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灰の傭兵と光の園~人型兵器が、泥と血と油の中で唸る。装甲が砕け、信念だけが削れていく~  作者: 青羽 イオ
第三章 番号ではなく、名前で

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第15話 後編 抑止線、崩壊

 その間にも後続のヘルマーチ機が3発目の装填を終えていた。ランチャーがわずかに角度を変えさきほどと同じ白帯の真下を今度はさらに深く貫くラインに合わせる。


〈ブリッジ〉『3発目、来る! 高架上の全機は姿勢制御優先!』


〈ブリッジ〉『橋脚下のVOLK-1とVOLK-6はその場で耐衝撃姿勢、落下片に警戒——』


 そこまで言いかけてジルの声がノイズに裂かれた。


 3発目は音にならなかった。


 橋全体が一瞬だけ静まりひと呼吸のあいだ揺れを止める。その直後頭上で何かが断ち切られる感覚が走った。


 (やめろ……)


 声にならない叫びが言葉になる前にちぎれる。ペダルを踏み込もうとした脚がLSLに縫いつけられたように動かない。ここで飛び出せば落ちてくる橋桁の真下に自分から潜り込む——その予感が全身を縛っていた。


 視界の中で世界がゆっくりと傾いていく。ストレイ・カスタムの上、橋の中央部が大きくたわみそのまま沈み込みながら崩れ落ちた。


 導光ラインの白が裂けた橋桁の裏側から一瞬だけ姿を見せ直後に路面ごと暗い空洞へ呑まれていく。


〈ラインガード〉『——っ、区画落下! 中央部、崩落!』


 警告の声が飛び交い無線がノイズでかき消される。杭灯が何本も根元から引きちぎられるように折れていく。


 白い標識ポールが大きくしなりそのまま空へ跳ね上がった。その向こうでさっきまで北と南に振り分けようとしていた避難列の一部が崩れた路面ごと闇の中へ引き込まれていく。


 誘導員の腕章と荷物を背負った黒い背中がちぎれた橋桁の縁からまとめて消えた。


 アキヒトには誰の顔も見えなかった。


 ただ頭上をかすめて落ちていく導光ラインの白い光と荷物を背負った黒い背中の塊が視界の端でどんどん小さくなっていくのが見えた。


 (止められなかった)


 その言葉だけが頭の内側で同じ形のまま反響する。


 切断された橋の断面から粉じんの柱が立ち上る。そして遅れて地面の底から突き上げるような低い衝撃音が空気を震わせた。


 ストレイ・カスタムは橋脚の基礎ブロックのすぐ手前でどうにか踏みとどまっていた。


 すぐ脇にはさきほどパイルで貫いた黒緑の機体の残骸が橋脚にもたれかかるように倒れ込み動かない。


 足元の基礎コンクリートには放射状のひび割れが広がっていた。灰をかぶった破片が縁から少しずつ崩れ落ちていく。


 見上げれば頭上の白帯は途中で途切れその先に導光ラインの白だけがちぎれた橋桁の裏側から宙に向かって伸びている。


 向こう側の高架はまだ空中にかかっていたがそのあいだの路面はまるごと灰に沈んでいた。


〈ノルン〉『警告。白帯B3区間:路面崩落/通行不能』


〈ノルン〉『白帯内死傷反応:多数検知(避難民/ラインガード含む)』


〈ノルン〉『クレイヴアクト運用記録更新。本任務における白帯破壊案件:初発』


 HUDの左下で文字列が淡々と並ぶ。作戦評価値のバーが一気に底まで落ちた。


〈ラインガード〉『白帯内……被弾記録。損傷大……抑止線、崩壊』


 誰かの声が震えながらそう告げる。その言葉に訂正も慰めも重ならなかった。


 アキヒトは内側が空洞になったような感覚を抱えながらそれでも目を逸らさない。


 切り取られた橋の縁から白帯の「先」が消えている。導光ラインはこちら側と向こう側で別々の世界のもののように途切れていた。


 (……終わるはずがない)


 ヘルマーチは任務を果たした。白帯は割れた。


 崩れた橋の下、灰原の上にまだこちらを見ている黒緑の機影が一機だけ残っている。


 落ちた路面片と橋脚の影のあいだでその機体は灰を踏んで立ち止まりなおも白帯の"先"が伸びていたはずの空の方向に黙って頭を向けていた。



――次回、第16話「白のどちら側にも立てない」へ続く

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