表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰の傭兵と光の園 〈ロボットイラストあり〉  作者: 青羽 イオ
第六章 ヴァイス艦長のひまつぶし

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/123

第26話 前編 ゼリーとマグカップと艦長と

 格納庫を出て上のフロアへ向かう途中、ヴァイスは足を止めた。


 曲がり角の向こうから、子どもの笑い声が聞こえてくる。続いて、小さな足音と、「待って!」という声。


 ヴァイスは少しだけ目を細め、声のする方へ歩いた。


 *


 居住区近くの廊下は、いつもより少しにぎやかだった。


 床の誘導灯ラインが細く光り、その周りで子どもたちが隠れ場所を探している。物資庫の前にはコンテナがいくつか積まれていた。


「七ー」


「八ー」


「九ー」


 物資庫の扉の前で、ポチが壁にもたれている。目にはタオルを巻き、両手を腰に当てて、わざとゆっくり数えていた。


「タクト、足音うるさい!」


「リノ、こっち空いてる!」


「線から出たら負けだぞー」


 ポチの声に、子どもたちは慌てて誘導灯ラインの内側へ戻る。壁際、コンテナの影、折りたたみテーブルの下。どの隠れ場所も、ヴァイスから見ればだいたい見えていた。


 リノは支柱の後ろに隠れているが、肩が出ている。


 タクトはコンテナの陰に入ったつもりで、靴だけ丸見えだ。


 サナはテーブルの下で丸くなっているが、髪の先が床に出ていた。


 全員、実戦なら一秒で見つかる。


 ヴァイスはそう思ったが、もちろん口には出さなかった。


「十ー。よし、捜索開始」


 ポチがタオルを外す。


「線から出たら、今日のゼリーが一個減るぞ。ルールは守れよ」


「えー!」


 文句は出るが、誰も線を踏み外さない。


 ポチはわざと大きな足音で歩き出した。


「ふむ。ここには……誰もいないな」


 リノのすぐ横を通る。肩が見えているのに、見えないふりをした。


「コンテナの後ろも……いない。靴だけ落ちてるな」


 タクトが慌てて足を引っ込め、コンテナに頭をぶつけた。


「いって……」


「今の音、かなり怪しいな」


 ポチはそう言いながらも、まだ捕まえない。


 その時、支柱の影に隠れていた子どもが、ヴァイスと目を合わせた。


 子どもは慌てて口に指を当てる。


 見なかったことにしてほしい、という顔だった。


 ヴァイスは一度だけうなずいた。


 そして、わざと足音を大きくして反対側の廊下へ歩き出す。


 ポチがこちらを向いた。


「おや、艦長」


 その一瞬で、子どもは支柱の影からテーブルの下へ移動した。


 ポチは軽く敬礼する。


「現在、遊戯任務中です。通路が少し騒がしく、申し訳ありません」


「任務を続けろ」


「了解。隠密目標の捜索を再開します」


 ポチは何も見なかったように向き直り、タクトの後ろへ回った。


「では、この靴の持ち主を探すか」


「うわっ!」


 肩をつかまれたタクトが飛び上がる。リノが手で口を押さえて笑った。


 次にサナが見つかり、最後にリノが支柱の影から引き出される。


「どうして分かったの」


 リノが目だけでそう聞く。


「支柱が一本多かった。リノくらいの大きさのやつがな」


「えー……」


 全員が見つかると、子どもたちは物資庫の前へ並んだ。


「今回の勝者は、線から一歩も出なかったサナ」


「……べつに」


 サナは小さく言ったが、少しだけ得意そうだった。


 タクトとリノが「次は勝つ」と言い合い、また騒がしくなる。


 ヴァイスは少し離れた場所から見ていた。


 ポチは手を出しすぎない。だが、放りっぱなしにもしていない。子どもたちが守れる範囲のルールを作り、その中で遊ばせている。


 よく付き合っている。


 そう思った。


 *


 遊びが終わると、子どもたちは食堂の方へ戻っていった。足音と笑い声が、少しずつ遠ざかる。


 廊下には、ポチだけが残った。壁にもたれて、軽く息を整えている。


「ポチ」


「はい、艦長」


 ポチは姿勢を正した。


「遊戯任務、終了しました。本日のゼリーペナルティはゼロ名です。何か問題でも?」


 少しだけ緊張した声だった。


 ヴァイスは首を振った。


「いや。任務評価は良好だ」


「……良好、ですか」


「そうだ」


 それだけ言って歩き出す。


 ポチは一瞬きょとんとし、それから苦笑した。


「ありがとうございます。次回は隠密精度をもう少し上げます」


「ほどほどにしろ」


 ヴァイスは振り返らずに言った。


 背後で、ポチが小さく笑う気配がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ