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灰の傭兵と光の園~人型兵器が、泥と血と油の中で唸る。装甲が砕け、信念だけが削れていく~  作者: 青羽 イオ
第十一章 灰の線を引く者たち

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第57話 第8歩兵連隊

 前線に穴が開きはじめたころ、後ろで溜めていた火線が一斉に前線へ伸びた。


「前列、交代! バッファロー、頭上げろ!」


 怒鳴り声と同時に、予備戦力のバッファローが防御陣地から姿を現す。細身の第二世代戦闘RFが半身盾を構え、壕や瓦礫の陰から南へ向けてライフルを突き出した。


「押し返すぞ、撃てぇっ!」


 多数のバッファローがほぼ同時に引き金を絞る。銃口から吐き出された弾が灰の地面すれすれをかすめ、リミネタイの胴と脚へ向かって飛んでいく。盾に隠した側の肩と胴はぎりぎりまで露出を抑えられている。正面から受ける弾を少しでも減らすための姿勢だった。


「戦車じゃねえんだぞ、こっちは!」


 ひとりのパイロットが歯の隙間から吐き捨てる。


「エクイテス来るぞ!」


 警告が飛んだ次の瞬間、混じり込んできたRF-17K《エクイテス》のライフル弾が盾ごと胴体装甲を撃ち抜いた。

「——っ!」

 断ち切れた悲鳴と一緒に機体が後方へ吹き飛ぶ。黒い煙を引きながら倒れ込むバッファローの残骸を、後列のパイロットたちがちらりと横目で見た。


「怯むな! 突入してきたエクイテスはまだ少数だ! 数の利を活かして各個撃破しろ!」


 被弾しそうになった機体は撃ち返すときだけ身を半歩出し、撃ち終わればすぐ陰に引っ込む。


「リミネタイへの牽制も忘れるな! エクイテスより旧式とは言え性能はバッファローと同等だ!」


 撃ちっぱなしで前へ出てくるリミネタイとは違う「隠れ方」で、バッファローたちは数と機動性と半身盾による局所防護を総動員し、距離を詰めさせまいと踏ん張っていた。


「こちらはもう持たない! ファルコンを前に出してくれ!」


 無線の中でバッファロー隊の隊長らしい声が、かすれ気味に叫ぶ。その呼びかけに応じるように、別のシルエットが前線へ抜けた。


「ファルコン隊、出る」


 第三世代RF-21《ファルコン》だ。バッファローの列の後ろで、9機のファルコンが要所ごとに待機していた。エクイテスと同レベルの出力と運動性を持つUDF側の切り札だ。声も淡々としている。


「敵RFエクイテス2機。左前方。距離600」


「了解。バッファローはそのまま撃ち続けろ。我々が前に出る」


 バッファローの射線が押されはじめた箇所へ、ファルコンが一歩踏み込む。エクイテスの弾幕に対してほとんど同じ速度で身をひねり、盾と装甲にかすらせるだけにとどめた。


「――っ! そこだ」


 間合いが詰まった瞬間、銃を構えたまま加速し、肩からぶつかるように飛び込んだ。高出力スラスターの噴射で距離を詰めたファルコンがエクイテスの死角に回り込む。短距離で叩き込まれた連射にカルディア側の第三世代機がよろめく。その隙にブレードの一撃を刺し込んだ。


「一機撃破。このまま押し返す。他の部隊も続け」


 撃破されたエクイテスを見て、周囲のリミネタイが一瞬だけ足を止める。そのわずかな「躊躇」のあいだに、バッファローが反撃に出た。


「攻撃隊形! ファルコンと共に前進しろ!」


 崩れかけた場所をひとつひとつ縫いとめて回るように、ファルコンは局所的に踏み込み、カルディア軍を押し返すと防衛線の内へ退いた。


 RF同士の撃ち合いのすぐ後ろでは、別の重い音が響き続けていた。


「戦車隊、目標敵RF群。方位180、距離1,800!」


 M6A1《ライオン》戦車大隊が陣地から主砲を撃っている。低い車体を土盛りに半分埋めるように据え、130mm砲を南へ向けていた。


「方位よし、測的よし」


「全車——撃て!」


 砲口が炎を吐くたび、車体全体がわずかに後ろへ沈み込む。砲弾は中距離で動くリミネタイとエクイテスを狙った。


 灰を蹴って前進していたリミネタイが露出しすぎた瞬間、側面を貫かれる。内側から爆ぜ、胴体がちぎれて倒れ込む様子を、車内の砲手が息をのんで見ていた。


「命中。次弾装填急げ」


 火力だけで言えば、ライオンはいまでも十分に戦力として運用可能な戦車だった。


 さらに後方ではUDF砲兵大隊の野戦砲が支援射撃を続けている。


「一装填完了!」


「目標、敵RF後方。座標267-154。——撃てっ!」


 12門の砲が一斉に砲口を跳ね上げる。遅れて遠くの地面が持ち上がった。着弾点には灰と火柱が立ち、カルディアのRFの足元を強引に削り取った。


 もちろん撃っているのはUDFだけではない。


「敵艦の砲撃を確認。目標はこちらの砲兵です!」


 UDF司令部に短い報告が飛び込む。カルディア側の艦載砲が重い音を響かせていた。パレオロゴスとレムノス級巡洋艦群の砲塔が回り、UDFの戦車陣地や砲兵陣地へ榴弾を送り込む。


「総員退避!」


 RFの列。その後ろに戦車。さらに後ろに野戦砲。

 その全てを陸上戦艦の砲口がなめるように掃き、灰の平原を刻んでいった。


 そこへ再びミサイルの影が重なる。


「パレオロゴス、対地ミサイル再投射!」


 カルディア側の支援はミサイルが主体だ。パレオロゴスと巡洋艦群が断続的に対地ミサイルを撃ち上げる。


「ミサイル多数。防衛陣地を狙っています! ポートランスに迎撃を要請!」


「対空戦闘!」


 軌道を変えた弾頭がUDFの砲兵陣地や戦車陣地の上に落ちようとするたび、ポートランスの対空火器と対空ミサイルが迎え撃つ。


 多くは空中で爆ぜる。だがそれでも抜ける弾は出た。


「来るっ!」


 さきほどまでスケルトンと歩兵が密集していた前線の陣地には何度も命中弾が入る。砂袋と鉄骨で組んだ簡易陣地が内側からひっくり返るように吹き飛ぶ。えぐり取られた跡には、ただ黒い穴だけが残る場所もあった。


 灰に覆われた平原のあちこちで、RFの火線と戦車砲の光跡が交差する。さらに奥から砲弾とミサイルが重なった。

 その一つ一つの中に息を詰めたままトリガーを握っている人間がいた。



 地鳴りのような砲声が一段落したあとも、ミサイルの煙はまだ地表から立ちのぼっていた。灰と爆煙がまじり合う空の下で、地面に掘られた塹壕だけがどうにか形を保っている。


 UDF第8歩兵連隊が粘る最前の塹壕だ。


「ロケット班、構え! 撃ち方、始め!」


 分隊長のハンセン軍曹がかすれた声で怒鳴る。前夜から掘り進めた塹壕と浅い壕、崩れた建物の基礎。そこにへばりつくように身を寄せながら、兵たちが対RFロケットを構えている。


「脚だ、脚を狙え!」


 視界の端ではリミネタイが迫ってきていた。


「目標、右から三機目、距離800!」


「装填よし!」


 ロケット筒の後ろで装填手が叫ぶ。肩に担いだ兵がぐっと息を止めた。


「——撃て!」


 白い炎と煙が塹壕の縁から横に走る。ロケット弾が弧を描き、前進していたリミネタイの膝関節に食い込んだ。


 装甲のつなぎ目で爆発が起きる。片脚を吹き飛ばされた機体がバランスを失って大きくのけぞった。


「よし当たった! 膝にいったぞ!」


 塹壕の中で誰かが短く叫ぶ。リミネタイはその場で無理やりもう一歩を踏み出そうとして、完全に倒れ込んだ。


「効くんだよ、関節ならな!」


 安堵とも悔しさともつかない声がロケット筒の横で漏れる。


「喜ぶのは後だ! 発射位置変えろ。すぐに敵の攻撃が来るぞ!」


 ハンセン軍曹の怒鳴り声が飛んだほぼ同時に、正面から光が走った。


「伏せろ!」


 次の瞬間、塹壕の縁をなめるように機関砲弾が駆け抜ける。さっきまでロケット筒を出していた土壁がまとめてはじけ飛んだ。


「三名負傷! 前の二人は死亡しました」


 隣の浅い壕から押し殺した報告が届く。発射位置はRFの機銃と砲にすぐ捉えられる。全員が知っていた。


「次の位置に移動するぞ! まだ弾は残ってる!」


 ロケット班の残りが這うようにして壕の奥へ移動する。


 軽火器しか持たない分隊も、じっとしてはいなかった。


「機関銃班、構え! RFの胴と頭を狙え!」


「抜けないですよ、あの装甲!」


「分かってる! 目と耳を潰せ! 外付けのカメラだ。レンズ割れりゃあいつらも見えなくなる!」


 重機関銃の銃架が土嚢の上に沈む。照準の先には胴体センサーを光らせたリミネタイと、エクイテスの滑らかな顔が見えた。


「やるだけやるか。撃てぇっ!」


 乾いた連射音が塹壕の中に響く。12.7ミリの弾がRFの胴や肩に雨のように降りかかった。


「跳ねてるだけだぞ、ほとんど!」


「構わねぇ! レンズかアンテナの一本でも落とせりゃ上出来だ!」


 自動小銃を構えた兵たちもそれに続く。


「見ろ、左のやつ、カメラ割れた!」


 どこかの兵が叫んだ。胴体の一部だけが黒く砕け、リミネタイが首を左右に振る。動きが一瞬鈍ったその前を、バッファローの弾がかすめた。


「いいぞ、目が見えねぇ鉄の塊なんて怖くねぇ!」


「怖いのは見えてる方だ!」


 笑いとも悲鳴ともつかない声が混ざり合う。


 だがその「足掻き」に、カルディア側は容赦なく答えを返してきた。


「——対人機銃、来るぞ! 頭を下げろ!」


 誰かの警告が塹壕の中を走る。次の瞬間、リミネタイとエクイテスの胴体から細かい火線があふれ出した。


 塹壕の上端を銃弾の帯が削り取っていく。土嚢が裂け、木片と土くれが雨のように降り注ぐ。

 伏せきれなかった人影がひとつ、またひとつ弾かれた。


「第三分隊! 返事しろ! おい!」


 返事はない。代わりに塹壕の向こう側から別の音が重なる。


「敵砲、こちら防衛陣地を狙ってきてます!」


 遠くでカルディアの艦砲が吠える。その着弾が、さっきまで人がいたはずの浅い壕を丸ごと飲み込んだ。


「塹壕ごと持っていきやがる!」


 足元の地面が内側から持ち上がるように震える。支えにしていた土壁が一瞬で崩れ、頭上から土砂と砂袋が落ちてきた。


「生存者を確認しろ! 動けるやつは隣の壕に退避しろ!」


 ハンセン軍曹の声も途中で土煙に飲まれそうになる。


 上空ではまだミサイルの尾が光っていた。塹壕と壕、建物の影——第8歩兵連隊が身を隠せる場所はひとつずつ削られていく。


「なあ、軍曹。俺たち本当に持つのか」


 ロケット筒を抱えた若い兵が土の中でぽつりと漏らした。


「持たせるんだよ。持たせるまで撃って撃ちまくる」


 隣で弾倉を交換していたハンセン軍曹が、息を荒げながら答える。


「嫌なら帰れって言いてぇけどよ。帰る道なんかもうねぇだろ」


「だったら撃て。どうせここが終わりなら最後まで足掻いたほうがマシだ」


 悲観も諦めもとっくに通り過ぎていた。残っているのはただ「ここから下がらない」という決まり文句と、汗と灰にまみれた銃だけだ。


「——第二小隊、まだ生きてるぞ! ロケット班、次弾装填! 機関銃、撃ち続けろ!」


 ハンセン軍曹がそう叫ぶ。声が震えているのか地面が揺れているのかは、もう分からない。


 RFの足音と砲声が近づくたび、第8歩兵連隊は塹壕の底で身を縮める。それでも頭だけは上げ、引き金を引いた。



――次回、第58話「攻撃ヘリ来襲、灰空の攻防」へ続く



■エピソード解説

 UDFがレゾナンス関連の地下施設を封鎖したことで、カルディア第3強襲打撃群と開戦。

 ミサイルと艦砲で前衛が崩れ、南からリミネタイとエクイテスが突撃してくる。

 UDFはファルコン投入と戦車・砲兵支援、塹壕の歩兵で撃破より足止めを選び、後方火力の時間を稼ぐ消耗戦に入った。


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