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阪上くんと保田くん(新装版)  作者: 尾仲庵次
修学旅行

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わんこ蕎麦

『盛岡といえばわんこソバですが……』


 あんなに楽しかった修学旅行も、お土産屋を出てしまえば、昼食を食べ盛岡駅に向かうのみとなり、ボクは楽しい夢のような時間が過ぎ去っていくことに寂しさを感じながら、気持ちが少し疲れ始めてしまい話すのもしんどくなってただ無言でバスの窓から外を眺めていた。


 そんな時に優里さんの鈴のような声と軽快な語り口は耳に心地よかった。


 ボクらは修学旅行の最後にわんこソバを食べてから新幹線に乗って帰途に就く予定になっていた。


 わんこソバと言ったらたくさん食べたものが勝ちみたいなイメージがあるが、これはこれでなかなか美味しかった記憶がある。ボクらが言ったソバ屋は大きなお店で、食べるところも実に広かった。


 まあ……高校生の修学旅行を受け入れるような店なのだから当然と言えるが……。


 優里さんがバスの中で言っていた話が面白かった。

『わんこソバのチャンピオンが食べていて苦しくなったときに腰をこうやって横にぐっとひねると楽になったという話をしていらっしゃいました。実際はどうなんでしょうかね?』

『いや……そんなんで楽になるかな――』

 誰かが言ったような気がする。

『もしかしたらこうやってやることによって、胃にスペースができるのかも……』

 優里さんは腰を横にぐいとひねりながらボクらに実演して見せてくれた。

 その姿は滑稽だったが、美人がそういうことをすると、また別の意味で実に魅力があるのである。

 まあ……美人は何をしても絵になるのだ。


 さて、わんこソバである。

 ソバそのものは今までにももっと美味しいソバを食べたことがあるので、それに比べたらまあまあだったが、普通に美味しいと思える代物ではあった。

 ソバというのはソバ独特の香りを楽しむことと、つゆとのハーモニーを楽しむこととの二つに集約されるような気がする。なるべくワサビは使わない方がいい。ソバの香りが消えてしまうからであるが、それでもボクはワサビと一緒に食べるのも好きだったりする。

 夏の暑い時期に冷たいソバをずるずると食べるのはたまらなく美味しい。


 当時食べたわんこソバも冷たいソバだった記憶がある。

 お椀に一口ぐらいのソバがつゆとセットで入っていて、一口で食べられるようになっていた。


『お……けっこう美味しい。』

 一口食べてそういう風に思ったのを覚えている。


 確か10杯食べたらマッチ棒一本テーブルに置くことになっていた。

 ボクはかねてからわんこソバを何杯食べられるかというのを試してみたいと思っていたのだが、一つの目標として100杯は食べたいと思っていた。


 最初の20杯ぐらいは順調に食べることができた。

 薬味としておいてあったまぐろの刺身とか……いろんなものが実に美味しく、口が飽きないようにそれらも食べていたからボクの胃はあっという間に膨れて行った。


 苦しくなってきたのは70杯を超えたあたりからだった。

 目の前で食べていた多田くんは早々に70杯で食べ終わっていた。

 以前、当人にその時の話をしたが……。

『いや……そんなに食べた覚えはないなあ。』

 と言っていたのでボクの勘違いなのかもしれない。


 しかし高校生というのは成長期のピークなのでものすごい食欲がある。


 余談になるが……

 ある学校の野球部員たちが焼肉食べ放題の店に行ったが、あまりに食べるので一発で出入り禁止になったという話があるほどである。


 多田くんの記憶が正しいか……

 ボクの記憶が正しいか……

 それは今となっては分からないが、いずれにしても当時は現役の高校生だったボクらは、今とは違い相当な食欲でわんこソバを食したに違いない。


 さて、わんこソバを食べ終わる時には、蓋を閉めればよい……というが、何かのネタで閉めたはずの蓋を開けるとお椀の中にはしっかりソバが入っていていつまで経っても終われないと言う話を聞いたことがある。もちろん、そんな話は俗説で、同級生のみんなはどんどん、お椀の蓋を閉めて食事を終えていた。


 ボクは苦しくなりながらも、なんとか100杯の目標に向かってソバを食べ続けた。

 苦しくても『美味しい』と感じたのだからまだまだ余裕があったのだろうと思う。

 ただ苦しかったという記憶もしっかりと残っている。

 というのも80杯を超えたあたりでボクは腰をひねらせて胃にスペースを作ろうとしたからだ。

 つまりボクは優里さんの言うことを頭から信じていたわけである。

 てゆうか……別に信じてもいいし、信じていなかったとしても試しにやってみてもいいとは思う。


 ただ……。

 結論から言うと苦しいものは苦しいし、腰をひねろうと何をしようと胃の大きさというのは決まっているのだから、必要以上に多くは食べられないものなのである。


 バスの中で久保山先生は『食べすぎには気をつけろ』と言っていた。

『以前に120杯食べて、新幹線で0に戻った奴がいるから気をつけろよ』

 と言われた記憶がある。


 優里さんは苦笑していた。

 確かに……食べる前に話す話ではない。


 なんだかんだ苦しみながらもボクは100杯を食べて終了にした。

 美味しかったんだか、苦しかったんだか……よく分からない思い出だ。


 ちなみに野球部に所属していた友人が120杯食べたという話を聞いた。

 別に一番になろうと思って100杯食べたわけではないのだけど、それにしても上には上がいるものである。

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