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第八話

ガラガラと馬車の振動を感じながら、アーシェラは窓の外の景色に視線を向けていた。

陽は沈みかけており、間もなく夜の帳が降りてくる時間だ。


どうしてこうなってしまったのかしら・・・・。


アーシェラの向かいには、クロードが寛いだ様子で座っていた。


ぼんやりと、こうなった原因をアーシェラは思い返していた。






城に登城したあの日。アーシェラが何も言えないまま話はとんとんと進んでしまい、王子の想い人探しを手伝うことになってしまった。

自分では役に立てることは無いのではないかという少女に、クロードは言った。「女性の立場から見える事実もあるだろう」、と。


王子がシンデレラと呼ぶ女性を探しているということは噂では流れているが、実際探していると言う事実を知っているのは一握り。

というより、王族とクロード、ガーランド伯爵、彼らに近しい者のみであった。


どうして大々的に探さないのかと問いかけると、その疑問にはガーランド伯爵が答えた。


「灰色の髪の娘だけでは情報が少なすぎるのですよ。それに、何人か髪を染めた令嬢を連れてくる人間もいたので、そういった性質の悪いことに対応するためにもあまり公表しない方が良い」


尤も、噂が流れてしまっているのはどうしようもないですがね。と、ガーランド伯爵は肩を竦めて言った。

アーシェラはまさかと思ったが、王族と縁続きになれるチャンスがあるのなら、そういったことをやる人間もいるのだと伯爵は言った。

灰色の髪の娘を王子が探していると噂を聞けば、あわよくばと思う人間もいるだろう。例え下心があったとしても、髪を染めることは別に罪ではない。例え違うと解っていても、それでもし運よく王子の目に叶えば、と思っているのだろう。

一目王子に目通りを、と願う者も少なくないという。

そういった理由から、グレンもあまり動けないらしい。

そこで実際動いているのがガーランド伯爵だった。





城から戻るアーシェラに付き添ったのはクロードだった。

屋敷に戻ると叔母が戻っており、初めはいくら王子の命令とはいえ些か強引に大事な姪を連れて行ったことを怒っていたハーウェイ夫人だったが、クロードの誠実な対応に態度を軟化した。

どうやら夫人はクロードを気に入ったらしく、彼が屋敷を辞した後、「良さそうな方じゃない」と言っていた。



そして、それから数日経った現在に至る。





ガタン、と石の上に乗り上げたらしく、馬車が大きく揺れた。


「何か考え事を?」


城でのことを思い返していたアーシェラは、はっとして視線を上げた。

クロードが微笑んでこちらを見ていた。


「いえ、あの・・・・何でもありません」


元々他人、それも異性と話すことが苦手なアーシェラである。

なのに、今は知り合ったばかりの男性と狭い空間に二人きり。


窓の外に視線を向けたクロードを、アーシェラはこっそりと見た。


クロード・ノイン。

お城の舞踏会で出会い、お城で再会した男性。


あの後彼は自身のことを話した。


彼はこの国の者ではなく、第一王子妃の出身国である隣国の伯爵家の人間だということ。

グレンとの関係は、第二王子が隣国に留学していた際知り合い、同じ王立学園で友人として過ごしたこと。

その関係で、現在遊学の為に滞在しているということ。


ハーウェイ夫人には、この国で知り合った女性はアーシェラだけで、この国に居る間多くの人と話をしてみたいのでパートナーとして付き添ってほしいと願い出た。

実際は他国に人間であるクロード一人よりも、この国の人間であるアーシェラが一緒の方が情報を集めやすいだろうということだったが。

ちなみにガーランド伯爵は別行動であるが、彼も自身の領地での仕事もあるので頻繁には領地を空けられない。それゆえにらしくも無く焦っていたのだろう、とクロードは言った。


そんな事情を知らされていないハーウェイ夫人だが、少しでも多くの人間と会う機会が増えると言うこともあり、アーシェラに話を受けるように勧めた。

どちらにしろアーシェラは令嬢探しに協力することになっていたので、本心は兎も角頷いた。




本日はミシェル侯爵家の晩餐会である。


ハーウェイ夫人の友人であり、彼女の姪が来ているという話を聞いて一度会ってみたいと招待状が送られてきたのだ。

夫人はクロードのことを伝え、二人が出席できるよう手配した。

珍しい話を聞くのが好きなミシェル侯爵は、喜んで了承した。他国の話を是非色々と聞かせてほしいと返事が来ていた。




「アーシェラ。ミシェル侯爵のことを聞いても?」


「あ、はい」


はっとして、アーシェラはミシェル侯爵のことを思い返した。


幼い頃一度だけ両親と王都に来ていた時にミシェル侯爵とは会ったことがあり、話好きの、陽気なご夫婦だったと記憶している。


「私も子供の時に一度だけ会っただけですが、気さくな良い方だったと思います。多分、晩餐会も私達以外に何組か招待されていると思います。もうあまり社交の場には出られていないようですが、珍しい話題に興味のある方ですから」


「そうか。なら、色々話が聞けそうだな。・・・緊張しているのか?」


話を聞けるかもしれないが、話すことが苦手なアーシェラである。何か粗相をしてしまったらどうしようと考えてしまう。


「・・・少しだけ、ですが。クロード様にご迷惑おかけしてしまったらすみません」


目を伏せて俯くアーシェラに、クロードは笑いかけた。


「そんなに気負うことはないよ。そもそも巻き込んでしまったのはこちらだ。何かあれば遠慮なく頼ってほしい」


「はい。ありがとうございま、す!?」


伸びてきた大きな手にびくりと固まる。

クロードの手が一筋落ちていたアーシェラの髪の毛をそっと持ち上げたのだ。


「今日は薄紫の花なんだな。私はあまり詳しくないんだが、何という花なんだ?」


「これですか?キキョウと言います」


結い上げているアーシェラの髪には、薄紫のキキョウの花が飾られていた。

アーシェラ自身が宝石などの装飾品よりも花の方を好み、身支度をしてくれるメイドがその度にドレスに似合う花を準備してくれるのだ。一番好きな花は白百合だが、百合は香りが強いので、こういった晩餐会などではあまり身に着けない様にしている。


「メイドのアリスが花を選んでくれるんです。彼女の実家が花屋を営んでいて、毎日叔母の屋敷に新しい花を届けてくれているんです」


彼女の実家の花屋はあまり大きくは無いが、色とりどりの花をたくさん取り揃えているのはもちろん、フラワーアレンジメントの腕が優れていると好評な店で、王都で繁盛していると言う。アリス自身も、今は花嫁修業の一環でメイドをしているが、ゆくゆくは実家の手伝いをする予定だと言う。


「先日の百合もそこから?」


「はい」

アリスは年も近いこともありアーシェラは叔母の屋敷では一番話しやすい存在だった。

お城の舞踏会の時も、「お嬢様を誰よりも素敵に見せてみせます!!」と意気込んでいたのを思い出す。

国中の娘なら誰でも参加できるという特別な物だったのでアリスも参加したらどうかと言うと、「平民の自分には場違いすぎて無理です」と言われてしまった。アリスは普段舞踏会や夜会に参加しない人間にとって、お城の舞踏会など天上での出来事のように思えると言っていた。端くれとはいえ、一応貴族であるアーシェラでさえ気後れしてしまったのだ。そうなのかもしれないとアーシェラは思った。

実際お城の舞踏会に参加していたのはほとんどが貴族。それ以外は裕福な家庭か商家の令嬢だったらしい。

舞踏会に参加していなかったジュリアがアーシェラに言ったことだ。

ジュリアは友人も多く、彼女が通う学校では舞踏会の噂でもちきりだったそうだ。


「良い色だ。良く似合っているよ」


「あ、ありがとうございます・・・」


面前で誉められ、アーシェラは赤くなって俯いた。



丁度その時、馬車がゆっくりと停まりミシェル侯爵家に着いたことを御者が告げた。



「さあ、では行こうか。アーシェラ」


馬車を降りたクロードは、アーシェラに手を差し出した。

一瞬戸惑ったアーシェラだったが、そっと小さな手を載せて馬車をゆっくりと降りた。




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