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蒼穹(そら)のヨゲン  作者: 伽音ふるあ
プロローグ
2/11

序章2

 自分でも何が起こったのか全く分からなかった。途端に頭の中に響いた紳士的な声、どこか威厳をもつ声、そして何か可能性を感じさせる声…。全身がとても熱く、腹の底から力が湧き上がってくる感じがした。今なら何でもできる気がする。この手を天に向けたら雷が落ちてきたり、思いきり叫んだらレーザーがでたり、はたまた突風が起こったりだとか、ゲームの世界でよくあるようなことが自分にもできるんじゃないかと思える。…怖がっていた自分が何故だか馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 ソラは目を開けた。もうあの剣で切り殺されているはずなのに死んでいない。一体なぜか…彼は顔を少し上げた、そして気づいた。何かバリアのようなもので守られているということに。



 言っただろう、少年。

 これがお前の力であり、我の力だ。

 立ち上がるのだ。今のお前にできないことはない。

 安心しろ。我がついている。



「くそっ…この餓鬼が”選ばれし者(アポストロス)”だったのか…!まだ力が覚醒していない内に殺そうと思ったんだが…タイミングが悪ぃな!」

「まぁ大したほどでもないだろうよ。まだ覚醒したばかりとなると使い方も分かっていないはずさ。使いこなせないままお陀仏だろうよ」

 男たちに少し焦りが見える。何度もこの光のバリアを剣で壊そうとしていたのだが、これでは無理だろうということを悟ったのか1人の男が叫んだ。「…大人しく死ね!炎の諸刃(プラーミア)!」

 …ゲームで言えば、必殺技その1といったところだろう。こんな風に考える余裕がソラにはあった。何だかこのバリアが壊れる気がしない。ソラは腕の中で泣きじゃくって震えるルアルの頭を撫で、背中を優しくポンポンと叩き、腕を解いた。

 声が聞こえる。自分の他にもう1人誰かがいるような気がする、それもすごい力を秘めているように感じる。ソラはこぶしを握り締め立ち上がった。何をしようとしているのか分からないルアルは驚いた表情で彼を見つめ「ソラ…君…?どうしたの…?」と震える小さな声で言った。それを聞き取ったソラは「…目、閉じておけ」と返した。何が何だか状況が掴めていないルアルは彼の言う通り目を固く閉じ、耳も塞いだ。

「おぉ、少年。やっぱり君は魔法使いさんのようだったな。でも残念、お前はここでその力を使えずに死ぬさ。そんな使い方も知らないのに…立ち向かおうだなんてまず不可能だ」

 男たちはゲラゲラと笑いだす。余裕綽々といったところだ。

 そんな声は聞こえていないのか、ソラは男たちのほうへゆっくり歩きだした。光のバリアを通り抜け、何も言わず男たちのほうへ向かう。それを見た男らは無謀だと蔑んだ表情をし、また目で合図した。ニアリと口角をあげた1人の男が剣を振りかざし彼に襲い掛かった。



 …叫べ、少年。



 少年は目を見開き、手を男に伸ばした。…振りかざした大剣は少年の手によって押さえつけられている。剣と手との間に先ほどの光のバリアが薄く広がっているのが分かる。

「お前ら……絶対に、絶対に…許さねぇ!!」

 少年は手を払った。それだけなのに剣を振りかざした男の人が吹っ飛んだ。…さぁ男たちは焦りだした。先程のあの余裕はどこへ行ったのか、吹き飛ばされていない2人の男が一斉に襲い掛かってきた。

 少年はいたって平然だ。そしてこう言うのだ。


「…失せろ!天上の猛火(アウローラ・フランマ)!」


 少年の周りには炎のような赤い光がほとばしる。その光はだんだん眩しくなり、ついには男らを目がけて鋭い光の槍の形になり一直線に飛んでいく。男たちが息をのむ音が聞こえ、更に体に刃物が刺さるような鈍い音が聞こえた。刺さった場所から血が流れおちる。これでもう十分少年の勝利が確定しているのだが、それだけでは終わらない。轟々と空が唸りを上げ始め太陽の光ではない何かが光った。…炎だ。まるで隕石のような炎が空から勢いよく落ちてくる。止めを刺すようにその炎は男3人に降ってきた。

 悲痛な叫び声。少年は何とも思わなかった。慈悲なんかない、怒りしかない。自分はまだしも、かよわい自分の大切な友までをも殺そうとした…その怒り。これくらいやって当然なのだ。




 …よくやった、少年。

 このような者には裁きを与えねばならない。

 これでよかったのだ少年。



 …気がつくと、先ほどの光景が嘘のように消えた。

 さっきの男は?あの禍々しい血の跡は?…何もない。そこにあるのは見慣れた景色…山、森、田んぼ、家、学校、バス停、バスを待つ同じ学校の生徒。そして震えて地面にしゃがみ込むルアルがいた。ソラはルアルのもとに駆け寄って「もう大丈夫だよ」と声をかけた。ルアルはまだ警戒しているようでゆっくりと耳を塞いでいた手をよけ、顔を上げた。辺りをきょろきょろと見渡す。彼女もまた何が起こったのか混乱しているようすで目をぱちぱちさせた。

「…ソラ君……さっきのは…」

「…さぁな。俺もよく分かんねぇや、ははは…」

「あの男の人たちは…?」

「それがさっぱり。俺があいつらをやっつけて…でも気が付いたらいなくなってた」

 ルアルはビックリした表情をした。

「え?!ソラ君、あの変な男の人たちやっつけたの?!」

 …しまった。ルアルは何があったのか分かっていないんだった、とソラは心の中で呟いた。…このことは話すべきなのか?話したらまずいのか?ソラは一旦ここは冗談交じりで切り抜けることを決めた。ルアルは割と話したことをすぐに信じてしまう癖があるのを彼は知っているからだ。

「おう!俺ってさ、ピンチの時はすごいんだぜ?!あんなよく分からない奴が来ようが平気平気!俺のほうが何十倍も強いからな!」

「へぇ~!さすがソラ君だね!ソラ君、運動神経いいもんね!でもどうやって倒したのか気になるな…」

 …次はそう来たか。ここで会話が終わると思っていたのだがさすがに終わらなかった。そりゃそうだ、炎の大剣持った人に何も持っていない人が勝っただなんて…そりゃ経緯は知りたくはなる。ここでも冗談交じりに切り抜けることを決めた。

「どうやって?そりゃ~、俺の運動神経を活かして、あいつらにフェイントかけたりして剣を奪ってやっつけたに決まってるだろ」

「わぁぁぁ…すごいソラ君…!すごいよ!ソラ君いないかったら私…死んでたよ…」

「大丈夫!ルアルは俺が守ってやるよ!それに今日はちょっと運がなかったのかもしれないな。あんなよく分からない奴らに遭遇しちゃうだなんて」

「……ありがとう、ソラ君」

「おう、どういたしまして。…ってなんか照れるな、ははは」

 ふとソラは時計を見た……とても時間が長く感じたように思えたが実際のところ約20分しか経っておらず、バス時間ぴったり。時計から目線を上げると確かにバスがやって来ている。「あ、ようやくバス来たぜルアル!今度は乗らないと!」ソラはまだ少し震えるルアルの手を引いてバス停へと向かった。




『…今日はご苦労だった、少年。初めての割にはなかなかの腕前だったぞ。』

(「また…この声だ…」)

『申し遅れた、我が名はテュール。君の力の根源だ。』

(「力の、根源……?」)

『君はよく知っているはずだ。君はある神にある使命を授かった。そして”自らの持つ力”について何か言われたはずだ。』

(「え…それって……」)

 世界が少し明るくなる。少年から少し遠くのほうに身長の高い、白い布を纏った30代くらいのイケメンが立っている。あれがオーラというものなのか、彼の周りは神々しい光が漂っている。

『君に会うのは初めてだな。ようやく会えた、といっても言いだろう。人は極限の状況に陥ると自らも驚くような力を発揮すると聞くが…本当にそうだったとはな。いや、これが運命の時といっていいのだろう』

「あんたが……今日、俺が聞いた声の人…」

『いかにも』

「…俺、あんたが助けてくれなかったら…死んでたよ…。ありがとう」

『何を言う。君が死ぬことは許されない…そして君があの場面で覚醒したのも、きっと運命だ』

 少年は色々言いたいことがあるのになかなか言い出せない。この雰囲気に圧倒されて頭が回らない。

『我が君に力を与えたのは、分かっているだろう』

「……夢で見た、…”災い”の息の根を止めること…?」

『そうだ。奴らは表に出てこないが着々と”災いの儀式”の準備を始めている事だろう…。残念ながら我は君のいる場所に行くことが出来ない。世界が違うからね』

「え、待って。世界が違うのに、俺に”災い”を止めることなんて…!」



「ソラ君、ソラ君!起きて起きて!次でソラ君降りる場所だよ?」


 その声で一瞬に世界が崩れ落ちた。…今とてもいいことを聞きのがした気がする。どうやらバスの中で眠っていたらしく夢を見ていたようだ。「…あー…ありがと」とソラは目をこすりながら言う。ルアルが代わりに停車ボタンを押してくれたらしく、ボタンが光っている。あの田舎の風景はなく、すっかり都会の風景に変わっていた。

 もう夕方ということもあり、暗くなってきている。空気もひんやりしてきた。ルアルの家はそこまで遠いわけではなく、今日のこともあったのでソラはルアルを家まで送ることにした。

 ……それにしてもあの夢のことが気がかりだ。何かを言いかけた瞬間夢から覚めた。タイミングが悪い。…ただ新たな情報を得た。自分の力の主は”テュール”という人物であること。テュールは謎の夢の内容を知っていること。何故夢の内容を知っているのかは分からない。もしかして夢を見させたのがあの人?いやいやいや、それなら”ある神からの使命”のところを”我からの使命”と言うはずだ。じゃあ夢を見させた人物とあのテュールは知り合い?考えれば考えるだけ謎が増す。

「そうなの!そしてね、帰ったら一緒にお母さんとケーキを作るのよ!叔父様はね、ショートケーキが好きだからそれを作ろうかなぁって……って、聞いてる?さっきからどうしたの?」

「え?あっ、悪ぃ…」

「…わかった、私の話つまらないんでしょ?」

「いや!つまらないわけではないんだ!これは本当だよ?…なんかちょっと突っかかるものがあって…」

「突っかかるもの…?」

「うん。変な夢を見たんだ。なーんだかその内容が…不思議すぎてさ…」

「…それってつまり、私の話がつまらないってことでしょ?」

「いや!だから、それは違うって!」

 ルアルは頬を膨らませ、プイッとそっぽを向いてズンズン歩き始めた。しまった、ルアルが機嫌悪くなると何を言っても受けつけなくなる……。それは中学の時からそうだった。弁解…言い訳してもなにも返事をしないし、謝っても返事をしない。ソラは「やらかした……どうしよう」頭の中でいい方法がないか考える。結論を先に言ってしまえば、無い。でも彼女の話に集中しないで考え事をしたのは悪いと思ったので、聞いてくれなくてもいいので「ごめん……人の話集中して聞いてなくてごめん…本当に」と謝ってみた。

 するとルアルがクスクスと笑い始めた。

「やっぱ、ソラ君って変わらないよね。今わたしの機嫌をどう取ろうか、考えてたでしょ?」

「……ルアル、からかうのはよくないよ~…」

「でも!ちょっと寂しかったよ?話ちゃんと聞いてくれなくて」

「うっ…本当にそれはごめん」

「ちゃんと人の話は聞くこと!もちろん、先生の話もね?」

「げっ…。…わ、わかったよ…」

 その後、ソラはルアルの今日の予定についての話を聞いたり、あと1か月後くらいにせまる進級テストの勉強会をやることを約束したり、雑談をしながら無事にルアルを家まで送り届け自分の家へ向かった。




 ―――少年よ。

 世界は9つあることを知っているか?

 神族が住む世界が2つ、妖精の世界、黒い妖精の世界、巨人の住む世界、氷の世界、炎の世界、死の世界、そして人間の世界だ。そしてこの9つの世界は3つの層によって分けられている。

 我々が住んでいるこの世界は人間界とは全く別次元の世界だ。よって人間は我々の世界に行くことができないし、我々もまた行くことが出来ない。いや…後者に関しては出来ないといったら語弊がある。我々が君の世界に行くことは禁じられているのだ。いかなる理由があろうと。

 この9つの世界全ては何れ終わりを告げる。だが終わりは新たな幕開けを意味する。その幕開けを誰かが壊そうとしているという話は少年…、夢の中で何回も聞かされたことだろう。残念ながら世界が終わるのは変えられない出来事であろう。我もこの予言は信じたくはない。ただ…我々にもどうしようもできないことがあるのだ。我々はその来るべきのために日々鍛錬しているのだ。

 ……そして我々は世界の終わりをこう呼んでいる。

 ”終戦(ラグナロク)”と。


~To Be continued…~

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