仮題 : 夢のない話
「イヤになるぐらい平和だなぁ」
「これでもかってぐらい平和だねぇ」
秋の肌寒い小雨の日。
「そっちなにしてるのー?」
「ん、2ch見てる。けどコレっていうスレはないな。そっちは?」
「まとめサイトも面白いのないねー。テレビはワイドショーばっかりで見る気になれんし」
ストーブをつけた暖かい室内に、それぞれが、かちかちたたた、というPCのキーを叩く音、マウスのクリック音だけが忙しい。
「暇だなあ」
「暇だねえ」
「外いく?」
「小雨やんだらいこうかね。欲しいものとかある?」
「おやつと晩飯」
「食い気だけかい」
「ちゃんと眠気もあるぞ。あー、訂正。やっぱ外でたくないわー。」
「だめだこいつ早くなんとかしないと」
「といってもだ。冷蔵庫の備蓄まだあるし、特に急いで必要なモノなどないわけで。無理して外いく必要など、あるかね?」
「…ないな。」
「ないだろう。」
小雨が屋根を叩く音は続いている。
「休日だというのに、ろくでもないな、この過ごし方…」
「何を言う、時間の浪費は最高のぜえたく、という奴だよ。ついでに無駄遣い防止的な意味で貯蓄にもなるな。」
「だったら外いく?とか聞くなよ」
「暇が悪いんやー暇がー」
「はいはいわろすわろす」
「もしさー」
「うん?」
「ここで重大発表!宝くじ一等三億あたった!ってなったらどう使う?」
「全額貯金。利子で暮らす。」
「うわー、夢ないなあ。」
「そうか? 若年リタイア悠々自適生活って夢だと思うんだが。そっちでいう夢がある用途ってなんよ?」
「え…。そうだな…。家と車買うとか?」
「維持費かかりまくるぞ。主に税金。ガソリンも高いしな。」
「ですよねー。…現実的すぎて夢がないってなんだかな。」
「いっそ夢には金がかかるものなんだって多分。」
「高いなあ夢。ははは」
「笑えねえよ。笑うしかないけどな。」
気づけば日は暮れている。
「結局あり合わせのメシ、か」
「この季節、白菜と豚バラ肉にポン酢は正義です。異議があるなら食うな」
「異議なし。美味しくいただきます。」
「…でも」
「ん?」
「こういう惰眠をむさぼってるみたいな休日も悪くないな。」
「ひたすら、夢はないけどな。」