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灰の傭兵と光の園~人型兵器が、泥と血と油の中で唸る。装甲が砕け、信念だけが削れていく~  作者: 青羽 イオ
第十二章 線を奪う者、線を継ぐ者

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第64話 深緑の刃は味方を選ばない

 深緑と黒の影は止まらなかった。


 プラサを沈黙させたあと、ヘル・ファルコンの群れはカルディア陸上艦隊の側面をかすめるように走り抜け、砲撃に集中していた砲兵陣地の横を通りざまに肩越しのバズーカを数発撃ち散らした。


 灰の向こうで、弾薬を積んでいた車両がまとめて炎を噴く。砲列の装填が途切れ、空へ伸びていた火線が急に細った。着弾予定だったUDF前線に、目に見える穴が開く。


〈カルディア砲兵〉『後方で爆発! 誰だ、今の――』


〈指揮所〉『着弾じゃない、後方直撃だ! RFだ、RFが後ろから――!』


 悲鳴はすぐ無線の雑音に飲まれた。


 ヘル・ファルコンたちは振り返らない。砲兵と随伴RFを削りながら弧を描いて進路を変え、戦場中央へ向けて突っ込んでくる。


「こっちに来る」


 レイヴン・アイの高所カメラが、その軌跡を捉えた。


〈リュウ〉『ヘルマーチのRF群、進路変更。カルディア側を踏み荒らしてから、そのままUDF前線に向かってる』


〈ポチ〉『味方識別なし。どっちも敵扱いってことだな』


 VOLKの前方モニタに、深緑と黒のシルエットがいくつもにじむ。カルディアのリミネタイとエクイテスの列を斜めからかすめ、胸板や関節を一撃で潰していく。


〈ヒロ〉『何をしてるつもりだ、あいつらは』


〈アキヒト〉『戦場の掃除だろ。どっちの旗も関係ない。邪魔なものから順番に落としてる』


 アキヒトは言い切ったが、モニタから目を離せなかった。見慣れたRF戦の速さではない。



 ヘル・ファルコンの動きは、明らかに“普通”ではなかった。


 ほとんど滑るように両軍の隙間へ入り込み、刃を振り下ろす瞬間だけ急に加速する。踏み込みと刃のタイミングが外から見ると噛み合っていない。


 見てから防御を考える前に、斬撃が終わっている。


〈リュウ〉『間合いがおかしいな。踏み込みと刃のタイミングが合ってない』


〈ポチ〉『LSLの負荷を振り切ってる。反応に、身体のほうを合わせてる動きだ』


 高負荷の神経リンクで、脳の先走った反射に機体を追従させる。外からは意図の前に動きがあるように見え、短時間で複数機を無力化することだけに最適化されていた。


〈ヒロ〉『あれと正面でやり合うのか』


〈アキヒト〉『やるしかない。やらなきゃ、全部持っていかれる』



 司令部からおよそ2km外側。UDF前線の別区画では、バッファロー3機とスケルトン4機が浅い壕の手前でラインを張っていた。


 灰だらけの視界の中、各機は互いの背中と味方識別灯の点滅だけを頼りに位置を合わせる。


〈バッファロー1〉『前方カルディア機、さっきから動きが薄いな。何かあったか』


〈スケルトン〉『砲撃も減ってる。楽になるなら助かるけど』


 言い終える前に、灰のカーテンを裂いて影が飛び込んできた。


「来る」


 深緑と黒の機体。RF-21H《ヘル・ファルコン》が背中のバズーカを撃ち切ったのか、マウントごと外して地面に捨てる。背部ハードポイントが空になり、腰の左右から高周波ブレードが抜き放たれた。


 脚部スラスターが一度だけ強く噴き、距離が一瞬で詰まる。


〈バッファロー1〉『距離近い! 前のやつ、下がれ、距離を――』


 言葉より早く、一歩目が踏み込まれた。


 バッファローの半身盾が前に出る。その前面をなぞるように、ヘル・ファルコンの刃が滑った。盾とそれを支える腕が肩の付け根からまとめて断ち切られる。切断面から火花と油が吹き出し、バッファローの上体がバランスを失った。


〈バッファロー1〉『腕が――っ!』


 倒れかけた機体を踏み台にするように、ヘル・ファルコンがもう一度スラスターを噴かす。身体をひねり、最も近いスケルトンへ向き直った。


「次」


 無線には乗らない小さな独り言だった。


 スケルトンの胸部カメラブロックに、刃がまっすぐ突き刺さる。細い胸板を貫通し、背中側の装甲を内側から押し割った。


〈スケルトン〉『動きが見え――』


 声が途切れ、機体の灯りが一斉に落ちる。


 ヘル・ファルコンは柄をひねり、そのまま胴体を足で蹴り飛ばした。力なく滑っていく白い機体が、どこからか飛んできた流れ弾を受け止め、灰の上で砕ける。


〈バッファロー2〉『近づかれるな! 距離を取れ、あいつの間合いは――うわああっ!』


 警告の途中でヘル・ファルコンが横薙ぎに移動した。視界の端に残像が走ったと思った瞬間、2機目のバッファローの脚部主要関節がまとめて切り払われていた。


 機体が前のめりに倒れ込む。その背中に、止めの一突きが容赦なく降りた。


 UDFの無線には悲鳴と雑音が混じり合う。


〈歩兵〉『あれは何だ、味方じゃないのか!』


〈別区画バッファロー〉『ヘルマーチだ。番号が見える、RF-21H……くそ、こっちにも来る!』


 ヘル・ファルコンは切り払った残骸を踏み越え、次の標的へ首を巡らせる。負荷も寿命も気にしない。目の前にいるものを順番に無力化していくためだけに、脚と刃を使っていた。


 相手がUDFであろうとカルディアであろうと、同じ速度で。



――次回、第65話「背骨を折る者」へ続く


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