7:次元≪ディメンション≫②
「ネーロ・ドラーゴ……追い詰めたぞ………!」
ドラーゴはアニマを睨みつけながらゆっくりと立ち上がる。
「下手な動きをするなッ!もう一度攻撃するぞ」
アニマが言う。
ドラーゴは、こんなクソガキに命令されていると思うと我慢ならなかった。なめられている。それが許せなかった。
「リミッター解除ッ!!」
そう叫ぶとともに、ドラーゴは立ちあがって突撃する。
アニマではなく、プーロの方に。
「何ィッ!?」
アニマは急いでドラーゴを止めようとする。
「駄目だッ…!速すぎるッ!!」
「うわあああああッ!」
プーロは絶叫とともにドラーゴに吹き飛ばされる。
「プーロ君ッ!!」
遅かった。まさかプーロの方を攻撃するとは。ドラーゴとプーロを結ぶ直線上に立っていなかったことが失敗だった。
アニマは急いでプーロのもとへ駆けつけようとするが、それよりも早くドラーゴが既にプーロの近くまで距離を詰めていた。
そしてドラーゴはプーロの首を掴み、持ち上げる。
「まずいッ!やめろドラーゴ!!」
プーロは自分の首を掴む手を引きはがそうとするが、びくともしない。
死ぬ、と思った。自分は今ここで殺される。
ドラーゴの拳が固く握られた。プーロは思わず目を閉じる。
死にたくない。こんなところで死にたくない。
やめてくれ、コイツをどこか遠くへ吹き飛ばしてくれアニマ!コイツを自分から遠ざけてくれ!
ふいに、落下するような感覚とともにどさりと床に尻がついた。
「え?」
目を開けるとドラーゴは目の前にいなかった。周囲を見渡してもどこにもいない。
何がどうなったのか理解できなかった。
「…………!?」
アニマを見たが、アニマも訳が分からないといった顔でプーロを見ている。
そこでプーロはあることに気がつく。
目の前の床に、何かの破片が落ちていた。
鮮やかな模様が刻まれた陶器の破片のようなそれは――
「――花瓶?」
割れた花瓶の破片だった。しかしなぜここにあるのだろう。花瓶を割ったのは別の場所だし、破片がポケットなどに入っていたとも考えられない。
「プーロ君……君は…まさかッッ!!」
アニマがプーロを震える手で指さして言う。
「今のはまさか君の『能力』ッ!?」
「ぼ、僕の能力だって?」
そんなはずはない。プーロはごく普通の一般人だし、能力の存在なんて今まで知らなかった。
「そんな馬鹿な!僕は能力なんて持ってない!」
「でもそれしか考えられないだろう!理由は分からないが、君の眠っていた能力が発現したんだ」
プーロは信じられないという顔で破片を手に取る。本当に自分の能力がやったのだろうか。なんらかの方法で、ドラーゴの姿を消した。そしてこの破片はいったい――?
「よくもやりやがったなコラァ!」
そこでどこからかドラーゴが戻ってきた。どこにいたのかは分からないが、やはり速い。たったの30秒ほどで玄関まで戻ってきてしまった。
プーロは再び怖気づいて後ずさる。
ドラーゴはプーロを指さす。
「てめーの能力だな、さっきのは?お前を持ち上げたかと思ったら、急にさっきの花瓶が割れた廊下に飛ばされていたんだ。そしててめーの持ってるそれは花瓶の破片――つまりてめーの能力は『物体の位置を一瞬で入れ替える能力』だな……隠し持っていたのか、それとも今発現したのかは知らねえが…………」
そんなこと言われてもプーロ自身には何が何だか分からない。
しかしアニマは納得したというような顔で頷いた。
「プーロ君、君はさっき窮地に陥り強い恐怖を感じた。相手を遠くに飛ばしたいと強く願ったはずだ。その強い感情が君の精神から『能力』を引き出したんだ」
「そ、そんなことありえるの!?」
「分からない。だが、そう考えるしかないようだ」
「ネタが分かればどうってことない……所詮は殺傷力0の能力…対策はいくらでも打てるぜッ!」
ドラーゴは今度はアニマに向かって突っ込んできた。
アニマも身構える。
「来い………ッ」
ドラーゴの拳がアニマの頬を掠める。
アニマは太極拳のような動きで次々とドラーゴの攻撃を躱していく。
ドラーゴは身体が大きいかわりに攻撃が大振りだ。アニマなら躱すことは無理ではない。
しかしそれと同時にドラーゴには隙がない。体力も極限まで強化されているはずだから、アニマが疲れたところを狙えばいいだけだ。
しかしアニマにも残された策はある。
「学習しないなドラーゴ……お前は俺に“接近”した………」
「!」
アニマは口から流れる血を手のひらに溜めていた。
「『オブ ルーラ』ッ!これでどうだッ!」
弾丸のような血液がドラーゴに炸裂する。
「ぐうッ!」
しかしドラーゴは咄嗟に腕を組んで胴体を守っていた。ダメージはあまり無いようだった。
「何……!」
ドラーゴの次なる攻撃が繰り出される。
「しまった……防御を…………ッ!」
「遅いッ!!」
ドラーゴの拳と蹴りが同時に炸裂する、アニマの身体が捻りつぶされる――
――しかしドラーゴの攻撃は当たらなかった。何もない空を切っただけだった。
「!?」
アニマの目の前にはドラーゴの姿はなく、花瓶の破片が落ちていた。
そしてドラーゴは、さっき破片が落ちていた場所に移動していた。
プーロの能力だった。
アニマは走り、ドラーゴに突っ込んでいく。
「はっ!」
ドラーゴが振り向くと同時に、その顔面に拳が入った。
「な、なにィ~~………」
「おおおおおッ!」
アニマは全力を振り絞り、ドラーゴの巨体を吹き飛ばす。
「ぐああああッ!」
ドラーゴは窓ガラスを割り、壁に崩れ落ちる。
「助かったぜプーロ君……君が咄嗟に能力を使ってくれたおかげだ………」
アニマはゼェゼェと息を切らしながら話す。
「ほ、本当に僕の能力なんだ……」
「プーロ君、悪いけどロッカールームから物を持ってきてくれるかな?疲れて動きたくないんだ……」
アニマが言うと、プーロは頷いてロッカールームに走っていこうとする。
「待てよ…まだ決着は着いてねえぜ……」
「!!」
ドラーゴが起き上がった。まだ戦えるらしい。なんという体力だ。
「まずプーロとかいう奴からだったのだ……プーロを倒すことが先決だったのだ……!」
ドラーゴはプーロにジリジリと歩み寄る。
プーロは怯えて足が竦んでしまっている。
「プーロ君、逃げろ!」
「くたばれ、プーロォォ!!」
ドラーゴの蹴りが繰り出される。
「!!」
しかし蹴りを食らったのはプーロではなく、アニマだった。
「コイツ…まだ動けたのかッ!?」
「ガフッ……!」
アニマからと血の混ざった咳が出た。
「コイツ……ボロボロになりながらも、そこまで傷つきながらも動くとはッ!このプーロを守るため、そこまでできるとはッ!」
「アニマ………」
アニマにはもう能力を使う体力はない。小細工はできない。
「おあああああああッッ」
アニマは力を拳に籠め、渾身の一撃を顎に叩き込んだ。
ドラーゴの足が一瞬宙に浮き、頭からドサリと倒れた。
「はぁ……はぁ………」
「た、倒した……」
アニマはくらりと揺れ、倒れた。
「あ、アニマ!?」
極度の疲労により眠っているようだ。無理もない。まさしく真の闘いだった。
サルバトーレ・アニマ、『触れたものの性質を変え再構築する能力』。ネーロ・ドラーゴ、『身体能力を極限まで高める能力』。リーンピダ・プーロ、『触れたものの位置を一瞬で入れ替える能力』。
『能力』とは、いったいなんなのだろうか……?