3、結
俺、加茂橋二郎は妻だった名木山めぐみに浮気され首を吊って自殺した。
間違いなく自殺した筈なのだが何故か俺はタイムリープをした。
それから今に至っている。
俺は佐元メルという女子と一緒に行動していた。
「えっと。...うーんこっちかな」
「そうだな。上手い上手い」
「でもなかなか...あ、落ちた」
ゲームセンターのクレーンゲームで俺達は遊んでいた。
メルは一生懸命に手元のレバーを操作している。
俺はその姿を見ながら指示を出してなんとか景品を取ろうとしていた。
今で500円目か。
そろそろ取れないとマズイか。
すると。
「あ!取れました」
そうメルが言った。
ぬいぐるみがゴトンと音を立てて出口に落ちる。
俺は「ああ。良かったじゃないか」と言いながらメルを見る。
猫のぬいぐるみだが。
可愛らしい感じだ。
「可愛い!」
「メルはこういうぬいぐるみが好きなのか?」
「はい。私、ぬいぐるみでも猫が好きなんです」
「そうか。良かった」
「特にこのぬいぐるみには思い入れがあります」
「?...なんでだ?景品じゃないか」
「もー。先輩デリカシー無さ過ぎです」
メルはぬいぐるみに顔を埋める。
そしてポツリと何かを呟いた。
「先輩と一緒の記念です」と言った様な?
口をぬいぐるみで塞いでいる為に半分しか聞こえない。
「なんだメル。何を言ったんだ」
「内緒です」
「内緒って...」
「内緒は内緒です。先輩のエッチ」
何でだよ。
そう思いながら俺は苦笑い。
それからメルを見る。
メルはビニール袋に几帳面にその猫のぬいぐるみを仕舞い。
そして俺に微笑んだ。
「じゃあ先輩。どうしましょうか?」
「お前がしたい事をしたら良いぞ」
「じゃあ私...太鼓の鉄人やってみたいです」
「そうか。じゃあ俺は後ろで見ているから」
「何言っているんですか。一緒にやるんですよ」
「しかし俺は...運動神経が...」
「します」
それから口をへの字にしたメルに引きずられて太鼓の鉄人の前に。
お金を入れてしまうメル。
俺はその姿に盛大に溜息を吐いた。
そしてバチを持ってからゆっくり身構える。
メルは苦笑しながら「そんなに身構えなくても大丈夫ですよ」と言う。
でもな。
「おに、にする訳じゃないので」
「おに、は厳しいだろ」
「えへへ」
メルはそれ以外を指定してから最近はやりの曲でリズムを取る。
それから叩いていった。
すると「やるじゃないですか。先輩」とメルはニコッとした。
俺はその顔を見てから存分に叩いていく。
ストレス発散になった。
☆
それから移動してから俺はメダルゲームをした。
メルはニコニコしながら俺の横でメダルを入れていた。
そしてメダルが無くなった頃。
俺達は帰る事にした。
ゲームセンターの前で俺達は見合う。
「先輩。今日はありがとうございました」
「ああ。楽しかったな」
「...それで先輩。最後にお伝えしたい事が」
「?...何を?」
「私、貴方が好きです」
その言葉を聞いて数秒間理解が出来なかった。
そして俺は「は?」となる。
それからメルを見る。
メルは「気が付いてなかったですか?私、貴方が好きです」と胸に手を添える。
必死に俺を見上げてくる。
「メル...」
「出逢った時から貴方に惹かれました。付き合って下さい」
メルは赤くなりながら必死に俺に告白してくる。
俺はその言葉に俯いてから「分かった。付き合おうか」と笑みを浮かべた。
メルは「え」となってから「そ、それ本当ですか?」と俺を見てくる。
そんなメルに「逆に断る理由あるか?君みたいな可愛い性格の子に告白されたら嬉しいよな?」と言う。
メルが全ての荷物を地面に落とした。
それから俺に抱き着いて来る。
「ありがとう...!先輩!!!」
それからメルは俺に「大好きです。先輩」と言ってくる。
俺はそんなメルに「落ち着け。メル」と背中を摩る。
周りの人達が「?」を浮かべて俺達を見ているし。
恥ずかしい。
「メル...なんで俺を好きになったんだ?」
「...私...先輩が格好良く見えたんです。いつも優しいし」
「誰でもそれはあるだろ?」
「いえ。私は先輩の性格を、先輩が好きになったんです」
メルはニコッとしながら俺の手を握る。
そして「じゃあ先輩。お付き合いしましょう」と笑顔になる。
俺はその姿に「ああ。フリーだから」とメルの手を握り返した。
それから俺達は恋人繋ぎをする。
そしてこの日、俺はメルと付き合う事になった。
正直...メルを利用するとかじゃないが。
名木山から離れられると。
そう思ったから。
☆
「二郎さん」
「...な、なんだ。唐突に」
「いえいえ。名前で呼んでみたくなりました。私はメルですけど」
「ま、まあそうだけどさ」
それから俺達は寄り添いながら帰る。
メルは甘える様に俺に寄り添って来る。
俺はその事に少しだけぎこちないが反応をしていた。
メルは「えへへ」と言いながら赤くなっていた。
「メル。流石に通行人に配慮無いな。甘えすぎだろ」
「だって嬉しいんですもん」
「ま、まあ気持ちは分かる。だが...」
「見せつけてやりましょう。私達の様なベストカップルを」
全くこの子は。
そう思いながらも。
なんだか弾む様な気持ちでメルを見ていた。
メルを自宅に送り届ける為に歩く。
「二郎さんはどうして私を選んでくれたんですか?」
「いやだって優しいじゃん」
「お兄ちゃんにはウザがられてますよ?」
「それは兄妹だからだろうな」
「えへへ。優しいですね。二郎さん。大好き♡」となりながら俺に胸を押し付けてくる。
俺はその姿に苦笑いを浮かべながら歩く。
それから薄暗い世界を歩き佐元家に着いた。




