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灰の傭兵と光の園~人型兵器が、泥と血と油の中で唸る。装甲が砕け、信念だけが削れていく~  作者: 青羽 イオ
第三章 番号ではなく、名前で

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第10話 前編 ようこそグレイランスへ

 グレイランス艦内、避難区画。乗艦から一夜明け、灰霧の薄い朝だった。


〈艦内〉『避難区画にいる方へ。順番に下船のご案内をします。係員の指示に従ってください』


 子どもたちは寝ぼけた目をこすって起き、名札を確かめて上着を留める。サキは襟を直し、靴紐を結び直しながら声をかけた。


「今日は列車に乗って移動するよ。押さないで、順番ね」


 点呼を終え、10人を連れて通路へ出ると、側面ハッチへ続く廊下はすでに列になっていた。荷物を抱えた家族、包帯を巻いた男、疲れ切った顔の老人が、前だけを見て少しずつ進んでいく。


 本来なら、この先の乗り継ぎ拠点でカルディア企業都市行きの輸送列車へ乗り継ぐはずだった。院長が窓口に通って取ってくれた席で、切符1枚に「これから」が詰まっている。


 地上との接続ゲートで、港湾局の職員らしい男がタブレットを構えた。


「次。家族単位で」


 順番が来て、サキは子どもたちを前へ出す。ゲート脇のノズルから除灰用の霧が短く噴かれ、衣類の表面がしっとりした。袖をつかむ子に歩幅を合わせ、列を崩さないよう進める。


「こちら、孤児院『光の園』からの避難です。子ども10人と付き添い1名。行き先は、カルディア企業都市に……」


「名簿確認します」


 職員が画面をなぞり、昨日の乗艦リストと輸送計画を重ねていく。


「光の園……自治体委託の臨時保護ユニット。カルディア行きの企業列車に乗せる予定だったグループですね」


 指先が止まった。


「……あれ? カルディアの受け入れ、全部止まってる」


 サキの手が子どもの肩で止まる。


「路線も運行停止。昨日、列車が襲われた線です」


 同僚の小声が追い打ちをかけた。決まりかけていた行き先が音もなく消える。


「それと、このユニット、送り主が……」


「院長さんは?」


「重傷で搬送。連絡不能。サインも未処理ですね」


 サキは子どもたちの手を握り直した。


「すみません、このグループだけ、一度列から外れてもらえますか」


 職員がぎこちなく笑う。


「カルディア行きの便がなくなりました。向こうの都市も、今は新しい孤児の受け入れを止めています」


「でも、院長先生が……この子たちの分を払って……」


 言いかけて、そこで自分でも分かった。――あの人はいない。


「料金の問題だけじゃないんです」


 職員はタブレットをサキへ傾ける。


「自治体側の登録が仮のままで、送り主も連絡不能。カルディア都市側は『責任の所在がはっきりしないグループは今は受け入れられない』って」


 子どもたちが不安そうに見上げ、列の後ろで「また宙ぶらりんが出たな」という声が落ちる。


「でしたら……私が代わりに。この子たちの保護者としてサインを――」


「それがですね」


 職員がスクロールし、サキの身分証データの下で赤い警告が点滅した。


[旧識別記録との照合エラー]


「過去の医療データとの紐付けでエラーが出てまして。照合が終わるまで、正式な保護者として登録できないんです」


 言葉がそこで詰まる。


「だからといって追い返すわけにもいきませんから」


 別の職員が割って入った。


「このユニットは一旦、グレイランス艦内臨時保護扱いのまま待機。上とFDCに回して、行き先を決めます。下船列からは外れてください」


 サキは10人の顔を見渡し、ゆっくりうなずいた。


「……わかりました。この子たちと一緒に待機します」


「付き添いの方だけ別に降りることもできますが」


「いいえ。この10人と離れるわけにはいきません」


 それだけは最初から揺れなかった。職員は肩をすくめ、短く頷く。


「承知しました。グレイランス側の避難区画に戻ってお待ちください」


 列から外れた瞬間、人の流れが波のように追い越していく。カルディア行きの線路はもうつながっていない。

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