結婚式でリボンが全部落ちましたが、仲間達が拾ってくれたので無事に王太子妃になれました。
今日はロダン王国の王太子と王太子妃との結婚式。
豪華なベールを着けて、ラード王太子とクラウディア・バセル公爵令嬢はゆっくりと赤い絨毯を進む。
結婚式が終わった時点で、クラウディアは王太子妃に認められる。
今はまだ公爵令嬢だ。
ベールには白の豪華な手編みの大きなリボンと、他に小さなリボンが20個着いていて、とても美しくて。
口々に参列した人々は褒めたたえる。
「さすが、クラウディア様のベール、素晴らしいリボンが着いていますな」
「クラウディア様が妹君レリーナ様と準備した手編みのリボン。亡き母君も喜んでおられることでしょう」
「ああ、なんて美しいリボン」
教会の高窓からは光が降り注ぎ、誰しもが、この結婚を口々に祝福した。
ベレド国王陛下とオリビア王妃も満足げに見守っている。
そんな中、事件が起きたのだ。
ベールに着けていた大きな白いリボン、それがぱさっと落ちた。
クラウディアが歩くたびに、小さなリボンもハラハラと落ちていく。
見守っている人たちが皆、真っ青になった。
某王国で事件があったのだ。
そこの王国は女神レティナを信仰している王国でとある高位貴族の結婚式で、ベールに着けていた花が全て落ちる事件があった。
女神レティナの祝福を受けるにはベールに花を着けて、式を挙げる風習がある某王国。
それなのに、全て花が落ちてしまった結婚は教会に認められなかったのだ。
このロダン王国は女神レティナの信仰はないが、それでもリボン至高王国であるロダン王国。
リボン編みは高位貴族ならず、今や、女性達の間で流行る位に、王国ではブームになっているリボン編み。
そのリボンが全て落ちてしまったのだ。
ラード王太子とクラウディアとのめでたい式の最中にである。
クラウディアは振り返って真っ蒼になった。
隣にいるラード王太子もである。
真っ白なドレスを見に纏った、クラウディアは腰をかがめて、大きなリボンを拾って、
「何故、こんな事が……念入りに縫い付けたはずなのに」
涙がこぼれる。
ラード王太子殿下との結婚を楽しみにしていた。
自分の一番の理解者であるラード王太子。
彼は優しくていつも自分を庇ってくれて。そんな彼に嫁ぐのが嬉しくて嬉しくて。
ラード王太子は慌てたように、クラウディアの背に手を添えて、
「何かの間違いだ。この結婚は正しい」
身を起こして周りを見渡し、
「そうだろう?我がロダン王国は女神レティナを信仰していない。リボンが落ちたのは何かの間違いだ。私の妻はクラウディアしかいない。ベールに細工した者がいるはずだ。必ず真実を明らかにし、この結婚が正しいという事を証明して見せる」
周りの貴族達はざわざわとして、
「でも、リボンが落ちたんだ。なんて縁起が悪い」
「神はクラウディア嬢を認めていないのではないのか?」
レリーナ・バセル公爵令嬢が、クラウディアの傍に寄って来た。
レリーナはクラウディアの義妹で、今回のリボン作りを手伝った張本人だ。
レリーナとクラウディアは血が繋がっていない。レリーナの母親は後妻で、家を追い出されているのだ。
レリーナの仕業ではないかと、人々はレリーナに疑いの目を向けた。
レリーナが真っ蒼な顔をして。
「お義姉様。リボンが落ちるなんて、わたくしは……お義姉様は引き取られて、どうしようもないわたくしの事を導いて面倒を見て下さいました。わたくしはお義姉様こそ、王太子妃にふさわしい方はいないと思っております。わたくしは婚約者マリウスと婚姻し、バセル公爵夫人となった暁にはお義姉様を社交界で支えます」
レリーナの婚約者であるマリウス・リッセル伯爵令息が、
「私はレリーナの婚約者です。犯人はレリーナではありません。レリーナはクラウディア様の結婚式を楽しみにしておりました」
「では誰なんだ?」
「リボンは自分勝手に落ちたりはしないぞ」
「そうだそうだ。クラウディア様はふさわしくないのでは?」
マリウスの母のリッセル女伯爵のシェリアが、
「黙りなさい。このようなめでたい席になんていう事を言うのです。そうでしょう?リンドール公爵夫人」
「そうですわねぇ。せっかくのおめでたい席なのに。皆さん、仲良くすればよいのに」
その時、隣国のユディス皇太子殿下が、進み出て、
「神はこの結婚をお許しになっていないのだ。だからクラウディア嬢。我が帝国へ来ないか?我が帝国ならクラウディア嬢を受け入れ、我が側妃として優遇する準備がある」
オリビア王妃がキレた。
「何故に貴方がここで?クラウディアは我がロダン王国の王太子妃になるのです。もしかして貴方の差し金かしら?この騒動は?」
大騒ぎになった。
そんな中、レリーナは自分の桃色のリボンを取って、クラウディアの手にある白のリボンと共に、ベールに着け直し、
「わたくしはいつでもお義姉様と共にありますわ。これからずっと」
嬉しかった。クラウディアは優しいレリーナの心に癒された。
「有難う。レリーナ」
派閥の令嬢達が床に落ちた小さなリボンを皆で拾って、フェリシア・ミルド伯爵令嬢がクラウディアの傍に近寄り、小さなリボンをピンでベールに留めて、
「私達はいつでもクラウディア様の味方です。ここにいる令嬢達も」
令嬢達はそれぞれ落ちたリボンをクラウディアのベールにピンで留めながら、
フェリシアはクラウディアの手を握り締めて、
「落ちたら私達が拾って留めます。これから先もずっと。ですからクラウディア様。どうか私達の頂点でずっといて下さい。お願いですから。ずっと……」
クラウディアは頷いた。
嬉しかった。皆がわたくしを支えてくれる。
「ええ、貴方達がいてくれるからこそ、わたくしは輝けるわ。有難う。みんな……」
「で、このメイドが薬を使って、リボンに細工したらしいわよ」
突然、見覚えのない美しい金髪の女性と、黒髪の男性が現れ、王宮のメイドを突き出して、その場に転がした。
メイドは涙ながら、首を振り、
「私は知りません。私は知りませんっ」
捕まえて来た男性が、瓶を手にして、
「この瓶をこのメイドが持っていた」
ラード王太子が怒って、
「私の結婚式を妨害するとは、何より愛しのクラウディアを陥れるなんて許せん。誰の差し金だ?今すぐ、白状しろっ!」
メイドの首に剣を突き付けようとした。
メイドは真っ青な顔をして首を振るばかり。
クラウディアが、メイドに近づいて、
「脅されているのかしら。でしたら、貴方の事はわたくしが守ります。ですから話して下さらない?わたくしはこの王国を良い方に導きたい。愛するラード王太子殿下と共に。そのためにも結婚式を無事にすませたいのです」
メイドの手を両手で握り締める。
メイドは震えながら、ユディス皇太子を指さして、
「家族を殺されると脅されて……」
オリビア王妃がユディス皇太子殿下を睨みつける。
「やはり貴方のせいだったのね」
「いやそのあの。私はクラウディアを側妃に貰いたかったんだ。ずっと憧れていたクラウディア」
「今回の事を詳細に調べて、帝国には抗議させて頂きます。厳重に。退出して下さいませ。ユディス皇太子殿下」
ユディス皇太子殿下は、近衛騎士に拘束されて、教会から退出を余儀なくされた。
メイドも騎士達に連れていかれた。
メイドを捕まえて来た男女に向かって、クラウディアとラード王太子は礼を言う。
「有難うございます。助かりましたわ」
「それにしても見かけないな。お前達は」
女性の方は見事な金髪を結っており、薄水色のドレスを着ている。
男性の方は黒髪美男で、女性は男性に愛しそうに腕を絡めて、
「いいのよ。わたくしのやった事を悪用されたので、ちょっと怒っていただけ」
「悪用って……」
女性は両手を上げて、
「女神レティナから祝福を降らせるわ」
教会の天井から花びらが舞い、教会の中をピヨピヨ精霊達がぴいよと鳴きながら飛び回る。
幻想的な光景に貴族達が見惚れていると、
金髪の女性は、
「女神レティナからの祝福よ。できればわたくしを信仰して欲しいわ」
そう言うと、男性と共にキラキラと光って姿を消した。
教会の入り口に立っていた一人の鎧を着た体格のいい男性、ヴォルフレッド騎士団長が、
「女神レティナめ。好き勝手しているな」
と、この男性、以前、女神と喧嘩した経験があるのだ。だから出る言葉なのであろう。
好き勝手して飛び回っている沢山のピヨピヨ精霊を見やってから、その男性も姿を消した。
オリビア王妃が皆に向かって、
「さぁ、式を仕切り直すわ。皆さん、我が息子ラード王太子とクラウディアの結婚を祝って頂戴」
再び結婚式が行われる。
クラウディアはラード王太子と共に幸せを感じるのであった。
そして、レリーナや、フェリシア達に感謝した。
式が終わって、亡き母エレンシアのお墓に、オリビア王妃とラード王太子と共にお参りに訪れた。
クラウディアは母エレンシアのお墓に花を供えながら、
「わたくしは無事に結婚式を終えました。皆様のお陰で助けられましたわ。これからもこのロダン王国の為に精一杯働きます。ですからお母様。見守って下さいね」
オリビア王妃も親友エレンシアに、
「貴方とわたくしが広めたリボン。今や王国中の女性達の嗜みになりましたわ。リボンを編むことを始めたのは、互いに男性に苦しんで来たことから逃げるために始めた趣味でしたわね。でも、今は女性達の結束を固める役目を果たしているリボン。これからもきっとリボンはわたくし達の女性の味方になるでしょう。有難う。エレンシア。リボンを残してくれて」
クラウディアに向かって、
「今は国宝となっているエレンシアのリボン。貴方からリボンを取り上げて悪かったわ」
「いえ、いいのです。国宝となって、時々、お披露目される。母も満足している事でしょう」
ラード王太子がクラウディアの手を取って、
「これからもリボンを王国に広めていこう。私はリボン編みを歓迎しているよ」
「有難うございます。王太子殿下」
幸せだった。
ラード王太子殿下の事は愛している。こうして愛する人と結婚出来た自分はなんて幸せなのであろう。
そして、これからもリボン編みを女性達の間で広めて、結束を固め最高の王国にしていこうと決意するクラウディアであった。




