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灰の傭兵と光の園~人型兵器が、泥と血と油の中で唸る。装甲が砕け、信念だけが削れていく~  作者: 青羽 イオ
第十二章 線を奪う者、線を継ぐ者

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第63話 灰を裂く第三の影(機体イラストあり)

挿絵(By みてみん)

 翌日も、レゾナンス施設の前で同じことが繰り返されている。灰でかすんだ空の下、砲声と爆発光だけが時間の境目を曖昧にする。


 塹壕と掩体壕と車体壕で引かれた防衛線の手前では、RFと戦車が混じった列が押し返されかけながら踏ん張り、最前でVOLKのRFが刃を振るっている。


「右、踏む」


 アキヒトのストレイ・カスタムが短くスラスターを噴かす。灰を巻き上げない出力で横へ滑り、目の前をかすめたライフル弾の焼け跡へ、踏み消すように着地した。


 上半身だけをひねり、対面のリミネタイの武器腕に刃を叩き込む。高周波ブレードが装甲の合わせ目に食い込み、ライフルごと肘から先を断ち切った。


「こっちは押さえてる。ガンモ、左側の脚、まだ生きてる」


〈ガンモ〉「了解。盾で抑える」


 横ではガンモの重盾が突進を受け、脇からゴーシュの機体が肩口へショットを撃ち込む。リミネタイの上体がのけぞり、灰の上に崩れた。


 背後にはUDFのバッファローとライオン戦車の列。厚みはわずかに増しても、砲撃とミサイルに削られ続ける構図は変わらない。


〈ヒロ〉「後ろのライン、まだ持たせる。ここを越えさせなければいい」


 ヒロ機の刃が別のエクイテスの脚を払う。カルディア側も損耗はしているが、第三世代機の列は数を減らしながら射程を詰め、両軍ともこれ以上下がれない位置で噛み合っていた。会戦は最初から、最激戦の密度で始まっている。



「新しい反応」


 そのころ、グレイランスのブリッジでセンサー席の声が上ずった。


「距離80km。灰霧の外側。RF群と思われる反応が接近中。数は20機以上」


 ジルが端末に身を乗り出し、表示を切り替える。


「IFF不明」


「はい。カルディア、UDFともに照合なし」


 灰の向こう、細かな光点が列を作って進む。速度は速く、地表ぎりぎりをなぞる軌跡だった。


「進路」


「戦場中央へ直進。このままだと両軍の交戦正面に割り込みます」


 艦長席のヴァイスが肘掛けに組んだ手で顎をなぞる。


「所属不明のまま突っ込むか。まともな部隊ではないな」


「UDF前線司令部に照会を」


「もう飛ばしてる」


 通信士官が短く答え、すぐ続けた。


「返答あり。『増援の予定はない。こちらの部隊ではない』とのことです」


 一拍置いて、士官は別のパネルへ視線を移す。


「カルディア側の傍受回線も混乱しています。『正体不明のRF群が接近中』『UDFとも型が合わない』との報告です」


 ヴァイスが肩をすくめる。


「どっちの味方でもないなら、なおさら厄介だ」



 同じ頃。


 カルディア艦隊旗艦、コムネノス級陸上戦艦パレオロゴスの戦術表示にも、同じ光点が浮かんでいた。


〈センサー〉『未確認RF群、南西から接近。推定数20。IFF反応なし』


〈艦隊司令部〉『味方の予定戦力と照合しろ』


〈作戦幕僚〉『地上・艦隊ともに該当増援なし。予定外戦力です』


〈陸戦指揮〉『UDFの遊撃かもしれん。だが、この数を隠していたなら、とっくに出している』


〈作戦幕僚〉『規模と接近コースから見て、どちらの所属とも考えにくい。第三勢力とみなすべきでしょう』


 灰霧の上で、判断だけが遅れていく。



 画面が切り替わる。


 灰色の地平線を、低い姿勢の影がいくつも駆けていた。

 深緑と黒で塗り分けられたRF-21H《ヘル・ファルコン》の群れが、背中に大型バズーカを抱えたまま灰を蹴り、脚部スラスターを短く噴かして滑り込むように突き進む。


 頭上ではカルディア艦隊の砲弾とミサイルが、UDF防衛線へ飛び交っていた。ヘル・ファルコンたちは弾幕の下を別の戦争の手つきで抜ける。


 進路は両軍の正面ではない。カルディア陸上艦隊の側面へ回り込むように、大きく曲がっていく。


「目標、右側の陸上巡洋艦列」


 ヘルマーチ隊長機の声が短く全機に流れる。


「砲を黙らせろ」


 列がさらに速度を上げた。



 カルディア陸上巡洋艦、レムノス級5番艦プラサはいつも通り砲撃戦を続けていた。上部構造物に並んだ中口径砲がリズムよく火を吹き、砲塔が旋回して装填完了灯が緑へ変わるたび、火線が伸びる。


 艦橋では薄暗い照明の下、照準と航法表示が淡く乗組員の顔を照らしていた。


〈砲術長〉『前方バッファロー列、右から3番区画。目標変更、撃て』


〈航海士〉『進路維持。このまま支援コースを――』


 その時、灰霧の下から別の火線が走った。



 ヘル・ファルコンの1機が灰の帳を突き破るように跳び上がる。脚部スラスター全開で地表から斜め上へ飛び出し、跳躍の頂点で機体が半回転した。肩越しに担いだバズーカが、ちょうどプラサの側面を捉える角度に収まる。


「1射目」


 引き金。


 重い弾頭が灰を裂いて一直線に飛び、レムノス級の側面装甲に突き刺さって外装と内部区画をまとめて貫通した。遅れて艦体側面から火柱が吹き出し、艦橋の床が揺れる。


〈艦橋〉『何だ――側面命中! 火災発生、2番区画!』


〈プラサ〉『こちらプラサ! 正体不明RFからの攻撃を受けている! 繰り返す、正体不明――』


 報告の途中で、艦内警報が無線の向こうに混じる。


〈艦隊司令部〉『RF? UDFではないのか』


〈プラサ〉『塗装、シルエットともにUDFとは一致しません! 脚部スラスターの配置も――っ!』


 ノイズが走る。艦橋の天井から火花が散り、誰かの声が警報にかき消された。



「2射目」


 ヘル・ファルコンは反動で崩しかけた姿勢をスラスターで立て直し、照準を上げる。狙いはプラサ主砲塔の付け根。


 発射。


 弾頭が砲塔基部に命中した瞬間、主砲塔が根元から持ち上がる。内部の装薬と弾が誘爆し、火柱が砲塔ごと空へ吹き上がった。火は近くの弾薬庫にも食いつき、艦橋ブロックの窓から赤い光が一気に溢れた。


 次の瞬間、プラサ全体が内側から破れ目を作るように爆発する。砲塔が横倒しになって甲板を転がり、上部構造物の一部が空へ投げ出された。巨大な艦体が灰の地平線でぐらりと傾き、そのまま動きを止める。



 その閃光は、前線で戦っていたVOLKのコクピットからも見えた。


〈リュウ〉『今の爆発、カルディアの艦か』


 上空映像を追っていたレイヴン・アイの視界に、炎と黒煙を上げる艦影が映る。


〈ポチ〉『レムノス級1隻、完全に沈黙。撃ったのは、あれか』


 灰の下を滑るように走る深緑と黒の影が、別の方向へ進路を変えていた。


〈ヒロ〉『UDFの援護じゃないな』


〈アキヒト〉『どっちにしても、ろくな連中じゃない』


 動きから目を離さない。



〈カルディア艦隊〉『こちらプラサ……応答なし。映像も途絶』


〈艦隊司令部〉『損害判定』


〈カルディア偵察〉『5番艦プラサ、大規模爆発を確認。砲塔と艦橋ブロックを喪失。沈黙しました』


 報告の間にも、深緑と黒の影は次の標的へ走り出す。灰を蹴る脚、低い姿勢のまま滑るような加速。


 その動きはUDFでもカルディアでもない、第三の戦場のやり方だった。


――次回、第64話「深緑の刃は味方を選ばない」へ続く


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