追憶の夜2
そして刃はアリアが吸血鬼だということと契約の内容を封じられ今に至る。
「つまりおまえは俺のモノになりに来たってことか?」
あの日の追憶を終えた今、刃とアリア繁華街の表道りを歩いていた。
午後11時半。今だギリギリ4月26日、今日と言える時間、だがこの場所の今日はあと30分足らずでは終わらない。
人々は一夜の娯楽を謳う。
ここは一夜の享楽場。
朝日が昇るまでバカ騒ぎは終らない。
そんな歓楽街の比較的陰が薄い表道り、その喧騒の中を何も変わらず歩いていた。
「正解。契約を履行してもらいにね」
アリアは答える。周りの騒音など関係なしにその声は刃の耳にクリアに届く。
まぁ声はクリアでも瞳はあっちこっちに泳いでいるが。
「ふーん。いらね」
「い、いらない!?」
刃に向けられたその目は「信じられない」という声をクリア届けた。
先ほどから注目されていたがアリアが叫んだためその密度はさらに増した。二人はそれ気にも留めずまるで認識していないかのように話を続ける。
「え?本気で言ってる?私だよ?吸血姫、アリア・クレセントよ!?どの組織も欲しがるのよ!?私たいしたことしてないのにそれでも追われてるのよ!?」
「知るか。んなこたどうでもいいから契約内容をさっさと言え」
刃からしたらアリア自身より契約の方が大事なのだ。
交わした契約によっては自分の身が危ない。対価として差し出されているのはアリア自身。それこそアリアが先ほど自分で言ったように、どの組織も喉から手が出るほど欲しがってい
るモノなのだ。ソレに釣合う厄介ごと、どんなものであろうとめんどくさいに決まっている。だからできるものだったらさっさと終わらせ、できないのであれば踏み倒すためにア
リアを殺す必要がある。
そんな刃の思考を読んだようにアリアはショックから立ち直り不適に笑う。少なくとも本人は笑っているつもりだ・・・盛大に引きつっているが。
「ふふ、安心しなさい、契約不履行の罰であなたが死ぬことも失うことはないわ、ただ与えられるだけ・・・私を与えられるだけ」
「・・・・・・え?」
刃の顔が引きつる。幼いころの罠、あの日の「損はしない」というアリアの言葉の真の意味を悟る。
「・・・マジ?」
「マジ?」
逃げ場なし。刃はアリアの満面の笑顔を見てそう諦めた。
「・・・このショタコンめ。もういい。で何すりゃいいんだ俺は?」
「だれがショタコンよ!」
心外よ!とどなるが9年前のことを考えるとそう言われても仕方ない。
「まぁいいわ。刃にやって欲しいことそれはね。世界を救って欲しいのよ」
「ふーん世界を・・・は?」
刃はあまりにあんまりな言葉が聞こえたため目が点になる。
「私の『庭』のことは知ってるよね?」
「・・・いや、知ってるけど。どいうことだ?つか頼む相手間違ってるだろ」
『庭』それはアリアの能力の通称であり、世界の愛娘と言われている所以の能力である。こちら側の人外や人間に知らないやつは居ない。
「いいえ、あなたで合ってるわ。まぁ気が向いたらでいいのよ」
世界の危機を気が向いたらで済ませる。世の救世主達がかわいそうになるセリフを平然と吐くお姫様。
「説明を続けるわよ。だいぶ前から私の『庭』に違和感があるの、それで気になっていろいろ探ってたら世界の不具合が少しづつ侵蝕していってることがわかったのよ。ぶっちゃけほっといたらあと15年くらいで世界が終わるわね」
世界の終焉を自然にあたりまえに告げる。そんなことは実はどうでもいいんだと言うように。事実アリアにとってそれはどうでもいいんだろう。
「・・・つかそれ俺のせいじゃね?俺も不具合だし。終わらせるってまるっきり俺の『眼』じゃん」
否。どうでもいいのはアリアだけではなく刃にとってもどうでもいいものだたらしい。
刃はその『眼』で終わりを生まれたころから視てきている。在るものはすべていつか終わる、世界はいつか終わるその日に向かってゆっくりゆっくり進んでいる。それを視て識ってる刃にとって終わりとは日常のあたりまえのことだ。
さすがに世界の終わりがこんなに早く来るとは予想していなかったみたいだが。
「刃もたしかに不具合だけど。・・・故意に終焉を早めてるモノがいるのよ。だいたいあなたはその気になればいつでもナイフ一本あれば終わらせられるんだから、そんな面倒なことしないでしょ」
呆れたようにアリアはジト目を刃に向けながら言う。
「まぁそうだな・・・。で?そいつはどこにいるんだ?」
そこに在るのならどんなモノでさえ殺してみせる。そう豪語する殺刃鬼である刃だが、どこに在るのか分からなければ殺せない。
「それは、わからない。どこかにいるのは確かだと思うんだけど・・・」
アリアはすまなそうに眉をよせ上目ずかいで言う。誰もがこの目で謝られたらたとえ何をしたとしても赦してしまいそうだ。
だが何事も例外は在る。
「それでどうやって世界救えっていうんだよ!?
・・・あーめんどい、機会があって気が向いたらやっとくよ、たぶんきっとおそらくメイビー」
世界の命運をどうでもよさげに。全力でなげやりに刃は言う。
「うわー、すっごい信じられない・・・」
そんな苦笑混じりの言葉で二人は会話を終わらせ。さて、っとは立ち止まる。そこは陰の少ない表道りではなく陰さえ無い、人一人いない路地裏その奥、ぽっかりと少し開けた周囲をビルに囲まれた空間。
殺しあうのに最適な場所。
「――さて。こっちの話は大方終わったから出てきたらどうだ?」
刃は後方に広がる闇に向かって声をかける。
「――どうやらそのようですね。私はこっちですけど」
刃が声を掛けたのと逆側のの闇から声とともにクリスが現れた。
「「・・・・・」」
二対の白い視線が刃に突き刺さる。
「・・・・・・ゴメンナサイ」
視線に耐え切れず謝る必要もないに謝るヘタレ。この場面だけ見た人にアレが殺刃鬼だと説明しても誰も信じないだろう。
「・・・しつこいわねー。デートの邪魔しないでくれる?いいかげん殺すわよ」
「・・・そうはいきません、魔祖であるあなたにこの地を生きることを赦すことはできません。潔く塵と帰りなさい」
まるで何も無かったかのように掛け合いをを始めるクリスとアリア。
いつ殺し合いが始まってもおかしくないほど空気が張りつめていく。
「ま、やるならどうぞごゆっくり。・・・俺は晩飯食いに行くから」
まるで空気を読まず・・・いや、ある意味読んでその場から逃げ出そうとするが――。
ガスッ!
「どこへ行くんですか?先輩?」
それはアリアが投げた短刀により引き止められる。
刃が振り向くとクリスががにっこりと花が咲いたような笑みをを浮かべているのを見た刃は、ああこれ逃げられないな・・・、と諦めた。
「まったく。何勝手に逃げようとしてんですか?そこの吸血姫よりむしろ殺刃鬼の方が本命なんですよ。・・・私にとっては」
笑顔で死刑宣告。少なくとも刃は本気で殺られると思った。
「つーかそれ私怨だよな!?」
「なんのことですか?」
首を傾げ惚ける。
刃の顔が引きつるのをみてとりあえず満足したクリスは笑顔を消し、
「ま、漫才はこれくらいにして――」
「えー終わりなのー?」
アリアの不満を封殺し、仕切りなおす。
「――主を代行しあなたたちを滅します」
そう言うと同時に抜刀し殺気が膨れ上がる。
「・・・はぁめどいなぁ」
ぼやくと同時に刃はズボンのポケットから匕首を取り出し眼を凝らす。すると刃の視界が変わる一瞬だけ暗い『渦』のようなモノが視えるが、「いけね戻しすぎた」そう呟くと同時に、それはまるでピントをずらしたかの様に暈けていき、変わりにいつも薄くしか見えないようにしている死の『線』が濃く視える様になり、それを束ねるように在る死の『点』が視える様になる。
そしてアリアは嘲笑とともに宣言する。
「神如きががどうしたというのかしら?しょせん世界の内包物、なら私が負ける道理は無い。さぁ――愉しみましょう?」
世界に愛されし愛娘アリア・クレセント、彼女は世界が定めし正しき例外。彼女を殺すということは世界を殺すということとほぼ同義である、神であるならこそ世界を殺せる道理は無い。
そう宣言すると同時にアリアとクリス駆ける。二人の距離は一瞬で無くなりアリアは爪をクリスは剣を振り下ろす。
血飛沫が高らかに上がる。
二人の背中に居る死人と呼称されし人外から。
”
同時刻。
刃達よりすこし離れたとこにあるビルの上、そこに白衣を着た妙齢の美女が居た。
彼女はアリアとクリスが殺しあうのを見下ろしていた。
その顔は気味が悪いものを見た人のそれである。
「あの三人、異常ンじゃねーんですか?周りに第三者の敵が居るのに無視して殺し会っテますよ・・・。いや、男は死人を殺してますけど、でも金髪の子に時おり狙われてますね・・・しかし」
彼女の表情が変わる、面白いモノを見つけて喜んでいる歪んだ笑顔、マッドサイエンティストの狂笑。
「アレを追ってきたらまさか15位が居るとは思わなかったでスよ・・・しかも他の二人も面白そうジャねーですか。研究サンプルがたくさン居るこの街はホント天国です」
鈴巳 睡蓮それが彼女の名前である。
睡蓮は楽しくて仕方ないと笑みを顔に浮かべながら自らの改造成果を観測している。
今アリア達の殺し合いに介入しようとして巻き込まれ、屍になり散かっている大量の死人をけしかけたのは彼女だ。目的は捕獲した死人の改造実験の成果の観測、そして吸血姫、世界に優遇されし愛娘、アリア・クレセントの捕獲――十中八九失敗すると推測しているが――そして最後に研究対象の品定めである。
内包研究室それが睡蓮の所属する組織の名前だ。目的は名前のとうり、この世界に内包されている全てを研究すること。彼女らにとってアリアは喉から手が出るほどの絶好の研究対象である。
「しかし改造固体があそこまで手も足も出ねェなンて・・・まぁ予想どうりですけど」
「そうね。あの程度の人外じゃあ、この街の陰を捕まえるどころか殺すこともできないわよ?」
睡蓮の独り言に答えるかのように背後から声が放たれ――
「っ!?」
睡蓮がその声に反応し振り返るとそこには声の主は居らず変わりにナイフが一本目の前に迫っていた。睡蓮はとっさに転がるようにしてそれを避ける。
「あら?よく避けたわね?くすくす」
睡蓮を襲ったと思われる声が楽しそうに哂う。
睡蓮は体勢を立て直しながら思考する。
(どこにいやがるんですかね・・・。隠密系の異能か魔術でも使ってるんでしょうが・・・どちらにせよ誰にせよ、ここは逃げの一手ですね)
この場での交戦は不利と判断し逃げようとするが――。
「逃げちゃダメよ」
声が聞こえると同時に目と鼻の先にナイフが現れる。薄皮一枚斬られるがそれをなんとか回避するが、
「あなたには聞きたいことがあるの」
避けた先にもナイフ、それもかろうじで避けるが、その先のにもナイフ、三度目は避けられず右腕を盾にし致命傷だけは避ける。
「くううっ!」
右腕の痛みに苦悶を表すが、敵は待ってはくれない。直後、四方八方がナイフにより埋め尽くされる。ナイフは全て同時に現れ同じタイミングで睡蓮に襲い掛かる。
「――!?アイギス!!」
刹那、白衣の下から機械を取り出し叫ぶ、するとまるで見えない壁に当たるかのようにナイフは全て弾かれる。それは災厄から使い手を護る最強の楯を再現した物。ナイフごときが何万本あったところでこの楯を超えることはできはしない。
ナイフを防ぎきりアイギスの全方位展開を解き自分の死角などの護れる範囲にとどめる――、
「なっ!?」
がそのときにはすで睡蓮はにうつ伏せに倒れていた。
「私の奇術は楽しんでいただけたかしら?」
襲撃者は楽しそうに笑う。くすくすと。
「・・・奇術師・・・?」
「あら?正解よ」
自身の正体を見破られたというのに楽しそうに哂う。
くすくすと 。
殺名第6位奇術・宵闇 咲夜は愉しそうに哂う。
”
地獄絵図。
この路地裏の光景を表現するならそれがおそらく正しいだろう。血肉が飛び散りいたる所にこびり付き、さらに人の原型をとどめている死体の方が少なく腕や足が彼岸花のように赤く咲いている。
この地獄の中心に居るのは、殺しあっている二人の女。周りの有象無象《死人》を殺戮し、殺しあっている様は彼らにとってはただの暴虐でしかない。
「邪魔よ!」
白爪がが振るわれる。
それは死人を粉砕し赤い軌跡描きながらクリスに向かっていく。
クリスは自らの足元に転がっている人形の肉を蹴り上げ命を刈り取る凶爪から身を護る
ために楯とする。直後、かろうじで人の上半身の形を保っていた肉塊は水風船が割れるように赤い液体を撒き散らしながら派手に爆散する。
「死んでください」
クリスはお返しとばかりに血を目くらましにして標的に剣を振る。
「って俺かよ!?」
二人から少し離れたところで暴虐をやり過ごし、周りの死人を殺していた刃はクリスの細剣を避けながらツッコム。
「避けてないでおとなしく殺されてください」
刃を追うように高速の突きをくりだす。
もともと細剣は斬ることより突くことに特化した剣が多い、クリスの剣も斬るより突きに優れた剣である。
針の穴を通すような精密さで常人なら目にも映らぬ高速の突きの連撃、
「あぶっ!?ちょっ――!?」
それを多少間抜けな声を上げながらも紙一重で捌いていく。
「刃に何してんのよ!あんたの相手はわたしでしょ!」
とアリアがクリスと刃の間に割り込み剣をその爪で力ずくで弾く。弾かれた先には死人が3人、それノ頭をを足場にし壁に跳び三角跳びのの要領でアリアを頭上から強襲する。
「いいえ、私の相手はあなた達二人です」
脳天に落ちる細剣をアリアは後ろに飛んで避ける。
「俺が狙われる意味が分からん!」
数人の死人の『線』を斬り解体しながら刃が叫ぶ。
「なに言ってんですか?そんなの殺したいからに決まってるでしょう?まぁ理由を付けるとすれば先輩がそこの吸血姫と主従関係にある、間が悪い、殺刃鬼、連絡しなかった、貴方が嫌い、あと間が悪い」
坦々と喋りながらクリスは後ろから迫ってきた先ほど足場にした死人の脳を突き刺し、迫り来る凶爪を避けると同時に牽制のためにアリアに短刀を投擲する。短刀には祝福儀礼が施されており人外には絶大の効果を発揮する。
「昼間のことまだ根に持ってんの!?つか大半が私怨じゃねーか!?」
刃は死人を楯にしてアリアを狙ってると思わせ、どさくさにまぎれて刃に投げられたクリスの短刀を防ぎきると、用無しとばかりに胸にある死の『点』を衝き殺す。
「ええそうですよ?ぶっちゃけ魔祖とかどうでもいいです」
刃のツッコミにしれっと返すクリス。代行者とはとても思えないセリフを吐きながら、死人の合間を縫う様にしてアリアから逃れつつ刃を背後から襲う――がまるで背中に目がついてるように刃は避けると同時に近くに居た死人をクリスに向かって蹴り飛ばす。
「ていうか巻き込まれたの刃じゃなくて実は私?」
アリアがふと疑問に思ったことをもらしながら刃がクリスに向かって死人を飛ばしてるのを見て、その手があったか、とばかりに周りの死人をクリスに向かって2、3人まとめて投げ飛ばす。それは砲弾の如く他の死人も巻き込みながらクリスに向かって突き進む、が死人が巻き込まれたお陰で肉の砲弾は減速する、そのおかげでギリギリ避けることにクリスは成功する。目標を通り過ぎた肉砲は、グチャ、という音を立てクリス後方の壁に赤い華を咲かす。
「何言ってんですか?あなたが一番間が悪いんですよ・・・何もゴールデンウィーク前にこんな有象無象を大量生産するアバズレが事件起こすからでしょうに」
避けることに成功したクリスはすぐに体勢を立てなおし、愚痴を吐きながらも細剣を足元に突き刺し術式を紡いでいく。
「・・・おかげで私は・・・私はぁぁあああ!!」
クリスがそう叫ぶと同時に術式は完成し閃光が迸る。光を切り裂き表われたクリス手には細剣ではなく刃の身の丈ほども有る方刃の大剣が握られていた。
「アバズレって・・・!?じ、刃?違うからね?私そんなんじゃないからね!?こいつらだって私がやったんじゃないし、だいたい私が主なら私まで襲われてるのはおかしいでしょ!?」
クリス剣を横薙ぎに振るい死人を両断しながら刃に襲い掛かる――がその剣は刃に届かず途中でアリアの爪によって弾かれる。
「「そーいえば・・・」」
アリアの悲痛な叫びに刃とクリスの二人は納得する。
これだけ漫才じみた会話を交わしながら、死人を殺戮し、互いを殺そうと暴虐の限り尽くしている、その様は何かの冗談のようにしか見えない。
「まぁそんなのはどうでもいいことです。不浄なあなた達はまとめて塵と帰りなさい」
クリスは剣に魔力を流し込み剣の術式を開放する。
それは決して刃これぼれせず、大理石をも切り裂いたと云われる絶対の切れ味を持つフランスに在ったされる神が授けし聖剣、その目覚めである。
そしてさらに暴虐の嵐は激しさを増していく――。
”
「奇術師・・・この辺に居やがると言う噂はきいてたンですけどねぇ・・・まさかこの街に居やがるなんて予想してませんでしたね」
睡蓮はうれしそうに肩を震わせながら呟き続ける。
「ほんと・・・予想外ですよ、時間停止なンてレアスキル持ちニ会えるんんて!!」
その言葉を聴いた瞬間、咲夜の哂いが止まり、睡蓮を見下ろす目は今までと違い鋭く冷たいものへと変化する。
「――へぇ・・・おどろいたわ、まさかそこまで気づかれるとは思って無かったわね。さすが研究室のマッドサイエンティストってとこかしら」
睡蓮はさらに狂喜する、咲夜が自分の異能は時間操作だと認めた、それはつまり自分の推測が正しいことを意味する。
「いやいや、こちらの方がおどろいちまっタですよ?まさか、忌名ノ生き残りに出逢えるなんて思ってねーですからね・・・。時乃宮さん?」
刹那咲夜の表情が凍りつく。睡蓮は気づかず尚も興奮し、続ける。
「忌名。十三年前に殆どガ壊滅し絶滅した忌むべき一族。その十二位時乃宮の生き残りがいやがるとは!くくくくはははは!!!ああホントなんて街ですか!ここは!?・・・時乃宮に生き残りが居るってことは他の滅びたはずの九名にも生き残りが居るかもしレねーですね。・・・あそこに居る彼がそうでデスカ?」
やっと硬直から回復した咲夜、この時彼女のこの事件における優先順位が変わった。
いままでは、死人を作っている事件の犯人を友人に被害が出る前に殺し解決することが
一番高かった。それが睡蓮を殺し口封じすることに変わった。
「さぁどうかしらね・・・?どちらにせよあなたの『時間』はここまでよ」
――ガラクタ時計・停止
咲夜は口の中でそう呟く。刹那、睡蓮の時が止まる。興奮に歪んだ狂笑を浮かべたままピタリ、と止まる。息もせず瞬きもせず心臓すら動いていない、まるで石にでもなったかのように氷りつく。今この瞬間この世界で睡蓮の生態時間だけが完全に停止した。
「さようなら」
ナイフをその首筋に突き立てようとしたその瞬間――
「いやー困りますよ。一応彼女は僕の相棒なんですから」
男の声とともに先端が蛇の顎の形をした鎖が咲夜に喰らいつかんと迫る――がすでに咲夜はそこには無く、鎖は睡蓮に絡みつきその体を乱入者の元へ引き上げる。
そこには黒のコートに黒い長ズボンさらに黒い帽子を目深に被った微笑を浮かべる怪しい男が居た。
まるでどこぞの怪盗みたいな格好である。
「助けに来るのがおせーンですよ・・・求。下手しなくても死ンでましたよ」
「もうしわけありません。いろんな物を持っていった睡蓮さんなら自力で逃げることくらいはできるだろうと思っていましたので」
助けられたくせに偉そうに糾弾する睡蓮、その態度に腹をも立てずに鑑 求は柔和に微笑、静かに嫌味を返す。
「さて、それではかわいいお嬢さん?僕達はお暇させてもらいますね?」
求は目の前に現れた数十本のナイフを全て鎖で弾きながら言う。
「逃げられると思っているのかしら?」
刹那、求達の目の前に現れる両手にナイフを持った咲夜。その瞬間彼女は見た、軟らかくそして不敵に微笑む求の顔を。
「ええ、思ってますよ?」
言いながら求は帽子で自らの顔を覆う。次の瞬間咲夜のナイフが振るわれるより先に閃光が爆発した。
「きゃあっ!」
思わず普段上げないような声を上げながらとっさに後ろに跳びずさり時を止める。
咲夜の目が見えるようになるとまた時は動き始める。
すでに咲夜の前に標的は消えていた。
「・・・私としたことが・・・。あー協定破っちゃったじゃない。・・・向こうも終わったみたいだし一度合流しようかしら・・・?いや、やめておきましょう、今日中に見つけて始末すればそれで終わりよ」
その呟きと同時に咲夜の姿は消え、あとにはいつもどうりの風景だけが広がっていた。
”
いつのまにか死人の姿は消えていた、いや全て無様に骸をさらしながら果てていた。
殺戮現場には刃、アリア、クリスしか生きていない。
クリスのもつ聖剣の威力は凄まじく残っていた死人はみるみる数が減っていき、ついにはすべて死に絶えた――。
がクリスは相手が悪かった、いくら聖剣といえども使い手が未熟ならば威力は半減する、そして使いこなせていない剣ではたとえ聖剣といえどもアリアには届かない。
「いい加減死になさい!!」
「ぐぅ!」
アリアの爪をかろうじで剣で防ぐも耐え切れず吹っ飛び壁に激突するクリス。
その姿は正に満身創痍と表すのが相応しい。それほどまでにぼろぼろであり、方やアリアの方はところどころ傷は負っているものの軽傷でありまだ余力があるのがわかる。誰が見
ても勝敗は決したと思うだろう。現に今、吹き飛ばされたクリスは立ち上がれず方膝を付いている。
「・・・勝負ありね?」
「・・・・・・」
アリア問いかけるもクリスは答えず、アリアを睨みつける。いやクリスは答えていた油断すれば殺す、まだ終わってない、と目が語っていた。
「そう・・・でも死ねば終わりよ」
アリアは油断せずクリスの剣が届かない位置から爪に魔力を乗せ放つことにより止めを刺そうとする。
クリスは目を逸らさない。絶対的な死の脅威を前にしてもその目は衰えることなく、それどころかこの状況を打破しようとさらに力強く睨みつける。
そしてその凶爪が振り下ろされる――。
「はいそこまで~」
ことはなかった。
いや、できなかった。振り下ろすべき腕が切り落とされてはできるはずがない。
「――いったあああい!!」
何すんのよ!?と自分の腕を切り落した刃に詰め寄る。
「あー?腕切った」
それがどうした?と首を傾げる刃
「そういうことを言ってるんじゃない!!」
(ぎゃーぎゃーうるさいなぁ・・・どうせすぐ再生するだろ)
と腕を切っておきながらかなり酷いことを刃は思っていた。
殺されなかっただけマシだろうに――と。
「なんで、助けたんですか?」
クリスが不機嫌そうに刃に訊く。
「いや、助けられといてその態度は無いだろ。まぁもう諦めたけど・・・。簡単なことだ、おまえが死んだらこのしちめんどくさい事件、誰が解決すんだよ」
何をあたりまえのことを、と後頭部掻きながら呆れたように言う。
「・・・・・・やっぱりあなたのことは嫌いです。気持ち悪い」
心底嫌気がさしたとクリスは吐き捨てる。
「おいおい、ひでーな」
おどけた様にいう刃に侮蔑の視線を向けながらクリスは吐き捨てる、だから嫌いなんです――と。
「あなたは自分で自覚してるのにそういうふうに直さず普通にしていられるのがところが嫌いです。本当に――」
気味が悪い。
そう吐き捨てた。
「・・・・・・そうかい」
――俺はお前のそいうズバズバ言って来るとこ結構好きだけどな。
刃はそう口の中で呟いてからアリアの方を向く。
「ま、それはそれとして。おまえ死人作ってばら撒いてる犯人心当たりあるんだろ?」
「・・・・・・はぁ、あるわよ」
しばらく刃を睨んでいたが、やはり諦めたように溜め息をついてから答える。
「魔祖番外位・不死者アグニス・クローバー、あなたと同じ不具合よ」
それを聞いた刃は、クリスと戦う前に話していた内容を思い出す。
(なんだ、意外と早く機会が来ちまったな・・・まぁ気はまだ向いてないけど・・・)




