まだダンスには間に合う
「はぁ〜〜」
領主の館の贅沢な客室は三階。窓側の扉を開けて、ベランダに出る。手摺にもたれて、ため息。
どこからか微かに音楽が流れてくる。爽やかな夜風が心地よい。
浄化が終わった翌日には、お忍びで少し街を歩いてみた。瘴気が満ちた森が浄化されて、街全体でお祝いのお祭り騒ぎで楽しそう。大変だったけど、みんなで頑張ってよかった。それはとってもうれしい。
でも、なんか複雑なの。
街を見ていると、この世界の社会はいろいろときついなと思ってしまう。
ただ、元の世界だって平等な社会ともいい切れないし、わたしが恵まれていただけともいえるのだろうけど。でも、ここではさ、すごく見えちゃうのよ。違いを無意識に探して比較しちゃってるのかもしれない。
まぁね、今の教育状況からみて、民主主義より有能な王様であれば王政のほうが効率的。その方がいいと思う。貴族が幼少期から自分の子どもに教育を施すのももちろんいいと思うよ。そういうのは別にいいよ。
でもねぇ。平民でも優秀な子がいたら、その能力をのばしてほしいと思うじゃない。っていうか、まずはみんな公平にスタートくらいには立たせようよ。
スタートにも立てないっていうのはどうかと思うよ。せめて読み書き、計算くらいはできるようにしようよ。
今日会った子は、孤児院にいる子だった。お勉強大好きで、時間があったら耳で聞いて、文字も神殿で教えてもらって読めるようになったんですって笑顔で言っていた。いろんなこと頑張って、お勉強をしてるの。もう、頭が下がる。
そして、大変でもお勉強ができるってことはすっごく恵まれてるんだよ。そんなことができないところがたくさん。当たり前にある。
ほんとにさー、浄化もするけどさ、町々を回ると、そういうとこも目についちゃうんだよ!
神官長の教育計画、どうなってるかなぁ。
「お疲れですね」
「うん。なんか疲れちゃった。あなたは大丈夫?」
「私はお陰様で。もうお休みになられたほうがよろしいのでは?」
「ふふ。大丈夫。心の疲れですかねぇ〜。いろいろ考えちゃった。こういう時は、思いっきり歌うとか?思いっきり踊るとかがいいのかもね」
「神子さまのお国の歌でもお教え下さい」
「はは。わたし、あまり知らないんだけどね。う〜ん、今の気分では、そうだなぁ。あ、あれ!」
「あれ?」
「ちょうど、今にぴったりかも。特別に歌って進ぜよう」
手を握って、マイクの形。懐かしい曲。あのドラマ、よかったなぁ。
ちゃんと前奏も再現して、歌い出す。
人生いろんなことがあって、思い通りにならなかったり
やるせなかったり むくわれなかったり
どうしようもない時があったりしても
それでも、まだ終わりじゃない。
そんな時があっても諦めなければ、ダンスには間に合う。
そんな歌。まさに、今のわたし。
ぴったりしすぎて、笑っちゃうような、泣けるような。
……なんて思いながら、振りもつけて気持ちよく歌っていたのだけれど。あれ?
「二番なんだっけ?あれ、なんだったっけ。まずい。リピートで延々と続いちゃう」
「では、よろしければ」
エクセルがうやうやしく、手を差し出してきた。
「なに?」
「……踊りませんか?気分転換なさりたいのでは?まだダンスには間に合いますよね?」
ちょっとびっくりした。相変わらずのエクセル?そのまま歌詞をうけとっちゃった?
「え、どうしたの?」
「わたしもいろいろと転換してみたいなと」
「へぇ?」
「ということで。まずは踊りませんか」
そうだね、こういう晩は踊ったほうが楽しいよね。
「うん」といい、手を取る。
「ここで踊るの?」
「広いですから。音楽も聞こえますし」
「ふふふ。いいかもね。ターンとかしちゃうぞ」
「なんなりと。受けて立ちます」
「調子に乗って、浄化以外のことも口出しちゃうぞ」
「よろしいのでは。浄化は単純なものではありませんから」
「え、いやにものわかりよくない?」
「日々鍛えられていますから」
「大変じゃない?」
「たまに神子さまのちょっと外した歌を聞かせていただければ元気がでます」
真顔で冗談をいうエクセルに吹き出しながら、二人でダンス。
適当に動くわたしに涼しい顔であわせてくるエクセル。
と思うと、ふっと片手でわたしを支えたまま腰を落としてくる。
わたしも悪乗りして、身体を反らしちゃったりして。あは。
エクセルも笑ってる。
なんだかんだ、この人も変わってきたなぁ。
うん、今夜はダンスに間に合ったみたいだね。
歌詞を忘れるのもたまには悪くない。




