近藤さんと夕日と青春と
「近藤さん行けぇぇ」
陽の声が坂の上から聞こえてくる。あと五秒…三秒…一秒…
ガシャーンッ!!
まず、ぼろい近藤さんで傾斜35度の心臓破りの坂をおりることが間違ってる。
僕が堤防に座ったまま首をひねると、倒れて大の字になっている陽と目が合った。
『起こして(目がきらきらのオプション付き)』
と無言の訴え。
堤防からジャンプして、近藤さんを立て直した。
今のスライディングでハンドルがぐんにゃりとまがってしまっている。おいたわしや近藤さん。
陽のことは無視してそのままもう一度堤防に座った。
夕日が目にしみるけれど、こんなに綺麗に対峙できるのは僕しかいないような優越感。でもすぐに陽が隣に座る。
「起こしてくれてもいいじゃんか。和希のばかぁー」
「陽は女じゃないもん」
「あたし胸あるわよ」
「パッド何枚いれてるの?」
「実は三枚いれてまして…ってバカ!」
ケタケタ笑うと陽が軽くつついてきた。
横目で様子をうかがうと夕日の所為か顔全体がオレンジ色だ。綺麗な色。これは陽に言わなくては。
「陽、顔綺麗だよ」
「はぁ?!」
陽はなんかこの世の終わりみたいな顔で僕を見てきた。
前言撤回だ。
しばらくすると夕日はもう沈んでしまって空は薄紫色に染まる。
何を話すこともなくじっと空を眺める、静かな時。
いつまで僕らはこんな風にバカやっていられるんだろう。
いつまでこんなこと覚えてられるんだろう。
なんとなく振り返ると堤防に立て掛けてある近藤さんの斜体がきれいな紫色に染まっていた。
陽がなんども心臓破りね坂を無理して下ったからボロボロになった近藤さん。
ハンドルの紛ってしまった近藤さん。
確証はないけれど近藤さんがあるならずっとこのままでいられる気がする。
陽にまたつつかれた。潮かがもう冷たい。
「和希、あたしねぇ近藤さんは捨てない。何があっても絶対。おばあちゃんになっても乗り回して、ギネスに乗る」
「うん」
どちらからともなく堤防からおりると近藤さんにまたがった。もちろん陽が前で僕が後ろ。
陽の夢はこの心臓破りの坂を僕を乗せて登りきることか(なんかの映画で登りきれたら結婚するとかあったような気がして、内心ドキドキしている)ブレーキを使わずに(というか近藤さんのブレーキはほとんど効かない)坂を下ること。絶対に無理だと思うけど。
「和希、行くよ」
「うん」
持ちにくそうなハンドルを両手で捕まえて、陽はペダルを踏み出した。
近藤さんがギィギィ言いながら前に進む。明日に、進む。
忘れてしまいそうな何かを近藤さんに託しました。




