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3/魔術の王国・ヴィルヌーヴ(前編)

 俺は昔から好きな人が居た。

 その人はかなり年上の教育実習のお姉さんで、大人になったら釣り合うような男になろうと色々頑張ったのを覚えてる。

 でも出会って数年としないうちに、その人が誰かと結婚する事が決まった。

 その人はとても幸せそうで……

 悲しいけど、それを押し付けるのは明らかに間違いだと自分では解ってて……

 だから俺は、その背中を追うことをすっぱり諦めた。





 馬車が王女様お忍びの為の薄暗い小路を抜けて、窓から急に光が差し込んだ。

 眩しさに閉じた目をゆっくり開けると、上空に広がる異世界の青い空と眼下に広がる赤い街が素晴らしい展望を拡げていた。

 空にうっすらと見えるあの巨大なリングも、より一層感動を拡げてくれる。


「っ……ふわぁ……!」


 馬車の後ろにそびえ立つ王宮を中央の一区画として、放射状に拡がる10の大通りと、その隙間を縫うように乱立する赤煉瓦の建物たち。

 その大通りの一つ、かなり遠くに見覚えのある砦が見えるが……そうかあんなとこから走ってきてたのか。

 そりゃあ疲れるよな、と、馬車に揺られながら向かいに座るスザンヌを見やる。


「……王女陛下に何か御用か?」


「滅相もございません」


 王女様(スザンヌ)の執事なのだろうか、それとも部下のお偉いさんか

 スザンヌの隣に座る豪奢な衣装のじい様が腰のレイピア──例によって柄が鍔の辺りから機械仕掛け──に手をあてながら滅茶苦茶睨んでくる。

 金髪の起こした爆発もそうだが、どうもこの世界の連中は機械を通して魔法じみた攻撃をぶっ放せるらしい。

 そこだけ技術どうなってんねんと言いたくなるが、最後に食らった身体が重くなる魔法はまじでもう食らいたくない。


「ウォルター、意地悪するんじゃないの」


「……ちっ」


 スザンヌの一言で舌打ちしながら手を引くが、目はまだこちらをまだ睨んでくるウォルターじい様。


 昨日の風呂の件は早くも王宮内で噂になってたらしく、王宮内で目を覚ました俺は早速猛獣(性的な意味で)扱いのまま馬車に詰められてきたのだ。

 出発前にスザンヌが入ってきたときは侍女達が止めに入って来ていたが、結局説得されてしまっていた。

 馬車の中からじゃ聞こえなかったが、侍女達は顔を真っ赤にしていた。 王女には誰も敵わないらしい。

 んで一緒に入ってきたのがこのじい様だ。

 そりゃ警戒もするわな。

 そう思っていたところで、スザンヌが口を開いた。


「イラ、私はあなたをこの国の為に働かせようと思うの。

あなたの身体はそれに足る能力を持っている、そして知性もあるからね?」


「はぁ……」


 まぁ、番犬っつってたからな。

 しかし、街を見下ろす限りどっかの国と戦争をしているとかそういう様子は微塵も感じられなかった。

 子供たちが市中を走り回り、商店の立ち並ぶ街道は人で賑わっている。

 和風な意匠のドレスを着飾ったエルフっぽい耳の長い人や、ビキニアーマーの腰に機械剣を下げた獸耳の人とか、多種多様な人種が溢れている。

 戦争なんてしてたらこうはいかないだろうな。

 おまけに割りと女性の美人さんが多いこと流石異世界うひょひょ……


挿絵(By みてみん)


「顔に出てるわよぉ?」


「はっ……!?」


 いつの間にか鼻の下を伸ばしていたようだ。

 恥ずかしい、笑う王女に言われて涎を拭き取った。


 まぁとにかく平和だ。

 じゃあ何から、この平和な国を守れと言われているのか……


「魔物よ、世界に蔓延る人類種の天敵。

この世界の人類は常に魔物の驚異にさらされているわ

ある程度の生活圏から離れた人間は即魔物の餌食よ

この王都も、国も、騎士も魔術師も、本来魔物から自衛するためにあるものよ」


 なんてこった、俺はそんなものだと思われているのか。

 確かに化け物の自覚はあるが、人類に敵意なんてもん持ったことはないぞ俺は。

 というかやっぱり居るのか、魔物。


「まぁぶっちゃけ、3000年も封印されてて生きているあなた(の体)が尋常な生き物ではないのは確かだけど

魔物かどうかは今のところ半々というのが今のところ哲学院(アカデミエ)の見解なの。

異世界から別の体に混ざりこんだヒトであることなんてまず信じてもらえないだろうしね。

強く賢い新種の魔物であれば、国の護りに立って貰って周囲の魔物を牽制するもよし

ヒトであることが確定したなら、そのままそこはあなたの働き口になるわ」


「ちょ、ちょっと待った!」


 身を乗り出して慌てて制止する。

 ウォルターがまたレイピアに手を宛がうが構わず俺は続けた。


「処刑になる前に助けてもらったのには感謝してる、スザンヌの頼みとあらば喜んで受けたい。

でも……」


「帰る手段を探したい、そう言いたいんでしょ?」


「……っ!」


 そう言ったスザンヌの言葉には、なんだろう……昨日の凄みとも違う、でも抗い難い感情が感じられて俺は口をつぐんでしまった。

 ウォルターもゆっくりと手を下げた。

 スザンヌは微笑むと、続けて言った。


「安心して、そのためにあなたの手綱をあの子に任せたんだから……」


「あの子……って」






「と言うわけで、お願いするわ♪」


 煉瓦作りのアパートのような建物の前で、馬車からおりてすぐのこと。

 手を合わせて王女様(スザンヌ)がご機嫌に頼み込んだ相手は、やっぱり昨日のSFサイコ魔法少女──クローシェとか名乗っていたちんちくりんだった。

 しかし昨日ならまだアニメで見るような魔法少女もかくやと元気に跳ね回っていたが……今日は目元の見えない瓶底眼鏡を着用し、昨日から徹夜でもしていたのかその縁から隈が見えて疲れたような猫背をしている。


「ああ、はいはい魔物の女に憑依した自称異世界の変態男ね。

昨日から覚悟はしてたけど、ホントいきなり決めてくるわねスザンヌ」


「あなた好みの変態性能よ♪」


「変態の意味が違う気がする」


 スザンヌは突っ込みを入れる俺に振り返って紹介するように手を翻した。


「この子は私の幼馴染で、父の跡を継いで第1期文明──万能に届いたとされる古代の魔術を研究してる権威でもあるの

あなたというミッシングリンクがあるならば、いずれあなたの帰る方法……そこには届かずとも、あなたが居た世界とこの世界を繋ぐものくらいは見つかる筈よ」


 古代文明……ああ昨日の重くなる魔法か。

 遺跡から発掘したのもこいつだとかなんとか言ってたっけ?

 でも良いのかねぇ、幼女には興味ないけどこんなアパートで一つ屋根のした暮らせと言うなんて……ていうか魔物うんぬんって話は何処へ……

 そう考えている隙に、首に冷たい感触が巻かれた。


「ふぎゃい!? 何しやがった!?」


「失礼なことを考えてそうだったから立場を明白にしてあげたのよ」


 首に巻かれたそれを慌てて触れて確認すると革のような質感のベルトに金属の留め具? ベルト? 首輪か!!


「てっめえどっちが変態だ!! ……へっ?」


 無理矢理外そうと引っ張った瞬間、首輪からピーと機械的な警告音が鳴り(おも)っ。


「みぎゃあ!?」


 そのまま身体が見えないなにかに巻かれて芯に向かって引っ張られるような力がかかり、堪らずしゃがみこんで首輪から手が離れるとそれが収まった。

 わ、忘れもしない。この嫌な感触は……!!


「あら流石ね、もうそこまで小型化するなんて」


「遅くなって申し訳ないけど、それ外そうとしたり私に危害を加えようとしたら容赦なく重力に潰されるから

無茶したら肉団子だからね? おわかり?」


 息切れした俺を見下ろすちんちくりん(クローシェ)は三日月のように口を開けて笑みをつくる。

 そんなスザンヌとは全く違うタイプの威圧感を俺に押し付けてきた。


「……っ!! ……っ!!」


 涙目でクローシェを指差しスザンヌに訴えかけるも、スザンヌはあらあらと困った笑顔しか向けない。

 なんか力関係が決してしまったような気がする。


「あんたの故郷は探してあげる、でもその分きっちりと情報を吐いて貰って、実験台にもなって貰うわよ? 解りましたご主人様は?」


「が、ぐ……っ!!」


 俺が言葉に詰まってる間に、スザンヌはさっさと馬車に乗ってしまう。


「それじゃあ私は公務があるから、用があるまで達者でねー♪」


「御無体なああぁぁぁ!!」


 かくして異世界の空に響く俺の悲鳴とともに、異世界での──モルモット──生活が幕を開けるのだった。

「口から駄々漏れだった!

もうあかん父さん母さんごめん預金額が減ったらこいつのせいです!!」


「ウォーリー婦人! 違うんですこの変態が勝手に言ってて……」


「んまぁー、大変ねぇそんな若い身空でぇ」


「待って、突っ込みが追い付かない」


「あれ月なの!?」


「あっそ、病院言って取ってもらえ」


「やはり運命を感じます」



次回『魔術の王国・ヴィルヌーヴ(中編)』

「俺は、男だあああああぁぁぁぁぁ!!」


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