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灰の傭兵と光の園~人型兵器が、泥と血と油の中で唸る。装甲が砕け、信念だけが削れていく~  作者: 青羽 イオ
第十一章 灰の線を引く者たち

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第58話 攻撃ヘリ来襲、灰空の攻防

 昼が近づいても、灰に覆われた空はほとんど明るくならなかった。

 砲声とRFの脚音に混じって、低い唸りが降ってくる。


「今の音、聞こえたか」


 第8歩兵連隊の塹壕で、誰かが顔を上げる。砲声ともRFの脚音とも違う。


「ローターだ。ヘリが来るぞ」


 同じ頃、UDF司令部でも警告音が高く鳴った。


「上空に反応多数、東から接近——カルディアの攻撃ヘリ、2個中隊を確認。数16!」


「昼前に航空戦力まで出してきたか」


 戦術士官がモニターのマーカーを睨みつける。カルディアの攻撃ヘリ、AH-15K《アロゴ》だ。細い機体に双発エンジンを積んだ黒い機影が、編隊を組んで戦場上空へ滑り込んでくる。


 アロゴ1のコクピットで、パイロットが短く言った。


〈アロゴ1〉『ここも灰か。どこを飛んでも同じだ。だが、やることは同じだ』


〈射手〉『目標、UDF戦車群。ロックオン』


〈アロゴ1〉『アロゴ1〜4、高度維持。対地ミサイルは戦車を最優先で叩け』


 灰雲の切れ間から黒い機影がいくつも顔を出す。腹部のハードポイントにミサイルとロケットポッドを吊ったアロゴが、戦場の上をなめるように進入してきた。


 戦車陣地では、M6A1《ライオン》の車長が無線に叫ぶ。


「ヘリだ、頭上にいるぞ!」


「ライオン1〜4、散開しろ! 固まるな!」


 命令より先に、空からの影が撃つ。


〈アロゴ1〉『フォックス2』


 翼下から滑り出した対地ミサイルが、細い煙の筋を描いてライオン戦車の頭上へ伸びていく。


「退避!」


 叫びと同時に、一両のライオンの砲塔が真上から叩かれた。薄い天板装甲を焼き抜かれ、内部で爆発が重なる。車体が大きく跳ね、そのまま黒い煙を噴きながら動かなくなった。


「ライオン3、沈黙! 撃破されました!」


〈射手〉『一両撃破。対地支援を継続する――』


 アロゴ1の射手は淡々と次の目標を拾う。


 一方、別の編隊は砲兵陣地とスケルトンの防衛線を狙っていた。


〈アロゴ5〉『アロゴ5〜8、ロケット弾照準完了。目標、砲兵線と軽RF。まとめて叩け』


〈アロゴ7〉『了解。目標F〜Hを狙う』


 灰を裂いて、ロケット弾が束になって降り注ぐ。


「上からかよ!」


 スケルトンが空を仰いだ瞬間、軽装甲を抜かれ、機体ごと爆炎に飲み込まれた。


「スケルトン、さらに十数機ロスト! 上空からの攻撃にスケルトンではなすすべがありません!」


 UDF司令部への報告が、ほとんど悲鳴に近くなる。簡易装甲のスケルトンは、上空からの攻撃には脆かった。


「動く棺桶と呼ばれるわけだ」


 第8歩兵連隊の塹壕の底で、誰かが低く言い、身を低くする。頭上の空をかすめるローター音が途切れない。


「司令部より全隊へ。攻撃ヘリを優先目標とする。対空攻撃が可能なユニットは、射程に入り次第、攻撃ヘリを撃ち落とせ」


 司令部からの無線が、戦場全体に流れる。


「対空班、ヘリをマーク。対空ミサイル、発射用意」


 ポートランスの甲板上で、対空砲塔が一斉に空へ向いた。短いカウントのあと、ミサイルが灰色の空へ飛び上がる。


「発射!」


 白い軌跡がローター音の方へ伸び、アロゴの一機が慌ててバンクを取って高度を削った。


〈アロゴ2〉『対空ミサイルを確認 ブレイク!ブレイク――!』


 間に合わない。ミサイルの光がアロゴ2の横腹で弾け、炎をまとった機体がローターを千切られながら回転し、灰の平原へ墜ちていった。


「一機撃墜を確認! まだいる、続けて撃て!」


 対空班の歓声は、すぐ別の報告にかき消される。


「高度を落としたヘリが、砲とミサイルの死角に潜り込んでます! 艦の対空砲では追えません!」


 戦車陣地では、別の対処が始まっていた。


「ファルコン、上を撃てるやつはいるか!」


 バッファロー隊長の叫びに、ファルコンのパイロットの一人が短く応じる。


「こちらファルコン3、対空射角をとれる。やってみる」


 ファルコン3が膝を落として空を仰ぎ、手にしたライフルを限界まで上へ向ける。


「距離700、高度200。近いな」


 コクピットで照準を合わせていると、モニターの隅に黒い影が横切った。


「今だ」


 引き金を絞る。高角度で放たれた弾がアロゴの腹部装甲に噛みつき、ローター軸の近くで金属片が飛び散った。ヘリが不自然に傾く。


〈アロゴ6〉『制御が——っ!』


 機体が横滑りし、そのまま地面に叩きつけられた。


「一機、墜ちたぞ!」


 誰かが声を上げるが、すぐにハンセン軍曹の怒号が被さる。


「上を見てる暇はない! 頭を下げろ、次が来る!」


 崩れた建物の影では、歩兵たちも別の攻撃ヘリを狙っていた。


「対空ミサイル持ち、どこだ!」


 少し離れた塹壕の端で、若い兵が肩に担いだ発射筒を掲げる。


「ここにいる! 一発だけだが!」


 携帯式対空ミサイルを担いだ兵と、誘導役の二人が身を寄せ合い、担いだ兵が空の動きを追う。


「今撃てば、陣地ごと焼かれる。通り過ぎてから、やつの尻を追え」


 アロゴの一機が低高度で砲兵陣地をなめるように通り過ぎる。ローター風が、灰と布切れを巻き上げた。


「今だ、撃て!」


 トリガーが引かれ、ミサイルが肩から飛び出す。熱源を追った弾が、旋回に移ろうとしたアロゴの尾部に食いついた。


〈アロゴ9〉『テイルローターが——!』


 尾翼を吹き飛ばされたヘリがその場で回転し、黒い点になって地面へ落ちていく。


「やった!」


 兵が身を起こしかけたところを、隣の男が引きずり戻した。


「喜ぶのはあとだ」


 空の上では、攻撃ヘリたちも損害を数えていた。


〈アロゴ1〉『三機が撃墜されたか。補給のために一度離脱するぞ、再度の攻撃は補給の後だ』


〈アロゴ5〉『了解』


 カルディアの攻撃ヘリは、完全には撤退しなかった。ポートランスの対空火器とファルコンの高角射撃、歩兵の対空ミサイルは、彼らを「同じ空域に長く留まらせない」だけだ。


「空までは取れない、か」


 UDF司令部で誰かが言う。


「いい。上を好きにさせなければ、それで十分だ。各隊、ヘリが離れた隙に態勢を立て直せ」


 灰に覆われた空で、ローター音が遠ざかり、また別の方向から戻ってくる。互いに長く顔を出さない距離を測り合いながら、地上の戦いはなおも続いていた。


――次回、第59話「灰平原、終わらない消耗戦」へ続く

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