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蒼穹(そら)のヨゲン  作者: 伽音ふるあ
プロローグ
4/11

序章4

 なんなんだ全く。今日の朝から自分の調子が狂っている気がする。朝のドアノブの件もそうだが学校についてからも似たようなことが起こった。玄関の靴箱の扉を開けようとしたとき、また勝手に扉が開いた。磁石の部分が弱くなっているのかと思い、開け閉めをしてみるがどうも弱くなったとは思えない。そして教室について授業を受けている時だ。隣の席はクラス一番のお調子者の男子、授業はほとんど話を聞かず寝てばかり。そんな彼とは正反対に彼女は真面目に先生の話を聞いていたのだが、突然横から声が聞こえた…『追いかけてくるなよ!!誰か!!誰かいねぇのかよ!!』と。彼女はビクッとしてちらりと横を見た。しかしそこにいるのは大口開けて寝るお調子者の男子なのだが、段々ぼにやりと何かが見えてきた。…必死に走って逃げる男子、その後ろには大きな鎌をもった黒い影。そして逃げた先には崖。行き場をなくして泣き叫ぶ彼。クククと笑う影…。プリローダは目をこすった。いま自分は何を見た?幻覚?そんな幻覚を見るほど病んでもいない。自分が気づいていないだけでなにか頭の病気にかかってしまったのか?グルグルとそんなことを考えていると先生が話を途中でやめ、プリローダのところへやってきた。もちろん先生はその男子生徒を起こすためにやってきたのだ。

「おい!ここは寝る場所じゃないぞ、何度言ったら分かるんだ」

 先生に教科書で頭を叩かれ、「うぅ…いってぇ…」と目を覚ます男子生徒。それを見て笑う同じクラスの友達の生徒たち。…プリローダはまた考えた。さっき聞こえてきた声が妙に彼に似ている。それにさっき見た幻覚のようなもの…よく見たら逃げていた男子はこの男子生徒じゃないか!

(「もしかして今見たのは…彼の…夢?まさかそんなわけないよね…きっと疲れてるのよプリローダ、そうよ。今日は少し早めに寝ようかしら」)

 彼女はふぅと小さく息を吐いて再び授業に集中することにした。

 …このこともあって帰宅後はいつもより予習をやる範囲を少なくして早く消灯した。これで明日には今日のことは何もかもなかったことになるだろう。彼女は言い聞かせ眠りにつこうとしたのだが、閉じた瞼の先が明るく感じた。プリローダは目を開けた。するとそこに一番上の姉が部屋に入ってきていた。姉妹3人、別々の部屋を持っているため姉が来ることはあまりないのに…。

「お姉ちゃんどうしたの」

「んー……ちょっと探し物」

「探し物って…お姉ちゃん最近私の部屋に入ってきてないじゃない」

「そうよねぇ…。どこに行っちゃったんだろ」

 どこに置いたか忘れるだなんて歳とったわねぇ…、なんて言いながら姉は暫くプリローダの部屋を物色した。結局見つからなかったようで「寝ようとしていたのにごめんね」と一言言って退室していった。…その時だ。姉の様子を終始見ていたのだが、部屋を出ようとしたその時また学校の時に見たぼんやりとした感覚に襲われた。…女の子がウロウロして棚の奥に何かをしまった…少し大きな缶だろうか?誰にも見つからないように棚にあった他のもので隠しているように思える。待て、この女の子見たことあるぞ。プリローダはそのぼんやりと映し出された幻覚のようなものをじっと見た。…見たことあるもなにも、この女の子は姉の小さい頃だ。だいたい6歳か7歳の頃だろう。姉が探していたものはもしかしてこの缶なのだろうか?…そのぼんやりとした幻覚のようなものを見終わったときにはもう既に姉は部屋を出ていた。プリローダは布団から出て、姉の部屋のドアをノックして開けた。

「お姉ちゃん…もしかして探してるのって…缶詰めみたいなやつ?」

 そう言ったとき姉は驚いた表情をした。

「えっ?!なんでプリローダ知ってるの?!私…誰にも内緒でこっそり隠してたものなのよ?!」

「え…あ…いや、なんか…ごめん」

「…まぁ別に今思えば隠すほど大したものじゃないんだけどね」

 プリローダは「過去が見えました」なんて言えるわけないので謝罪でごまかした。彼女は棚を開け、ぬいぐるみや昔のおもちゃがしまっている場所を開けた。そして一つ一つ床に置きながら、探していた缶を見つけて取り出した。

「これ?」

「そうそう、それよ。なんだ…見てたのね、プリローダ」

「うん…ちょうど、見ちゃって。…それじゃあ私ちょっと今日は早めに寝るから」

「おやすみ。ごめんね本当、起こしちゃって」

「ううん、大丈夫」

 プリローダは部屋に戻って布団に潜り込むや否や考えた。

 また自分は幻覚をみた。それも今回は違う…他人の本当の過去が見えてしまった。自分が恐ろしくなってきた。やはり私は疲れているのか?疲れていて人の過去や夢が見えるなんて話は聞いたことはないし、勿論そんな人なんていないと思う。彼女は何だか気がおかしくなってきた。

(「…これがあの夢の言っていた、内なる力…なのかな…」)

 もう考えていてもキリがない、そう思い彼女は寝ようと目を閉じた。



 ―――白い世界。

 向こうに何やら虹が見える。そして虹のある場所に緑が広がっている。

『いらっしゃい、また来たわね』

 見たことのある景色、聞いたことのある声。少女は後ろを振り返った。

『随分と大きくなって…立派に成長したわプリローダ』

 白い布に身を纏い、手には綺麗な杖が握られている。その美しく艶やかな長い髪。優しい母のような声。そうだ、私はこの人を知っている。

「…フレイヤ…さん?」

『あら、さん付けなんてよそよそしいわプリローダちゃん。いいのよそんな他人行儀しなくたって』

 どうもプリローダは馴れ馴れしい感じが苦手だ。それは日常でもそう。クラスの人気者と話すことはまずない。社交的で楽観的な人物と自分が合わないことを、悲観的…とはいわないが少々懐疑的で小人数を好む人とのほうが似合っていることを十分に知っているからだ。

『でも、そうねぇ…プリローダちゃんは私のような人、苦手だものね。分かっちゃうのよ私。人の気持ちを読み取ろうと思えばできるし、人の過去も読み取ることが出来るわ』

「え……」

『あなたも体験したでしょ?』

 人の気持ちを…過去を…読み取る…。プリローダはハッとした。その表情を見てフレイヤはクスクスと笑い話をつづけた。

『そうよ、それが内なる力。私があなたに与えた才能よ。何をしなくても物が動かせたりするのはもちろんだけど主な才能の1つは透視能力クラルテよ』

透視能力クラルテ…?」

『さっき言ったように人の気持ちを読み取ったり過去を読み取ったり、はたまた少し先の未来を読み取ったりすることができるわ。ふふふ、何たってこのフレイヤですもの。それぐらいできないとちょっと格好が悪いですわ』

「そんな…魔法使いみたいなこと…」

『誰もは最初、夢だと思うわ。でも…これは現実よプリローダちゃん』

 信じられない。今自分は夢の中で夢を見ているのではないかと思った。ただフレイヤの言う通り、確かに今日の出来事はすべて現実だった。

『あなたは”選ばれし者(アポストロス)”、光栄なことなのよ。神様に選ばれたの』

「…私が…この世界を救うのですか…?あなたの力を借りて…」

『そうよ、さすがプロリーダちゃん。あなたはその力をさらに目覚めさせ、私たちを…ここにいる人間たちを救ってほしいの。あなたにしかできないことって言われたかもしれないけど、実際のところあと2人はいたはずよ。大げさよねぇ…あなたにしか、って。だから1人じゃないよ。もし1人だとしても私がいるわ、このフレイヤはいつでもプリローダちゃんの味方よ』




 その2年後。彼女はお告げの通り、ルーチェ聖学院に首席で入学。まだヒントたるものは見つかってはいないものの、他にもこの学校にいるであろう”選ばれし者(アポストロス)”を探すことにまずは力を入れている。…そして現在に至るのである。

 さて先程のセルバの話だが何かが動き始めているような気がしてならない。何故その男たちは”選ばれし者(アポストロス)”を探しているのか。何故この学校に”選ばれし者(アポストロス)”がいることを分かっているのか…二日も連続この学校で探しているのならここにいるということが分かっているに違いないとプリローダは確信を持った。

(「…何となくだけどそれを探してる理由は良いものではなさそうね…」)

 そんなことを頭の隅で考えながら午後の授業を受けていた。


 放課後、セルバに連れられ担任の先生のもとに男3人組の話をしに行ったあと「きっとこの時間帯もしかしたらあの人たちいるかもしれない…」とのことで彼女と自習室で勉強することにした。

 自習室は地下にもあるが今日は特に混んでもいないし、うるさそうな人もいなかったので3階にある自習室で予習と復習をしてから帰ることにした。完全下校は部活等含めて20時30分までとなっている。ただ先週から進級テスト期間ということでほとんどの部活はここ最近18時すぎで活動を終えている。さすがに20:30まであの男3人組はいないだろうという予測の下で2人は20時30分まで勉強をすることにした。

「これであの男3人いたらどうしよう…突然下校中にその人たち出てきたらどうしよう…」

「大丈夫でしょ、そこまで粘りそうな奴らじゃなさそうだし」

「そうかなぁ…」

「なんだかセルバの話を聞いた限り短気そうに思えるわ」

 セルバの話を聞いた限り、は嘘に近い。プリローダは人の過去を見ることが出来る。先程のセルバの話の時、彼女はセルバの”過去”を見ていた。もちろんセルバにはそんな事は言えない。誰も信じない、そんな二次元的なことを。

「会ったら会ったで、私が何とかするわ。今日は一緒に帰りましょ」

「本当…?ごめんねローダちゃん…私がオドオドしてるから…」

「そんなことないわ。謝らないで」

「うん…ありがとう」

「とりあえず進級試験も近いし、明日には先生方も見回りするだろうし、その男のことは忘れて勉強しましょ。きっとセルバなら進級大丈夫だと思うけど…最後のテストだしお互い頑張ろう?」

「そうだね、頑張ろう…!」

 プリローダに勇気づけられたのかセルバは笑顔で頷き、勉強に集中し始めた。確かにセルバは変質者や痴漢に遭ったら声が出ずに動けなくなるタイプだろう。よく今回思い切って逃げれたなとプリローダは一人ほっとしていた。何だか彼氏のようだ。

 2人は黙々と予習と復習をし、それぞれ苦手な教科のテスト勉強を始めた。気づけば夕日が輝き…その夕日が沈み…綺麗な月と星が見える時間になった。それを知らせるかのように連絡事項が放送で流れる際のメロディが流れ、教頭先生の声が続いて流れた。

『20時25分になりました。完全下校時間まで残り5分です。速やかに帰る支度をし、下校してください。繰り返します…』

 それを聞いたセルバは自習室にある時計を見た。「本当だ、もう20時25分だ!」彼女は驚き勉強道具を慌ててカバンにしまい始めた。プリローダも勉強道具をカバンにしまい、帰る支度を始めた。

「あっという間だったよ…分からないところ考えてたらもうこんな時間になっちゃった…」

「集中したっていい証拠じゃない。ささ、帰りましょ」

 自習室の電気を消し、ドアを閉める。鍵は警備の人がかけてくれるので心配はない。少し急ぎ目に階段を降りて玄関に向かう。上履きをしまい外靴を取り出し履き替える。外に出ると夜のひんやりとした空気が一気に体にぶつかった。

「うぅ…やっぱり寒いね…もうちょっと厚めのコートにしようかな」

「マフラーや手袋がないとなんだか物足りないね」

「あ、そういえば…あの人たち…いたりしないかな…」

 セルバは急に周りをきょろきょろし始めた。そんなセルバの肩を叩いて「大丈夫、気にしすぎだよ」と一声かけてあげた。もうそろそろで校門を出る。するとそこに一瞬人影が見えた。…もしや、あれが例の人なのか?その時だった。

「…あ、セルバとプリローダじゃないか」

 校門の柱の陰から人が覗いた。突然名前を呼ばれてセルバはビクッとしたがすぐに声の正体はわかった。そう、担任の先生だ。

「なんだ…先生だったんですね…てっきりあの男の人かと…」

「一応16時30分すぎに交代交代で校門前に教員を1人立たせるようにしてね、見張っていたんだよ」

「そうだったんですね」

「でもその男3人組は今日は見かけなかったなぁ…。明日から暫く朝と下校時間には必ず校門前に教員を立たせるようにするから大丈夫だよ」

「ありがとうございます」

「気をつけて帰れよ、2人とも!」

「はい。さようなら先生」

 先生と別れ、校門を無事に出た2人。「なんだ、先生だったんだ…変に驚いて馬鹿みたい」と笑い混じりでセルバは言った。プリローダもとりあえずは一安心した。学校出てからは最後のスクールバスに乗るから安心だし、大丈夫そうだろう。ふとプリローダは視線を移した。いつも乗ってる自分のバスは校門から出て分かれ道になっているところを曲がって少し歩いた先に停まり、発車する。もうこの時間帯はバスは殆どない。あって1時間後ぐらいだろう。

 すると突然プリローダは足を止めた。…いま何かが見えた。ぼんやりと…違う景色が見えた。彼女はその景色がはっきりするのを待った。待つのに3秒もかからなかった。そして急に全身が押しつぶされるような感覚が奔った。なんだこれは。そしてその感覚のあと、”過去”が目に飛び込んできた。…男がいる、そしてこの学校の生徒が2人…男子と女子。うずくまる生徒…それを見て笑う男が…3人いる。そして男は大きな剣を振りかざし刺そうとした…しかし男子生徒のほうがなにやら光を放っている。そして瞬く間に男3人を蹴散らした…。いつもと違う過去の見え方だ。まるで光景が掃除機かなにかに吸い込まれていくような見え方。全て見終わるのに5秒はかからなかったであろう。

「……あれ?ローダちゃん…どうしたの?…まさか……?!」

 セルバの声で感覚が元に戻った。セルバは怯えた表情をしてプリローダと同じ方を見た。

「…あー、ごめん。男3人を見たわけじゃないんだ…ちょっとね」

「え、なになに…すごい怖いよ…」

「ウサギ」

「…え?」

「ウサギ見つけたの。…ウサギ、だと思う。白くてピョンピョンしてどこかへ行ったわ」

「なんだ…驚かせないでよぉ…」

 上手く嘘をついてセルバを落ち着かせ、プリローダはスクールバスの停留所に向かった。

 …あれは一体なんだったのか。今日の出来事か?昨日の出来事か?男子生徒の顔ははっきりとは見えなかったが、男3人は恐らくセルバに声をかけた怪しい3人組だろう。雰囲気が何となく一致した。そしてもう1つ分かること。男子生徒はこの学校の生徒でエンブレムの色からして1年生だ。そしてあんな大きな剣を持った男3人を蹴散らすだなんてそうそう簡単にできることではない。それに彼の周りには光が……。…光?どうやって放った?そもそもあの男3人はどっからあんな大きな剣を持ってきた?確実に怪しまれるだろう。そしてまだ怪しいのはそんな争いをしてたら誰かが悲鳴を上げてもおかしくはないはずだ。しかし…その過去ではそんなものは聞こえなかった。「あそこに変な人がいる!」「誰か警察呼んで!」という声が一切入っていなかった。…おかしい。

(「…あの生徒もそうだし、男3人もそうだけど……もしかして彼ら…”選ばれし者(アポストロス)”…?」)

 彼女は一旦ここで考えるをやめた。…というのも一ついい案が頭に浮かんだのだ。あの生徒は恐らく自分と同じバスに乗っているはずだ。そうでなければあの方向にはいかない。…だとしたならいずれバスの車内で居合わせることになろうだろう。その時に”透視能力クラルテ”を使って過去を覗いてみればいい。しかも男子と分かっているならなおさら人は絞れる。

(「どうやら確かに、この学校には自分の他にも”選ばれし者(アポストロス)”がいるようね…」)

 そう頭で結論付けた時、スクールバスは発車した。



~To Be Continued…~

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