観覧車の少女
「どこに行ったんだ?」
「あそこに向かいましたね」
鷲津が指し示したのは観覧車だった。
「観覧車は、確かーー」
「女の子の声がするらしいです『出して』って」
鷲津が俺の言葉を継ぐ。
「行くしかないか。俺たちだけデート気分だしな」
「そうですね」
鷲津が微笑む。
ああ、彼女を好きになって良かった。
俺たちは観覧車のゴンドラに近づく。
「出して!」
目の前の赤いゴンドラから女の子の声が聞こえた。
「出して! 出して!! 出して!!!」
ゴンドラの窓がバンバンと叩かれてガラスに子供の白い手形が付いていく。
「これ、結構怖いな」
「そうですか?」
鷲津は肝が据わってるな。
「どうにかして出してやれば良いのかな?」
「やってみますか」
俺はゴンドラの扉に手を掛ける。
「固すぎるだろ!?」
「窓を割ってみてわ?」
「無理だろ!?」
「じゃあ救えないね」
俺と鷲津の会話に誰かが割って入った。
「ゲームオーバーだよ」
例のウサギの着ぐるみが俺たちの背中を力強く押した。
「痛って!?」
俺たちはドミノのように倒れる。
『ピン ポン パン ポン♪ 観覧車二命様ご案内~♪』
「一緒に遊ぼうよ」
無数の白い子供の手が俺たちを捕らえた。
俺たちはゴンドラで永遠を過ごした。