4、男泣き
それから俺はメルとその日、恋人同士になった。
俺はメルを自宅に送り届けて安心してから翌日を迎える。
なんだかお腹が重い感触が...。
そう思いながら目を覚ます。
「!!?!!」
「おはようございます。二郎さん♪」
俺の上に乗っているのは...メルだった。
ベッドに乗っかって俺に乗っかり起こしている。
何をしているのだ。
そう思い俺はメルを見ていると「ぐっどもーにんぐ」とメルは俺の横に倒れてきた。
俺は「まっ」と言うがメルはニヤニヤしながら俺を見てくる。
頬を撫でてくる。
「えへ。じろーさん暖かいですね」
「二郎は暖かいに決まっているだろ。ホメオスタシスだ」
「ほめ?」
「つまり生きているって事だ」
「物知りですね」
「まあ無駄にそういう知識はあるからな」
「えへへ。流石は私の彼氏です」
甘すぎるだろ。
砂糖をぶっ被った様なありさまだ。
つーかなんでこの場所に。
そう思いながら「オイ、メル。なんでこの場所に」と聞いた。
するとメルは「はい。彼氏の為にもーにんぐこーるです」と笑顔になる。
「幸春がよく見逃したな」
「だから言っているでしょう。お兄ちゃんとはあまり接点無いですって」
「いやいや。お前の事、心配しているぞ。アイツも」
「無いですって」
「そんな訳はないと思うが」
それから俺は苦笑いでメルを見る。
メルは笑顔になりながら「まあどっちでも良いですけど起きて下さい二郎さん。...学校に行かないと」と言ってくる。
俺は「確かにな」とゆっくり起き上がった。
メルもゆっくり起き上がる。
「先輩。私の事はどれぐらい好きですか」
「?...いきなりだな」
「はい。いきなりです」
「基本的には世界一好きだが」
「えー。世界ですか?私は宇宙一好きです」
「マジかよ」
「マジです」
ニコニコしながら俺を見てくるメル。
俺はその姿を見ながら苦笑いを浮かべてから「...準備するから出てくれるか」と言う。
するとメルは「はい。下でお母様とお料理作っています」と笑顔になった。
溜息が出る。
「分かった。すぐ行く」
「はい。直ぐですよ。冷めちゃいます」
「はいはい」
それから俺は直ぐに学校に行く準備を始めた。
そして俺は考える。
アイツと歩まなかったこの人生を。
浮気された人生を。
これで良かったよな。
☆
朝食は味噌汁、ごはん、卵焼きなどなど。
俺は驚きながら居ると母さんが「本当に良いお嫁さんを手に入れたわね」とニコニコしていた。
余程...あれだったのだろう。
律儀だったのだろうか。
「お料理が上手なのよ。メルちゃん」
「いやいや。そんなあれでもないです。お母様」
「アハハ。お母様だって」
俺は苦笑いを浮かべながら料理の数々を見る。
確かにこれは素晴らしいと思う。
何故なら塩加減、味も絶妙である。
食べた事のない繊細な味だった。
「どうですか?パイセン」
「そうだな。感服だよ」
「えへえへへ」
「全く。どこで知り合ったのか知らないけどこんな良い子が居るなら早めに紹介してよ」
「うるせぇ」
それから俺は朝食を食べる。
するとメルは「これは全部先輩に合わせています」と答えた。
俺は驚きながら「それでか」と言う。
メルは「はい。塩加減も絶妙でしょう?」と笑顔になる。
「お母様に色々教えてもらいました」
「この子は塩加減に煩いってね」
「頑固おやじか俺は」
「そうじゃないの。まったく」
「うるせぇってばよ」
俺は手を合わせてから完食する。
するとメルが「じゃあ行きましょうか。二郎さん」と手を合わせるのを止めて俺を見る。
俺は「だな」と言いながら立ち上がって母さんを見る。
母さんは柔和な笑みを浮かべてから「行ってらっしゃい」と合図をする。
俺達は頷いてから鞄を持った。
☆
「omaesannmazikorosu...」
学校に来てから俺とメルが恋人同士になったという事を幸春に伝えると。
幸春は顎が元の位置から落ちた。
リアルにこんな顎が落ちた人間は初めて見たぞ。
そう思いながら幸春を見る。
幸春は「...おめでとう...俺の妹を略奪して...」と男泣きで泣き始める。
複雑な心境だな。
「お前マジ殺すぞ」
「殺すぞ」
「きるゆー!!!」
「ざけんなこの裏切者!!!ヴッ殺すぞコラ!!!」
教室でそんな数々の暴言が聴こえる。
全く歓迎されてないし喜ばれてない気がする。
それはそうだろう。
彼女、つまりメルは可愛い性格。
完璧な性格故の数多の男達の愛の告白を玉砕した。
それだけの子だったのだ。
それが何故告白もしてないお前なのかという話になっている。
女子達も「キャーキャー」言っているが...1人だけそれを言ってない人間が居る。
もうお分かりかもだが。
「お前さ。どういう気分だ?俺の妹を略奪した気分は。妹で童貞捨てたんだろこのクソ筆おろし」
「殺すぞとは言えんがマジにコロコロすっぞ」
「あ?」
「あ?」
それから俺達は睨み合う。
すると幸春は途中で苦笑いを浮かべる。
「まあ...おめでとうな。親友よ」と優しく言い始めた。
その涙は男泣きじゃなくて妹が近しい者と結ばれた事を喜んでいる様に見えた。
俺はその言葉に「すまない」と複雑な顔をする。
「何言ってんだ。俺としては計り知れないぐらいには嬉しいぞ」
「...そうか」
「妹が俺の親友を好きなるたーまあなんというか世間って狭いな」
「そうだな」
俺は苦笑する。
幸春は口角を上げてから嬉しそうにしていた。
と、その時だった。
「加茂橋くん」
そう声がした。
俺は顔を上げてから横を見る。
そこに...例の如く前世の妻。
名木山めぐみが居た。
俺を複雑極まりない顔で見ている。
「...その、おめでとう」
「ああ」
「...その...うん」
名木山は何も言わず。
そのまま引き下がって行った。
それから椅子に座った。
なんだ?
思いながら俺は名木山を見ていた。




