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いつか終わるその日まで  作者: 在間 零夢
不死の旅路
13/17

宴2

 識の目を見た瞬間、求は殺された。

 肉を裂き骨を絶ち脳髄を掻き回される、そんな不快極まりない感覚に怖気が走る。

 しかしどこか殺されることが心地いいと感じてしまい――。




 そして刹那の中の幻想から立ち戻る。




 引き裂かれた身体は元どうりなんの被害も無く一瞬前と変わらぬ姿。然りそれはあたりまえのこと、何故なら今のはただの幻、強烈な純粋すぎる殺意を目にしたが故の誤認であり、その身体は何の被害もまだ受けてはいない。

「―――な・・・に?」

「何を惚けているんだ?そんなんじゃ殺されちまうぞ?」

 10mほどの距離を一息で詰め右の黒刃を振るう。

求はそれに反応できない。自分が殺される姿を幻視し隙が出来たのもそうだが何より彼は戦闘は専門外。彼の本分は研究すること。そもそも研究室ラボとはそういった者達が集まった集団。中には戦闘を専門とした研究者も居るが求は違う、戦闘がある程度できる研究者でしかない、他のメンバー達よりも少し戦えるというだけで、自分で言っていたように識達を相手取るには自分だけでは役不足。故に

一瞬先の未来は先の幻のように斬殺されることに確定された。

「――いやいや、忠告痛み入ります。しかし忌名のそれも七月の殺人鬼・・・そんなモノが居るとは・・・知りたい、ッ徹底的に研究したいですねぇ」

 しかしその未来は覆される。

 黒刃が振り下ろされるよりも早く求のコートの中から数本の鎖が表われ識に喰らい突こうとする。

「ッ!」

 識は黒刃の起動を無理矢理変え鎖を弾き、さらにできるだけ体を丸め前方に加速、転がるような勢いで求の脇を通り過ぎる。

 自分だけではダメならば他の道具を使えばいい、人間は道具を発明することによりその未来を切り開いてきた、故に未来の一つや二つ変えて見せなくて何が研究者か。

「鎖の名前がオロチだからといって八本とは限りませんよ?」

 識が体勢を立て直した直後無数の鎖が喰らいつかんと迫る――。

「相生・土生金」

 識がそう呟くと風切音と共に双剣が煌き迫る蛇鎖をぶつ切りにしていく。

 よく視ると剣の中腹に刻まれている太極図がそれぞれ黄色と白に変わっていた。

 (・・・太極図、五行を使った性能強化・・・?『双剋』つまりは『相剋』ですか・・・?そんな手品の玩具が陸式一刀?たしかに良い出来ですが・・・あの程度なら私どもでも楽に作れる)

 偽物か?

 だが偽物だったとして事態は変わらない、以前こちらが不利である。

「シッ!」

 再び迫る識。求も鎖で牽制するが、先ほどとは違い不意打ちでないため効果は薄い。下段から迫る白刃、求はそれを右手の鎖でかろうじで弾くと同時にコート下から数十本の鎖が這い出る。

「怖い怖い」

 半分は識にもう半分は屋上の端のフェンスに向かう。

「ッ・・・!」

 識は自身に殺到するすべての鎖を切断したが、求はその間にフェンスに絡ませた鎖で自身を引き上げ後退する。

「貴方達の様な人と接近戦はしたくないですからね、何せ普段は室内に引きこもってますから。運動不足なんですよ・・・!」

「そんな遠慮するな。いい機会だから運動したらどうだ?これからさき運動不足な生活を終わらせてやろう」

 識は黒刃を求に投げつける。

 高速回転しながら真っ直ぐに求の首を目掛けて飛来する。

 しかし当然そんな物は当たらない。左に軽くステップを踏み避ける。すぐ脇を黒刃が通り過ぎ夜に紛れて見えなくなる。

「あーあ・・・勿体無い。識さん、貴方あれがどれだけの名作か知ってるんですか?・・・それとも、やはり偽物ということですか?」

「知らん。借り物だと言っただろう?双剋これの価値など持ち主本人に訊け」

「・・・というか貴方は人様から借りた物を投げ捨てたんですか・・・?」

「所詮借り物だからな、俺の物じゃあない。どうでもいいだろ?」

「うわあ・・・最低ですねー。人としてどうかと思いますよ」

「マッドな研究者が言うな。・・・最低なのはあたりまえだろう?俺は殺人鬼。最高に最低な汚名の持ち主だぞ?」

「ああ、それもそうですね」

「だろう?」

 互いに苦笑を浮かべる。ああ、本当にどうしようもないと自虐する。

「しかし、このままでは勝てそうもないので、ドーピングさせてもらいましょう・・・オリンピックじゃないんですから、卑怯とか言いませんよね?」

 そう言いながら識はアンプルを取り出す。その時にはすでに識は動き出していた。

「別にかまわないが・・・特撮の怪人じゃないんだ、それを打つ前に殺してもかまわないだろう?・・・まさか卑怯とは言うまいな?」

 迎撃の鎖を避けながら一直線に向かい肉薄する、白刃が弧を描きながら求の首へ迫る、

それを右の鎖で受け止める、識は怯まず右の掌底を打ち込むが一瞬早く鎖が間に合い衝撃を受け流しそのまま腕を絡めとる。

「ほら捕まえだぶッ!?」

 鎖で絡まった鎖なんぞ気にも留めず識は跳び回し蹴り、所謂ローリングソバットが求のこめかみ突き刺さる。

 求は吹っ飛びながらも鎖を操作し体制を立て直す。

識は着地と同時に求の後を追うように横に跳ぶ。

直後戻ってきた蛇鎖が一瞬前に居た虚空を通り過ぎる。

「僕を吹き飛ばしたのは間違いでしたね」

 アンプルを首に当て注射する刹那、

 ――それはどうかな?

 聞こえるはずのない声を求は確かに聞いた気がした。

 ドシュ!

「――()?」

 求がまず感じたのは衝撃だった、まるで何かに貫かれたような衝撃。

そしてそれは正しかった。文字どうり求の心臓には黒い何かが心臓を貫いて生えているのが視線を下げれば見えた。

がはっ(・・・)・・・!?があああああが(・・・・・・)!!!」

 (痛い痛いたいたイタイタイ!?!!?!?)

 強烈すぎる痛みはもはや痛いというよりも熱いほどだ。まるで傷口を焼かれるような痛み、そして熱いはずなのに冷たさを感じることがどうしようもなく不快でしょうがない。

 刺さっているものが冷たい、殺意が冷たい。

「なに・・・が?」

 血が喉をせり上がり、うまくしゃべれない、だがそれでも訊いた。

 いつもなら直ぐに推測できた筈だが、痛みで頭が回らない。分かることは唯一つ自分はもう助からない、ここでコロサレルということだけ。

 だからこそ知りたい、世界すべてを知りたい。

 元よりこの身はソレを知るためのモノ。

 死よりもこの先何も知ることが出来ないことの方がただ怖ろしかった。

 故にせめて最期に訊きたい。

「死ぬ・・・て何ですかね・・・?僕は・・・どうやって殺され・・・たんです・・・か?」

「さぁ?なんだろうな?その謎は走馬灯の中でも解いてくれ」

 しかし最期の疑問は明かされること無く――。

「・・・しかし死に際は人の本性が見えるらしいが・・・・、こいつの本性は知識欲ってところか?まさか死ぬことよりも何が起きたかを知りたがるとは、研究室ラボね・・・こんなやつが何人も集まってるんなら、『真理に堕ちた愚者』とか言われてるのも納得だな」

 識は剋刃を回収すると少し考える素振りをみせ、

「双剋は一対で一つの剣だ、だからどちらか片方持っていれば実は遠隔操作が出来る。まぁ双剋これの真価は教えないがね。一つだけ言うならこれはホンモノだよ。――あと」

 ――死ぬって何かって?そんなの知るか。ソレは死んだお前が答えを見るだろうよ。

 物言わぬ骸にそう説明し識は立ち去った。

 死人に口無し、ならば当然耳も無い。


「が・・・ひゅ」

「あぶねェですね」

 迫ってきたクアドロを、時を止めナイフの置きみあげを喉、心臓、腹部、両足に刺さるように設置し、咲夜は睡蓮の死角に回り込み、そこでようやく時は動き出す。死角からの一撃、避けられるはずも無い。

 だが睡蓮は避ける必要が無かった。

 見えない壁に阻まれるかのようにナイフが進まなず弾かれた。

「たしか・・・アイギスだったかしっ――!?」

 咲夜の言葉を遮るようにして――先ほど串刺しになったはずのNO.4クアドロの腕が伸びてきた。

横にステップを踏み慌てて回避する、がしかし腕もまた咲夜を追尾する。

ガラクタ(トラッシュ)時計(クロック)停止(ストップ)

 咲夜の呟きに答えるようにして時が止まる。眼前に迫る腕、あと一秒遅かったら二本の腕が貫いて居たであろう、咲夜が振り返ると挟み撃ちのようにこちらにも腕があった。

「首が伸びるのは轆轤首だけれど・・・腕が伸びるのは何ていうのかしら」

 少し考えながらナイフを取り出し手首から一メートルぐらい離れた腕の部分の横に移動する。

「・・・明日月姫にでも訊こうかしらね」

 そして時は動き出す、同時にナイフが振り下ろされる。

「ぐぅ・・・!」

 腕が血飛沫と共に斬れ落ちクアドロの口から苦悶の声が漏れる。

「――っ!」

 だが次の瞬間、咲夜は弾けるように飛び退さる。

斬りおとされた腕の断から新たに生えてきた腕がありえない軌道を描きながら迫ってくる。

時間停止は間に合わない、そもそも停止は連続では意識して使えない。ならば避けきれるはずも無く――

 ――ガラクタ《トラッシュ》時計クロック減速スロウ

 だがそれは相手と同じ時間にいるならである。

 咲夜の異能は時間操作、決して時間停止能力ではない、時間を遅くすることだって可能だ。

咲夜の視る世界は変わる。咲夜を除く世界すべては減速する。

 ゆっくり迫ってくる腕を通りすがりに解体しながらクワドロに迫る。ゆっくりと苦悶の表情に変わっていき、吐き出された音声ごとその肉体を解体した。

「次は――貴女よ」

 ナイフを睡蓮に向かって投げる。しかしやはりナイフは見えない壁に阻まれる。

それならばとコートのポケットから刃渡り二メートルほどの大剣をとりだし睡蓮へと疾走する。

 奇術。それ、すなはち奇なる術。

 もしこの一幕を咲夜とそれ以外の視点両方を見ることができる人が居るのならこの奇妙な食い違いに気分が悪くなるかもしれない、それほどまでに奇妙なのだ。咲夜から視たら睡蓮達がものすごく遅いだけであり、あくまでも咲夜は常速であり決して常軌を逸した速度で移動しているわけではない。だが睡蓮達から視ればそれは違う、常軌を逸している。目で追うなんて持っての外、そもそも目に映らない、反応なんて出来るわけが無い。

 睡蓮は最初何が起きたのか理解できなかった。目の前に大剣を振り被った咲夜いる、そこはいい(大剣が気になるが)咲夜相手ならばそれくらい驚かない。だが後ろのクアドロは何だ?なんであんなことになっている?

 (時を止めながらの攻撃はできねェんじゃなかったンですか!?)

 それが咲夜の異能に関する睡蓮達の認識だった。実際それは正解で咲夜は世界の時を停めている間、物体に傷を付けられない。それが出来るなら最初の一秒未満で終わっている。

 振り下ろされる一撃、ナイフよりも重いソレはアイギスに阻まれ止る。

「――ンなデカイもンどっから取り出したんですか?」

「普通にポケットから――よ!!」

 横薙ぎに振るわれる大剣。轟音を響かせるもアイギスは砕けない。

「ポケット――ああ、なるほどそーいうこですか、つまり時間停止でもなく時間操作・・・その本質は時空干渉でスか」

 要するに某ネコ型青狸の未来ロボットの4次元ポケットを思い出してもらえばいい。咲夜は自身のポケットの空間を広げその中に様々な物を入れているだけのこと。無数のナイフもここに仕舞われているというわけだ。

「・・・正解よ、空間干渉は苦手だけど!!」

 一際大きく振り被り渾身の一撃を叩き込むが砕けない。

「無駄です。マスターのアイギスは無駄に頑丈ですから」

「くっ・・・!?」

 直後、声と共に迫る爪をどうにか柄で防ぐが防ぎきれず吹き飛ばされる。体勢を立て直

一瞬前まで自分がいた位置にいる少女を見る、その傷一つ無い姿を。

「・・・大した再生力ね。あそこまで解体バラされたら普通再生するにしても、もう少し時間が掛かるものなのだけど・・・」

「ええ、私は傷に対してはほぼ不死ですから」

 (めんどくさいわね・・・)

 こういうう手合いは咲夜にとって相性が悪い。

 速度というう面では時間を統べる咲夜は絶対的なアドバンテージを得ることができるが、破壊力という面ではさほど強くない。咲夜自身も高威力の攻撃を与えるようなタイプではなく、低威力の攻撃を急所に叩き込み殺す暗殺者のようなタイプだ。故に急所を攻撃しても死なない、硬い、単純に死に難い手合いは決定打が少ないため苦手なのだ。

「どォですか?あたしの最高傑作は?いいできだろォ?」

 聞こえてきた耳障りな声に咲夜は思わず顔をしかめる。

「変身能力!残念ながらコイツは生物にしか変身変質できねーですけどソレで十分!無傷な身体からだに変身することで傷を再生することができさらに、絶対の身体操作に加えさらには身体強化!身体一つの戦闘での生物兵器はコイツ以上は存在しねーです!!」

 自慢げに誇らしげに自身の作品を評する睡蓮。それを酷く汚らわしいモノを観るような目を向ける。

「・・・くだらない。お人形遊びがそんなに楽しいのかしら?意外に幼稚なのね。そんなもの、直ぐにガラクタに還してあげるわ」

 今までの喜色満面の睡蓮の顔が嘘のように消え無表情になる。

「・・・研究者は総じて基本夢見がちで幼稚なモンなんですよ。つーかガラクタはオメーの方だろォガ!なぁヤクタタズの古時計チャン?」

「ヤクタタズ・・・ね、ええそのとおりよ。自分の都合のいいように好き勝手に時を刻むなんて時計としてはガラクタそのものよ」

 睡蓮は自分の作品が侮辱されたことに対して静かに怒り時乃宮の蔑称で挑発するも冷たく返される。

「はン、言ってろ。おまえじゃクアドロは殺せねーンですからよぉ!」

「YES。私を殺したければ再生の余地が無いほどに塵に還すしかありません」

「それはどうかしら――」

 咲夜の姿がその場から消え、クアドロの背後に現れる。

「またナイフか?無駄だって――」

「知ってる?時間って有限なのよ?」

 睡蓮の言葉を遮る様にして発せられた言葉、ソレと同時にクアドラがグラリと揺れそのまま前のめりに倒れた。




「え――」




 観る、そして分かってしまう。いままでやってきた研究、そして犠牲にしてきた人間モルモット達、ソレを間近で見てきた睡蓮はわかってしまう。




――アレはもう動かない




「なに・・・が?」

 何が起こったかは理解できるのにどうしてソレが起こったか解らない。

どうして――クアドラは死んだ?

「疲れるからあんまり遣いたくなかったのだけれど・・・傷で死なないとなるとこうするしかないのよね」

 解らない解らない解らない解らない――。

「・・・どうしたの?そんなしそうな(・・・・)顔をして」

 ――なんていうことだろう・・・。ああ!今アタシノ前でワカラナイコトガオキテイル!!

「これが嬉しくないわけが無いでショーが!未知があたしの前に在りやがるンですよ!?これを嬉々として解き明かそうとしなければソイツは研究者じゃァありやがりません」

 もはや先ほどまで在ったご自慢の作品などどうでもいいというように目の前の未知に狂喜している。

「・・・本当に節操がないのね」

 侮蔑の声も気ならない。

 あの死に様は正に奇術だ。何せ外傷無くまるで眠るように・・・まるで寿命が尽きたかのように――。

(――寿命?・・・ああ、何だそーいうことデスか)

睡蓮は己の興奮や興味が急速に冷めていくのを自覚する。

「・・・ああ、まったく年甲斐にも無くハシャイじまって恥ずかしいったらねーですね」

 溜め息と共に今までのテンションが急速に堕ちていき、酷く投げやりな態度になる。

「さっきから何?ぶっちゃけ気味悪いわよ?一人で盛り上がったり下がったり。・・・情緒不安定なの?」

「情緒が安定してる研究者なんていやしネーですよ―」

「そ、それはさすがに言いすぎじゃない?」

 どこまでも投げやりでいいかげんな言いように、思わず頬が引きつる咲夜。

「最期に一つだけいいですカ?」

「・・・諦めたの?」

 緩み掛けた警戒心を引き締める、古今東西最期に一つだけ、て言った奴にろくな奴は居ない。

「そりゃー諦めるしかねェですから。アイギスもソレには耐えられねェですから。・・・だからあたしも女なんでね、綺麗なまま死にたいんで、ソレで止めをさしてくれねぇですか?」

「・・・・・・」

 答えず無言で歩み寄り咲夜は、アイギスに触れる。

「ガラクタ《トラッシュ》時計クロック加速アクセル

 時間操作は大きく分けて三つある。即ち停止、減速、加速、そしてこの中で一番危険なのは加速である。

 先ほど咲夜が言っていたように時間とは有限であり限りがある。

 寿命。

 モノには寿命がある、それは即ち持っている時間を使い切ること。

 時間を加速させるということは寿命を早めるということ。だから咲夜は自分に加速は使わない、一歩間違えなくても死期が早まってしまうから。

 だがこれを相手に使ったら?答えは簡単、なにせもう解答が既に出ている。

 ピシピシピシピシピシッッ!!

 ひび割れガラスが砕ける様に消えていくアイギス。

 咲夜は額に汗を滲ませ呼吸を荒くさせながら世界を減速させる。瞬間目の前に弾丸が迫り来る、睡蓮が放っただめ元の弾丸。しかしやはり速さが足りない、咲夜に触れるなら光速に上らねばいけない。

 弾丸を避け手に持つ大剣を振り上げ睡蓮に落す。

 ――嫌よ、だって疲れるもの。

 ――そうですかい。サイテーですね。

 刹那そんな苦笑交じりの会話を交わしたのは一体誰だったか。あるいはソレが今宵最大の奇術だったのかもしれない。

 




 その光景、奇術の舞台を見ていた観客が一人だけ居た。

「すばらしい!『時よ停まれ、おまえは美しい!』とは正にこのこと。貴女の為にある言葉だと言っても過言じゃない」

 パチパチパチ、と妙に安っぽい拍手を鳴らしながらただ一人の観客は芝居がかった口調で惜しみない賞賛を送る。

「・・・拍手喝采痛み入りますわ」

 それに倣う様にして奇術師はドレスの裾を掴む仕草をして一礼で答える。

「ところで美しき悪魔メフィストよ、どうかオレの願いを聞いてはくれないか」

 まるで歌劇か何かのように言いながら、観客は舞台へと歩み寄る。

黒い髪を腰まで伸ばし、ダークスーツを着た若くしかしどこか枯れた――まるで磨り減って疲れきったような雰囲気をかもし出した男だった。

「悪魔の代償は命や魂と相場が決まっているけど・・・?」

「知っているよ、望みもしないのに長生きしてしまってるからね。それに――」

「それに?」




「オレの願いは死ぬこと。誰かに殺されるこ

とだからね」




 瞬間、閃光が迸る。

 男のかざした手から雷光が咲夜へと走る。

 しかし連戦で疲れてるとはいえこの程度、凌げなければ殺名など冠していない。

 男が手をかざしたのと同時に時は停まっている、直ぐ目の前にある雷を避けながら、男に肉迫しナイフを五本投擲し背後に回る。

 そして時は動き出す。

 ナイフだけでは殺しきれないと踏んだ咲夜は大剣で止めを刺そうとするが、




「――見えてるぞ?」




 まるで背後に居るのがわかっていたかのように、ナイフを食らいながらも回し蹴りを男は放つ。

「――!?」

 ソレをギリギリのところで柄で防ぐ。

「これは契約が受理されたと思ってよろしいか?では名乗ろう悪魔メフィストよ、オレの名はアグニス・クローバー、不本意なことに不死者と呼ばれている。貴女がオレの願い()を叶えてくれることを期待しているよ」

 背中に刺さったナイフを魔術で抜きながらそう言った。その背中には服に穴が開いているだけで地肌に傷一つない。

「自殺したいなら勝手にして欲しいわね。」

「いやいや、違うよお嬢さん。オレは自殺したいんじゃあない――他殺されたいんだよ。誰かと殺しあった末に殺されて死んで終りたい、オレの願いはそれだけだ。あの時、死に損なった・・・死ねなかった時から、オレはソレだけを望んで臨んでいる」

 大げさに肩を竦めながら言う――不死者の願うことなんぞいつの世も同じ、死ぬことだよ――と。

どこか芝居がかってうそ臭く真実味が無い口調で話しているがその言葉だけは――死にたいというその願いだけは狂気すら感じるほどの想いがあった。

「・・・そう、じゃあ死になさい」

 再び時は停まる。大剣をその場から投擲しナイフを取り出しアグニスを囲うように投擲。

 その間ずっと咲夜はアグニスを観察していた。

 先ほどの攻防、まるで背後に周り込んでいたのを見ていたような反応。本来ソレはありえない、時が停まった世界の出来事を認識することなど同じ時間系の異能の素質が有る者しかできないはず。そして時の素質は咲夜を除けば吸血姫アリアくらいしかいない。

 アレは世界すべてだから時の素質も十分持っている。

 そして時は動きだす。

「がああああぁぁぁ!!!!・・・ぁぁぁ」

 殺到した全てその身に突き刺さる。

 まるでハリネズミの針を逆さにしたような有様で倒れる。人間は、いや人外であろうとここまでされて生きていられるモノは稀だろう。

「・・・不死身だと言ってもオレは死ねないだけで痛みはあるのだから。こんな(・・・)無駄(・・)なこ(・・)()はしないでいただきたい」

 だが。

 アグニスはむくりと、刃物が独りでに抜けながらその身を起こす。生きているのがありえないくらいの怪我、そこらのB級ゾンビ映画のようにグロテスクな有様。大剣が刺さっていた頭は真っ二つに割れ体中穴だらけ。

 それがジクジクとジュクジュクと塞がっていく。

(気持ち悪いわね)

 殺し殺されの陰世の住人とはいえ、咲夜は花の女子高生、ここまでグロイものにはさすがに生理的嫌悪を覚えるのはしかたない。

 (・・・でもこれではっきりした、私を認識できてる)

「・・・あなた何者?」

「さっき名乗ったはずだが?」

 傷はもう完全に塞がっていて足元に広がる血液だけが先ほどの傷を語っているが、それも本人が無傷ではうそ臭く感じる。

「そういうことを訊いてるんじゃないわ。どうして時の停まった私の世界を認識できているのかを訊いてるのよ。・・・吸血姫アリアを除けば私以外に時間能力者なんていないはず・・・いえ、たとえ居たとしても私の世界を十全に認識できるモノなどいない・・・」

吸血姫アリアですら私の世界を認識できたのは最初の一瞬だけ。時乃宮以外に認識できるものは本来いない。でも、その不可能を可能にできるのが魔法使いと――)

「ん?知らないのかい?けっこう有名だと思ったんだがね・・・?知らないなら教えよう」

 アグニスの声で思考を止める。

 あんな嫌な考え思いつき――在る訳ないと、聞きたくないと。

「オレは――」

 黙れ!

 時を停め近づいた咲夜は当たり前のように蹴りで迎撃される、それを腕でガードする。

 そう腕で。

 ボキン、と腕の骨が折れる激痛に顔を歪めながらもほくそ笑む。

 時を統べるこの身に触れた。

 腕一本その代償に得たのは時間、世界ではなくアグニス・クローバーその時間。

――ガラクタ(トラッシュ)時計(クロック)停止(ストップ)移行(シフト)加速(アクセル)

 貴様の正体など知りはしない、口を開くな死になさい。

 だが世界は残酷なほどに優しく総てを受け入れる。それがたとえアリエナイモノであったとしても。




「――不具合だよ。最悪なことにね」





「あああああああ!!!??!?!」

 電撃が咲夜を焼きそのまま地面へ崩れ落ちる。

「う・・・そ・・・。じゅ(寿)・・・ひょう()が・・はい(無い)・・・!?」

 四肢は痙攣し呂律のまわらない舌をまわし意識が堕ちそうにならるのを堪えながら言った。

「・・・そうか君にもオレは殺せないのか・・・。ならやはり当初の予定どうり彼女を待つとしよう」

 そう言いながら足元に転がっている咲夜の髪を掴み引っ張り上げる。

「ところで、悪魔に願いを叶えて貰った者は皆・・・魂やら命やらを代償ととして採られるわけだが、・・・願いを叶えられなかった悪魔はどうなるか知っているかい?・・・簡単だよ契約不履行の末路は、死だ」

 ――オレ以外はね。

 自嘲し腕で咲夜の腹を貫こうと腕を突き出す。

 その刹那。

「グアッ!?」

 突如表われた女性にアグニスは倉庫の中へと蹴り飛ばされた。

「刃の友人に何してるのよッ・・・!」

 その女性は雪のように白い髪と肌、幻想的で儚い雰囲気を持った――、

「ア・・・リア・・・?」

 吸血姫だった。

「せーかーい!しかし危ないとこだったわねー。うん、タイミングバッチリ!」

 微笑みながら咲夜にブイサインをしながら、

「いやー、電撃食らってたとこで助けに入ろうと思ったんだけど、少し我慢して正解だったわねー、それともったいぶらないで確実に殺す気ならさっさと切り札切った方が良いわよ?」

 何時いつから見てんだこいつ、とか、ずっと介入するタイミング計ってたの?、とか、悪趣味・・・、などという思いがアリアの発言|(失言?)を聞いてあまりよく廻らない頭の中がいっぱいになり、程よく咲夜は混乱していた。

「・・・あれは刃と同じなの?」

 でも最終的に口にした言葉(おもい)は確認だった。

 否定して欲しい言葉(おもい)でもそれは咲夜自身認めしまっていること、だから質問ではなく確認。

「ええ、そうよ。だから帰りなさい貴女じゃあれは殺せない」

 ソレには全面的に同意する。

 当の不死者がホンモノだというのならアレを殺せるものなど本来居はしない。

 だがそれは――、

「貴女も同じでしょう?」

「うん――そう。でも死なせられない=勝てないわけじゃない、やりようは幾らでも在る」

 そう言ってアリアはアグニスを吹き飛ばした先の倉庫に向かっていった。

 咲夜はそれを見送らずいつの間にか治療されていた身体を起こし帰ることにした。

 どうせこの後おいしいとこは全部アイツ(・・・)に持っていかれるに違いない。そもそも私の目的は不死者でなく研究者ラボだ。あの女を殺した今もう舞台に上がってる必要はないむしろ野暮というもの。

 私の出番はもう終わり。宴もたけなわ、あとは主役が幕を下ろすでしょう。

「――最後の舞台はあちらよ」

 役者交代。



「待たせたわね。さぁ、絶望を教えてあげるわ!」

 ――幻想の箱庭(ファンタズマガーデン)

 瞬間。

 廃倉庫の風景が変わる。

 屋根は曇天。

 床は雪の絨毯。

 見渡す限りの銀世界。

 如かして気温は夏のソレ。

 真夏の雪原。

 幻想の箱庭。

「ああいいだろう。しかし間違ってはいけないな、俺は今まで絶望(生き)てきた、だからこそ貴女が教えるのは希望()だよ」

 さあ、最期の宴の始まりだ。


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