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一話


 月曜日の朝、それは学生なら誰もが憂鬱になる時間だ。

 ならば水曜日を一週間の始めにしよう。という考え方もあるらしいんだが、どうしても月曜日が一週間の始めにしか思えない。


 おまけに今日は朝から額に汗が出るくらいには暑いから、やる気がさらに強奪される。そしてそれは、俺こと天野健(あまのけん)も例外ではない。


 愚問だが、一般的に兄弟というものはどのような存在だと考えるか、


 俺にも三つ年の離れた一人の妹がいるんだが

 奴はワガママではあるものの、血の繋がりというやつか、どうも憎めず、何だかんだで可愛い妹だと思う。


 シスコンだと思われがちだがとんでもない。兄弟とはみんなそういうものだ。


 そんな事を考えながら俺は身支度を終え、玄関を嫌々出発しようとドアノブに手を掛ける。



 突然だが、都市伝説やオカルトなど俺は是非体験をしてみたいと思っている。


 理由を聞かれれば面白そうだからであろう。

 例えば異世界に行ったり、何かに目覚めたりするなど色々だ。


 どうしていきなりこんな事をだって?

 この世界はあまりにも平和すぎて、何だか無性に寂しくなってしまったからじゃなかろうか。


 勿論そんな事は無理な事くらい知っている。

 それにあの世とか神様とか俺はあまり信用しないタイプに位置するのだ。


「あ」


 鞄を落としたせいか、何かに操られたのかのように間抜けな声を漏らした。


 こんな性格で意外かもしれんが俺は不登校でも引きこもりでも何でもない。


 だって外に行かないと何もイベントが発生しないだろうから、勉強はそこまで好きでもないが……まぁ仕方なく行っている。


 しかしもう高校1年生。モラトリアム人間という最近習った、いわゆる『ニート』にならないよう日々努力しなければならない時期なのである。


 さて、今日も今日とて何が起こるか。未来が見えれば楽しくないし、過去に振り返っても虚しいだけだ。


「――行ってきまーす」


 学校と家の距離は比較的近く自転車は必要ない。

 時間ギリギリだったので、駆け足で行くいつもの登校道はいつもと変わらず平凡な下り道だった。

 登校での発生イベントはどうやら明日へとお預けか。


 今日は二学期の最初の日。

 朝の集会で長々と校長の話を聞き、うる覚えの校歌を歌い、そして退屈な授業をするに違いない。……全くなんて面倒くさいスケジュールだ


 そう思った矢先――何かがあった


「――っぁが」



 それは急だったのだ。本当に急だった。どう例えればいいのさえ分からない。急にそれは襲ってきたのだ。


 視界が黒に染まったと思うと地面に足がついていない感覚が確かにあった。


 おまけに重力を感じず、ふわふわと浮いた……そうまるで溺れたかのような、そんな気がした。


 どっちが上でどっちが下? 右と左は存在する? 自分がどこにいるか分からない。自分が何しているかも分からない。


 自分が、分からない。


 これが天野 健のこの世界で最後の感想である。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「――暗い」


 そしてこれが、アマノ ケンのこの世界で最初の感想である。


 何故かバサバサという奇妙な音が耳に入ってくるのだが、顔の感覚神経がそれを答えてくれた。


「プハッ! 何だこれ新聞か? なになに……ドラゴンが脱走、勇者の行方不明、魔王軍幹部が王都に侵略、キメラの実験成功……は?」


 ――いやいやおかしいでしょ。魔王だの勇者だの、そんなまるでラノベ主人公的展開が……つうか何でこの字読めるんだ。見た事ないぞこんな字。


 しばらく硬直するのも無理もない。

 周りの建物、人、風景。これらを一瞬で変えるなんて今の世界の技術では不可能に等しい筈だ。

 典型的な中世ヨーロッパ風の広場のど真ん中に俺は突っ立ていた。


 にしても、この新聞を読む限りあんま治安は良くなさそうだなオイ。勇者の行方不明とかファンタジーのカケラもねぇ。


 俺は本当にあの異世界に来てしまったのか。ラノベとかアニメとかに出て来る異世界に来たのか。


 すげええええ!!!


 でも、これから何をしよう……まず冒険者ギルドに行って装備を整えるだろう。

 そしたら早速パーティー結成だ。


 ある程度レベルが上がったら凶暴なモンスターを退治したり、他にもドキドキの大冒険、冒険者同士の駆け引き、パーティーメンバーとの淡い恋……あれ? 超楽しそうじゃないですか。


 そして! この異世界に駆けつけた俺が勇者っていうわけか!



「――そんな都合よく行くと思ってん? 兄ちゃん」


「っおおおおおお!!!びびびっくりしたぁー!!! さ、さ、紗由理さゆり!? おまっ、何でここに! ていうかいつからここに!」


「兄ちゃん新聞読んでるときから。ウチもビックリしたよ。いきなりこんなとこ来た思うたら兄ちゃん隣で固まっとるし……どうせ『まず冒険者ギルドに行って装備を整えるだろう。そしたら早速パーティー結成だ。ある程度レベルが上がったら凶暴なモンスターを退治したり、他にもドキドキの大冒険、冒険者同士の駆け引き、パーティーメンバーとの淡い恋……あれ? 超楽しそうじゃないですか。そして! この異世界に駆けつけた俺が勇者っていうわけか!』とか思ってたんやろうけど」


「なっげーよ! そういうキャラよくいるけどなっげーよ! 心を完コピするんじゃない! 何で分かるんだよこえーよ!」


「何年兄ちゃんの妹やってると思ってん? 手の動きと顔の表情で分かるほど兄ちゃんは単純で分かりやすいねん……『え? 俺そんな顔に出てる?』ほら」


「も、もう勘弁してくれ」


 こいつは天野(あまの) 紗由理(さゆり)

 先に言っておくがこいつは生粋の美人だ。

 見た目は俺とあまり似てはいないが、正真正銘の妹。


 肩に添えられている短めの黒茶色の髪は、目で判断できるくらい滑らかでサラサラと水を演出している。

 凛とした目に小さい鼻と口は、人間にとって最も安定して美しいといわれる比率、黄金比を見事に表現していて、こいつの輪郭は女性の憧れと公表しても恥ずかしくない。

 身体の方は……マザーテレサが言った。

『貧しい人ほど美しいことです』と。

 身長150中間くらいの、本人曰く育ち盛り。

 何故俺の妹なんだという、人生七不思議の一つである。


 それにしてもあの口調は親譲りなのだが、どうにかならないのだろうか。


「ほな行くよ、兄ちゃん」


 妹が先陣を切って手招きしてくる。


「行くってどこに」


「情報収集と寝床探し。ここ異世界なんやろ? なら早く行かんと。日が暮れる前に」


 臨機応変と行き当たりばったりは紙一重だが、我が妹ながら適応力の高さを感じる。

 俺もその招きに連れられ、妹の後を着いて行った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ありがとうございます。すみません旅人なもので、あまり世間を知らなくてですね」


「いやはや、構わんよ。それでは幸運を呼ぶ声が貴方にとって祝福に」


「幸運を、何だって?」


「幸運を呼ぶ声が貴方にとって祝福に。幸運のおまじないだよ」


 おおお、なんか異世界っぽくって超カッコいいな! ファンタジーしてるって感じがあるな!


 妹に指示されたように俺は一通り情報収集を行った。結果は上々、知識うなぎのぼりだ。


 しかし、妹とは別行動で情報収集を行ったが、あっちは収穫はあるのだうか。

 しっかりしている妹だ、大丈夫だとは思うがまだ中学一年生の女の子。

 いきなり知らない地で迷子とか……いやないな。


 一通り情報収集も終わった事だし折角の異世界を堪能するべきだな! うんうん。


 だが、俺が次の行動に移ろうとした時、感じたことの無い『風』を浴びた。


 右からも左からも前からも後ろからでもなく、上から来た突風が俺の意識をさらに覚醒させたのだ。


 世界が震えた――それは武者震いなのか恐怖で震えたのかは分からない。

 だが、風の発生源は異世界素人の俺でも一瞬に理解できるほどの衝撃がそこには存在していた。


 見ただけで身がすくんでしまいそうな爪と牙を始め、人の何倍も大きい立派な翼を持つ巨大モンスターが頭上を飛んでいったのだ。

 あれは俺の世界でいう『ドラゴン』というやつであろう。


「全く……興奮を覚まさせてくれないな、異世界さんは」


  驚愕を通り越してしばらく何をすればいいのか分からずじまいだったが――小さな本屋を発見した。


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