最初の一枚
「それじゃあ…どういう風にとればいいかな?」
普段人の写真などとらない僕は、彼女へと問う。
「おまかせします!でも可愛く撮ってくださいね」
「それが一番ハードルが高いんだけど…」
薄幸そうな見た目とは裏腹に、快活な女の子のようだ。
僕はとりあえず、指示をだす。
いつもとる風景写真の中に、少女を配置するように。
「じゃあその向日葵の前で、ポーズをとってくれるかな?」
「ん~と~、こうですか?」
その少女は、両手を広げて、天を仰ぐ。
そしてその時、急な風が少女の長くて綺麗な髪をなびかせる。
僕は思わず、カメラのシャッターを切っていた。
まるで天使のような、そんな光景がファインダー越しに見えたからだ。
「あー、撮るなら撮るって言ってくださいよー」
少しだけ頬を膨らませた少女がこちらへ近づいてくる。
「ごめんごめん、なんだか思わず撮りたくなってね」
「見せてくださいー」
「ちょっと待ってね」
カメラの機能を再生へと切り替える。
少女がカメラを覗き込んでくる。
ふわっと女の子のいい匂いと、どこかで嗅いだことのある匂いがした。
「こんな感じかな」
僕は、写真を少女へ見せる。
「へー!こんな感じに映るんだ!」
興味津々な顔で、写真を見つめる少女。
その少女の目には、何か強い意志を感じた。
「まあもう一枚撮るから、また適当にポーズをお願いします」
「次はちゃんと撮る前に、合図だしてくださいね」
「わかった」
それから僕と少女は何枚も、何枚も写真を撮り続けた――
ふと我に返り、時計を見るとすでに十二時を回っていた。
「こんなもんかな」
僕は、少女へと終了の合図を告げる。
「そうですね。ありがとうございました!」
少女は軽く頭を下げる。
白い肌にはうっすらと汗が滲んでいた。
そして僕はふと疑問を問いかける。
「そういえば、君の名前を聞いてなかったね」
僕は、かれこれ二時間も一緒に写真を撮った少女の名前すら知らなかった。
「僕は、高野一樹。君は?」
少女は一瞬考えて、少し空を見上げながらこう言った。
「……そう私のことはナツって呼んでください!」
自分のことをナツといった少女は、元気な声と裏腹に、うっすらと涙を浮かべていた。
僕はその涙の意味など、分かるはずもなく。
ただただ、困惑するだけだった。
その僕の心を読み取ったかのように、ナツは行動する。
「あれおかしいな…ゴミでも入ったかな」
ナツが制服の袖で涙を拭う。
この時はまだ、何も知らなかった。
この少女、ナツという少女のことも。
やがてくるであろう、困難なことも。
これからの僕たちのことも。