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阪上くんと保田くん(新装版)  作者: 尾仲庵次
出会いと学生生活
6/56

黒歴史

『プレゼントだ。いいものをやろう』

 ボクは封筒に入れた自作のイラストを保田くんに手渡す。

 保田くんは明らかに嫌そうな顔をして『うわ……』と言っている。

『どうだ?』

『ああ、なんというか上手いね』

『そう?』

『ボクには描けないよ』


 読書好きが高じて、読んでいる小説の結末が納得できなくなってボクは小説を書くことにした。

 これに関しては後述する予定なので今は話さないことにする。


 自分が書いた小説に対してのイメージをアウトプットするためにもボクはイラストを描き始めた。

 中学の頃は美術部に1年だけ所属していたこともあり、デッサンの基礎はできていたのでそれなりに描けたのが致命的だった。


 え?

 ちょっと待って??

 それなりに描けたんでしょ?


 こうやって書くとそう思うかもしれない。

 でもあくまで『それなり』なのである。

 ものすごく上手いわけではない。まあ、下手ではない程度である。

 いや……。

 本当に上手い人からすれば見るに()えないイラストである。


 美術部でやっていたデッサンは球体とか円柱とかそういうものである。

 だからボクは人物画を描くことには長けていなかった。

 本格的に描くならちゃんとした人物画を基礎からやり直すべきだったのだけど、基本的にはボクがやりたいのは小説であり、イラストではなかったので、そういう面倒なことはしなかった。


 そういう面倒なこと……と言ったが、そういうことをおろそかにしてしまうと、基本的な積み上げがなく、たいしたものは書けない。まして自分のイメージをアウトプットするために始めたことなのだから、基礎からきちんとやるべきだったのではないかと思うが……当時のボクはそんなことはすっとばして自分が描きたいように描きたいものを描いていた。


 特に参考にしたのは当時NHKで放送していた『ヤダモン』というアニメだった。

 その色使いといい、曲線といい、すべてが魅力的で、『アート』として好きだったのである。

 あんな絵が描きたいという憧れで、夕方には必ず『ヤダモン』を見ていたし、画集まで購入したぐらいだ。


 当時のボクはそんな自分の思いを人に話せるほど器用ではなかった。

 どこが好きかと言われても『なんとなく……』としか答えられなかったから、主人公(ヒロイン)が魔法少女であることを知っている周りからは幼女趣味の危ないやつだと思われていたことだろう。

 誤解のないように言っておくがボクにはそんな趣味は一切ない。

 

 ちなみに今はどうなの??

 相変わらず『ヤダモン』のようなイラストが描きたいの?


 そう問われると……今はとくにそんなに好きでもない。


 あの頃に比べれば、今は自分の絵がそこそこ描けるようになってきており、あの頃とはアートの感覚も変わってきており、あの憧れは消えてしまったからだ。


 毎日、ボクは練習で『ヤダモン』の絵を描き続けた。

 曲線と色使いに憧れて、描き続けたのである。

 そして……描いたものは誰かに見てもらいたい。


 だから冒頭のシーンのように保田くんに渡し続けたのである。


『掃除機で空を飛んでいるのがいいね』

 今、思い起こすと保田くんも嫌なら嫌だとはっきり言えばいいのに、人のいい彼はそんなことは言わずそれなりの感想を言ってくれる。

 しかし、それが彼の首を絞めることとなる。

『そうか。じゃあ次はこれを中心に描いてくるから楽しみにしといてくれ』

『え……』

『いやだって、掃除機で空を飛んでいるイラストがいいんだろ?』

『いや……そんなこと言われたって……』

『え? ゴメン。違った?』

『違わないが……』

『次をお楽しみに!』

『いや、その……』

『なんだ? はっきりしない奴だな』

『勇気を出して言うが……』

『おお。何でも言ってくれ。君とボクとの仲ではないか』

『あのな……』

『ん?』

『……いらないんだよ』

『いらない? 何が?』

『いや、これ』

 保田くんは手にしている数枚のイラストをボクに差し出して言った。

『そうか……やはりまだそれほどの腕ではないか……』

『ああ。せめて色がついていたらな』

『色? なるほど! 分かった!! 次回は色をつけるよ!!』

『え?!』

『いやあ……いいアドバイスをありがとう!』

『あの……これは……』

 保田くんは手にしたイラストをボクに手渡し『これは返すよ』と言いたかったのだろう。

 あの頃のボクにそんなことが通じるわけもない。

『ああ、それは受け取っておいてくれ』


 まあ……黒歴史の一つであることは否めない。

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