いつか終る日3
「・・・・・・あーもう、無理」
しばらく虚空を見つめていた刃は唐突にそう言って倒れた。
「ちょっ、刃!?」
倒れた刃にアリアは慌てて走り寄る。するとそこには紅い小さな水溜りが出来ていた、思わず喉がなってしまうのを抑えながら刃の容態を診る。
「・・・最後の一撃避けたんじゃなかったの?」
「・・・いや、避けきれなかったし・・・当たり所が悪かったなー、血が止まらない」
(いやいや本当に根性魅せてくれたよ。)
聞きながらアリアは直ぐに治癒魔術を行使するが、まだ体力魔力共に回復しきっていないため効きが薄いが、どうにか止血に成功する。
「・・・病院連れてくわよ!?それとも行きつけの医療場所があるならいいなさい!」
刃担ぎ上げながら怒鳴るように訊く。
「・・・あー、行きつけじゃないけど・・・天野邸に連れてってくれれば」
「その必要はないですよ」
廃倉庫の出入り口、そこにクリスは悠然と表われた。
「アンタまたっ」
「こういうのを漁夫の利っていうんですか?」
「いや微妙に違うと思うけど」
そういいながら刃は下ろしてくれとアリアに伝え、アリアもクリスと一戦交えるなら今の体調では――刃を抱えたままでは無理と判断し刃を下ろす。
「性懲りもなくまた来たの?せっかく見逃してもらったのに・・・よほど死にたいのかしら?」
「そうカッカしないでくださいよ・・・まったくカルシウムが足らないんじゃないんですか?」
「なんですって~!」
「漫才はいいから本題話せっての・・・。こいつらといると話が進まねーよ」
あとちなみに余談だがカルシウムとイライラとの関連性は科学的に根拠は特にないらしいぜ?
閑話休題。
「私が治癒しますから『天野』に行く必要がないですよ」
先ほどの漫才染みたやりとりを無かったことにするが如く簡潔に用件を言うクリス。
「そんなこと信じられると思ってるのかしら?」
「んじゃ、頼むわ」
「え?」
「え?」
・・・・・・・・・。
「ちょっと昨日貴方を殺そうとしたやつに簡単に任せようとしてるの!?」
「いや、少なくとも今は襲わないって確信してるし」
「なっ――」
なにを根拠にそう言っているのか、アリアにはまるで分からなかった。これがどこかの漫画やライトノベルの主人公のように刃が、誰にでも優しく相手を直ぐに根拠無く信じるような人間なら理解はできなくとも諦めるように納得するだろうが――刃はそんな人間ではないことはアリアとて知っている。だからこそ納得さえもアリアはできない。
「じゃあそこに寝てください」
「いや、すっげー汚れてるから嫌なんだけど・・・」
「・・・人に仕事押し付けといてさらにそれを横取りしといて勝手にに大怪我してるヴァカが何か言いましたか・・・?」
「・・・・・・・・・いえ、なんでもないです」
そう言いながらずこずことその場に仰向けで刃が寝たところで、アリアが驚きから復帰して「ちょっ、かってに話進めないでよ!?」とツッコム。
「うるさいです。今から治癒しますから静かにしやがってください。」
「~~~っ!・・・わかったわ。その代わり何かおかしなことをしたら、文字どうり八つ裂きににしてあげる」
「ええ御自由に」
そう言ったクリスは刃の傍でしゃがみ治癒の魔術を行使する。
「心配しないでもコイツが・・・少なくとも今は襲うことはねーよ。五回も襲われてるし、一年ほどの付き合いもあるからな。それくらいは知ってる」
「五回・・・?」
刃の言ったその数に驚くと同時にアリアはなぜクリスに任せたのか知った。
それは所謂経験則。
襲撃したあとはしばらくインターバルを置くことを刃は知ってているのだ。
そして一年の付き合い。それはアリアには無いモノ、二日まえに再会したアリアには知ることのできない空白の時間。それを理解はしたが――納得は・・・やはりできなかった・・・諦めはしたけれど。
「今だけでなく、当分は殺すのをやめてあげます」
「・・・・・・どういう風の吹き回しだ?」
「いえ、べつにただの気まぐれですよ・・・。ああ、勘違いしないでくださいね、休戦はしますけど和解したわけじゃありませんから」
後半は字図らだけ見ればツンデレがツンデレってるだけにしか見えないが――しかしクリスの表情を、その目を見ている刃からすれば勘違いなどするはずも無い。
その目には確かな殺意と嫌悪があり、刺すように叩きつけている。
「信じられん。今すぐにでも殺しそーな目してるぜ?」
「治してもらってるのによくそんなこと言えますね・・・。まぁ至極当然でしょうし、私の言は殺刃鬼がもう何も殺さないって言うのと同じくらい嘘くせーでしょうしね。・・・じゃあ誓いましょう」
「誓う?何にだ?神か?」
「あなた相手に主に誓ってもしょうがないです。・・・月に誓いますよ」
「・・・月・・・ね」
「はい、月です。・・・さて終わりましたよ」
そう言ってクリスは立ち上がりもう用は無いとばかりに歩き出し、ソレを見ながら刃も立ち上がり埃を払う。
「ところで――」
ふと思い出したようにクリスが振り向き訊いてくる。
「殺刃鬼はなんで不死者を殺したんですか?なにか意味があるんですか?」
それに対し刃はなにをわかりきった当たり前のことをと言うようにめんどうそうに答えた。
「意味なんてねーよ。たかが殺しに理由はあっても意味なんか無い」
「じゃあ理由は?」
ふいに横合いからアリアが割り込んできた。
少し考えた末刃はこう答えた。
「殺したかったから・・・。まぁ他に強いて言うなら世界平和のためですかね」
――気が向いちゃったからしょうがない。
と誰にも聞こえないように嘯いた。
「あれじゃないわよ?」
「・・・あん?」
アリアの言った意味が分からず思わず間抜けずらで聞き返す刃。
「だから・・・、『契約』の敵は不死者じゃないわよ」
「・・・・・・マジ?」
「マジ」
「・・・そーなのかー」
もう全身で気力がなくなったというような雰囲気をかもし出しながら気だるそうに帰路に着く刃。
こうしてなんのためにこんな事件が起きたのか、関わった人全員がわからないまま己の都合だけで殺し騒ぎ戦い遊んだ事件は、全容を知ろうともされないまま幕を下ろした。
〈閉幕〉
これにて閉幕にございます。




