第9話 前編 杭になる
灰霧で遠景が潰れ、撃っている方向だけが光で分かる。目視が効かないぶん、ノルンの距離表示とポチのマーキングが頼りだった。
ヒロの指示は短く明確で、迷いを持ち込ませない。
合図とともにVOLKの6機が白帯の境界線付近で展開し、前に出るのはRF-17SC《ストレイ・カスタム》(アキヒト機)とRF-17C《ヴァルケンストーム》(ヒロ機)だった。ストレイ・カスタムが刃で脚を払って流れを止め、ヴァルケンストームはトンファーの短打で姿勢をずらし、白帯から引きはがす。
左右ではRF-08GF《ブルロアー》(ゴーシュ機)が火線を重ね、RF-08GD《バッド・バンカー》(ガンモ機)が重盾で角を作って押さえる。高所のRF-12AS《レイヴン・アイ》(リュウ機)が頭を出して全体を見下ろし、背後ではRF-12AP《ブレイン・モール》(ポチ機)のドローンが地形と通信の通りをなぞって、隊列が薄くなりそうな場所を先回りで示していった。
黒い波は切られ、刻まれ、面ごと削がれていき、白帯へ向かう厚みは目に見えて減っていく。頭上ではグレイランスの砲列が灰霧の向こうへ砲撃を続け、発射のたびに細い火線が走って、着弾の閃光が遠くの灰を一瞬だけ白く照らした。
それでも、砕けた甲殻と砂煙の陰を縫うように、低く這う影がひとつ、白い道の方角へ滑り出す。
〈ノルン〉『抜け個体、接近。距離40→30』
火の壁がわずかに裂け、その隙間をすり抜けるようにキーテラが爆煙の下を走る。狙いは子ども区画の方向だった。
〈ヒロ〉『俺が取る』
ヴァルケンストームが子ども区画と敵のあいだに割り込み、二度、小刻みに踏み込む。砂が弾け、足もとに青白い光の筋が走り、12メートルの巨体が白帯の前に打ち込まれた杭のように止まった。
キーテラが正面から一直線に突っ込んでくる。
突きは肩で受け流し、前腕が開く。トンファーが伸び、棍の縁に青白い火が走った。斜め、横、角度を変えた一打を続けて叩き込み、火花が散るたびに継ぎ目の内側へ細い電気の筋が走る。輪郭がぶれて関節のランプが点滅し、足もとが一度だけ泳いだ。
パイルバンカーが低くうなり、芯棒が射出位置までせり上がる。ヒロは間合いを詰め、頸の隙へ押し当てたまま一気に突き立てた。
内側で白い光がはじけ、胸から肩までの駆動音がぶつりと途切れる。
「ここで終わりだ」
上から叩き落とす。トンファーの先端が沈み、頭部装甲が内側へ押しつぶされ、黒い焦げ線が一筋走った。巨体は膝から崩れ、砂がふっと舞ってすぐに落ち着く。
〈ラインガード観測〉『抜け個体、沈黙。白帯安定』
ビーコンの短い光跡が消え、場の輪郭がひと呼吸ぶんだけ静かになる。
ヒロは機体を子ども区画の観測窓へ向け直し、前面のビーコンを二度、短く点滅させた。続けて右手を上げ、二本指を揃えて頭部の横へ軽く添える――VOLK式の挨拶だ。すぐに腕を下ろし、武装を収め、上体をわずかに傾けてから火線のほうへ戻った。




