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灰の傭兵と光の園~人型兵器が、泥と血と油の中で唸る。装甲が砕け、信念だけが削れていく~  作者: 青羽 イオ
第十一章 灰の線を引く者たち

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第61話(前編)楔の先端

 灰の地平線で、巨大な影が何度もぶつかり合っていた。


 レゾナンス防衛線――UDFのバッファローとライオンが守る防衛ライン。その前方へ、クレイブアクト側の傭兵部隊VOLKが楔形に張り出していた。防衛線の盾となり、敵の先頭を削るためだ。


 楔の先端にアキヒトのストレイ・カスタムと、ヒロのヴァルケンストームの2機。両翼にゴーシュのブルロアーと、ガンモのバッド・バンカーが控える。

 少し後ろの高所にリュウのレイヴン・アイ、さらに陰になった場所にポチのブレイン・モール。


 6機で楔を作り、前の2機が受け、左右が支え、後方が狙撃と妨害で押し返す。


 灰の上にはスラスターの熱が残り、空気が揺れて遠くの輪郭が歪んでいた。


 カルディアのRF-07K《リミネタイ》が列を崩さず突っ込んでくる。その間に、ひと回り細く滑らかな外装をまとったRF-17K《エクイテス》が混じっていた。

 背中のスラスターが低く唸り、腰に固定したブレードが留め具ごと揺れる。


〈カルディア回線〉「前線、反応確認。楔の先にVOLK。前にRF-17系2機、盾とブレード持ち。左右に重い装備。後方に長い銃、さらに低出力の妨害。電子戦もいる」


〈カルディア回線〉「来たか。UDF狩りの手が止まるな」


〈カルディア回線〉「焦るな。いつもどおりだ。まず脚か腕から落とせ。正面から突っ込む相手じゃない」


〈ヒロ〉「前衛、受けるぞ。来る」


 ヴァルケンストームが盾を半身に構え、ストレイ・カスタムと肩を並べる。隣でアキヒト機が短く噴き、背中のスラスターが一瞬だけ明るくなって白い排気が尾を引いた。


 操縦入力が素直に返る。アキヒトは一度踏み込んで構えを低くし、重心を沈めてからさらに深く踏み込んだ。2度目と同時に補助スラスターが唸る――アキヒト独特の2度踏みだ。


〈カルディア回線〉「敵先頭右、17系。2段で入ってくる。追うな。射線だけ確保しろ」


〈カルディア回線〉「了解。脚の関節だけ狙う」


 目の前にリミネタイの膝装甲が迫る。ストレイ・カスタムのブレードが斜めに走り、膝の縁をえぐった。火花と金属片が散り、脚を斬られたリミネタイが前のめりに崩れる。


 ストレイ・カスタムは懐へ滑り込み、落ちてくる巨体を肩でいなしながら胸部装甲の中央――コクピットの縁へブレードを突き立てた。短く捻ると、装甲板の隙間から炎と煙が吹き出し、リミネタイは沈み込む。


〈カルディア回線〉「コクピット周りを割った可能性。迷いがない。近接は距離を取れ」


〈アキヒト〉「1機、撃破」


 すれ違いざまに機体を横へ流す。背面スラスターがわずかに吹き、位置がずれる。直後、エクイテスのライフル弾がかすめ、さっきまでストレイ・カスタムがいた空間を切り裂いた。


 横でヴァルケンストームが盾を前へ出す。正面で受けず、角度をつけて弾を逸らし、足首のバーニアで姿勢だけ微調整する。


〈カルディア回線〉「盾が弾を逸らす。当てるな。逃げ道を削れ」


〈カルディア回線〉「前の2機、動きが落ちない。交代で回してるな」


〈ヒロ〉「腕を落とせ。武器を潰す」


 盾の影からトンファーが振り抜かれ、リミネタイの腕に叩きつけられる。関節の外装ごと打ち抜かれた腕がぶら下がり、銃口からこぼれた弾が灰の上に散った。


〈カルディア回線〉「関節狙い。撃破じゃない。止めに来てる」


〈カルディア回線〉「後ろを生かす戦い方だ。UDFに撃たせる気だな」


〈ゴーシュ〉「ヒロ、頭どけろ!」


〈ヒロ〉「了解」


 ヴァルケンストームが一瞬だけ身を沈める。その頭越しにブルロアーの肩部キャノンが火を噴いた。短く絞った一発が、腕をもがれたリミネタイの頭部を撃ち抜き、ヘッドユニットが崩れ落ちる。機体は後ろへ倒れ込み、灰の中に沈んだ。


〈カルディア回線〉「今の射線、味方の頭上を抜いた。連携が出来上がってる」


〈カルディア回線〉「前線の空気が変わった。UDFが撃ち返し始めてる。VOLKが壁になった」


〈ゴーシュ〉「1機、撃破だ!」


 左側では、バッド・バンカーが巨大な盾を突き立て、エクイテスのブレードを受け止めていた。金属同士が擦れ、接触面から火花が散る。盾の裏の温度警告バーが伸びていく。


〈ガンモ〉「まだ来るのかよ」


 盾のすき間から短い機関銃が火を噴き、肩関節を撃たれたエクイテスの動きが一瞬止まる。


〈カルディア回線〉「止まった。詰めるな。そこは落とされる」


〈カルディア回線〉「間隔を保て。穴だけ埋めろ。前へ寄せすぎるな」


 その瞬間を逃さず、盾の陰からパイルバンカーが突き出された。肩口の継ぎ目へ打ち込まれ、装甲を裂きながら押し上げる。続けて、盾ごと体重を乗せて捻ると、ヘッドユニットの根元で硬い音がひとつ途切れた。割れ目から火花と破片が散り、機体は前のめりに崩れ落ちる。


〈ガンモ〉「1機、落とした!」


〈アキヒト〉「右にもう1機。止めを刺す」


 ストレイ・カスタムが再び2度踏みで前へ飛ぶ。足元にはさっき貫いた残骸が横たわり、その胴体を一瞬踏み台にして高さを稼ぐ。足裏のスラスターがひと噴きし、灰が大きく跳ねた。


 視界いっぱいに別のリミネタイの上半身が迫る。踏み込んだ勢いのまま胸部装甲の中央を横薙ぎに切り、崩れかけたところへ追い打ちでブレードをコクピットへ突き込む。計器の光が乱れて消え、リミネタイは煙を上げながら、うつ伏せに沈んだ。


 背中の警告灯が点り、冷却フィンが自動で少し開く。灰まじりの外気が吸い込まれ、背中から薄い白が吐かれた。


 その向こうでも、エクイテスの列は崩れず前へ出てくる。


〈カルディア回線〉「列が崩れない。落ちても詰めない。押し方が整ってる」


〈カルディア回線〉「相手がVOLKでも、手順は変えるな。焦るな。引き際だけは揃えろ」


 後方の高所では、レイヴン・アイが長い銃身を据えていた。砲声とスラスター音と無線のノイズが重なる中で、狙撃席だけが一定の間合いを保っている。


〈リュウ〉「前から3列目、右端のエクイテス。コクピットを抜く」


 一発。細い閃光のあと、エクイテスの頭部から胸にかけての装甲がはじけ、内部で短く炎が上がる。機体は力を失い、周りにぶつかりながら横倒しになった。


〈リュウ〉「次、その左隣。敵の指揮機体だ。頭をもらう」


 もう一発。弾はヘッドユニットのつなぎ目を貫き、後頭部側の装甲を吹き飛ばす。首を折られたように崩れた機体に押され、後続がよろめく。隊列のリズムが一瞬だけ乱れた。


〈ポチ〉「今の2機、前列の間隔を合わせてたやつ。落ちた分、前の密度も下がる」


 低い地形の陰で、ブレイン・モールから飛んだ小さなドローンが灰のすぐ上をはうように走り、赤外線の偽装熱源と薄い煙幕をばらまいていく。


〈ヒロ〉「こっちは削ってるのに、UDF側の防衛線が持たない」


 視界の端に、UDFの防衛ラインが見える。横倒しのバッファロー、胴体を砕かれたスケルトン、まだくすぶる火と煙。風に乗って焦げた匂いが断続的に届く。


〈ゴーシュ〉「俺らの装甲と盾ならまだ行けるが、量産バッファローじゃ正面からはきついな。向こうは第三世代を前線に並べてきてる」


〈ポチ〉「カルディア前衛のエクイテス群、性能はUDFのファルコンと同格。ただ数で上回られてる。UDFは第二世代が主力。撃ち合えば、先に崩れるのはUDFのバッファローだ」


〈リュウ〉「向こうも、こっちに合わせて動きが変わってる。UDFを押し潰すだけの動きじゃないな」


〈ヒロ〉「プロの数で押してきてる、ってことか」


〈アキヒト〉「だから、こっちが前に出てる。UDFとの臨時契約だ。防衛線の前を埋めろ。そういう条件でな」


 ストレイ・カスタムのカメラが一瞬だけ背後を振る。灰色の地面に、塹壕と砲列で引いた一本の防衛ライン。そのすぐ後ろにバッファローとライオンの列、さらに向こうにレゾナンス施設へ降りる出入口と臨時司令部のコンテナ群が固まって並んでいた。


 補給と応急修理の灯りが点々と続く。搬送車が止まり、弾薬箱が開き、整備兵が次の機体を呼ぶ。短い時間だけ開く穴を埋める動きが途切れない。


〈カルディア回線〉「また前が入れ替わった。戻って補給して、同じ形で出てくる」


〈カルディア回線〉「削り切れない相手だ。焦って突っ込むと、こっちが先に欠ける」


 カルディアの弾が何度もVOLKの装甲に当たり、跳ね、弾かれる。盾の陰のUDFバッファローは、そのあいだに砲身を振り直し、遅れて反撃を返した。砲撃のたびに排煙が吹き、空気が揺れる。


〈ゴーシュ〉「ここで倒れんなよ」


〈ヒロ〉「分かってる!」


 ヴァルケンストームがさらに一歩前へ出て、防衛ラインをなぞるように盾をかざした。その背中を塹壕の縁から歩兵が見上げ、対RFロケットを抱えた兵士がリミネタイの関節へ一発撃ち込む。


 ロケット弾が関節装甲に刺さり、爆炎が上がる。脚をもがれたリミネタイが前に倒れ込み、その陰にいた別の兵が灰を蹴って別の壕へ飛び込んだ。


〈ポチ〉「歩兵が2体目撃破。でも位置もバレた。撃ち返されてる」


 カルディア側の胸部機銃が塹壕の縁を掃く。土と砂と破片が舞い、さっきまでいた兵がその場で崩れ落ちる。別回線で短い悲鳴が入り、途中で途切れた。


 VOLKは前に張り出したまま、攻撃の矢面を受け続けていた。


――次回、第62話(後編)「楔の先端」へ続く

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