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女子高生探偵事件簿 No.11「血塗られた零」

作者: こう

「待ちなさい! 怪盗ガリクソヌ!」

 満月の夜、草木も寝静まる丑三つ時。

 そんな中で私たちの姿はあまりにも異質だった。

「ふはははは! 『魔導書』の力を借りぬ君が私に追いつけると思っているのかね!」

 目の前を走る、マスカレードにでも出てきそうな仮面を付けた男を、私は追いかけている。しかもタキシードときた。変態以外の何者でもない。

「逃がしちゃいけないクピ! 早く『魔導書』を回収するクピ」

「うるさーい! わかってるわよ」

 私の隣をふよふよ浮かぶ、綿毛の塊のようなそれでいて動物のようなわけのわからないものに怒鳴り気味で応じる。これで名前がエターナルとかいう尊大な名前なのだから、馬鹿馬鹿しい。

「最っ終手段! アレ使うわよ」

「アレは危険クピ! そんな簡単に使ったら・・・・・・!」

「いいから早く!」

「・・・・・・知らないクピよ」

 周囲に光が満ちる。私とエターナルの意志はリンクする!

《魔導覚醒! 世界の扉へリンクせよ! アカシックレコード第三章、『緋色の煉獄』発動!》

「ここで『緋色の煉獄』を発動するクピ!? 後で知らないクピよ」

 エターナルはぐちぐち言ってるけど、しょうがないじゃない。ガリクソヌ相手だったら、魔導書局長だってそこまで怒らないわよ。

 逆巻く炎がガリクソヌめがけて一直線。『緋色の煉獄』から逃れたやつはいまだかつていない!

「ふふん、その程度か」

「えっ!」

 ありえないっ! 『緋色の煉獄』が防がれたっ!

「我が血族に伝わる『道化師の盾』、この程度の魔導ごときどうということない」

「どうするクピ?」

「決まってんでしょ!」

 私は『緋色の煉獄』へ更に力を注ぎ込む!

「一が足りないなら十で! 十が足りないなら百っ!」

 炎の勢いが増し、炎は赤から青、青から黒へと色を変える。

「この炎はまさか、イフリートの真炎に・・・・・・!」

 ここで初めてガリクソヌがうろたえた声を出す。

「そのまさかよ! 私は『魔導書』を全て回収する! そのためだったらどんな力だって受け入れてやるわよ!」

「いくクピー!」

 エターナルの声と同時に、私はガリクソヌへと『I・緋色の煉獄』を放った!

「くうぅ・・・・・・!」

『I・緋色の煉獄』を受けたガリクソヌが苦悶の声をあげる。

 手応えはある・・・・・・! 行ける! いや、押し切る!

「はあああああああ!」

 ガリクソヌを中心に、爆発が起こる。周囲が白煙に包まれる。

「やったクピ?」

 エターナルの希望とも確認ともとれない言葉に私は頷く余裕さえない。

 熱も引き、徐々に煙が晴れていく。

「っ!」

 ガリクソヌは、不敵な笑みを浮かべて立っていた。

「私が受け継いだ能力が『道化師の盾』だけかと思ったか? 見くびられたものだ」

 ガリクソヌを守っていたのは、黄金の鎧。

「絶対防御! いかなる攻撃さえも防ぐ鎧、アカシックレコード第12章『終わりなき連鎖』」

「あなたもアカシックレコードをっ!?」

「そうだ。私も、もとはお前と同じ魔導書収集の任に就いていたいたのだよ」

 信じられない! たしかに局長は言ったのに。 「世界でただ一人の魔導書収集者よ、お前こそが世界を安寧へと導く存在なのだ」って。

「信じられない、と思っているだろう。だが、これが事実なのだ。私は零の名を受け継ぐ魔導書収集者。魔導書収集者の先駆者たる存在なのだ」

 勝てない。私はそう思った。

「あきらめるなクピ!」

「無理よ! だって零の名を受け継いでる魔導収集者に私が勝てるわけないじゃない!」

 講義中に聞いたことがある。零を受け継ぐ者は、あらゆる困難に打ち勝ち、いかなる苦境をも打ち砕く。そんな、伝説的な存在だって。

「余談だが、私はアカシックレコードを第108章まで習得している」

「!?」

 もう・・・・・・駄目だわ。

「心を強く持て!」

 この声は・・・・・・まさか!

「貴様か、お節介なことだな! 『インティグラルハーフメントアース』!」

「兄さん!」

「その名は捨てた。今はただの名無しだ」

 純白の騎士の甲冑を彷彿とさせる衣装に身を包んだ、長身の男。間違いない、私の兄さんだ。

「クピー! 伝説の『インティグラルハーフメントアース』だクピー!」

 興奮気味にエターナルが私の周りを、飛び回る。

『インティグラルハーフメントアース』。神の寵愛を受けた、『六騎士団』の一人。その頂点がなぜこんなところに・・・・・・?

「お前の疑問はわかる、おおかた私がなぜここにいるのかと言ったところだろう」

 顔に出ていたのだろうか? 自分の顔をさわってみるが、特になにもわからない。

 兄さんはそんな私を見て、微笑する。

「妹を助けるのに理由はいらないな」

「兄さん・・・・・・」

「行くぞ、妹よ!」

「ええ!」

 そうだ、ここであきらめてはいけない。私はまだやれる!

 兄さんの聖なる波動を受け、私の力は無尽蔵に上がっていく!

「ば、ばかなっ!」

「「アカシックレコード109章! 『世界を統べる天使』」」

 全てを包み込む残酷にして慈愛に満ちた聖気が、ガリクソヌめがけて飛んでゆく。

「ぐああああああああああああ」



「これで終わったな」

「いいえ、まだよ兄さん。女子高生探偵である私が推理するに、ガリクソヌはまだ死んでないわ。見て、そこの地面を」

 ガリクソヌが立っていたところに、少し深めの足跡が残っていた。

「これがどうかしたのか?」

「もしガリクソヌが消滅していたのなら、こんなものは残らないわ。きっと、ガリクソヌは寸前のところで脱出したに違いないわ」

「なるほど、だから足に力を入れたために足跡が残っているんだな!」

 普通の魔導書収集者なら見逃していたかもしれないサイン。けれど私は、魔導書収集者にして女子高生探偵。このくらいの痕跡、見抜いてみせるわっ!

「じゃあ結局またガリクソヌを探さなきゃいけないクピか?」

「ええ。でも私は負けない! たとえ伝説の零にだって、勝ってみせる!」

 なんで零たるガリクソヌが悪の道に走ったのかは、女子高生探偵なる私にも推理できない。

 けれどいつの日か、必ず解き明かしてみせる!

 それが、私の使命だから。

《緊急連絡。東京渋谷区にて魔導書被害が起きた》

「大変! いくわよ、エターナル」

「しょうがないクピね」

 私たちはいつまでも戦い続ける。この世に魔導書がある限り!



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