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蒼穹(そら)のヨゲン  作者: 伽音ふるあ
プロローグ
1/11

序章1

 こんな話がある。


 ある一人の男は知恵を求め、ある泉へ向かった。その泉の水を飲むと男が望む知恵を手に入れることが出来るという。彼はその水を飲もうとした。

 しかしそこにある巨人が現れた。その泉の守護者といってもいいだろう。その巨人はこう言った。

「泉の水は飲んでもいい、ただし私にあなたの片目をくれたなら。」

 男はどうしてもこの水が飲みたかった。彼は意を決し、巨人の言う通り左目を取り、巨人に渡した。巨人はそれを受け取ると男は泉の水を飲むことを許された。そして彼はその後魔術を会得し、更なる知恵を求め自分を自分自身に捧げる儀式を行い、ついには最高神として世界を見渡した……。

 

 最高神となった男は自分の住んでいる世界にいくつもの宮殿を建てた。また男はとある女性と結婚し、子供も授かった。そんな幸せな日々を送る男だったが、日々の鍛練を忘れたわけではなかった。魔術を鍛え、体を鍛え、知識を蓄え……。彼はその”知識”を得るためにある巫女のもとを訪れた。その巫女は全知全能とも呼べるであろう知識人で且つ予言者だった。男は巫女から色々な話を聞いた。「どうやって自分が知識を得たか」「この世界の始まりはどんなものだったのか」「この世界の終わりはどのようなものになりそうか」…男はその話を聞き、巫女の言う「世界の終わり」に向けて勇者を集め、戦いに備えた。



 ……あなたはこの話を、絶対に信じないでしょう。第一、神様なんてものはいないと思っている事でしょう。しかしそれは間違いなのです。人間は神を直接見る事はできない…けれど、間接的に見ることができるのです。特にあなたの場合、あなた自身が気づいていないだけで直接的に神を見る力、そして神から与えられた力と使命があるのです。精一杯日々を生きる、なんてものではありません。それももちろん大切なのですが、あなたの持つ使命とはこの世界の秩序を混沌に陥れようとしている”災い”の息の根を止めることです。そして力とは、息の根を止めるのに必要な魔術です。奴らは運命を変えようとしているのです。世界の終わりは新たな世界の始まりです。奴らはその”新たな始まり”を潰し、全てを無に還そうとしているのです。


 助けてください。あなたにしかできないことなのです。

 あなたの持つ力に気づき、そしてルーチェ聖学院というところに行くのです。

 その学院にヒントがあります。ヒントを集め、我々を助けてください。

 これはあなたにしかできないことなのです。





「……なぁぁぁんて夢みてこの学校入ったはいいけどさ、何もないじゃないか!魔法も使えない!神様だって見えやしない!もう2年生になるんだよ?いたって平凡!…くっそ、信じた俺が馬鹿だった…」

 一人でそうもがいているのはソラ。ルーチェ聖学院という私立高校に通う1年生。とはいえもうそろそろで2年生になる。ソラはある変な夢を中学2年の時から見るようになり、初めは特に気にしてはいなかったのだが段々とその夢を見る回数が増え、さすがの彼も「これは神のお告げなんじゃないか」と思い、中学3年の夏にルーチェ聖学院を受けることを決意した。

 しかし「何もない」とはいえ、ソラは一ついい情報を得た。それはこの学院に古くから伝わる噂だ。

この学院は約200年という長い長い歴史を持った学校で、神様がいると語り継がれているらしい。その神様を実際に見た人が昔いるらしく、更には神隠しにあった人もいるというのだ。また神様はある特定の人物に魔力を分け与えて弟子にするという噂もある。神様…魔力…、夢で何度も聞かされた「神から与えられた力」…ソラはこれがヒントなのではないかと最近思い始めた。

 彼はそんなことをぼんやりと頭で考えていると、ちらりと時計が目に入った。時刻は11時30分を過ぎたところだろうか。そのままボーっとしていたのだが突然彼は目をカッと見開き、「やばい!」と叫んだ。慌てて予習のために机の上に出していた教科書とノートをカバンにつっこみ、時間割を確認し忘れ物がないかチェック。そして猛スピードで部屋着から制服に着替え、自室を出る。階段をドタバタと駆け下り、誰もいない居間につく。テーブルの上にはあらかじめ用意されていた昼食と親のメモ。『お昼ご飯おいておきます。ママは今日も夜遅くまで仕事なのでしっかりと自分のことはしてね。戸締りは忘れずに!』ソラは目を通し、テーブルの昼食にかぶりつく。今日は午後から学校ということでのんびりしていたのだが、少々のんびりしすぎた。

 …彼は今、母親と2人暮らしである。父親はソラが7歳の時に病に臥し亡くなってしまった。ソラの母親はこのことをきっかけに宗教を厚く信仰するようになった。ソラがあの不思議な夢をみてルーチェ聖学院に行こうか迷っていた時、その夢のことを母親に話すと彼女は「あなたは神に選ばれたのよ、ソラ。それはきっと神様からのお告げだわ。ママはそこに行くのを薦めるわ、でも…行くか行かないか、これはソラ自身が決めることよ」と言った。これが彼がルーチェ聖学院に行こうと決意した最大の決め手となった。

 さて、ソラはいよいよ遅刻しそうだ。午後からの授業の時、彼はいつも11時45分頃には既に家を出ているのだがまだ出ていない。バスが間に合うか心配だ。彼は急いで昼食を食べ終え、食器を流しに置き、カバンを手にして靴を履きドアを開けた。慌てているからといって鍵をかけ忘れることはしない。ちゃんとロックがかかったか確認すると彼はダッシュでバス停へと向かった。



「……はぁぁ…あっぶねー…間に合った…」

 歩くことなく走り続けて5分。バス停にたどり着いたときにちょうどバスがやってきて割とギリギリのタイミングで無事バスに乗ることが出来た。これで遅刻しないで済みそうだ。

 バスから学校の最寄のバス停まで約30分。バス停から学校まで歩いて20分。ルーチェ聖学院は都心から外れた静かな田舎を思わせるような場所にある。まわりは森、畑、山と数軒農家の家があるだけ。本当は都心の駅からスクールバスが出ているのだが、彼はわざわざ駅まで行かなくても偶然学校のほうに向かうバスが家の近くにあったのでそれを利用している。そのためバスの車内は数名同じ学校の制服の子がいるくらいであとはご老人の方などがメインだ。

 だんだん景色がコンクリートの色よりも自然の緑のほうが多くなってきた。その景色の移ろいを眺めていると「次は~、学院前~学院前~お降りの方はお知らせください」というバスのアナウンスが流れた。ソラはハッとすると停車ボタンを押した。気づけば少し向こうに学校が見える。お城のような学校でとても高級感が溢れている。

 ルーチェ聖学院はとても広い。校舎も広ければグラウンドも広い。校内にテニスコートやサッカー練習場、野球の練習場があれば動物小屋も学校専用の畑もある。更にはこの学校、地下にも教室がある。基本はボイラー室や電気制御室などの授業には関係ない部屋がメインなのだが、化学室や自習室、部活に貸し出す教室などがある。地下といっても薄暗い感じではなく、これまたすごく地上の光がちゃんと差し込むようになっているのである。

 ソラと数名の同じ学院の子がバスを降りた。互いに「バスが一緒の人」という認識しか持っていないのでみんながみんな自分のペースの速さで歩く。学年は胸につけているエンブレムの色で分かる。今期は1年生は赤、2年生は緑、3年生は青なのだが、どうやらソラと同じエンブレムの色がいないことから全員上級生で接点のない人ばかりなのだろう。

 ソラはスマートフォンをいじりながら歩く同じバスだった学院の子を抜かしながら足早に学校へ向かった。バス停を降りてからはひたすら田んぼに沿って一本道を歩くのみ。割とすぐに看板がはっきりと見える。そこで枝分かれしており、その枝分かれした道を歩くとすぐ学校となる。


「ルアル!おはよう!」

「あっ、ソラ君だ!おはよう」

 少し遠くに同級生の女の子ルアルを見つけ、ソラは駆け足で彼女のもとに向かい挨拶した。ルアルは身長が他の人より小さいが1年生の中で人気者。なんたって学年で1位2位を争う可愛さなのだ。彼女は陸上部のマネージャーをやっていて、ソラも実は陸上部に所属している。そして何よりこの2人は中学校、更には当時のクラスも一緒だったのだ。そのためクラスのお調子者に「お前らラブラブカップルか~?」なんてからかわれるのがほぼ日常と化している。

「ルアル、いつもならこの時間教室にいるのに…会うなんて珍しいな」

「うーん…今日ちょっと寝坊しちゃって」

「ルアルも寝坊するなんてことあるんだなぁ」

「ほら、今日久々の午後からの授業だったでしょ?だからちょっと気が緩んじゃったのかも」

「てかいっつもルアルは早く来すぎなんだよ。これぐらいが丁度いいんだってば!」

 ルアルはとても真面目だ。そのため成績もよく、テストもいつも満点に近い。授業中寝ることはまずないし、先生に「この問題を解いてくれないか」と当てられたときもしっかりと答えることが出来る。日々の予習復習は怠らない、いわば”出来る”女の子だ。…その一方ソラは成績は中の下くらいで良いとは言えない。そのためよく中学の時もルアルに勉強を教えてもらっていた……もちろん現在も。

「さーて、今日は午後からだし、掃除当番でもないし、授業2つだけ受けたら帰れるぜー!」

「ソラ君…、また昨日みたいに大きな口開けて寝ないでちゃんと授業聞くのよ?」

「わかってますー!今日の俺はめっちゃやる気あるんだー」

「ふーん?…なんかいい事でもあったの?」

「まぁ特にはないんだけど。なんか気分がね?そんな気分なんだよ!」

「ソラ君って本当に変わらないね」

 クスッと笑う表情がなんとも可愛らしい。危うく見惚れるところだった。

 2人は楽しげに教室へと向かった。



***


「起立!気をつけ!さようなら!」

 帰りの会で日直がそう言うとみんなそそくさ帰る準備をする。掃除当番の男子が「うわぁ、今日俺掃除当番じゃーん、まじかよー!」と言ってる声が聞こえたり「また明日ね!」「今日一緒に帰ろうよ!」と言ってる声が聞こえたり。ソラは今日は特に何もないので友達に「じゃあな」と声をかけて教室を出て、帰路についた。そんな彼の後ろをタタタ…と追いかけるのはルアルだ。

「ソラ君!一緒に帰ろうよ!」

「おう、いいぜ…ってあれ?ルアル、いつも自習室に残って勉強してから帰るのに…」

「今日はちょっと早くお家に帰らなきゃいけなくて」

 玄関で靴をはきかえ、校舎を出る。ソラは先ほども言ったように、スクールバスを使わず普通のバスで登下校を行うのだがルアルはスクールバスを利用する。そのため一緒に帰る時はソラがルアルの登下校に合わせて一緒に帰ることが殆どなのだが……。

「あ、ねぇソラ君、今日ソラ君の使ってるバスで帰るよ!」

「え…別にいいよ。俺がルアルに合わせて帰るから」

「いや…なんかいっつもそうだからさ?それにあんまりソラ君の使ってるバス乗ったことないしたまにはいいかなぁ、なんて」

「んじゃあせめて運賃払うよ」

「それじゃあ意味ないよ」

「……んー……」

「ほら、いこうよ!」

 ソラは少し納得のいかない表情をしていたが、まぁこれ以上言っても彼女は聞かないだろうと思いルアルの言う通りにした。

 校門を出て、あの枝分かれの道に進む。ほとんどがスクールバス利用のためこちらのほうに来る人はそこまで多くはない。ソラとルアルは今日の授業の話や最近あったことなどを話しながら歩いていると、ふと目の前に男の3人組が現れた。

「ちょっと…時間いいかい?」

 …怪しい。そう思いつつもソラは「なんですか?」と答えた。

「すまない、私たちこういうものでして…ちょっと取材をしたいのですが」

 1人の男性が名刺を取り出しソラに渡す。…どうやら雑誌の記者のようだ。それに続いて他の2人の男も名刺を渡した。

「ここではなんですし、あちらのほうでお話うかがってもいいですか?」

「何についての取材でしょうか…?」

「いやいや、大したものではないのですが高校生にアンケートのようなものをとっていまして」

「アンケート…?」

「はい、生活習慣に関するアンケートでして。昨日もこちらの学校でアンケート調査を行わせていただいたのですが…あまり数が集まらなくて」

 2人は怪しいとは思ったが、とりあえずアンケートに答えることにした。ただし条件として人目につく場所で行うことを提案した。その3人の男はそれを承諾し、まだ下校中の生徒が通る校門前でアンケートに答えることにした。

 ……本当に普通のアンケートだった。別に怪しむほどでもなかった。

 1人の男が「ご協力ありがとうございます!とても助かりました」というと、まだ数が少し足りていないのか他の学生にも声を書けようと狙いをつけだした。ソラとルアルは今度こそバス停へと向かった。

「時間大丈夫?」

「うん、気にするほどでもないよ」

「……あー…でもさっきのアンケート答えちゃったからバス1つ行っちゃったなぁ…。やっぱスクールバスにしないか?」

「えー……」

「…だって、早く家に帰るんだろ?」

「18時までに帰ればいいもの。まだ…15時でしょ?そんなにバス時間ないの?」

「いや、さすがに…まだあるけど」

 ルアルはそれを聞くと「じゃあ別にいいじゃない」と言ってバス停のほうへ歩き出した。やれやれといった表情でソラは彼女のあとを追う。……ん?何やら変な胸騒ぎがする。何だ?ソラは考えるような顔をしだす。先にバス停についたルアルはバス時間を確認し、それをソラに伝えようとした。

「ソラ君、あと20分も待たなきゃ……って、どうしたの?すごい顔してるよ?」

「あー……いや。なんか胸騒ぎがするっていうか…嫌な予感がするっていうか…」

「え?…なにそれソラ君」

「まぁ…多分気のせいだと思うけどっ……――――?!!」

 

 急に頭の上から鉛が押し付けられるような感覚。ルアルは「きゃあ!!」と叫んだ。ソラは頭を押さえながら辺りを見回した。…おかしい。おかしい!どうして他の人は普通に歩いている?!普通にバスを待っている?!それに今のルアルの叫び声で誰一人振り向かなかった!……まさかそんなわけは……


「いやぁ、本当の取材はこれからだよ」

 聞き覚えのある声。

 ……そう、先ほどアンケートを頼んできた男の声。

「おい!!誰か!!誰か!!!」

「叫んでも無駄。ここは”別次元界(ブラント)”…この頭の痛みも君たち2人にしか感じていない、そして何より周りの人は君たちのことも、我々のことも見えていない」

「…は…?!何言ってるんだ…?!」

「さっき、叫んでも誰も振り向かなかったのがいい証拠だろう」

 なんで今日に限ってこんな訳のわからないことが起こるのか…!ソラはルアルを抱きしめた。…とても震えている…なんとかして守ってやりたい…。

 3人の男はどこからともなく剣を出した。炎をまとった大剣だ。今、殴りかかりに行ってもあの大剣に突き刺されてお終いだ。それにあまりの衝撃で足が動いてくれない。…ふと、ソラは思った。あれが魔術なのか…そしてこの空間も魔術によって創り上げたのかと……。

(「魔術、か……。ハハハ、そういや俺…夢で魔法使えるとかなんとか言われたんだっけ…結局使えてないけど…使えないまま殺されるのかな…。せめて…ルアルだけは助けてやりたいけど…この訳わかんない場所から出られないんだろうし…」)

「いやぁ、最近力を放っていなかったからなぁ。ちょっとウズウズしてたところなんだ。その可愛い女の子から始めようか…。いや、もうこの際だしまとめてやるか…!」

 ルアルはソラの腕の中で泣き叫んだ。…どうすることもできない…睨んだって意味がない。死ぬならルアルと一緒に死にたい……。3人の男はソラとルアルを囲んだ。

「ごめんなルアル…守ってやれなくて…」

 ソラは震えた小さな声で言った。ルアルは首を横に振った。…あぁ、死ぬ時って本当に突然やってくるものなんだな……ソラはそう思って目を瞑った。男たちは笑っている。そして1人の男が目で合図すると一斉にその剣を振りかざした。




 

 ………助けたいか?

(「……え……?」)

 …自らを、そして…彼女を…助けたいと思わないか…?

(「…誰…だ……?」)

 …何を諦めている。

 腹の底に力を入れろ。

 神経を集中させてイメージしろ。

 …自分もまた彼らのように、剣を操れると。

(「ちょ……何を言って……」)

 …さぁ少年。グズグズしている暇はない。

 お前になら出来る。我がついている。

(「…一体どういうことだよ……?!」)

 

 さぁ少年。

 その下衆な魔術師を薙ぎ払え。



~To Be continue…~

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