表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰の傭兵と光の園 〈ロボットイラストあり〉  作者: 青羽 イオ
第三章 陽動

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
114/114

第15話 破壊工作

「持ってきちゃった」


 サナは手の中のコップを見せた。食堂のやつだ。返却口に戻し忘れて、そのまま区画まで持ち帰ってしまったらしい。


「明日でいい」


 ポチは端末から目を上げずに言った。


「返すの明日になったら、はるゑに怒られるよ」


 端末を置いた。


「もっと早くに言え」


 サナはコップを両手で持ったまま、ポチを見ていた。急いでいる顔ではない。ただ待っている顔だ。


 ポチはため息をついて立ち上がった。


「行って戻るだけだぞ」


「うん」


 二人は通路へ出た。食堂は二つ先のフロアだ。消灯まではまだ時間がある。


 廊下は静かだった。


 フロアを一つ降りたところで、遠くから低い音がした。


 ポチが足を止める。


「……今の」


 サナも止まっていた。コップを持ったまま、音のした方向を見ている。


 次の音は、もっと近かった。


 *


 艦内が激しく揺れた。


「なんだ! なにが起こった!」


 警備員の声が飛ぶ。


 その声が終わる前に、負傷兵達は死体袋のファスナーを開いた。

 中から出てきたのは遺体ではない。銃、弾倉。手榴弾。あらゆる武装が次々と出てくる。


 負傷兵だった男は警備員の銃を押さえ、もう片方の手で拳銃を撃った。


 警備員が後ろへ倒れ、避難格納庫に叫び声が響いた。


 うなだれていた負傷兵たちがいっせいに起き上がった。

 呻き声も咳もない。包帯を巻いたままの手が武器を受け取り、装填する。互いの顔を確認せず、声ひとつ出さない。


 警備員が気づいたときには、既に銃口がこちらを向いていた。


 乾いた銃声が二つ。


 偽の負傷兵たちは死体を振り返らずに散っていく。


 *


 銃声を聞いて集まった警備員は三人だった。

 角を曲がったところで止まり、交互に銃を構える。訓練どおりの動きで、一切の無駄がない。


 先頭の男が一歩踏み出した瞬間、足元に小さな筒が転がってきた。


 光が弾けた。


 銃声はその直後だった。三人が順番に崩れる。


 偽の負傷兵を演じていた特殊部隊は完全な連携を取り、一部屋、一部屋をクリアリングしながら艦内を進んでいた。

 その動きは素早く、先程までの憔悴ぶりは見る影もない。


 隔壁が下りてきた。


 完全に閉じた隔壁の前で、先頭の男が手を上げた。後ろから装置が手渡され、隔壁に設置される。


 ピッピッピ


 電子音が数度聞こえたあと、隔壁は爆破された。

 隔壁には大きな穴が開き、煙と共に特殊部隊員達が姿を現した。


 整備員が二人、何が起きているか確かめようと、工具を持ったまま通路に出てきた。


 銃声が響く。


 壁一面が血に染まり、整備員が壁に沿って崩れる。その横を、特殊部隊は足を止めず、ただ進んでいく。


 艦内の警報が鳴り、赤い灯りが廊下を染めた。


 *


 二度目の爆発で廊下の灯りが半分落ち、非常灯が赤く切り替わる。サナが立ち止まり、コップを両手で持ったまま天井を見た。


「ポチ」


「分かってる」


 ポチはサナの前に出た。食堂の入口はすぐそこだ。中から煙が流れてくる。引き返す方向を確認した瞬間、通路の奥に人影が立っていた。


 一人がこちらを見た。


「ターゲット確認」


「確保する」


 ポチはサナを後ろへ押した。


「走れ」


 腰の銃に手をかけた瞬間、手首を撃たれた。銃が床を滑る。ポチはそのまま体を低くして相手の膝へ飛び込んだ。


 重かった。


 装備と体の重さが一緒に来る。押し込めない。それでも離さなかった。


「ポチ!」


「走れって――」


 一発目が脇腹に来た。声が出なかった。それでも手を離さなかったが、二発目が肩に入る。蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられた衝撃のまま、壁にもたれかかった。


 壁際のパネルが衝撃で外れ、露出したゴミ捨て用のダクトの中へポチは落ちていった。


 サナの手首から落ちた鈴も、ダクトの中へと転がり落ちていった。


 *


 格納庫の手前で、激しい銃撃音が聞こえた。


 ヒロは角で一度止まり、通路の先を確認する。警備員が二人、車両の陰から撃ち返している。


 柱の裏へ滑り込み、銃口を向けて撃つ。


「右を押さえろ!」


 警備員の一人がうなずき、反対側の柱へ移った。


 銃撃が続く。煙が充満し始め、視界が落ちる。整備員が車両の下に潜り込んでいるのが見えた。動くなと手で制す。


 その時、奥の連絡通路に動くものが見えた。


 小さかった。


 カルディアの軍服を着た男に抱えられ、体をよじっている。顔がこちらを向いた瞬間、ヒロは息を止めた。


 サナだった。


「サナ!」


 飛び出した瞬間、前の床に弾が並んだ。別の隊員がこちらへ銃口を向けていた。下がるしかない。


 再び柱の裏から撃った。相手が位置を変える。その隙に前へ出ようとした。また弾が来た。隊員同士で銃撃の隙を完全に埋めている。


 見えているのに、近づけない。


 その直後、外壁が爆発した。


 衝撃で床が揺れ、天井から破片が落ちる。煙が一気に膨らんだ。ヒロは腕で顔を庇いながら前へ出て煙の中を走る


 誰もいなかった。


 床に風が当たっている。外壁に穴が開いていた。縁が熱を持ち、灰まじりの外気が流れ込んでくる。その向こうは煙で白く濁り、何も見えない。


 *


 ハブでは、警報が鳴り続けていた。


 RF格納庫の壁が吹き飛んだのは、艦内で最初の爆発が起きてから三分も経っていなかった。爆煙が収まる前に、黒い装備の人影が格納庫へ走り込む。内通者から渡されたIDカードが端末にかざされ、認証が通った。機体ロックが外れる。


 四機が立ち上がった。


 格納庫の扉が開き、リミネタイが出てくる。識別反応はカルディア社のままだ。


 最初に撃ち抜かれたのは、ハブ内を走っていた補給トラックだった。

 ライフルの弾丸はトラックを一撃で粉砕し、運ばれていたバッテリーと共に大爆発を引き起こす。


 次は装甲車の列だった。


 機体の脚で踏みつぶされ、先頭車両がひしゃげる。後続車は機銃で応戦するが、リミネタイの胸部機銃によって蜂の巣にされた。


「リミネタイが強奪された!他のRF部隊を出せ!」


「第一、第二中隊、スクランブル発進だ! 全機出せ!」


 スクランブルの命令が飛ぶ。パイロットが格納庫へ走る。機体へ乗り込む。シートに滑り込んだ瞬間、盗難リミネタイによってコクピットにナイフが突き立てられる。


 コクピットは押し潰され、ナイフの先にはオイルが血の様に付着していた。


 中には起動に成功した機体もあったが、格納庫から出た瞬間にグレネード弾を被弾した。機体が膝から崩れ、周辺の味方車両を押し潰しながら、撃墜された。


 *


 壁際でカルディア機が一機、盗難機と打ち合っていた。


 カルディア機は蹴りを用いて相手を壁際へ追い込む。更にナイフを構え、機銃弾を連射して相手を撹乱しながら、盗難機に向かって突貫した。


 盗難機は盾を用いて、ナイフを受け止め、両機はは至近距離で取っ組み合う事になった。


 しかしカルディア機の背後から、もう一機の盗難機が接近し、背面からナイフを突き立てる。


 カルディア機の動きは止まり、ゆっくり膝をついた。


 *


 停泊中のレムノス級陸上巡洋艦レオンは、まだ機関を動かせていなかった。


 艦内はハブと同様に混乱し、下船していた乗員を急いで招集している最中だった。

 艦橋の乗員が状況の把握と事態の収拾に追われる中、盗難機がレオンへ接近してくる。


 艦長は直ちに迎撃を指示するが、停泊中のレオンで使用可能な武装は僅かであった。


 盗難機は矮小な弾幕をいとも容易く突破すると、ブーストによって二番砲塔の上に着地し、艦橋に向けてグレネード弾を発射した。


 グレネード弾は艦橋下部にめり込み、レオンの上部構造物を完全に吹き飛ばした。


 別の地点では通信設備や大隊司令部も完全に爆破され、ハブにおけるカルディアの指揮系統は完全に麻痺する事となった。



 外壁の破孔から、黒い装備の隊員たちが次々に降りてきた。


 ハブの広場に出たところで、盗難リミネタイが四機。


 隊員たちは機体の足元に集まり、人数を確認する声が飛ぶ。


「死傷者はゼロ」


「ターゲットの確保、及びハブへの破壊工作は完全に成功」


 最後に降りてきた男が、周囲を一度見渡した。片目を眼帯で覆っている。


「脱出するぞ」


 ハブの外から、大型トラックが三台、灰の中から現れた。

 隊員たちが荷台へ乗り込み、サナが押し込まれる。盗難リミネタイ四機が周囲を固め、トラックが動き出した。


 *


 煙が薄れてきた。


 ヒロは穴の縁に立ち、外を見た。灰まじりの風が顔に当たる。下のハブには炎の跡と、砕けた車両が散らばっていた。遠くでトラックのエンジン音がして、すぐに灰の向こうへ消えた。


 盗まれたリミネタイの背が四つ、ゆっくり遠ざかっていく。


 銃声は止み、警報だけがまだ鳴り続けている。


 ヒロは一歩前へ出た。穴の縁を踏んで、外へ半身を乗り出す。


「サナ――!」


 声は灰の中へ抜けた。


 返事はない。


 リミネタイの背が、白く濁った空気の中に消えていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ