第一話
昔々、とある国にとても美しい少女がおりました。
本当の名前は他にありましたが、灰色がかった髪の色から、少女はシンデレラ(灰かぶり)と呼ばれておりました。
幼いころ母親を亡くしたシンデレラでしたが、父親の再婚で新しい母と二人の姉が家族になりました。
けれど、シンデレラの美しさを妬んだ新しい家族は、シンデレラを召使のように扱い、食事から着替え、掃除までをシンデレラに世話させました。血の繋がった父親も、再婚して一年で病気で亡くなってしまい、シンデレラを守ってくれる人はいなくなってしまいました。
朝から晩までひたすらこき使われ、やっとゆっくり休めるのは真夜中も過ぎてから朝までの数時間。シンデレラを慕う小さなネズミや鳥たちは、言葉は通じなくても傍に寄り添って、少女を慰めました。
ある時、王家が主催の舞踏会が開催されることになりました。
年頃になった第二王子の結婚相手を見つけるためです。
王は平民、貴族関係なく、国中の若い女性を舞踏会に参加させるように御触れを出しました。城に、しかも憧れの王子様に会えるとあって、娘たちは色めき立ち、ほとんどの者達が舞踏会へと赴きました。
当然シンデレラの屋敷にも招待状は届き、母親と姉たちは美しいドレスを仕立てました。
国中の娘というからには、シンデレラにも当然舞踏会へと行く権利はあります。けれど、継母たちはシンデレラにドレスを与えることもせず、舞踏会へと行かせる気もありませんでした。
舞踏会の当日も、いつも以上に用事を言いつけ、三人は馬車で舞踏会へといそいそと向かいました。
自分もお城の舞踏会へ行きたかったシンデレラは嘆き悲しみました。
悲しむシンデレラのために、動物たちは森に住む魔女のもとへと向かい、シンデレラがお城へ行けるように魔法をかけてくれるよう頼みました。
魔女は屋敷へ向かうと、シンデレラに美しいドレスとガラスの靴、馬車を与えました。数匹の動物たちは魔法をかけられ、お付の者となりました。
「いいかいシンデレラ。この魔法は夜中の十二時になったら解けてしまう。だから、真夜中までには戻ってくるんだよ」
魔女はシンデレラにそう注意し、森へと帰って行きました。
美しいドレスを着た美しいシンデレラは、会場の多くの人間の目を惹きつけました。
そして王子の目に留まりダンスを申し込まれ、夢のような時間を過ごしました。
やがて真夜中になり、シンデレラは慌てて城を後にしました。
その時、ガラスの靴が片方抜けてしまいましたが、急いでいたシンデレラはそのまま屋敷へと戻りました。
いつもと同じ生活に戻ったシンデレラ。
王子と踊ることもできなかった姉たちは、ますますシンデレラに辛く当たるようになりました。
数日後、王子がガラスの靴がぴったりな灰色の髪の女性を探しているという御触れが出されました。
舞踏会に来ていた国中の女性全てに靴を試させましたが、なかなかぴったり靴が合う女性は現れません。
けれどついに、ガラスの靴がぴったりな、灰色の髪の少女が見つかりました。
少女は城へ連れて行かれ、王子に対面しました。
そして、少女は王子の婚約者となり、末永く幸せに暮らしました。
めでたし、めでたし。
と、この物語は終わるはずでした。
最後の最後で少しおかしなことに気づきましたでしょうか。
ガラスの靴がぴったり合った少女は、灰色の髪の少女です。
ですが、シンデレラとは書かれておりません。
美しい、シンデレラと呼ばれた少女と同じ足のサイズに、シンデレラより少し淡い灰色の髪の少女。
ロッテンブルク男爵家の令嬢、アーシェラ・ロッテンブルク。御年十七歳。
偶然ガラスの靴がぴったり合ってしまった少女は、本物のシンデレラと間違われたまま城へと呼ばれてしまいました。
「ええと、すみません・・・・私、人違いだと思うんですが・・・・」
これは、シンデレラと間違われた少女と、少女を取り巻く人々の物語。