第一幕 日常
真夜中。もう起きている人間があまりいない街すら眠っている時間に、美しい女性がビルの屋上の淵に月を背に立っていた。
「やっと、みつけた」
腰まで届く美しい白い長髪が風で揺れるたび、月の光を浴びた雪のように輝く、それは童話にでてくるお姫様の様な美女だった。
彼女は街を見下ろしながら、否、ある一点をみつめながら呟く。
――ミツケタ。
その瞳にはとあるアパートの一室が見えている。だがそれはおかしい、人間には見えない距離のはずだ、なのにその彼女の瞳にははっきりと見えていた。
その一室に居るのは高校生くらいの一人の青年。
彼女はただひたすらに一心に見詰めていた。
ふと風が吹く。
その風に押されたように彼女の体が傾き、倒れる。
――落ちる。
――堕ちてゆく。
白い彼女は雪のように闇に溶けていった。
その顔に愛しい人を見つけた恋する乙女のような笑みを浮べながら。
”
「・・・て」
なにか聞こえる・・・うるさい。
「・・きて」
うるさいな、誰だよ――まぁ誰だかわかってるけど――俺の安眠を邪魔しないでくれ・・・せめてあと5、6時間は寝かせてくれ。
「起きて」
・・・あれ?おかしくないか?なんで?『コイツ』が俺の家に――!?
あわてて跳び起きる。眠気なんざ一瞬で消えた、横を見るとそこには――
「なんでおまえがここに居るんだ?不法侵入者の立花 雫サン?」
黒を基調とした上着に黒に赤のチェックのプリーツスカート、星高の制服を着た幼馴染の少女に問う。
「・・・起こしに来た」
無表情で答える不法侵入者。
「・・・わかった質問を変える。おまえ――どうやって俺の家に入った?」
「・・・普通に玄関からだけど?」
腰まで届く綺麗な銀髪を揺らし、そのかわいい顔に表情ひとつ浮かべずに小首を傾げながら言った。それはまるで無表情なのもあって人形のようだ。
「・・・鍵がかかってたはずなんだが?」
雫をかるく睨みながら言う。
俺はちゃんと鍵をかけた。一人暮らしだから内側から鍵を開けられるのは俺しか居ない
し、俺は寝てたから鍵をあけられない。なのに・・・どうやってドアを開けた?昨日ならまだしも今日は開けられないはずだ。
「・・・普通に合鍵で開けたよ?」
「何で持ってる!?」
俺は合鍵を渡していない。
それどころか俺は合鍵を作ってすらいないし、鍵屋のおっちゃんに誰に頼まれても合鍵は作るなって言ってある。
そもそも――。
「そもそもなんで昨日までの鍵じゃなくて今日の鍵をおまえが持ってんだよ、昨日の夜中に鍵換えたばっかりなのに!」
あまりに不法侵入されるから不意打ちで変えたのに!
「作ってもらったから」
裏切ったのか・・・おっちゃん。
さも当然だというふうに言った幼馴染の言葉を聞きながら愕然とする。
「・・・か、鍵屋のおっちゃんには作らないように頼んどいたはずだ・・・いくら積まれても作らないって約束した・・・はずだ」
うめくように言う。
それを聞いて雫は少しあきれたように。
「・・・わたしは『立花』だよ?」
立花グループ――超大手財閥で、もはや立花が関っていない事業はないといわれるほどで、この国の財政を実質握っているのは立花グループだと言われている。――その一人娘の言葉には、確かな重圧がある。
さらに俺を諭すように。
「・・・だから刃が鍵を変えたのも知れるし作れる。たしかに・・・あの人はいくら積んでも作ってくれなかったけど・・・」
その言葉に俺はうれしくなった。
おっちゃんあんたすげぇよ・・・ありがとう!
雫のことだから結構な大金を用意したんだろう・・・おっちゃんは金の魔力に負けずに約束を、信用を守ったのだ。
でもそれならなんでこいつは鍵を持ってるんだ?あの鍵はおっちゃんしか作れないはず。
「じゃあなんでおまえ・・・」
「・・・作らせたから、その鍵屋の人に」
「は?おまえいま・・・」
「積んでだめなら崩せばいい、入れてダメなら抜けばいい・・・よく言うよね”押してダメなら引いてみろ”って・・・ちょうどあそこ立花の系列だったから・・・ね?」
つまり・・・こいつは・・・脅したのか・・・!
なんてことしやがる!こいつは悪魔か!?学校や仲間内じゃ月姫ってあだ名が付いて呼ばれてるのに!(それを付けたのは俺だけど!)うわー信じらんねー。
ドン引きである。いくら金持ちでもやっちゃいけないことってあるだろうに・・・。
おっちゃん・・・ごめん。
俺は心の中で謝る。いやほんと申し訳ない。
「おまえ・・・マジありえねー・・・」
「・・・それほどでもない」
「褒めてねぇ!!」
無表情だがちょっと照れたふうな雫の頭をはたく。
「・・・いたい」
ちょっと涙ぐんだ(だけど無表情!)目でこっちをみる・・・ちょっとかわいい。
「・・・はぁ~」
重く長いため息を吐く
「ああもういいやあきらめた・・・めんどい」
いやもう・・・好きにしてくれ。
雫は立ち上がりながら。
「ん・・・じゃあ早く着替えて来て、朝ごはんできてるから・・・」
「はぁ・・・、いつも悪いな・・・つか何度も言ってるけど別にそこまでやってくれなくてもいいんだぞ?」
つか何もやんなくてもいいんだぞ?
「・・・私も何度も言ってるけど私が好きでやってるからいいの」
とそこではじめて表情が変わる。少しだけ微笑んだ。俺はつい見とれながらうなずいた。
「・・・じゃ、しかたないな・・・!?」
そこまで言って、あわてて枕の横にある携帯を取って時計を見る。7時55分―いつも俺が起こされてる時間だ。
安堵すると同時に不思議に思う。けっこう話してたはずなのに?
「・・・計算どうり、少し早めに起こしに来てよかった」
雫がイタズラが成功したように言う。
まったく・・・本当に完敗だ、こいつにはマジでかなわねぇー。
部屋を出て行くその同い年とは思えない小柄な背中を横目に苦笑しながら見送った。
朝食を食べ終えて学校へ登校。
隣にはあたりまえのように雫が歩いてる。
周りに俺たちと同じ黒を基調とした星見学園――通称星高――の制服を着ている学生はほとんどいない。そもそも学生がほとんどいない。
俺達が登校する時間はかなりギリギリで、俺達よりか遅いと遅刻するという噂たつほど――まぁ合ってるんだけど――いつもギリギリで登校している。そのため俺達を見つけた学生たちは、だいたい急ぎ足で行ってしまう。
「・・・・」
「・・・・」
二人して無言で歩く。
だが気まずくない、むしろ安心する。
そんな風に二人で登校した。
そういや今日はあいつ来なかったな・・・寝坊でもしたか?
そんなことを思っている間に俺達の教室に着く。
キーン、コーン、カーン、コーン。
「うーす」
「おう」
「はよー」
「今日もギリギリね」
「・・・ん」
クラスメイト達と挨拶を交わしなが俺達はそれぞれ自分の席へ向かう、自分の席についたら隣の席にいた男から声をかけられた。
「よう・・・夫婦仲良くご登校ご苦労さん」
などと言ってきた我が幼馴染、天野 識に呆れながら。
「ういー・・・てかおまえも飽きないなぁ、
そういうのじゃないって知ってるだろ?ただの幼馴染だよ」
「ただの・・・ね」
「んだよ?」
「いやなに、そう思ってるのはお前だけだと思っただけだよ。ただの幼馴染がほぼ毎日起こしてくれたり、飯を作りに行くとは思えないしな。それに・・・」
「・・・それに?」
「同じ幼馴染の俺のとこには来てないし?」
「おまえんとこは起こしに行ったり、飯つくりに行く必要ないだろ!!」
「まぁたしかにそうだけどな・・・あれとはちがうんだよ・・・」
あーむかつく。
全国男子高校生のあこがれ、美人メイドを侍らせてるくせに・・・!
こいつの少し短めの髪をむしりとりてー・・・いや掴みにくいからやめておくか。ここは・・・あの切れ目の鋭い目をした――ぶっちゃけ目つき悪いだけだが――こいつのイケメンフェイスをボコボコにしてやろうか・・・女子やこいつの妹とかに殺されるからやめておこう。
ボウリョクッテイケナイヨネ!
「そ・・えば・・・今日・・とはいっしょ・・・ないのか?」
「・・・んあ?なんだって?」
「今日は妹とは一緒じゃないのか?」
「ん?いや今日は俺ん家に来てない・・・、まだ来てないのか?」
そういや俺ん家に来なくても俺が教室に入ってきたらまっ先に話しかけてくるやつが二人ほどいないな。
「来てないな・・・てっきりお前たちと一緒にギリギリで来ると思ったんだが・・・」
「寝坊でもしたんじゃないか?まぁうちの担任来るの遅いから・・・運がよければ大丈夫だろ」
「まぁそうだな、あのバカならともかく真夜なら大丈夫だろ」
と話題には出したが二人して流すことにした。
考えてもしかたがないしどうにかなるだろ。
担任はまだ来ない、チャイムがなったのは俺達が教室に入ったときだから、もうかなりたったんだけどな・・・。
ガラ!!
ドアが勢い良く開く。
担任が来たかと思ってドアのほうを見る。
「ぜぇ・・・はぁ・・・はぁ・・・ケホ・・・」
そこに居たのは肩で息をしてる、快闊そうな目をした茶色っぽい黒髪ショートヘアーの星高の制服を着た美少女だった・・・、過去形である。元は美少女と呼ばれる人種なんだろうけど、全力疾走してきたのか髪は跳ねてて顔も汗だくでいろいろ台無しだ。もちろんこの少女が担任・・・なんてことはない。
俺の義妹、月翔 真夜だ。
・・・あ、志村ーうしろー。
「っはぁ・・・間に合った・・・?」
「間一髪だな」
「!?」
真夜が驚いて飛び跳ねる。
・・・まぁそりゃ後ろからいきなり担任の声が聞こえたら驚くわな。
「ほら早く席に着け、遅刻にするぞ?」
低く響くような声が教室にいきわたる。
「は、はい!」
慌てて席に向かう。
目があった・・・ニヤリ。
とりあえずからかうように笑ってみた。
ギロッ。
睨まれた。
超こえぇぇ。
「出席をとる・・・」
ガラ!!。
また勢い良くドアが開く。
「ギ・リ・ギ・リ!セェイフッ!!」
ツンツン頭のバカが飛び込んできた。
「・・・いやアウトだからな?」
「なにぃぃぃ!!」
「杉崎 真、遅刻っと」
死の宣告。あのバカにはきっと名簿帳がデ○ノートに見えたことだろう。
「ちょっと待ってください!」
「なんだ?言い訳か?よし、面白かったら遅刻は取り消しにしてやる」
「朝起きたら目の前に白い服で白い長髪の美女がいたんすよ!それで」
「はいおまえ遅刻決定!!」
言い訳を最後まで聞かずに判決。
「ちょっ最後まで聞いてくださいよ!」
「おまえの妄想じゃ酒のつまみにもならん」
「本当なんですって!」
「ついにエロい妄想のしすぎで幻覚を見るようになってしまったか・・・」
まるで重病患者を見るような目で言う。
「ひどっ!!」
うなだれるバカ。
「だがっ!!」
がばっと顔を上げて俺達クラスの男子を見る。
キーン、コーン、カーン、コーン
んあ、HR終わった・・・。
「俺達男子高校生はエロい生き物なんだよ!四六時中妄想してんだよ!エロいこと考えなきゃ生きてけないんだよ!エロこそが俺達の、今日の!明日の!未来の!活力なんだよ!!階段下でパンチラ期待してんだよ!夏服とかの透けブラにドキドキしてんだよ!それの何が悪い!!だって俺達は男子高校生なんだぞ!?そんな俺達からエロ取ったらどうやって生きていけばいいんだ!新嶋 健也先生!あんたにだって男子高校生だった時期があるだろう!?俺は間違ってない!俺はおかしくない!そうだよな!?同志風切、天野!!」
識と目を合わせ、二人同時に立つ。
「「俺をまきこむな変態!!」」
同時にチョークを投げる!!(ちなみにこのチョークは変態が喚いてる間に担任から周ってきた)
パキン!
額に当たり後ろに倒れそうになるがどうにか持ち堪えた。
「くくく・・・おまえ達の気持ちは受け取った!!さぁ!同志からもらった・・・いや全国の男子高校生のエロパワーを喰らいやがれ!!そして俺の遅刻を取り消せー!!」
右拳を硬く握り島崎先生に殴りかかる!
((((つかエロパワーなんざ渡してねぇよ!!))))
ついでにクラス男子の心が一つになった。
「ふむ・・・たしかに一理ある・・・が」
真の拳を受け流す。
「おうぁ!」
「お前のそれはいきすぎだ・・・」
体勢が崩れたところを掌底で顎をかち上げる。
「ギッ!」
「それではただの・・・変態だ!」
上半身が伸び無防備な上半身の中心を拳で打ち抜く!!。
「ぐえぁ!」
ちょうど真夜の席の前に吹っ飛ぶ。
ビシ!
飛ばされた真が倒れたまま真夜を指差す。
「・・・悔いはない!ナイスホワイト!!」
バタ、と力尽きる。
ホワイト?なんのことだ?
「・・・あっ!」
顔を真っ赤にして席を立つ真夜。真に歩み寄りその顔を――
「死ね変態!!」
「ぶぎゅぶっ!」
思いっきり踏み抜いた。
「・・・・・・・・・・・」
「「「「おお、真よ死んでしまうとはなさけない・・・」」」」
クラス全員がはもった・・・
ホワイトのことは忘れよう、まだ死にたくない。
キーン、コーン、カーン、コーン。
1限目の予鈴が鳴る。
大丈夫かこの学校・・・大丈夫だ面白いから問題ない。




