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いつか終わるその日まで  作者: 在間 零夢
不死の旅路
15/17

いつか終る日2

一息でアグニスとの距離を詰めた刃はそのまま居合い斬りで胴を斬ろうとするが、アグニスは人外としての反射神経と運動能力そして生物としての恐怖を最大限に発揮し後ろに飛び退く。

 この一幕とも言えない刹那、これだけを見てもアグニスを知っているモノなら驚いたただろう。アグニスは死ねないという欠陥から攻撃を避けることはあまりしない。主に自分の肉体と命を使ったカウンター、肉を切らせて骨を断つならぬ、命を獲らせて命を狩るという相打ち気味な戦法をよく使う。

 なのにただの――なんの異能もない――斬撃を必死で死に物狂いで避けたのだ。

 そして一幕でないなら攻撃はまだ続く。

 飛びのいた先、真横から強烈な殺気を叩きつけられてそちらを見ると、やいばが迫っていた。




「――ぉあ・・・あああああああっっ!!!!」




 ゴッパァァッッ!!!!

 雷光の後に遅れて凄まじい轟音が炸裂する。

 光が収まるとそこには、左腕が肘から先が無いアグニスと、砕けた瓦礫に打たれ軽傷を負っている刃が距離を開けて立っていた。

 (今ので決まったと思ったんだがな、とっさに腕を楯にしたか・・・。しかもついでに魔術で反撃・・・、まぁ狙いがデタラメだったから助かったけど)

 刃は自分の状態を確かめながら、先ほど何が起こったのかを確認する。

「――何をした?」

「・・・あん?」

 いきなりの問いかけ。

 事ここに至ってまさか問いが来るとは刃は思っていなかった。そんなものは殺し合いが始まる前に終っているはずだ。

 そもそも教えるはずがない。未知であるということは対処ができないということ、これがどれだけ有利なことかわからない莫迦は陰世では長生きできない。へたな古参の人外より長生きしているアグニスがそんなこともわからないわけが――。

「ああいや、死ねないんだっけ」

「不本意ながら。で、何をした?」

 無論アグニスは莫迦ではない、この問いの意味の無さや滑稽さには気づいている。

 しかしそれでも訊かなければならない。

 左腕が再生しないこの訳を。

「死ねないからといって、『死』が『無い』からといって終りが無いわけじゃないだろ」

「どういう・・・?」

「世界の終わりを観ること、それが俺の不具合なんだよ。『終り』っつうのは絶対の概念だ。これを超える概念はありえない。『死』ですらここまでどうしようもないものじゃない」

 (――まて、それが)

「せいぜい『死』じゃ確立した事象や低位の概念までだろうけど――それですら凄まじいけど――『終わり』はすべてだ。未確立、すなわち『可能性』すら対象になる」

 (――それが本当なら)

「世界が行き着く果てが『終り』つまり――」

 (オレは――)

「俺に殺せないものは無い。だって世界を終らせるころすことができるんだぜ?」

 (殺されることができる――?)




「だが――それではダメだ・・・」




 ぽつりとアグニスは洩らす。

 自分は誰かの手で『死にたい』のであって『終わりたい』のではない。終るのではダメだ、それではみんなと同じところに逝けない。

 故に――、

「そんな結末などオレはいらない。たとえ願望がこの先も叶わないのだとしてもその希望おわりはいらない・・・」

 (――本当に?)

 宣言と同時に過った疑問を振り払うように、あるいは誤魔化すように魔術で雷を生み出し刃へと放つ。

「そんなもん知るか。俺は俺が殺したいから殺すだけ、受け取り拒否はさせねーよ!」

 言いながら刃は迫り来る雷を観ながら雷を遮るように刀を振るう。すると雷が刀に当たった瞬間ソレは消え去る。

「まぁ・・・当たるとは思ってなったが・・・斬られるとは思わなかったよっ!」

 直後、雷を目くらましにして不意をついたアグニスが雷電がまとわり付いた右拳を刃に振るう。

「ちっ!」

 ソレを紙一重で避け即座にカウンターの回し蹴りを放とうとするが、

バリッ――!!

 アグニス右拳から電撃が前方向に向かって放たれる。

「ぐおぉぉぉっ!?」

 即座に逃げるように刃は這うように跳ぶ。

「逃がさんよ・・・!」

 自ら放った電撃に身体を焼かれたのを気にすることも無く雷で追撃する。

「ちっ――!!」

 さらに刃は跳び受け身を取って体勢を立て直しアグニスに向かって走る。

 ソレを雷をもってアグニスは迎撃する。

 もちろんアグニスはこの雷が当たるとは思っていない、斬られて消されると分かっている。これは先ほどと同じ目くらまし、だが今度は自分が接近するためではない――そもそも刃相手に接近戦は危険すぎるため一度の奇襲が限度――進行方向に魔術を設置し刃が視えない位置から攻撃するためである。

 刃の能力は所謂魔眼に識別――厳密には違うが――されるモノである。魔眼とは眼で視て発動するもの、ならば――、

(視えなければその異能で殺すことはできない)

 しかしアグニスの予想に反して刃は雷を殺さなかった、それどころかアグニスは刃の姿を見失っていた。

「いな――!?」



 

斬っ!




アグニスの首から下の黒い髪がばっさり斬られた。

 あと刹那気づくのが遅ければ髪だけでなく、首そのものを髪ごと切り落とされただろう。

 雷による目くらまし、これはアグニスにも掛かっている。ただあらかじめ知っているからアグニスは奇襲ができた。だが一瞬でもアグニスから刃が見えていないのならアグニスと同じように奇襲ができるということ。

 刃は雷をあえて殺さずに逆に利用しアグニスの頭上へと跳躍、刃を見失ったアグニスの首目掛けて宙返りの姿勢で一閃。

「落ちろ・・・!」

 倒れこむようにしてどうにか避けたアグニスは。体勢を整えながらも魔術を行使、アグニス周りに落雷が落ち刃を近づけさせまいと牽制する。

 しかしそれは意味を成さない、この程度殺刃鬼を止めるには至らない。

 刃は着地と同時に降ってきた落雷の魔術そのものを殺し、アグニスに肉薄する。

 「な――ゴハッ!!」

 刃の回し蹴りが眉間に突き刺さり、その瞬間自ら吹き飛ぶアグニス。

 ダメージを緩和させることに成功するも当たった場所が眉間であるため、身体はふらつくそれを無理やり抑えながら刃を見据えるが、当の刃の姿が見えない。

 ゾクッ!

 背筋を走る悪寒それ感じた場所、視覚の外、地面すれすれに滑るように走ってきた刃と眼が合った。

 (――あの刀に貫かれればオレは終れる)

 瞬間、そんな考えが過るも、脇腹を貫かれながらもどうにか避け、即座に反撃の蹴りを放つが刀の柄で防がれる。しかし刃は耐え切れず吹き飛ぶ。

(どうせ死ねないのなら・・・いつか終るその日まで生かされ続けるというのなら、ここで終るのと世界の終りと同じく終るのに違いはない。遅いか早いかの差だけ・・・、ならここで終る方がいいのでは・・・?)

 ――このまま生き続けるよりかいいのでは?

 そう葛藤しながらも見失わないようにアグニスは刃を見据えている。

 また刃もアグニスのことを見据えていた。

 アグニス身体にある暗い『渦』ソレこそが視覚化された『終り』である。その中心部をしっかりと見据えながら、そしてアグニスの後ろにいるアリアを視界に捉える。

 (不死者・・・か・・・、同情はするよ、容赦しないけど。だから、その葛藤に意味はねーよ、結果は変わらない。だっておまえが望んだんだから)

 そして刃は今までよりも早く翔けた。後に肉体が悲鳴を上げるのを理解し覚悟して自身の肉体の制限を外した突貫。

 正に乾坤一擲。

 しかし曲がりなりにも相手は魔祖と呼ばれる、人外たちの頂点に君臨するモノ。

 ここにきてさらに迅やくなったことに虚を衝かれたが、それでも今までのように視界から外れる奇妙な体術ではなく、ただ一直線に走って来るだけ。これならば普通に反応できる。

 雷を飛ばしたところで消されるのは、あまつさえ利用されるのは今までの攻防で知っている・・・、ならばあの刀に当たらないように自分の肉体で貫けばいい。

 アグニスは右拳に雷をまといカウンターを放つ。

 ベストタイミング。

 このままいけば、刃の放つ刀よりも先にアグニスの拳の方が先に当たる――。



 

(――本当にいいのか?)




 ここで殺されなければ次は気が遠くなるほど先、それこそ『永遠』のその先までまたなければ自分は終れない。

 一瞬にも刹那にも満たない躊躇、そしてその意識の空白。その隙間を奈落からの一撃が捉えた。

「がっ――!?」

 アグニスの背後、アリアが投げた刃の匕首が正確に心臓を貫いた。

 心臓を貫かれ動きがわずかに止まり、絶妙だったタイミングがずれる。

 もう間に合わないどう足掻いても自分の拳は先には届かない。

 (――なんだ、結局オレは終わりたかったのか)

 ゆっくりと迫る刀の切っ先。それを見つめ自分を見つめ、彼はここで終ることを嫌がるフリをようやくやめた。

 (――楽しませてもっらたよ)

 そして振り返るは自分の人生ではなく先ほどの殺し合いごっこ。刃が殺せると言った瞬間にもう結果は出ていた。

 自分はその誘惑にはかてない。

 故にごっこ。

 (――それでも・・・いや、だからこそ、ごっこで終らせはせんよ・・・!)

 殺刃鬼に対してごっこでは無礼が過ぎる。殺し殺さなければ――面白くないだろう?

 意志の力で無理やりに、道理すらねじ伏せるように身体に命令を下す。




――動け!。




「おまえも道ずれだ。どうせ要らないモノなのなら、今ここで仲良く消えるのが道理だろう?」

 止まった身体が再び動き出し加速する。刃の刀より速く貫くことはできないが同時討ちには意地でも持っていく――!。




「最期に根性魅せるじゃねーの。でも知るかよ、独りで終れ」




 そして鮮血が迸る。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 両者共に無言・・・しかし結果は言葉がなくとも告げられる。

 刃は脇をわずかに抉られ、アグニスは胸の中心――刃の視る終わりの『渦』の中心を貫かれていた。

 同時討ちまで持ち込めるほどの速度を出したのは見事だが――一度止まってしまったが故に見切られ、アグニスの一撃は紙一重で避けられた。

「・・・・・・」

「・・・・・・十三年前おまえは日本に来てたか?」

 突如沈黙を破ったのは刃。

「・・・いや、来ていないが・・・」

 問いの意図は解らなかったが・・・十三年前、その符号がどうにもひっかかる。

 (そういえば日本で起きた・・・いや、陰世の『名家』が滅された事件はちょうどそのころだったな。仇でも探しているのか?)

 しかしアグニスはなぜ今訊かれたのかが解らない。仇の確認なら普通は事が終る前に確認するものだ。仇討ちとは自身が仇だと認識している相手を討たなければ成立しない。

「・・・そうか」

 枕詞にやっぱりとつきそうな声色からアグニスは最初から期待されてなく、念のためですらない気まぐれであると理解する。




「・・・十二神」

「・・・あん?」




 だからその予想を裏切って冥土の土産を置いていてやることに決めた。




「不具合の敵だよ」

「・・・そいつが犯人だってことか?」

「さぁ?それは知らんよ・・・」

「てめーはっきりしろよ!殺すぞ!!」

「・・・もう殺されてるんだが」

「・・・そうだった」

 実際アグニスもソレの犯人なのかどうかは知らない。ただ――犯行が可能なのと動機があること、そして十二神が何かをするという証言を本人達から聞いただけなのだから。

「まぁ、とりあえず憶えておきたまえ」

「おいこら!意味深なこと言って勝手に消えんな!」

 しかしそんな静止の声など意味はなく、まるで夢から覚めるようにソレは消えた。

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