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いつか終わるその日まで  作者: 在間 零夢
不死の旅路
12/17

第三夜(前) 宴

 深夜。

 ぬしの下にはいつもより二つ多く、五つの人影がある。

 主に寄りかかって居るのがTシャツに長ズボンを穿いた私服姿の識。それに寄り添うようにしているのがロンTにロングスカート姿の氷狸。主の太い枝に座ってるのがTシャツに紺のコートを羽織りホットパンツ姿の咲夜、氷狸の対面に居るのが肩が出てる白いTシャツにロングスカート姿のアリア。その隣に黒のTシャツに黒いジャケットを羽織り黒の長ズボンの黒尽くめの格好をし刀を持っているのが刃。

 どこか張り詰めた空気をかもし出しながら集まっている。

 原因は氷狸と咲夜から大量の負のオーラっぽいものが駄々漏れだからだ。特に咲夜なんかはアリアを親の敵の如く睨んでいる。

 睨まれてる本人も、あたしなんかやった?っと横に居る刃に目で確認するが、巻き込まれるのが嫌だったんだろう、知るかと目を逸らされる。

「依頼どうり、表の住人はほぼ眠らせました。今この街で起きているのは私達、陰世の住人だけです」

 氷狸が事務的に告げる声もやはりどこか硬い。

「さすが『天野管理局』だな。仕事が早い」

 刃の感心も感想も、あたりまえです、と一蹴する。

「というかだ、いったいどういう風の吹き回しだ?『天野』にこの街の表の住人を眠らせてくれって依頼は?・・・あの昼のラジオといい、正義の味方に転職か?」

 この張り詰めた空気に疲れた識が溜め息を吐きながら刃に皮肉混じりに訊く。

 刃は肩を竦めながら、

「正義の味方とか勘弁してくれ・・・、俺はただいいかげん面倒だしツマンナイから、宴を開こうとしただけだよ、いないはずの(・・・・・・)()()()一緒(・・)にな(・・)

「・・・まぁべつに他の奴らに発破を掛けるのはいい――おまえならやりそうだし――でも、表の住人の安全確保なんてお前のガラじゃないだろうに」

 そこんとこどうなんだ、と目で識は刃に問いかける。

「あー?べつに・・・ただおまえらと一緒に温泉行きたかっただけだよ。そのために敵は見つけやすくしないとな」

「あーはいはい、つまりだ雑魚は他の奴らに任せてさっさと本命を抹殺してこいと」

「うい」

 刃は頷きながら、

「もうすでに宴の幕は上がってるからな、そこらじゅうで殺しあってる。さっさと行かないと本命を他の誰かに寝取られるぞ」

「それは大変だ、ならさっさと殺りにくとしよう」

 刃の言葉に苦笑交じりに返す識。

 そのやりとりを見ていた氷狸はますます不機嫌になる。

 ただでさえ自分の所有地が好き勝手に荒らされてイラついてる時にこんなモノは見たくない。

「小芝居は終わったかしら?」

 いままで黙って射殺さんばかりにアリアを睨んでいた咲夜が口を開く。

「宴の前に訊いておきたい事があるの」

「それが人に物を訊く態度なの?」

 いままでずっと睨まれていたアリアも機嫌悪そうに言い返す。

 瞬間――

「あなたは私の問いに答えればいいのよ。それ以外に発言権なんてないの」

 アリアの真後ろに現れた咲夜がアリアの背中に右手を首筋に左手で持ったナイフを当てながら冷たく言い放つ。その目は次余計なことをしたら殺すと語っている。

 (時間停止・・・?一瞬しか目で追えなかったけど間違いない)

 アリアは首筋から紅い血か一筋垂れるのを感じながら、咲夜が何者なのかを考える。

 (私でもほとんど干渉、認識できないレベルでの時間停止ができるモノは、もう生きていないはず・・・それが人間なら――混血でも――尚更いないはず。それが可能な一族は十三年前に滅びたのだから。ということは)

「・・・なるほどあなたは『時乃宮』生き残りなのね?」

 自らの正体を言い当てられたことで反射的に首を切り落とそうとするが、なんとかこらえながら咲夜は、震える声を絞り出す。

「・・・ええそうよ、なら私が訊きたい事も分かるでしょう?」

 いや、震えてるのは声だけではないナイフを持つ手も震えている。

 その手はナイフを握るのに尋常じゃないほどの力を込めていて、真っ白に変わっている。それは相手を殺すのを抑えている――のではない。自らの内に宿る狂おしいほどの憎しみ、そして恐怖、その二つを根底に置かれた復讐心を抑えているのだ。

「私じゃないわよ」

 咲夜とは対照的にアリアはアッサリと自分は復讐の対象ではないと答える。

「私は十三年前の犯人じゃないわ」

「・・・それは本当なのかしら?正直あなたが一番有力なの」

「俺もそれは知りたいな・・・いや俺達も、か?」

 識がそう口にする、気づけばいつの間にかアリアを取り囲むようにしてそれぞれが陣取る、その目はどこまでも冷たく鋭い。

 アリアは殺気を受けながら刃の方を見る。

「刃も疑ってる?」

「半々だな・・・。実際おまえなら俺達の一族を一方的に皆殺しにするぐらい、できなくはないだろ?というかお前以外に俺は単身でそんなことをできる奴は他に知らない」

 アリアにとって少し予想外の答えが返ってきた。

 それは自分が疑われてることにではなく、半分も信じてもらえてることにたいしてだ。自分をみる目を見たとき、その目の殺意から自分は問答無用で疑われえている、いや決め付けられてると思っていた。

 だからアリアはもっと酷い言葉が出てくると予想して訊いたのだが・・・なんだか拍子抜けである・・・まぁ同時にものすごい嬉しいのだが。

「で、本当におまえじゃねーんだな?」

 そんなアリアの心情をまったく知らずに刃は確認する、とアリアは思わず零れたという様に、

――にへら。

 とだらしなく顔を緩ませながら、

「ええ我が主、刃に誓って、私はやってない」

 瞬間、空気が凍った。

 一斉に刃の方を向く、その表情はどういうことだ?と疑問と驚きに満ちている。

「どいうことかしら?」

 実際に言われた。

 咲夜達の何かよくわからない迫力にたじろぎながら、

「・・・む、昔、契約させられたんだよ」

「・・・まぁいいわ。もうあなたがどこでどんな人脈築いていようと、驚くだけ無駄でしょうし」

「中三のときに家出してイギリスに行った時もどうせ、なんか怪しい関係作ってんだろうしな?なんど訊いてもだんまりなんだ、決まりだろ」

 言い訳したが帰ってきたのは、冷たい言葉と視線。

 彼らの目には諦めと呆れが渦巻いている。

 だがそれも仕方ないだろう、刃は事あるごとに事件に巻き込まれ、そのたびに怪しげな妖しげなモノ達と知り合い、そして殺しているのだから。

「それで信じてもらえた?いいかげん放して欲しいんだけど」

 爆弾を投下した本人はどこまでものんきにそう言った。

「・・・いいわ、一応信用してあげる。吸血鬼は『契約』や約束には堅すぎるほど厳粛な種族だし」

 言い終わった瞬間にはもう咲夜は元の位置――主の枝の上に座っていた。

「アリガトッ!」

 アリアに笑顔を向けられた咲夜は機嫌悪そうに顔を背ける。

 そんな仕草をかわいいなーとアリアは思いながら、質問されたときからずっと気になっていたことを刃に訊く。

「ところで刃達って復讐が望みなの?」

 その質問は地雷だ、アリアはそれをわかっていて訊いている。

 どうしても訊きたかった、刃が復讐なんてするとは思えなかったから。

「復讐・・・ねぇ、俺は違うよ。・・・まぁ確かに犯人に用はあるけどな?俺の目的は『終わらせる』ことだ。まったく、滅ぼすんならキチンとしっかり皆殺しにしてほしいね。おかげで生き残ったとはいえ・・・面倒ごとを押し付けられた」

 刃は肩を竦めながら心底めんどいと言う様に溜め息を吐く。

「俺も違うな。一族なんてどうでもい。、普通に脅威だからだな、取り除くのはあたりまえだろう?」

 次に答えたのは識だ、おそらく彼がこの中の当事者の中で一番この件に関しては興味が薄い。

「復讐よ、父さんや母さん・・・皆を殺した奴を私は絶対に探し出して――殺す」

 坦々と殺意に憎悪をふんだんに込めながら咲夜は言った。

 危うい、アリアが咲夜を見て訊いた感想がそれだ。どこまでも危うい。

 復讐を否定する気はない。でも咲夜のそれは我を忘れるのではなく、自分自身ですら壊す・・・いや変える類のモノだ。

 (・・・まぁどうでもいいか、刃と私に害が無い限りね)

 そう結論付けて最後の一人に視線を向ける。

「私はそもそも当事者じゃないですから。・・・でも兄様の敵というのなら殺します」

「とまぁそういうわけだよ。そろそろ行こうぜ?宴が終わっちまう」

 氷狸が言い終わると同時に刃はそう言って、返事も待たずに踵かえし街に向かって歩き出す。

 それを皮切りに咲夜が消え、他の面々も宴に参加すべく移動を開始する。

 




 それではただいまより、殺戮喜劇は開幕します。

 皆様、命を賭けてお楽しみください。






 爆音。

 表の住人が皆眠り、陰世の宴が開かれた今宵。その祝砲を挙げるが如く爆音が鳴り響く。

 それは冗談のような光景だ。

 なにせ、ジーパンに灰色のパーカーを着た――フードを目深く被っているため顔は分からないが――線が細く華奢な人間が死人しびとを殴るたびに爆発し、派手に周りを巻き込み飛び散らせながら繁華街を歩いている様はホラー映画にしか見えない。

「まったくっ!兄さんったらまたこんな奴らの相手なんて危ないことして・・・!やっぱり兄さんにはまだ一人暮らしは早いのよ・・・この街危ないんだから・・・、どうにかして家に戻さないと」

 声から察するに女性のようだが、しかしその腕力は大の男を遥かに超えている。いやそれどころか人間を超えている・・・・・・・・

 側面から襲い来る男の顔面を掴み、

「私の右手が真っ赤に燃える!キサマを殺せと轟き叫ぶ!爆熱!ゴ○トフィンガー!!」

 そう叫んだ瞬間、男が燃え上がりその身は灰と化し、フードの女性に降りかかる。

「まぁ兄さんのことはあとにして、まずはこのゴミを焼却しないとね。――あなた達が兄さんの敵だというのなら、私が兄さんの変わりにアナタ達の灰を被ってやるわ」

 世にも恐ろしい灰被り(シンデレラ)が進む。彼女が歩いた道は灰も残らない。





 その姿をビルの上から見下ろしているものが居る。

「あの人は相変わらず物騒ですね。破壊力という意味ではダントツですし」

 改造のシスター服に身を包んだクリスである。

「あなたもそう思いませんか?」

 そういいながら振り返るとついさっきまで何もいなかったのに、そこにはクリスよりもわずかに小柄な黒いロープを被った人が影の様に立っていた。

「・・・・・・」

 影は答えず、不動。

 もとよりフードで表情も伺えないためクリスの問いに対して何を思っているのかもわからない。

 だがそれでいい、そもそも答えが返ってくるとは思っていない。

 故にクリスは独り言のように影に向かって言葉を綴る。

「・・・また警告ですか?これで何度目でしたっけ・・・?ああそうそう、5度目でしたね」

 五度。それはクリスがこの影と今の様に相対した数であると同時に、刃を本気で殺そうと襲撃した回数でもある。

「いいかげん無意味な警告はやめてもらえませんか?無視してもペナルティの無い警告なんてするだけ無駄でしょう?仏だって三度しか赦しませんよ」

 無言。

 これだけ言っても反応がないと逆に怖い。

 下では灰被り(シンデレラ)が派手に爆音を轟かせながら、死人を焼却している、正しく上と下とでは温度が違うのだ。そのギャップのせいでより不気味に見える。

「やめませんよ私は、刃先輩が殺したくなるほど嫌い、いえ、恐怖してますから。むしろあなたたちはなんで平気でつるんでられるんですか?」

「・・・・・・」

「なんであんな気持ち悪い人と一緒にいられるんですか?あんな人間・・として(・・・)()れている(・・・・)()()なんていう(・・・・・)矛盾・・()みたいな(・・・・)()

 精一杯の嫌悪そして恐怖を込めた呪詛の成りそこないみたいな愚痴を吐き棄てる様に言う。

 べつにクリスは刃が殺刃鬼だからこんなにも嫌悪しているわけではない。

「だってアレは人を、いやモノを殺すのは何よりも罪、やってはいけないことだと思っているんですよ?なのに刃先輩はどんな理由でも意味無く忌み無く殺す。自分自身が一番殺しを忌みているのに。・・・それで苦悩葛藤後悔するならわかります――殺しといて後悔するなんて醜悪極まりないですけど――それなら誰でも無意識でそうしているでしょうから。でも先輩はそれが一切無い、自分の持論を真っ向から破り、矛盾させているのにソレが無い、先輩はその矛盾すら自覚し肯定し受け入れている。・・・正直言って私は先輩が怖いです、あんな化け物みたいな人」

 


 

 人。

 



 人間。




 刃先輩はどこまで行っても――こんなにも矛盾していてツギハギだらけに見えて、人間として壊れているのに――人間だから。――だからこそ気持ち悪い、まるで歪みに歪み壊れに壊れた鏡を見ているようで――。

「・・・化け物。刃ならその言葉を肯定したと思う――人間はもともとそうだろ、理性の怪物・・・化け物だよ――て」

 今まで沈黙していた影が口を開いた。

 その抑揚の無い声は魔女や魔法使いそのものだ。

「・・・クリスはすごいね。まだ刃と会ってから一年くらいしか経ってないのに、よく識ってる」

 影が喋ったのに驚きながらも、それを顔に出さずクリスは言う。

「・・・貴女にに比べたら全然ですよ」

 そう、あの人を一番知っているのは彼女だ。

 でも――。

「・・・でも私も識っているだけ。理解はしていない、識ってることと、分かることは別だから」

 そもそも、他人を完全に知ることなんて、理解することなんて、心を読めたってできない。

 影はそう自嘲するように言った。

「・・・だからこれも私の自己満足」

 影が呟いた瞬間、クリスのすぐ真横に人の身の丈ほどもある巨大な氷柱が突き刺さった。

「っぁ!?」

 砕かれたビルの破片に打たれながらもクリスは臨戦態勢をとろうとするが、

「・・・これは、本当の警告。次刃と殺しあたら殺される」

 さらに放たれた突風によって体勢を崩され床に這い蹲るクリス。

「・・・刃を五回も殺そうとして生き残った貴女の強運には感服するけど、もう、次は生き残れない、だから刃を嫌うだけにしておきなさい。私も刃も貴女のことは気に入っているのだから」

 その声を切り裂こうと立ち上がるとそこにはもう影さえありはしなかった。

「勝手なことを言ってくれますね・・・。私は嫌いだって言ってるのに」

 空に浮かぶ月を睨む。強く鋭く――

「殺名第二位月姫」

 ――いつか月ですら斬り裂いて見せるというように。

「・・・しばらくは貴女の自己満足に付き合ってあげます。殺したら識先輩も悲しみますし」

 そう言ってクリスも夜に消えていった。



「やれやれ、これでは死人モドキがいくらあっても足りません」

 刃達が通っている星高の屋上で鑑求は一人呟いた。

 この街の陰達によって捕まえて手駒にした死人モドキ達が殺されていっているだけでなく、どうやら自分達も抹殺の対象にされているようだ。

 (十中八九あの時乃宮達の策ですね。天野識、おそらくラジオに出ていた彼が実行したのでしょう。・・・本命に向かった彼女は大丈夫でしょうか?Cシリーズを一体持って行ったとはいえ・・・やはり忌名相手ではつらいでしょうし、『風切』がホンモノだった場合は分が悪すぎます)

 今ここに居ない相棒を心配するが、

「まったく、この街はまるで世界の尺図ですね――そうは思いませんか?」

 



 すぐにそんな余裕は無くなった。

 



 金属音が鳴り響く。

 音も無く気配も無く後ろから放たれた一閃を求は鎖でどうにか防ぐ。

 お返しとばかりに鎖を飛ばすが相手はすでに後方へ退避していた。

「まったく下手だね、どうも・・・。研究者風情一人殺せないなんて、無様が過ぎる・・・」

 そんなことをちっとも思ってなさそうな、ににやにやと笑みを浮かべている襲撃者は右手に黒い大振りの刃物を順手、左手にも同じ形をした白い刃物を逆手に持って佇んでいる。

「しかし、気配は消してたと思ったんだけどね・・・少なくともアンタに悟られないくらいには薄かったはずだ。いったいどうやって察知したんだ?」

「その声は・・・天野識さんですね?今日のラジオ聴きましたよ、いやぁとても面白かった。どうです?ここでこんなことしてないで、その道のプロを目指してみては?ああそれと、どうやって察知したか、でしたっけ?敵にそんなことを訊くなんて変わってますねぇ・・・ここはマンガやアニメとは違うんですよ?手の内を教えるわけが無いでしょう?・・・ですが先ほどあなたが言ったように僕は研究者ですからね、話したがりの教えたがりなんですよ。だから訊かれたからには答えないわけにはいきません」

 時間稼ぎ。

 今現在求の目的はそれである、現状を生還するための策を練るための時間稼ぎ。

 そのためにあんな回りくどい――半分は素だが――言い回しをしている。

「蛇にはピット器官という動物の体温を視る機能を持っているんですよ。僕のこの鎖にもそれが備わっていて、それであなたを見つけたということです。気配は消せても体温までは消せませんからね」

 そもそも気配を消すというのは、音を立てない、呼吸を潜める、ということをして人間が無意識の内に張り巡らせているセンサーに引っ掛からないようにすることだ。息を潜め音を殺して気配を断っても、生きている限り体温までは無くせ無い。

「なるほど体温か・・・多少ならどうにか操れるが・・・、まぁその眼は誤魔化せないだろうな。心臓と同じだ、生きている限り心音は鳴る、心音を捉えられる耳を持つモノにたいして隠れることは無為ということだな」

「ご理解いただけたようでなによりです。ではこれで――失礼します」

 そう言って求はポケットから閃光弾を取り出し投げつける。

 閃光が迸り、求はそのまま逃走を試みる――。

「なっ!?」

 ――が、識の剣閃によって阻止される。

 金属音金属音金属音・・・眼にも留まらぬ高速連戟、上下左右縦横無尽に繰り出される剣閃を四つの鎖が受け止める。

 このままでは押し切られる、そう悟った求は鎖を相手に叩きつけるように操作し、無理やり離脱を試みる。

「っぐ!やれやれまったく・・・っ戦闘は専門外なんですけどねぇっ・・・」

 離脱には成功したが、代償は大きい。

 鎖が二本切断され、左肩から胸にかけて浅くではあるが斬られた、死ぬことは無いだろうが動きが鈍る、この傷では逃走も闘争も難しい。

「おいおい逃げることはないだろう?」

「いえいえ、僕は貴方達のような変人じゃないので・・・、遊び相手には役不足でしょう?」

 求はそう言いながらも、内心では逃走を諦めていた。不意打ちの閃光弾、一度目が効かなかったのに二度目が効く道理は無い、一度目の不意打ちで逃げられなかった時点で逃走の選択は消えた。

 ならばどうするか?自分の命を諦められないのならどうするか?事ここに至っては戦うしかない。

「しかしその剣・・・まさかとは思いますが、『風切』が打った剣ですか?普通の刃物では私のオロチは斬れないはずなんですがねぇ」

「さっきの言葉おまえにそのまま返そうか?、おまえも変わっているな?まぁさっきの礼だ話してやろう、これは御明察のとうり『風切』の刃物だ。陸式一刀、弐式『双剋』ていうらしい。借り物だけどな」

「陸式一刀・・・!?」

 識の得物である『双剋』それは、『風切』が打った刃物の中でも最高傑作と言われる七つの刃物の一つ。もともと『風切』が打った刃物は他のどんな鍛冶屋や職人をも凌ぐほどで、その最高傑作ともなれば下手な聖剣などの宝具をも凌ぐ。

「・・・まさか宝刃とも言われるものが出てくるとは・・・欲しいですねぇ。この街は僕達ラボにとってはまるで宝箱のようですよ」

 求はそう言いながら両腕の鎖をさらに二本つづ追加する。

「俺を殺せたら持って行ってくれてかまわない」

 識も答えるように構えを取る。

「せっかくの宴だからなノリよく名乗りでもあげようか。『七月・・第二十一代目当主(・・・・・・・・)――殺人鬼(・・・)

 ――さぁ、宴を始めよう



 求が識に襲撃されたのと同じ頃、その相棒鈴巳 睡蓮は街外れの倉庫街に居た。

「まったくめンどうなことしてくれヤがりますね。・・・連れてきた楯役の死人モドキが全員はぐれちまイましたよ」

 そう言って歩きながら横をちらりと見る。

 そこには黒い髪を肩口で短く切りそろえ創られた様に整った顔立ちの少女が無表情で歩いている。

 Cシリーズ・NO・4(クアドロ)

 死人モドキが楯だとするならクアドロは矛だ、睡蓮が率いてる分室が造り上げた人造人間、そ

の成功例。

 戦闘能力は失敗作のNO・0(クライム)に劣るが従順性などはこちらの方が上。それはつまり兵器としての性能はクアドロの方が上といううことだ。

 そもそも持ち主を害する兵器など論外である。ゆえに今回の回収のお供にクアドロを連れてきた。

 (まぁ最初ッから死人モドキには何の期待もしねーンですけどね、こいつさエいれば事足ります

し。あれはこの街で見つけたオマケですらねぇモノですし。)

「しかしこの辺ンにアレが居やがるのは確実――」

 瞬間、睡蓮の動きが、声が、心臓が、呼吸が、時が――停まった。

 それを察知したNO・4(クアドロ)が睡蓮の真後ろに突如表われた人間を殴ろうとするが、拳は空しく空を切る。

「なンですけどねぇ・・・?どうかしやがりましたか?」

 まるで動画の一時停止を解いたみたいに何事もなく動き出す睡蓮。

「敵です。・・・おそらく昼間に言っていた時乃宮かと」

 そんな睡蓮マスターを一瞥し何の異常も無いことを確認してから、敵を見据えて言った。

「・・・・・・」

 クアドロの視線の先を見るとそこには昨日会ったオマケの捕獲対象――宵闇 咲夜が無言で静かに佇んでいた。

「まったく・・・捕まりに来るならせめて本命を捕まエた後に来てくれネェですか?」

「・・・・・・」

 溜め息交じりの言葉も黙殺される。

「・・・まァいいでですけど。NO・4(クアドロ)、アレをできるだけ生きて捕獲しな。まぁ最悪死体でもかまわネェですけど」

「イエス・マイマスター」

 疾走。

 睡蓮から命令オーダーを受けたクアドロは矢の様な速さと鋭さで咲夜に肉薄する――だが遅い、時を統べるモノにとってそれでは全てが遅い。



 ――ガラクタ時計トラッシュクロック停止ストップ



「『時乃宮・・・)第三十二録(・・・・・咲夜・・

 時が止まった自分だけの世界で名乗りを上げる。誰かに聞かせるためでなく、ただ己の決意を刻むために。

「――殺名第6位・・・・奇術師・・・

 ――さぁ宴を始めましょう。


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