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2/お風呂・王女《下》



 運動の後は風呂、素晴らしい文化だと思う。

 雑学だが、俺のいた世界で西洋には一時期暖かい風呂に入ると言う文化が抑圧されていた時代があり、今もシャワーで済ませる人が多いんだとか。

 いや見た目だけでも中世辺りやってるこの世界がそんな感じでなくて本当に良かったと思う。

 いやしかし……


「いきかえるわぁ~……」


 ギリシャ風ので~……っかい大浴場に一人、湯船に浸かるこの贅沢さよ。

 この世界で目覚め大暴れしたその日。

 俺が一日肩車して走り回った王女さまの計らいで俺は今日だけ王宮の来賓施設で過ごすことが許され、こうして疲れを癒すためのお風呂とかも貸しきりにしてもらっている。

 流石というか、美人なだけじゃなく懐もでかいお方だ。

 あれで人妻なんだからなぁ……子供が三人。


「……んっ!」


 いかんいかん、仮にも恩人だぞ。

 首を思いきり振って煩悩を振り払う。

 いやさエロいのだが、今俺にはそれよりも切実な問題があるではないか。

 湯船から上がり、生まれたままの(?)姿で大鏡の前に仁王立ち。

 骨格のせいか自然と内股気味に、黙っていれば本当に美人のケモノな女の子が此処に居た。


「……これで俺じゃなけりゃなぁ」


 またも自分の乳を揉む。

 他人だったらせめてもうちょっと遠慮もするが、半日は牢屋のなかで嫌と言うほど見慣れた身体だ。

 それに化け物と言われてもハイそうですと言えるほどの身体能力に重さを変える特殊能力、昼に撃たれた腿の傷も脱出したときには気にならなかったしもう塞がっているから回復能力も化け物級。

 ひくわー。

 そこで気になるのはひとつ。


 この身体で発散できるの?


「……っ、ごくり」


 これもまた雑学だが、女性の性感は男性の百倍はあるという。

 男と言う生き物は知識の足りないうちは初めて自分で発散した時の感覚を追い求めていくものだと思う、俺もその類いだ。

 だがこの身体でそんなことしちゃったら、俺戻れんのか?


 暖かい欲情……いやさ暖かい浴場の中で、冷たい汗が頬を伝う。


 どれだけ時間が経過したのか……やがて、鏡の向こうのケモノ美女はあきれた笑みを溢した。


「……はっ、此所で迷うたぁ俺もまだまだだな」


 ああ、本当に馬鹿げている。

 そんなの男女の関係となにも変わらない、自分の名前も思い出せない親不孝だが、そんな俺でも両親の顔は覚えているさ。

 俺の生命は、二人の性の衝突によって生じた小さな奇跡だ。

 俺も女の子を求めるのは、(ひとえ)にまだ見ぬその衝突への憧れと遺伝子に刻まれた欲求に他ならない、男子は皆一様に股間に使命に忠実な第二の脳を持っているのだから。

 そう、身体は女、心は──魂は男。

 何故にそんなすっとんきょうな転生を果たしたかは思い出せないから置いといて、少なくとも魂の股間にはその証がいきり建っている筈だ!!

 仁王立ちのまま右手を構え、狙いはジャングル。


 いざ、未知の理想郷(シャングリ・ラ)へ!!


「よっしゃあ!!」


「ねぇねぇ何してるの?」


 勢い余って地面に頭から突っ込みその勢いのまま湯船へ滑っていってドボン。

 真っ赤になってるであろう顔を湯船から半分出すと、身を屈めて此方を見る王女様が居た。

 もちろん、裸で。


「ごごごごご機嫌麗しゅう」


「堅くならないで、お互い遊んだ仲じゃない」


 いやいやいやいや、俺ならまだしもうわ良い匂い。

 重力に従ってその存在を主張する二つの巨峰を前にして平成を保てる男児が居るものかいや今女だけども!


「それとも」


 桶を手に取り、白濁した湯を汲み取るその姿はギリシャの彫刻で見たものよりもふくよかに艶かしくて……


「凄いこと?」


 お下げにして尚ボリュームのあった髪もほどけて今はふわふわに広がっていて所々がしっとりと肌に張り付いていて……

 桶の湯を被りそれも流れるように落ち着いて……

 ふぅと一息吐いてから、王女様は微笑んだ。


「したいの?」


挿絵(By みてみん)


 あかん、刺激が強すぎる。

 目を逸らしてしまう我がいたらなさを恥じつつも、俺は王女様に答える。


「しっ……したいですっ……けどいけません王女様は人妻であられますし」


「未亡人だけどねー」


「どぉっ!?」


 湯船に入りながらとんでもない事さらっと言ったこの人!?

 そっか王様いないからこの人が国王やってるのね、でもそんな気軽に言うことか?


「でもそうじゃないでしょう?中身が男の子、女の子の身体になって戸惑ってる」


「!!」


 隠してたつもりはない、でも驚いた。

 この人は、俺のことに気づいていたんだ。


「な、なんで……」


「これでも男の人のそういう視線には、慣れてるのよ?」


 ちょっと納得してしまった、いや納得いかないけど。


「正直に言って?どうしたいのか……聞いてあげるわよ?」


 ……少し、考える。


「色々とわかんないっす。いつの間にとか、どうしてこうなったとか、ゼンゼンわかんないし……でも何処に住んでて、家族とか、学校とか、友達とかは覚えてて、だからなんとか俺は俺だと思えてて……」


 王女様は落ち着き払った様子で俺の話を聞きながら微笑んでいる。

 すげーなぁ、流石人妻で国王で三児の母。

 中身わかってても関係ないのか……


「あなた、名前は?」


「思い出せないっす……」


 王女様は少し考えると、急に俺の背中に回り肩に触れてきた。


「なっ、何を……ひえっ」


 しっとりした暖かい急な感触と、自分の髪が背中を撫でる慣れない感触に変な声が出た。

 何故かしげしげと肩甲骨のあたりを見つめている王女様に、俺は覚悟を決めて目を閉じる。


「やっやぁっ……優しくしてくださっ……」


「シリアル2、イラ……そう書いてある」



 変なこと口走っちゃった感、いっそ殺して。



 風呂から上がって、急ぎ自分の肩甲骨のあたりを鏡で確認する。

 確かにそこには、まるで機械で刻印されたかのような紅く四角い文字が刻まれていた。

 しかし、俺がなぜこうなったのか……その手がかりになるのではという淡い期待も虚しく、やはりその文字は知らないものだった。


「イラ」


「えっ?」


 湯船からそう呼ばれた気がして振り返る。

 そこには、一糸纏わずともしっかりと王宮前で重力を止めたときのような威厳をもった『王女様』が立っていた。


「あなたはこれからイラと名乗りなさい

怒りの名を冠し、さりとて怒る相手を知り、そして怒る意味を知る獣

いつか本当の怒りを覚えるとき、あなたは獣になるでしょう

そしてそれ以外の大切なものを手放さない限り、あなたは……人間であるはずよ」


「お、王女様?」


 その凄みというか、迫力に、思わず座り込んで見上げる。

 そして王女様は、いつもの笑顔に戻って言った。


「スザンヌで良いわ

そう呼んでくれる人、今はもうクローシェしか居ないから」


「……スザンヌ」


 王女様……スザンヌは、俺がそういうと膝をついて思いきり俺を抱き締めた。


「あはぁっ!?お、おたわむれへっ」


 胸同士が絡むという異様な感触に、今度こそ変な声が出た。


「……ごめんなさい、もう少しこうさせて」


 表情も読めないまま、俺を抱き締めるスザンヌを……ようやく冷静になった俺は、なにも言わずに抱き返した。



「なにやってんだぁぁあ!!」



「げっ」


 聞くだにゾッとする高い声が風呂場に響く、風呂場の入口に仁王立ちするのは制服もそのまま風呂場に上がり込んだちんちくりんだ。


「この変態魔物!またスザンヌ陛下に変なことするつもりだったんでしょ!」


「ちっ、まさしく今良い雰囲気だったのに!」


 離れたスザンヌの感触は名残惜しいが、どしどし歩いてくるちんちくりんの反対側から大急ぎで逃げる。


「スザンヌ、次は絶対チャンスのがさへんからな!」


「ぁ……ふふっ、く、ふ、ふ。またね、イラ?」


 俺がそういうと、スザンヌは口許を抑えて笑い始める。

 見届けた俺は、急ぎ用意された服を着て、慣れないスカートを引きずりなんとか逃げおおせた。



 余談だが、自室に戻った俺は翌日半裸のまま気絶した状態で起こしにきた侍女に発見されちょっとした騒ぎを起こしてしまった。

 死ぬかと思った、とだけ言っておく。





「第二の罪……怒り」


「……馬鹿な、第二の魔獣がこの国の地下に眠っていたと言うのですか!!

それに気づいておきながらアレを野放しにし、まして封印を解いたあの娘に任せると!」


「宰相、私の決定に何か不服でもあるの?」


「大有りですぞ……お戯れが過ぎます!!

それが本当ならば、今すぐ彼奴の首を跳ね厳重に封印しなおすべきです!

あの宮廷魔術師も、この件で十分その危うさは立証されたでしょう。

代わりは幾らでも立てられるでしょう、即刻手をうたれた方が」


「宰相」


「っ 出過ぎた発言、申し訳ございません陛下。

ですが、このままでは亡き王に……なんと申せば良いのですか」


「……ねぇ、ウォルター」


「は。」


「貴方は、◼️◼️って信じることが出来る?」


「は?」


「私も母親になって5年、国王になって3年になるけど……やっぱりそれはいちど信じてしまうと中々手放せる代物じゃないわ」


「貴方様は、貴方というお方は……まだ信じておいでなのですね、王を……そして彼女を。」


「愚かと謗るなら謗りなさいな。」


「………………いいえ、儂も人の親。其ばかりは否定できませんとも。」


「勿論、否定される覚悟だって出来ているわ」


「陛下……?」


「もしもこの先、あのこが怒りに捕らわれ……

『怒りそのもの』になってしまったその時は、私は彼のようなヘマはしない」





「その時は──────私があのこを殺すわ。」






「ウォルター、意地悪するんじゃないの」


「ちょ、ちょっと待った!」


「帰る手段を探したい、そう言いたいんでしょ?」


「てっめえどっちが変態だ!! ……へっ?」


「それじゃあ私は公務があるから、用があるまで達者でねー♪」


「御無体なああぁぁぁ!!」


次回『魔術の王国・ヴィルヌーヴ(前編)』


「顔に出てるわよぉ?」


「はっ……!?」

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