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二話

よう兄ちゃん、ちゃんと収穫あったんやろうな」


「ぬふふ、愚問だな我が妹よ。バッチグーだぜ」


 俺とサユリは集合場所の広場の噴水で落ちあわせた。

 早速お互い結果発表という訳なのだが、一つ気になることがある。それは、


「何だその生物」


「拾ったん」


「捨ててこい」


「嫌や」


「何だその犬か猫か分からん生物は! 争ってきた犬派と猫派に石投げられるぞ」


 サユリが大切そうに抱えていたのは、犬か猫か分からない謎の生き物だった。うん、分からない


 黄色い毛に白い五本の線がある、シマシマ模様のその生き物は、犬のように耳が垂れてるかと思えば猫のように尻尾は長く、髭も長い。


 犬の特徴的な高い鼻の面影は残っておらず、かといって体型は犬に近い気もする。

 そして何より問題なのが、


「何だその背中から生えてる羽は。危険臭しかしないんだが……おい今こいつ『ワイ』って鳴いたぞ! まるでおっさんじゃねぇか」


「可愛いやん、ええやろ別に飼っても。なぁ可愛い妹のためやと思って……お兄ちゃん!」


「ダメだ」


「ケチ」


 ……あっぶねぇー


 こいつ、急にお兄ちゃん呼びは反則だろ!

 全く、上目遣いプラス手を祈る形にしておねだりの破壊力は伊達じゃない。恐ろしい子

 俺じゃなきゃやられていただろう。


 だが、よくよく見るとこのわけ分からん生き物も確かに可愛く見えてきたような……あれ? もしかして可愛いかもな。


 うん可愛い…………こいつめっちゃ可愛いぞ!?

 いやいやダメだ落ち着けアマノ ケン。ここは異世界、未知の領域なんだぞ。

 あ、でもまずい一度可愛いと思ったら急に愛着が……






「ワイ! ワイワイ! ワイ! ワイ!」


「良かったなぁニャック。頑固な兄ちゃんの許しを得たんや!」


「……頑固で悪かったな。つうかニャンコとドックを合わせてニャックって」


 まぁいいか、楽しそうだし。

 可愛いという概念は世界を救うのかもしれん。サユリと見事に連携しやがった。


 それはそうと本題に戻らなければならないのだ。


「サユリ、ペットを拾って来る暇あったんだ。それなりに収穫はあったんだろうな?」


「もちろん! 抜かりないで」


 怪しい


「ふむ。じゃあ問題な、この国と金貨の名前は?」


「国の名前はナックル。金貨の名前はコインや」


「正解、じゃあ一コインを日本円に直すと?」


「一円やろな」


「正解」


 正解の言葉を聞くと、ふふんと鼻をすすりながら仁王立ちして、自慢げな顔を見せてくる。

 それを見るとついつい意地悪したくなってしまった俺は次の質問を繰り出した。


「この世界でのラノベ人気ジャンルは?」


「え? に、人気ジャンルやって?」


 困るのも当然だろう。

 今までの世界なら迷わず異世界系と答えるだろうが、その異世界が今ここにある訳だ。


 それにしても、異世界にも本という概念があるとは驚きだった。

 荒くれ稼業の冒険者がウヨウヨいる所だと勝手なイメージをしていたが、世界は広い。

 本があるということは、さぞ作家もいるという事であろう。


「冒険物、ちゃうんか?」


 散々悩んだ挙句、日本が染み込んだ回答をしたサユリだったがそれも少なからずあるのだが、正解とは程遠い。


 そう、正解は



「日本だってよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「何だってぇぇぇぇぇ!!!」


 鳴り響く声は空気を激しく揺らしながら発生した。一瞬で人の視線を集め、ニャックに関しては怯えてサユリに身を隠している。


「うるさいよ兄ちゃん」


 この大声の主は俺なのだが、久々にこんな大きい声を出したと思う。

 それくらい驚愕でショックだったのだ。


「さっき『愚問だな、我が妹よ』とか本の人気ジャンルは〜とか言うてたくせに知らなかったんかい。何のための情報収集や」


「も、もう一度言ってくれ。い、今のをも、もう一度……」


「せやから魔法は勇者以外使え――」


「ごめんやっぱ聞きたくない!」


 俺は両手で耳を塞ぎ再び叫んだ。


 そんな俺に対してサユリは心底面倒くさそうな顔をすると、ニャックを抱き上げて優しく頭を撫でる。

 ニャックも既にサユリに懐いたようでとても気持ち良さそうにしていた。


 ――おい嘘だろ? 異世界に来た時から計画していた俺のウハウハチーレム暮らしが……


 待てよ異世界に来たら俺TUEEEEとかが鉄板だろ普通。

 最初から強いか、最初は普通だけどレベルが上がるごとのステータスが凄いかの二択のはずだ。

 それなのに何だよ、魔法すら使えないとか。


「大丈夫かいな兄ちゃん」


「ワイ!」


「待て、魔法使えなくても冒険者くらいにはなれるよな?」


 そうだ、魔法は使えないのは残念だが、まだ剣とか弓とか何とかなるんじゃ無いのか。

 せっかく異世界に来たのに冒険しないとか愚の骨頂だ。


「確かにそれならなれるかも知れへんけど、うちら異世界人やで? モンスターとかと戦えるとは思えんけどなぁ」


「チッチッチ、その逆だ。異世界人だからこそだろ。そういうのは俺とお前は最強のはずなんだ……多分」


 なんか先程の巨大ドラゴンがフラッシュバックして急に不安になって来た。

 サユリがジト目で俺を見てくるんだが正直やめてほしい。

 心なしかニャックもそんな目で俺を見てくるような気がする。


「そこまで言うなら、あれ持ち上げられるんか?」


 サユリが指差したのはもはや飾りと化している二、三メートルくらいの岩だった。


「よし任せろ……っむうううううううううううううううううううう! ど、どうだ!?」


「一ミリも浮いとらんよ、もう諦めるんや。今日はもう日が暮れるそうやし、そろそろ帰ろう兄ちゃん」


「はぁ、はぁ、はぁ、帰る場所なんて、はぁ、あるのかよ」


「それは任せとき。うちはちゃんとした妹やからバッチリ確保済みや」


 小さな胸を手でポンっと叩いて、ドヤ顔で言ってくるサユリだったが今回ばかりは逆らえなかった。

 つうかこいつどうやって確保したのだろう。

 何かいかがわしい方法では無いか心配になってくるが、まぁ大丈夫かとこいつとの思い出が教えてくれた。



 ――オレンジ色の光が空を描く中、どうやって夜と朝になるのだろうと疑問に思いながらも、俺はニャックをだっこするサユリのあとを追った。


 先の場所とは打って変わって建物の数が大分減り、少し静かな殺風景のある場所に来ていた。

 一体サユリはどこまで出歩いていたのかは知らないが、何故か嫌いな場所では無かった。


「ここやで!」


 そう言ってサユリが前に立ったのはお世辞にも綺麗とは言えないが、十分暮らせる一階建ての木の家だった。

 外見は煙突と窓が一つずつ付いていて、三角形の形をした屋根は大変味があって、なかなかに情趣に富むものだ。


 ドアを開けると、この家に似合った木の椅子と赤い髪の美少女が寝ている白いソファーがテーブルを取り囲んでいた。


 あの煙突と繋がっている暖炉も、薪の具合から見てつい最近まで誰かが住んでいたことが伺える。

 部屋の大きさは十畳くらいのホテルの部屋一つ分くらいの大きさだった。


「トイレと風呂とキッチンとタンスもあるっと。本当にどうやってタダで借りれたんだよこの家……」


「え? 誰がタダって言うたん」


「で、ですよね〜ってオイ! 待て誰だこの子! さり気無くスルーしたけど、何か先客いるんですけど!」


「う、うちに聞かれても分からへんよ! うちもビックリしたけどなんか色々ありすぎてなぁ」


「く、苦労してんなお前も……」


 それにしてもこの子、どこかで見たことがあるような?


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