第五十六話 夢と浪漫を合成せよ
合体そのものは上手くいった。だけどまだまだ、これからがお楽しみである。
私はコンソールに触れると、下半身に装備していたフォトンビーム砲の状態を確認した。
いける。胴体に搭載した高出力ジェネレーターのエネルギーは、プラズマビーム砲とフォトンビーム砲、両方を起動するのに十分な出力を持っている。
そう。
メガフレーム合体はあくまで前座、手段でしかない。本命は、この状態でしかできない、大出力プラズマビームとフォトンビームの同時発射……すなわち、あの合成ビームの再現にこそある。
アームを操作し、フォトンビーム砲をジャッキアップ。胴体右側面に搭載したプラズマビーム砲と同じ高さまで持ち上げると、微調整して両方の射線を重なるように調整した。
ズシン、ズシンと機体が大股を開いて地面に踏み締めるようにして、衝撃に備える。
「それではこれから実験の第二段階に移行する! テレサさんは各種データをしっかりとってくれ!」
『了解しましたー!』
「それでは、実験を開始する。第一射、まずは二つのビームが同時運用できるか確認する。発射まで、あと3、2、1……ゼロ!」
ファイヤー、とトリガーを引き絞る。
プラズマビーム砲が青白い輝きを放ち、フォトンビーム砲が解放型バレルレールの間でバヂバヂと紫電を迸らせた。
そして……発射。
放たれる青とピンクのビーム砲。
その二つは綺麗な並列ラインを描きながら、まっすぐ広場の向こうへと飛んで行った。影響激化スキルによるものか、常であればそれを阻む筈の重金属の濃霧が、逆に超高熱で蒸発して急激に視界が晴れていく。
見晴らしがよくなった視界に光が差し込む。
そして遥か彼方、工業地帯の遠い向こうで、建物か何かに着弾したのだろう。ピンク色と青色の大爆発が起きるのが見えた。
その輝きが消えていくのを横目に、煙を吹いて冷却を開始する砲身に目を向ける。
「発射そのものは順調。各種ステータス……異常なし。エネルギー不足でシャットダウンする事もなし。そっちはどうだ?」
『一瞬、エネルギー供給不足で制御が不安定になりましたけど、問題ありません。ログを確認しましたが、これはエネルギーそのものの不足ではなく、接続箇所の破損によるもののようです。改善は可能です』
うーん。やっぱ火花散らしてドッキング! は浪漫はあるけど機械にはよろしくないか。
次は出来るだけ衝撃を与えずに合体する方法を考えなければ。
まあいい、問題ないならいよいよ本番だ。
二つの大出力ビームを合成させる。果たしてどうなる事か……。
「それでは、実験の第二段階に移行する。安全の為、テレサさんはレコーダーを記録したまま機体から降りてくれ」
『え、でも……』
「いいから。実験の失敗で爆死するなんて馬鹿らしいだろ?」
私の指示に、テレサは困惑しながらも従ってくれた。
下半身のコクピットハッチが開き、ワイヤーリフトで彼女が機体を降りていくのを確認して一安心。いくらAIであっても、女の子の姿をしている存在が爆発で消し飛ぶとか気分がよろしくない。
いや、まだ失敗するとは決まってないけどね? でも制御失敗すると地形が消し飛ぶレベルの爆発を引き起こすからなあ、あれ。
「一端ホームに退避しててくれー」
『了解しました、幸運を祈ります!』
彼女の姿が完全に消えるのを確認し、私はモニターに向き直った。
これで一人だ。気楽でいい。
「じゃあ、ビーム砲の角度を……そうだな、100mくらい先でビームが融合して発射されるためには、角度は……このくらいか。よし、やるぞ」
ビーム砲の角度を調整。冷却が完全に終了するのを待ってから、深呼吸を一つ。
「……いくぞ!」
再び、青とピンクの閃光が放たれる。さっきと違うのは、その二つのビームは少し先で交差するように発射された事だ。
正面モニターの中央、ちょうど視界のど真ん中で、青白いプラズマビームと、ピンクに光るフォトンビームが交錯する。
その瞬間、世界に虹色の輝きが満ちた。
「おぉ……」
モニターを輝かせるのは、オーロラのような虹色の輝き。ビームの交差地点に出来た光の球から、前方に向けて七色に輝く光が噴射されているのが見える。それは、立ち込め始めた霧どころか、周辺の地形、床すらも溶解させながら真っすぐに伸びて……。
メギ、と椅子の下で嫌な音がした。
「あ、お、うわあああ!?」
突如としてモニターの表示がめちゃくちゃにブレる。と同時に、コクピットの視界そのものが二転三転。これは……なんだ、機体が何かに振り回されて……まさか反動で胴体ジョイントが壊れて合体が解除された!?
しかも、まだプラズマビームの照射が終わっていない。胴体だけになった機体にその反動を抑え込む事なんて到底不可能で、鼠花火みたいに滅茶苦茶に機体が転げまわり、何度も何度も体がシートに、目の前のコンソールに叩きつけられる。
え、ちょ。安全ベルトしてても、これは、流石に。
超高速で乱れる画面に、千切れた下半身が一瞬映る。そして、機体が激しく回転しながらそれにつっこんでいって……。
「ぐべぇっ!?」
パイロットのHPバーが全損し、私の視界は真っ暗に閉ざされた。
プレイヤー:ショウ、DEAD。
死因:全身打撲。
◆◆
「強度不足だったかあ……」
『残念でしたね……』
そしてホームに戻ってきて反省会である。
しょんぼりする私に苦笑しながら、テレサはレコーダーの記録を分かりやすく説明してくれた。
『どうやら、合成ビームが発生した時に、二つのビームの相互干渉というか反作用で、それまでとは比較にならないレベルの反動が発生するみたいですね。恐らくこれにジョイントが耐えきれずにへし折れたものかと』
「……安全に合体してジョイントに負担かけなければいける?」
『うーん……数字を見る限り、それでもちょっときついかもしれません。もっと直接的に、機体を固定する必要があるかと』
テレサ先生の駄目だしである。少なくとも数字を確認する限りではそれは事実のようだ。
ちなみに資料には、事故が発生した時の惨状も動画で記録されている。ゲームのスクリーンショット機能的なものを利用したそれは、撮影者の位置を無視して斜め上から惨状の様子が写されていた。
「うわあ。横転したパンジャンドラムみたいになってる……」
『それに巻き込まれて下半身も全損してますね……』
「おうふ……痛い出費だ……」
実験に失敗はつきものだが、そろそろ一回あたりの出費が馬鹿にならなくなってきた。
これまでみたいに総当たりで玉砕して原因を一つずつ潰すなんて事はちょっと難しい。
「しょーがない。とりあえず、今の失敗から得られた事を出来るだけフィードバックするか」
『頑張りましょう! お手伝いします!』
「よろしく頼むよ」
何やら気合を入れますよ、というモーションのテレサに苦笑しつつ、私はカスタマイズ画面を開いた。
さあて。
どう改良しましょうかね……? ふふふ。




