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いつか終わるその日まで  作者: 在間 零夢
不死の旅路
4/17

第一夜 黄昏の雪

深夜。

 月の光さえ届かない暗い路地裏に黒い長ズボンに黒のTシャツ、さらに黒いジャケットを着た目つきの悪い一人の男が居た。

 男の周りには人間だったモノの死体2人分が散らばっている。その死体はどれも見るも無残なほどにバラバラに解体され血の池が出来上がっている。

 男は自分が殺したモノに目も向けず歩いていく。

「アアアアア!」

 男が曲がり角を曲がろうとしたとき、奇声を上げて中年の男が角から右手を振り上げ襲い掛かってきた。

 次の瞬間、男の姿が消え中年の男は右腕と首を切り落とされていた、切断面からおびただしい量の血が噴出する。人間であるならば即死の傷である・・・が。

 ソレは人間ではなかった。

 元人間――先ほどの死体と同じモノだ――ソレは首を落とされた程度では殺せない。

 首をなくした体が落下した首を無事だった左腕で掴み元の位置にもどし振り向く。そこには先ほどまで目の前に居た男がこちらを見ていた。

 その目には敵意も悪意もなく、ただ純粋な殺意のみがあった。

「首を落としても殺せない・・・か」

 男――風切かざきり じんは呟く。

「やっぱりバラバラに解体するしかないか?」

「ガァァアアア!!」

 中年の男が切られたのを怒り、先ほどよりも速く襲い掛かる。

 刃は先ほどと同じように相手の視界から外れるため、地を這うようにして翔ける。そしてすれ違いざまに手に持っていた匕首あいくちで今度は五体をバラバラに解体した。

 解体された物は自らの血に浸りぴくりとも動かない。

 そしてやはり刃は殺したモノには目も向けずに歩き出す。

「しかし三日前の夜に散歩したときはこんなモノ居なかったんだけどな」

 独り言を言いながら路地裏を歩いていく。そうすると今度は刃の頭上から女性が落ちてくる。刃はバックステップでそれを避け。

「ッ!」

 女が着地した隙をつき頭に回し蹴りを叩き込む。

 ゴキン!

 と首の骨が折れる小気味のいい音がして吹っ飛び、真横の壁に激突する。

「グ・・・ヒュ・・・」

 首が折れ上手く呼吸が出来ないのか、掠れた音が口から漏れる。

 そしてそのままバラバラに解体され物言わぬ死体になった。

 そこで刃は初めて自分がやった結果に目を向ける。

「しかしこうも多いといいかげんうんざりしてくるなー」

 そう死体に吐き捨て刃はまた歩き出す。

 しばらく歩くと路地裏の出口が見えてきた、刃はそのまま裏路地を出る。

 目の前には公園があり、木々が生い茂っていた。

 それは月の光を浴び、植物としての生を謳歌していた。刃はその木々の中に入っていく、しばらく歩き続けていると空けた場所に出る。

 




 そこには幻想的な風景があった。




 

 中央には一際大きく太い桜の木があり、桜の花が月の光を受け輝き、その輝きが雪のように降り積もっている。もしこの光景を画家が見たのなら必ず絵に描いているだろう。

 そんな幻想的な風景を生み出している木に二つの人影があった。

 一つは木に寄りかかっていて、もう一つは木の枝に座っている。

 刃それを確認して桜の木――刃達はこの木をぬしと呼んでいる――に歩み寄る。

「デートは楽しかったか?」

 主に寄りかかっている影――天野あまの しきが刃に声をかけてくる。

「楽しかったに決まったるでしょ?訊くまでもないわよ。だって学園の綺麗どころの私達をほっといて行ったんだから、さぞかし綺麗な人だったんでしょうね?」

 枝に座っている影――宵闇よいやみ 咲夜さくやがにこやかに棘のある言葉を吐く。

 刃はそれに返すように答える。

「ああ綺麗だった。なにせおまえらよりか戦闘力むねがあったしな」

「ふむ、それは俺も見てみたいな・・・まだいるのか?」

 識は咲夜に睨まれあわてて話題を変える。何時の世も女にとって身体的なことは禁忌タブーなのである。

「ああ、また会いに来るってさ」

 咲夜は次の約束をすることが、いや、まだこの街にその美女がいることに驚きながら訊く。

「・・・次の約束をするほどいいデートだったの?」

「いいっていうか・・・途中、いや始まる前に帰った」

「・・・どういうことだ?」

 識も怪訝そう言う。

「・・・あー、とだな」

 刃は逢魔時おうまがとき、黄昏色に染まる小さな公園での再会を思い出しながら説明する。







「やっと・・・やっと会えた・・・久しぶり、ずっと会いたかった」

 逢魔時、黄昏色に染まる小さな公園。

 雪のように白く長い髪を夕陽で輝かせ、その顔には見るものすべてを魅了する笑顔を浮かべ、目には涙をにじませ全身で感激の様子を表しながら、彼女は刃に言った。

「・・・」

 肩が出ているTシャツにロングスカートを着たシンプルな服装はよく似合っている。

 刃はその姿に少し見惚れながらも考える。

(こいつ・・・誰だっけ?)

 これだけ再会するのを――刃は覚えていないが――感激し喜ばれていると、どちらさんですか?っなんて訊きづらい。刃はそう思い必死に脳内の記憶を検索していく・・・が思い出せない。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 二人して無言で見つめ合う。

 ただし両者では無言の意味合いが違うが。

 刃の目の前居る女性は段々不思議そうな表情に変わっていく。

 それを見て刃はこれじゃあ埒が明かないし、先に進めない。そう思い意を決して彼女に尋ねる。

「・・・あんた、誰?」

「・・・・・・・・・え?」

 彼女は鳩が豆鉄砲食らったような顔をして呆然と聞き返す。

「・・・ちょっと良く聞こえなかったからもう一度言ってもらえる?」

「あんた、誰だ?人違いじゃないのか?」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 時が止まる。

 少なくとも彼女の時は止まった。

 彼女にとっては永遠にも感じられる3分。刃はもう帰っちゃダメかなーっとかかなりひどい――忘れてる時点で十分ひどいが――ことを考えていた。

 




 そして時は動き出す。

 




 具体的には顔が赤くなったり青くなったりした。

「・・・刃、だよね?」

「ああ、俺は刃だけど?」

「・・・ほんとに憶えてないの?」

「・・・だからあんた誰だよ」

 信じられないっと絶望の淵に立たされたような顔をする。

 先ほどとは違った意味で目に涙がたまる。まぁ無理もない、ずっと会いたくて何年も捜しまわってようやく会えたのに相手のほうは自分のことを憶えていないのだ。

 その様子を見た刃もさすがに悪いと思い、バツが悪そうな顔をする。

 それと同時に表情がコロコロ変わるのを見て刃は、どっかで見たような気がする、とも思っていた。

「・・・なぁ」

 軽く鬱っていた彼女は声をかけられ顔を上げる。

「・・・なによぉ・・・」

 悲しみ100%の声を聞かされた刃は少したじろぎながらも訊く

「・・・お、俺といつごろ会ったんだ?」

「・・・だいたい九年位前?」

「それ憶えてなくても仕方ねーだろ!!」

 思わず突っ込んだ。

「しかたなくなんかないわよ!あんなに毎日遊んだのに憶えてないほうが悪い!!ていうか何でわかんないのよ、私の噂とか聞いたことないわけじゃないでしょ!!」

 すごい剣幕で怒鳴られ普通にビビる刃。

 肩で息をしてこちらを睨みつけてくる彼女に向けてなだめるように言う。

「・・・えっと悪い、毎日遊んでたって言ったよな?」

「言った」

「――お前誰だ?『家』のやつじゃないだろ」

 空気がわずかに軋む。刃の問いには少量の殺気が混ざっている先ほどのように漫才で流していい言葉ではないと判断したが故に。

 九年前それはまだ刃がこの街にに来る前、識や咲夜や雫達といっしょに『家』で暮らしていたころだ。そのころの刃は『家族』以外と遊んだりはほとんどしてない・・・そもそも『家族』以外に知り合いがほとんど居ないのだ。

「・・・まだ思い出さないの?っていうか私ってそんなに地味かなー・・・たしかにあのときの姿より成長してるけど・・・でも髪型とかあのときのままだし・・・ぶつぶつ」

 なにやらまた落ち込み始めた彼女の姿を見ながら刃は再度記憶を検索する。

 さっき記憶に何か引っ掛かった気がした、その部分を取っ掛かりに記憶を検索していく。

「・・・ん?待てよ?九年前・・・白・・・あ!?」

 刃は思い出した。

 十年前たしかにこいつに似たやつに会ってる。人気のない公園、舞う雪のような少女、そして・・・。

「思い出した?」

 彼女が聞いてくる。

 刃は確かめるように彼女に答える。

「アリア・クレセント?」

 彼女――アリアは微笑む

「・・・正解。でも思い出すのに時間がかかったから減点!普通なら殺されても文句は言えないんだからね?」

 (しかし・・・噂・・・ね、なるほど)

 刃は後頭部を掻きながら視線を逸らしてバツが悪そうに答える。

「・・・しょうがないだろ?あの時から九年経ってるんだぞ・・・そもそも今お前に言われるまでおまえが吸血姫で同族殺し、『紅い雪原』だって知らなかったしな」

 アリア・クレセントは吸血鬼だ。

 それもただの吸血鬼でなく王族、真祖と呼ばれる吸血鬼だ。人外の魔物なかでも特に畏れられ、人間はもちろん人外達からも忌み嫌われているもの。

 しかしそのかわり世界から愛されているもの。

 それが魔祖第15位アリア・クレセントである。

「それで何の用なんだ?世間話やバカ話しに来たわけじゃないんだろ?」

 アリアの顔が不機嫌になる。

「・・・忘れてたくせに、というか私が世間話しに来るのはいけないの?」

「いけなくないけど・・・本題があるんだろ?」

「私としては世間話も本題なんだけどね・・・まぁいいや」

「で?何の用なんだ?なんもないなら俺から質問があるんだけど?」

 もう一度今度はより真摯に問いかける。

「それは・・・っと、まったくこれからって時に・・・」

 アリアは苛だしげに空を見上げる。

「どうかしたのか?」

 その様子に刃は怪訝そうに問いかける。

 アリアはそれを聞き視線を刃に戻しそして名残惜しげに言った。

「話の続きはまた今度ね、また会いに来るから待っててね?次ぎ合ったときまた忘れてたら殺しちゃうからね!」

 そう言ってアリアはどこかに飛び去っていった。

「あ?ちょっ待て!」

 あとに残された刃は呆然と――する間も無く。アリアと入れ替わるようにして少女が一人降って来た。

 その少女は純白のシスターみたいな服を着ていた。みたいなというのは改造されているからだ。丈が短くミニスカートみたいになっていてシスターというよりどこかの学校の制服のようだ。

 少女の短く切りそろえた金髪がわずかに揺れる。

「ちっ、逃がしましたか・・・」

 少女は苦虫を噛み潰したような声で言う。

 刃はその少女に声をかける。

「なにやってんだ?クリス」

 名前を呼ばれた少女――神崎かんざきクリスは刃のほうを睨む。

「・・・いつかはこんなときが来ると思ってました」

「は?」

「さすが殺刃鬼ですね」

「・・・いや人の話聞けよ」

「あの吸血姫はどこですか?」

「・・・知るか」

 ぞんざいな扱いをされた刃は当然の如くぞんざいに返す。

 それを聞くや否やクリスは手に持っていた十字架に似た形をしている細い剣を殺気とともに刃に向ける。

「先輩、隠すと斬りますよ?まぁ言っても斬りますけど」

 刃はため息をつきながら答える。

「・・・隠してねぇよ、つか俺が聞きたいくらいだ。だから斬るな!」

「・・・そうですか、じゃあ死んでください」

「いやだ!つかなんで死ななきゃいけないんだよっ!」

「今起きている事件の容疑者と先輩が繋がっているからです。それと先輩のことが嫌いだから」

「めっちゃ私怨だな!?つか事件て?」

「・・・一昨日あたりからこの町に動く屍――ゾンビみたいな人外が夜うろついていて人を襲っている事件が起きています。あの人外なかなか死なないから面倒なんですよね・・・」

「その犯人があいつってことか?・・・たしかに吸血鬼なら可能だな」

「そういうことです」

 刃はアリアが飛び去っていった方を見ながら言う。

「でも噂のあ《 ・》の《・》アリア・クレセントの仕業と思えないな・・・同族殺しが同族を作るとは思えない」

 視線を戻す。

 クリスはさらに殺気を込めて刃を睨む。

「そんなの私もわかっています、でも彼女以外に容疑者がいません。あとそもそもそんなのは関係ありません、魔祖を黙って見過ごすわけにはいきませんから」

「あっそ・・・つか関係ないんなら俺を襲う意味ないだろ!?」

「殺刃鬼ってだけで十分なのに魔祖と繋がっているんです、いくら識先輩の親友でも見過ごせませんよね・・・ふふふふふ」

 まるで殺す口実ができてよかったというように喜びの微笑み浮かべる。神の代行者、教会所属の魔術師のセリフとはとても思えない。

 殺人シスターの予告の当事者たる刃からすればたまったもんじゃいない。思わず一歩後ずさりながら自分の身を守るために叫ぶ。

「怖っ!?てか繋がってねぇよ!!だいたいあいつが吸血姫だって知ったのは今さっきだしな・・・その事件も初耳だっ!」

「そんなの知ったこっちゃありません。私が先輩を殺したいだけです」

「結局私怨かよ!?」

「・・・っと冗談はこれくらいにして私はもう行きますよ?」

 剣を下ろすと同時に殺気も霧散する。

「・・・ほんとに冗談なんだろうな?」

「なにか言いましたか?」

 刃小さく愚痴ったのを耳ざとく拾ったクリスが釘を刺す。刃は首を左右に振ることしか出来ない。

「まぁいいです。・・・次あの吸血姫とあったときは連絡しといてください。・・・あと・・・識先輩によろしく言っといてください、具体的にはお昼一緒に食べましょうと」

 最後の部分は顔を赤くし照れながら言い残し。白き吸血姫を追って行った。

 残された刃はまた面倒なことが起こりそうだなぁっと一人愚痴り帰路についた。


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