について、皇女の承認を与えられるだろう。

 ドラコーン派に取り入れてない者にとって、これは非常に美味しい話だ。


 もう一つは呪具(スンパ)

 ネリエはベルリカを発つ前に、呪具(スンパ)をすべて持ってきた。

 これらの授受はソテイラの専売特許だが、皇女の権威で横取りしようという腹だ。


「どう、独自性も抜群でしょう?」

「えぇ。けれど、女性は喜ばないでしょうね?」

「……え?」


「あなたの呪具(スンパ)って全部武器でしょ。鉛の弾を飛ばす武器をもらって、お茶会に来る貴婦人が喜ぶんすか?」

「……それは、」


 盲点だったかもしれない……。

 いや、ネリエはとても嬉しい。

 新しい自動小銃(マシンガン)を貰えるなら派閥に入っていいかも? と思う。

 だったら、他の女性もそう思うかも……。


「思わないでしょ。ソテイラが配ってるのも全部男っすよ?」

「…………、そうね」


 これは事実だ。

 認めざるを得ない。


「皇女の承認にしたって、欲しいのは男であって女じゃない。女性陣に話しても、イマイチじゃないっすかねぇ」


 これも事実。

 反論の余地がない。

 ネリエはぐっと押し黙る。


「やっぱり女性陣が喜ぶのは、美味しいお菓子とか、他の人が持ってないお洒落な装飾具とか、髪型とか、そういうのじゃないっすか?」

「な、なんで、あんたのが詳しいのよ?」

「普通っすよ。女心、勉強した方がいいんじゃないっすか?」

「く……、春画本しか読まない奴にここまで言われるなんて……」

「春画、馬鹿にしてます? ここには女の理想が詰まってるんすよ?」


 ティグレの春画自慢を無視して、ネリエは思索する。

 重要な点は、相手が諸侯の令嬢というところだ。


 女性社会で尊ばれるのは流行。

 彼女たちは新しいものに飢えている。

 新しい流行をネリエ派で作りだせれば……。

 それが足がかりになるかもしれない。


「作りだせればっすよね? できるんすか?」

「……無理ね!」


 舞踊も作法も詩歌も。

 実践したのは四年前が最後だ。

 しかも、好きじゃないので少しも覚えていない。


 数学とか工学とか政治とか。

 そっちの方がよほど好きだ。


「じゃ、ダメじゃないっすか」

「ダメでしょうね。でも、あたしは学んだわ」

「何を?」

「自分にできないことは、誰かにお願いするの。助っ人を呼びましょう」

「助っ人? そんな人いましたっけ?」

「ベルリカ領主よ。今は帝都にいるはずだから」

「なるほど……」


 こうして、ネリエは領主宛に手紙をしたためる。

 何か流行になるものを寄越せ、と。


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