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純潔と魂  作者: 椎葉
1/8

1:PURO&ANIMA

 西暦2000年もあっという間に5か月が過ぎました。

ちょうど今シロ・デ・イタリアというレースが行われているので、ここイタリアの街も少しばかり活気づいているように見えますけれども…。


 僕の名前はリーンピダ・プーロ…。イタリアでもかなり珍しい姓と名前で(というよりも僕の一家以外見たことが無い)初対面の人でも覚えやすい名前だとは僕も思いますよ。

 今年15歳の僕は、義務教育最後の歳としてなんとなく清々しい気持ちで毎日を送っているわけですが――。


「あっ!」

 僕は学校へ通うため小さな通りを走っていたのだが、角を曲がった時に立っていた人とぶつかってしまったのだ。

 鞄の中に入っていた筆記用具や教科書がアスファルトに散らばった。


 「す…すみませんでした!」

僕は謝り頭を下げたが、何も返事が返ってこない。もしかしてすごく怒っているのだろうか。

僕は少し頭を上げて顔色を伺った。


 175cmくらいだろうか…細身だが僕より一回り大きく、足が長くスラリとした身体だった。黒が少し混じった金髪で、その髪も長すぎず、顔も良くさっぱりとした好青年だった。

 怒っているわけではなさそうだった。

 だが僕が驚いたのは、その青年が着けている名札に、自分と同じ学校の名前が刻まれていたからだ。そして同じ学年だった。そういえば見たことがあるような気がする。


「君は……」

 青年は僕を不思議そうな顔で見つめる。僕は居心地が悪かった。同じ学校の生徒の前で恥をかいたせいでもある。

「ご、ごめん……」

 僕は視線をそらして急いで散らばったものを鞄にしまう。


「あ、あれ……おかしいな、消しゴムが無いぞ」

 既にしまったのだろうかと思い僕が鞄の中を探っていると、青年は僕の目の前に手を差し出した。そこには消しゴムがあった。

「あっ」

 青年は依然不思議そうな顔でこちらを見つめる。

「あ、ありがとう……」

僕は消しゴムを受け取ってペンケースに入れ、お礼だけ言って立ち去ろうとした。


「ねぇ、待ってよ」

 僕は後ろから青年に声をかけられ、止まった。

「君、同じ学校だよね?」

 それは自分のその学校に通うには少々派手すぎる服に着けた名札と僕の名札を見比べれば分かることだろうと思ったが、さすがに口には出さなかった。

「え、ああ……そうだけど」


「俺はサルバトーレ・アニマっていうんだ――君の名前は?」



 それが僕らの出会いだった。今の僕には、こんな平凡な街のこんな平凡な出会いが僕の運命を大きく変えることを知る由も無かった――。



 この青年、僕と同じくらいに珍しい姓だな、と思った。

「リーンピダ・プーロだけど……」

 僕がそう答えると青年――アニマは屈託なく笑った。


 そして歩いて僕に近づいた。

「どうせ同じ学校なんだし一緒に行こうよ」

変な人だと思ったが、それもそうなのでとりあえずは一緒に歩くことにした。


「……………」

 しかしまいった。同じ学年とはいえ、突然あんな出会い方をした人と並んで歩いたって、会話が弾むわけがない。

 しかしアニマは満足そうに微笑んでいるのだ。友達が増えた気でいるのだろうか。

ま!同じクラスでもないから別にいいんだけど…。


「何かな…さっきからこれ……」

「?」

 アニマがふいに話しかけてきた。

「いや、ほらこのサイレンだよ」

そういえばさっきからサイレンが鳴り響いている。不思議と今まで全く気づかなかった。


「救急車じゃないかな……パトカーも通っているし」

「なぜ?」

「なぜって言われても……最近はイベントが多いから、気分が良くなってお酒飲んで事件を起こす人も多いんじゃない?」

「へぇ………」

 会話すればするほど、隣で歩くこの青年のことが気になる。いったい、どんな人間なんだろうか。


 僕は腕時計に目をやる。

 8時だ。――もうすぐ登校完了時刻じゃないか!

「ね、ねぇ…ちょっと急いだ方が良いんじゃないかな………」


 アニマも自分の腕時計を見る。

「そうだね……少し急ごうか」

と言い、少し歩調を早めた。それでもあまり急ぐ様子がない。このペースで間に合うとは思えなかった。


「あっ!」

突然車道を走っていた車が横転したかと思えば、その車の後ろから傷ついた車が出てきた。衝突した影響でタイヤがパンクしたようだ。グラグラと蛇行したかと思えば、バランスを崩す形で歩道に突っ込んできた!


「危ない!」

 僕はアニマの袖を掴んで逃げようとした。

 しかしアニマは動かなかった。

「えっ!!」



 僕が本当の本当に驚いたのは次の瞬間だった。

なんとその暴走車は、アニマの目の前で()()()()()。そう。潰れた。

 グシャリと音をたて、まるで壁にぶち当たったかのようにフロント部分がひん曲がって潰れた。

それも、アニマのちょうど目の前で。



 僕は信じられない思いだった。

――目の錯覚かもしれないが、一瞬アニマの目の前に、透明な薄い膜のような壁が出来ていたように見えた。

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