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灰の傭兵と光の園~人型兵器が、泥と血と油の中で唸る。装甲が砕け、信念だけが削れていく~  作者: 青羽 イオ
第二章 守る者たち

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第5話 前編 VOLK隊の帰艦

 グレイランスの着艦デッキ誘導員には、夜の甲板に並ぶ灯りが艦の縁まで届いて見えた。舞い上がった細かな灰が光を受けて、かすかに瞬く。


 後部の着艦ハッチが重い音を立てて上下に割れ、開ききった瞬間、誘導灯が一度だけ強く点滅した。


〈着艦管制〉「受け入れ順――VOLK-4、VOLK-5、VOLK-6。……VOLK-4、進入許可」

〈ガンモ〉「VOLK-4、ガンモ。了解」


 灰霧の向こうからVOLK-4が姿を現す。強めの逆噴射で速度を落とし、そのままハッチ内へ滑り込んだ。


 停止マーク手前で再噴射。速度が一気に削られ、脚柱が深く沈む。低いきしみ音が走り、甲板の振動が靴裏を叩いた。


整備班( )(ハッチ)〉「ばっかやろー、甲板が泣くぞ! もっとやさしく置け!」


〈着艦管制〉「VOLK-4、停止良し。……VOLK-5、入れ」

〈ポチ〉「VOLK-5、ポチ。了解」


 続いてVOLK-5。噴射は抑え気味で、姿勢も大きくは揺れない。停止マーク上で一度だけ小さく上下し、そのまま膝を沈めて止まった。


整備班( )(ハッチ)〉「おい、関節部が摩耗するだろうが!」


〈着艦管制〉「VOLK-5、良し。……VOLK-6、進入許可」

〈ヒロ〉「VOLK-6、ヒロ。入る」


 最後にVOLK-6が進入する。余計な操作を挟むこともなく、夜光のラインに沿ってゆっくりと、でも一定の速度のまま進入していく。

 短い噴射でそっと速度を殺し、膝関節を静かに沈める。甲板に伝わる衝撃はわずかで、誘導員の足元が揺れることもなく、静かに着艦が完了した。


整備班( )(ハッチ)〉「他の連中もVOLK-6を見習え!」


〈着艦管制〉「3機、着艦完了。各機は誘導に従い、直ちに指定ラックへ」


 係止表示が緑に変わる。甲板員の誘導棒が進行方向を指し、床の誘導線が淡く点灯した。


 3機は灯りの中をゆっくり格納区へ向かい、やがて着艦デッキから姿を消す。



 防爆シャッターが上がり、移送通路の奥から重い足音が近づく。振動に合わせて格納区のざわめきが膨らみ、梁の照明がかすかに揺れた。


 油と灰に濡れた床の上を導光ラインが伸び、避難列と整備通路を静かに分けていく。黄色いラインの内側で、誘導員が棒灯を振り、巨体を一機ずつハンガーの枠へ導いていた。


「係留ライン、急げ!」


 咳き込みながらも手は止まらない。白枠に脚を合わせるたび、デッキがわずかに沈み、鈍い振動が足裏に返る。


 先頭で戻ってきたVOLK-4、RF-08GD( )《バッド・バンカー》が梁の下をくぐり、指定番号のハンガーベイへ身を滑り込ませた。前面には分厚い装甲の張り出しがあり、擦れた塗装の下から注意色の帯がのぞく。灰をかぶって、さらに無骨に見えた。


 膝を落とすと、側面の係留アームが横からせり出し、腰と肩を挟み込む。ロックピンが噛み、固定ランプが静かに点灯する。


 その後ろから、VOLK-5、RF-12AP( )《ブレイン・モール》が回頭しながら別の枠へ収まっていく。束ねたサーチライトに、重ね貼りのステッカーがやたらと賑やかだ。


 足裏の駆動音が短く響き、機体が所定位置で静止する。直後、天井のクレーンがフックを下ろし、背中の吊り金具に正確に掛かった。


「お〜、久しぶりの我が家だぜ!」

「配線いじってねぇだろうな!」


 いつもの軽口に、整備兵たちから笑いがこぼれる。冗談が飛び交うほど、硬かった空気がほどけていく。


 その後方から、VOLK-6、RF-17C( )《ヴァルケンストーム》がゆっくり進入してくる。側面ハッチを抜けるところでスラスター出力を落とし、白枠で囲まれた着艦位置の中央へ、慎重に脚を運んだ。


 背面では、まだ冷めきらない排熱が白く揺れている。脚部シリンダーが低くうなり、機体が膝を落としたところへ、左右から伸びた固定アームが胸部と腰を抱えるように回り込む。ロックランプが順番に点灯し、そのたびに小さな機械音が重なった。


 最後の固定が入ると金属音が短く響き、床がわずかに震える。揺れが落ち着くころ、コクピットハッチが外側へ開いた。


 ふちに片手をかけて姿を現したのは、VOLK隊の隊長ヒロ・ヴェルナーだ。慣れた動きで身を乗り出し、梯子を一定のリズムで降りてくる。


 厚手の戦闘服、首もとのヘッドセット。肩にうっすら残った砂埃で、服の色が少しくすむ。飾り気のない姿なのに、床に降り立つと周囲の視線が自然と集まった。


 ヒロは周囲を見回し、顔ぶれをざっと確認する。袖口の油じみには触れず、差し出された手を順番に取り、短く握手を交わした。あっさりした動きが、戻った合図になる。


 手首からのぞいた黒いタグが、頭上の灯りを受けて一度だけかすかに光った。


「おつかれさーん、隊長。10日も缶詰でこれかよ、って感じの戦闘だったなー」


 機体から降りてきたガンモが肩をすくめて笑う。


「腹減った。まずは飯だろ?」


 ポチも装甲についた灰を払いながら続ける。兄弟の声が並ぶだけで、ハンガーの空気が一気にVOLKらしくなる。


「整備に顔を出して、それからだ」


 ヒロは軽く言い返し、整備班へ手を挙げた。


「脚の動きが少し重かった」


「了解。見ておきます。他に気になったところは?」


「今のところはそれだけだな」


 整備兵が「任せてくださいよ」と苦笑し、工具箱を持ち上げる。ヒロはうなずき、ザクレロ兄弟と並んでハンガーの出口へ向かった。残ったクルーも、それぞれ持ち場へ散っていく。


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