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灰の傭兵と光の園~人型兵器が、泥と血と油の中で唸る。装甲が砕け、信念だけが削れていく~  作者: 青羽 イオ
第三章 番号ではなく、名前で

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第16話 前編 白のどちら側にも立てない

 アキヒトの視界では粉じんがまだ落ちきらずに漂っている。抜け落ちた高架の断面が白くかすみちぎれた路面片と杭灯の残骸が暗い空洞の縁に引っかかったままだ。


 崩れた橋の真下、灰原の上でストレイ・カスタムと黒緑の機体が向かい合っていた。背後の橋脚の陰ではヒロのヴァルケンストームが姿勢を低くしたまま動かない。


 黒緑は落ちた路面を背に立ち頭だけをゆっくりこちらへ向ける一方で機体の正面は白帯の"先"が伸びていた方角へ据えたまま——そしてその方角に白の道はもうない。


 アキヒトはストレイ・カスタムの姿勢をわずかに落とし足裏で灰を噛んだ。


〈ブリッジ〉『白帯B3区間、路面崩落。通行不能を確認。ラインガードは救助を最優先』


〈ヒロ〉『VOLK-6より全機。白の上はラインガードに任せる。残りのヘルマーチは——』


 灰霧の向こうで黒緑の機体が身を翻し崩れた橋桁から距離を取りながら灰原側へ滑るように退いていく。


 同時にノルンが外部通信を拾い雑音混じりの声が無線へ割り込んだ。


〈HM-2〉『3番機ロスト。撃破されたようです』


〈HM-1〉『構わん、捨て置け。任務は完了した』


 その抑えた言い回しにアキヒトの指が一瞬止まる。番号で呼ばれていた頃無線の向こうで何度も聞かされてきた声と同じ温度だった。


〈HM-1〉『全機離脱。予定どおりBルートを使い撤退する』


 照準枠の隅を遠ざかる黒緑の背中が横切る。アキヒトは引き金から静かに指を外した。


〈ノルン〉『追撃ルート、崩落区間を通過。白帯と重なります』


〈アキヒト〉『追わない。……B3を見ろ』


 少し遅れて高架全体を一度だけ揺らすような震えが来てすっと消えた。


 白帯はそこで寸断されている。崩れ落ちた高架の断面には鉄筋とちぎれた導光ケーブルがむき出しで白いラインは途中で途切れ先だけが宙に取り残されて向こう側へ届かない。


 崩落を免れた区間ではラインガードが動いていた。ちぎれた白帯の終わりから数メートル手前、高架の上でスケルトンが杭灯を抱え「ここまでが道だ」と示す。その背中を頼りに避難民の列がゆっくり後方へ下がっていく。走らないように転ばないように。誰も振り返らない。


〈ラインガード〉『B3、白帯後方の避難列、退避完了。前方、行方不明……多数』


 報告はそこで短く途切れた。


  *


 ジルがブリッジに戻る頃にはヒロは機体を格納庫側へ回して艦橋へ上がっていた。導光ラインの「生きている」区間だけが窓越しに細く脈を打っている。


〈ブリッジ〉『白帯B3区画、路面崩落。通行不能を確定。後続の避難列は別ルートに切り替えろ』


 状況表示盤のマップを指が滑り白帯を走る一本の線が途中から赤く塗りつぶされていく。カルディア資源都市へ伸びる幹線もそこで途切れていた。傍らにストレイ・カスタムから送られたノルンのログウィンドウが開く。


〈ノルン〉『戦闘通信ログ、再生可能。対象:敵性RF群/識別:ヘルマーチ』


「……流して」


 ジルは背もたれに身を預け甲板側のスピーカーのボリュームを絞ってブリッジ内だけに音声を落とした。


 ノイズ混じりの声が淡々と作業手順を並べる。


『B3、目標視認。対構造物弾、装填完了』

『一射目、命中。振動値、規定内』

『二射目、剥離確認。沈下開始』

『……中央落下。白帯、通行不能。依頼条件、達成』


 続いて別の声が短く締めた。


『全機、撤収ルートBへ移行。抑止行動は不要。……白は切れた』


 その一言が流れた瞬間ブリッジの空気がわずかに固くなる。


 ヒロが状況表示盤の横に立っていた。窓の外へ向けていた視線が音に引き寄せられ目元が細くなって顎のラインが固くなるのがジルの位置からでも分かった。


『白は切れた』


 ノイズの向こうでもその言葉だけはよく通る。低く抑えた軍隊の声だった。


「……知ってる声か?」


 ジルはモニター越しにヒロを見た。問いかける口調だけわざと平らにする。


 ヒロはほんの一拍置き視線を窓の外へ戻した。


「さあな。どこにでもいる、古い軍人の声だ」


 それ以上は足さない。ジルも深追いせずコンソールの入力欄へ手を伸ばす。


〈ノルン〉『案件ラベル、入力待ち。クレイヴアクト護衛任務における白帯破壊案件——初発』


「……CASE WL-B3-01/白帯破壊」


 キーボードの乾いた音が続き画面に新しい行が刻まれた。


【CASE WL-B3-01/白帯破壊】

 発生区画:B3高架橋

 白帯ステータス:当該区間 通行不能

 白帯内死傷:有


 ジルはその行を一度だけ見て画面を閉じる。


 これでクレイヴアクトが口にしてきた「護衛任務で白帯を一度も割らせていない」は過去形になった。

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