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灰の傭兵と光の園~人型兵器が、泥と血と油の中で唸る。装甲が砕け、信念だけが削れていく~  作者: 青羽 イオ
第十一章 灰の線を引く者たち

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第60話 傭兵契約、レゾナンス防衛線へ(メカイラスト)

挿絵(By みてみん)

 戦闘3日目の夜。レゾナンス施設のそばに設けられたUDF前線司令部の仮設オペルームは、薄暗いコンテナへ機材と人員を押し込んだだけの粗末なものだった。


 壁一面のモニタには、カルディア艦隊の配置と自軍の損耗が並ぶ。赤い線は下がり続け、青い味方マーカーは消えるたびに灰色へ落ちていった。


「第8歩兵連隊、戦闘可能率56%。スケルトン前衛、稼働機は40%を下回りました」


 セーブルは数字を受け止め、暗号回線用の端末へ手を伸ばす。


「回線3、開け。クレイブアクトの契約線だ。グレイランスはこの戦域の外周にいるはずだろ」


「はい。暗号層、展開します」


 短い電子音のあと、ヘッドセットに呼び出し音が入った。


 背後からベルナドット准将が近づき、モニタを見上げる。


「セーブル」


「はい」


「遠慮はいらん。金は後でどうにかすると、向こうに伝えろ」


 ベルナドットの声は乾いていたが、言葉は迷いがなかった。


「ここを抜かれたら、後ろはあの施設だけだ。条約も予算も後でいい。まず、ここで止める」


 回線がつながる軽い音がした。


〈セーブル〉『こちらUDFレゾナンス臨時防衛軍、前線指揮所。担当はセーブル少佐。そちらは』


〈クレイブアクト契約窓口〉『こちらクレイブアクト契約窓口、陸上戦艦グレイランス。暗号認証完了。回線は安全域です。要件をどうぞ』


 落ち着いた女の声だった。現場の手順を熟知した、淡々とした口調が耳に届く。


〈セーブル〉『傭兵部隊の増援を要請したい。レゾナンス臨時防衛軍の前線へ、そちらのRF部隊を出してもらいたい。条件は通常の傭兵契約に危険度A相当の加算。報酬は全額、UDF側で負担する』


 端末の向こうで、短い沈黙が落ちる。


〈クレイブアクト契約窓口〉『現在、そちらの戦況は?』


〈セーブル〉『UDF単独では、いずれ押し切られる』


 セーブルはモニタの艦隊シンボルを見上げたまま続ける。


〈セーブル〉『カルディアはコムネノス級旗艦パレオロゴスと、レムノス級陸上巡洋艦4隻。RF-17K<i(エクイテス)とRF-07K《リミネタイ》を中核にしたRF2個大隊、それに攻撃ヘリ中隊つきだ』


 こちらの戦力も隠さない。


〈セーブル〉『こっちはRF-06《バッファロー》、ST-09《スケルトン》、M6A1《ライオン》、RF-21《ファルコン》をかき集めて防衛線を維持しているが、限界に近い』


 ベルナドットがマイクへ身を寄せる。


〈ベルナドット〉『ベルナドットだ。司令官として保証しよう。これは正式な依頼であり、支払いも公的に処理する。書類が間に合わん分は、私が責任を負う』


〈クレイブアクト契約窓口〉『ずいぶんと、追い詰められているようですね、准将』


〈ベルナドット〉『追い詰められているとも。だからこそ傭兵を呼ぶ。ここまでしてでも、守らなきゃならん施設だ』


 セーブルはベルナドットの横顔を見て、視線をモニタへ戻す。施設の中身は知らない。ただ、線が折れた先で何が起きるかは想像がついた。


〈クレイブアクト契約窓口〉『了解しました。艦内で協議の上、折り返します』


 通信が切れ、暗号回線のランプが赤から黄に変わる。


「少佐」


 オペレーターが不安そうにこちらを見た。


「本当に、来てくれると思いますか?」


「来てもらうしかない」


 セーブルは短く返す。


「これ以上、前線の穴を生身の人間で埋めるわけにはいかん」


 損耗グラフの赤い線が、セーブルの視界の端で静かに更新され続けていた。



 同じ頃。陸上戦艦グレイランスの作戦室でも、同じ戦場がスクリーンに映っていた。カルディア艦隊とUDF防衛線、そして問題の「施設」を示すマーカーが、同じ座標に並んでいる。


「UDFからの正式依頼だ」


 ジルがタブレットを机に置き、集まった顔ぶれを見渡した。


「レゾナンス臨時防衛軍前線への増援要請。条件は通常契約に危険加算つき。報酬はUDF負担。ベルナドット准将が個人名義でも保証すると明言してる」


「UDFがそこまでして守る“施設”に、カルディアが艦隊を投じて取りに来ている、ってわけか」


 ヴァイスが椅子の背にもたれ、地図を眺める。


「どちらの味方をするか、って話じゃないですね」


 アークが、地図上の一点を指で示した。


「この施設が誰の手に残るか。カルディアに渡ったあと、何が起きるか。そこをどう見るか、です」


「カルディアは、手に入れたものを自分たちの色に塗り直す連中だ」


 ヴァイスは白帯のマーカーへ視線を滑らせる。


「施設が白帯や避難路にとって毒だった場合、先に火の粉をかぶるのは俺たちが守ってる連中だ。UDFも信用できる相手じゃないが、少なくとも今は白を維持する側にいる。カルディアよりは、まだましだ」


「艦としては、どう見る?」


 ジルが確認すると、ヴァイスは即答した。


「施設をカルディアに渡したあとのほうが厄介だ。今はUDF側につく。あいつらが勝手にレゾの道具を振り回して、白帯に火の粉を飛ばすのはごめんだ」


「妥当ですね」


「俺も同感だ」


 ヴァイスは艦内通話の端末を取る。


〈ヴァイス〉『こちらヴァイス。グレイランス所属RF、出撃準備に入れ。契約先はUDF。任務はレゾナンス防衛線への増援だ』


 スピーカーから短い了解がいくつも重なった。


「ジル、配置案を。アークはカルディア側の動きをもう一度洗え。施設の正体は後回しでいい。今はここでカルディアを止める。それが俺たちの仕事だ」


 スクリーンの上で、グレイランス所属のRFアイコンが前線に向けて順に点灯する。


 こうしてクレイブアクトは、UDF側に肩を貸すことを選んだ。


――次回、第61話(前編)「楔の先端」へ続く

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